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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<さぁ、冒険の始まりです☆>>
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暁光帝、依頼人から仕事の内容を聞かされる。えっ、楽して儲かるステキな仕事!?

ドラゴン城の通路で戦った、我らが暁光帝は今度こそ依頼人に会います。

さぁ、どんな仕事を任されるのでしょうか?


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 「通路は大変なことになりましたが、アスタさんの頑丈さが(あらた)めてわかったことは僥倖(ぎょうこう)ですね。心置きなく仕事を依頼できます」

 痩せぎすの男は愛想よく笑った。

 サイドテーブルに乗せられた代物(しろもの)を見たら、認識を改めるのも当然だろう。大型鎚矛(メイス)の柄がひん曲がっている。アスタの小さな身体を通して城の石材を粉砕するほどの怪力が振るわれた証拠だ。

 それでいて、童女は無傷である。

 いまだに口を押さえて『むー、むー!』しか言わないが。

 半壊した通路で騒いでいるところへ『何事か?』と駆けつけた痩せぎすの男、博物学者のビョルンに発見されたのである。

 そこでナンシーが『職業冒険者(プロフェッショナル)なら依頼を優先すべき』と話して、半壊した通路の弁償はアスタが持つことでその場を収めさせたのだ。

 いや、通路を破壊した責任の半分以上は城内で見境なく強化魔法を使ってメイスを振るった百卒長にあるのだが、今後の付き合いを考えてうなるほど金を持っているアスタに尻拭(しりぬぐ)いを任せたのである。

 ここは百卒長に恩を売っておいた方が得であるという、永く生きるエルフならではの考えだ。

 どうせ、後ほど奥方様にも話を通しておかないといけないし…と、頭を痛めるエルフであった。

 そして、今、4人はビョルンの博物学研究室にいる。

 そう、4人。

 恩を売られて感じ入ったのか、“世界最強”という存在に()かれたのか、百卒長が着いてきてしまっているのだ…と、言うか、アスタを小脇に抱えている。肉体の限界を越えてメイスを振るったので疲労の(きわ)みにあったが、もう復活したらしい。元気なことだ。もしくは、童女が軽いのでこの程度の負担は気にならないのかもしれない。

 研究室は広くて天井が高い。博物学の徒らしく、部屋には様々な動物の標本が置いてあり、蔵書も多い。少なからぬのタイトルが難解なリザードマン語で書かれており、いかにも専門書のようだ。

 「なるほど、たしかに幻獣の専門家って感じね」

 豊満なエルフのナンシーが部屋を観察する。

 植物や鉱物の標本が少ないところから、ビョルンの専門が動物か、幻獣だろうと推察される。

 机の横に設置された大型の装置は魔力の測定器と魔石の保管庫か。

 どれもきちんと整理されており、博物学者の几帳面(きちょうめん)な性格が現れている。

 部屋に窓はなく、百卒長の説明によると奥のドアは次の部屋に続くだけらしい。代わりに魔力による照明が部屋を明るく照らしている。

 「さて、それでは……」

 エルフが仕事の話をしようとすると長衣(ローブ)の袖が引っ張られる。見れば、紫の髪の毛が引っ張っていた。

 器用なことだと感心していると童女が小声でささやきかけてくる。

 「バレてない?」

 アスタは自分の正体が百卒長に露見したのではないかと尋ねているわけだが、そんな問いかけをする以上、ナンシーには知られていると心配しないのだろうか。しかし、童女は『誰もが田舎者とバレるのを嫌がっている』という無茶な設定を信じているので気づかない。

 やはり、嘘の吐けない単純な幻獣は人間の嘘にコロッと騙されるようだ。

 用心深い童女はすぐに両手で口を押さえて。

 「むー! むーむー!!」

 意味不明な言葉と強い視線で抗議して来る。

 「うん、うん。だいじょうぶですよ。バレてません、バレてません」

 ナンシーは安心させてやる。

 あれだけぶん殴られても怒らないアスタだから、巨女の小脇に抱えられても怒らないだろうが、万が一ということがある。

 そもそも、人間に殴られたくらいで暁光帝が怒るわけはないと思うが、巨女の小脇に抱えられたらどうなるかわからないという現実的な問題もあるのだ。

 「そっかー」

 童女は喜んで。

 「下ろして」

 百卒長に頼んだ。

 「もうよろしいんで?」

 巨女が童女を床に下ろしながら尋ねると。

 「おっぱいはあきらめるから、ボクの口の中は見ないよーに」

 敬語で尋ねる相手に答える童女は物凄く悔しそうだ。

 「あー、承知しました。アスタさんの歯は見ません。でも、勝負は勝負です。負けを認めて自分を(いまし)めねば戦士の成長はありません。約束通り、このおっぱいはいつでも好きなようになさってください」

 さすが、百卒長は(いさぎよ)い。

 巨乳の使用許可を出してくれた。

 「うん☆」

 一気に破顔して『やったぁ!』と小さな拳を握る。本当に嬉しそうだ。

 「よろしい。では、ビョルン、依頼の内容を」

 相変わらず、ナチュラルに偉そうなアスタである。

 しかし、依頼主の博物学者ビョルンもかなりの変わり者である。

 小さな女の子から呼び捨てにされ、タメ口を叩かれても気にしない。

 その冒険者が百卒長の小脇に抱えられ、ずっと両手で口を押さえて『むー、むー!』しか言わなくても、気にしない。

 必要なのは信頼できる調査結果を持ってくる冒険者であって、冒険者自身の氏素性(うじすじょう)や素行などどうでもいいのだ。

 ある意味、付き合いやすい依頼主である。

 「はい。それでは説明しましょう。この街にはあるドラゴンがしばしばやってきます。それはけっこうな頻度でして…」

 ビョルンが説明を始めた。

 かつて、この瓦礫街リュッダを襲った単眼巨人(キュクロープス)ポリュペーモスが魔物の群れを率いて再び街を襲撃しに来ている。

 南西の第三市壁はいまだに修理できておらず、魔物の群れとポリュペーモスはやはり強敵で人間はまたしても苦戦していた。

 ポリュペーモスは勇者ジャクソンに切られた利き腕が治っており、怒りっぽく執念深い性格は以前のままだった。

 瓦礫街は領主ジャクソン・ビアズリー伯爵とアスタの隣にそびえている巨女ギュディト百卒長の率いる兵士団“百人隊”などが強力なので魔物の群れもそうかんたんには攻め入っては来れない。それでも予算の関係で兵力は十分ではなく、何とか押し返すのが精一杯という状態だった。

 ところが、近年、この戦局に転機が訪れた。

 どこからともなくドラゴンが飛んできて人間に加勢してくれるようになったのだ。

 さすがはすべての幻獣の頂点に立つドラゴン。

 空を飛び、炎を吐き、地上に降りては強靭(きょうじん)な尾を振り回す、まさに三面六臂(さんめんろっぴ)の大活躍。襲い来る魔物の群れをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、一方的に駆逐した。

 しつこくて頑固なポリュペーモスも空からの火炎放射には歯が立たず、毎回、火傷して()()うの(てい)で逃げてゆく有様だ。

 大変ありがたいドラゴンなのである。

 大変ありがたいのだが、まったく問題がないわけでもない。

 若干の懸念が存在する。

 まず、第一にどうして同じ幻獣である魔物と対立して人間に味方してくれるのか、ドラゴンの目的がわからない。

 第二にドラゴンはポリュペーモスを退治してはくれない。あくまでも追い払うだけである。

 第三にドラゴンがいつまで街に協力してくれるのか、わからない。気まぐれでやっているだけで、いすれどこかへいなくなってしまうかもしれない。

 そこで、瓦礫街リュッダ伯ジャクソン・ビアズリー伯爵だが、こちらは馬鹿なので差し置かれて。

 “奥方様”こと、領主代行コンスタンス・ジェラルディーン・ビアズリー伯爵夫人からドラゴンについて調べるよう、領主お抱えの博物学者ビョルンに命令が下ったのである。

 すなわち。

 『なぜ、あのドラゴンが人間に味方して瓦礫街リュッダを守ってくれるのか』

 『なぜ、ポリュペーモスを退治してはくれないのか』

 『今後もずっと街を守ってくれるのか』

 これら、3つの事項について調査せよ、と。

 「私自身、ドラゴンの研究家ですからね。能力などは見ただけでもある程度のことがわかるんですが、あのドラゴンの目的とか、考えとか、その辺はさっぱりなんですよ」

 博物学者ビョルンはお手上げだとジェスチャーした。

 「ふぅん…面白いね」

 アスタは手を叩いて喜んだ。金属光沢に輝く紫髪が魔法の明かりを受けてキラキラ輝いている。

 「お…面白い…ですか?」

 「うん、人間がドラゴンを見ただけでわかるとは!」

 驚く博物学者に童女はまったく別の視点で話している。

 「あー……」

 エルフのナンシーは何となく察した。

 そう来たか、と。

 童女からすれば同族のドラゴン、それを研究する人間の学者はとても珍しい個体なのだろう。

 そしてアスタはドラゴンについて世界中のどの学者よりもくわしい。何せ、すべての幻獣の頂点に立つドラゴン、そのすべてのドラゴンにかしずかれる、暁の女帝ご本人なのだから。

 よし、それならここは童女が喜びそうな方向へ話を持っていってやろう。

 その方が世界が滅びるまでの時間が伸びそうだし。

 「なるほど。では、ドラゴン専門の博物学者としての見解をお聞きしても?」

 エルフは学者の自尊心をくすぐるような話し方で尋ねる。

 「そうですね。あのドラゴンは鱗の色合いから考えて、まだ若い個体です。厳密には“ドラゴン”ではなく、1ランク下の“ドレイク”に分類されるので魔気容量(まきようりょう)は4千gdr(ゲーデル)と言ったところでしょうか。炎のブレスと強化&弱化魔法を使い、博物学上の分類は“ファイアドレイク”に該当(がいとう)すると思います」

 ビョルンは上機嫌でとうとうと見解を述べる。実に流暢(りゅうちょう)でよどみなく喋り、自信満々である。

 これをアスタはずいぶん楽しそうに聞いていた。

 「ふぅん、人間にしてはなかなかいいね。たいていは飛竜(ワイバーン)とドラゴンの区別も付かないのに」

 相変わらずナチュラルに偉そうだ。上から目線でビョルンの意見を評価している。

 しかし、ビョルンは平然と。

 「ありがとうございます。妖蛇(ワイルム)とワイバーンとドラゴンの分類は博物学の基礎ですからね」

 答える。

 自分の論評を尊大な子供に批評されても怒らない。なかなかの人格者である。

 ところが、次の質問がビョルンを大いに動揺させることになる。

 「じゃ、カエルラは? 青龍カエルラは何に分類されるの?」

 いたずらっぽく笑う童女が尋ねる。

 これに博物学者の顔色が変わった。

 「えっ? 何で孤高の八龍(オクトソラス)の個体名を? いや、“カエルラ”ではなく“カエルレア”が正しいのですが、はて? 青龍カエルレアの分類ですか……」

 思いがけない名前を聞かされて目を白黒させながら考え込む。

 「カエルラは愛称だよー で、何に分類されるのぉー?」

 童女は嬉しそうだ。

 「孤高の八龍(オクトソラス)をあだ名で呼ぶ奴なんて世界中に8頭しかいないわよ……」

 隣でエルフが頭を抱えている。

 童女はほとんど自分の正体を知らせているようなものではないか。

 しかし、幸いなことに博物学者ビョルンはアスタの問いに気を取られていて気づかない。

 「えーっと…青龍カエルレア、強大な魔力で気象を自由自在に操り、砂漠に雨を降らせて草原と肥沃(ひよく)な土地に変え…そのおかげでダークエルフの故郷では“いと(とおと)きカエルレア”と呼ばれ、(あが)(たてまつ)られていますね……」

 めったに使わない情報だが、何とか思い出す。

 孤高の八龍(オクトソラス)は強力な竜種の中でもとりわけ強大な8頭のことである。暁光帝を除く7頭がそれぞれに独自の縄張りを持ち、そこから出て来ないので人類への影響も少ない。神からも悪魔からも(おそ)れられている上、あまりにも特異な存在なので研究する者が少ないのだ。

 彼らは“孤高の”と付くだけあって、人間や他の幻獣と関わることが少なく、自分の縄張りにこもってひっそり暮らしている。超巨大ドラゴンが人間に関わらず、おとなしくしているということはとてもありがたいので、研究者が下手に手を出して怒らせるよな真似はつつしむべきという風潮もあって研究は進んでいない。

 ちなみに、暁光帝だけは特定の縄張りを持たず、世界中を飛び回っているので世界中で甚大な被害を引き起こしている。

 ビョルンは持てる博物学の知識を総動員して分類を試みる。

 「前足がなく1対の後ろ足を持つのみ、巨大な翼は青く透き通っていて、頭が3つある多頭龍で、孤高の八龍(オクトソラス)の中でもとりわけ特異な姿です。分類するとなると…多頭だから多頭大蛇(ヒュドラー)? いや、前足がなくて翼だけだからワイバーン? いやいや、それもおかしい。孤高の八龍(オクトソラス)だし……」

 思い出した情報を整理して分類を試みるが、あちらに入れればこちらが成り立たず、こちらに入れればあちらが成り立たず、混乱するばかりだ。

 分類は博物学者の(たしな)み。最大の楽しみでもあり、学者の議論が大いに盛り上がるネタでもある。

 ところが、童女が例に挙げたドラゴンはビョルンにも分類できない。

 形態を考えると青龍カエルレアはどの竜種にも属さないのだ。

 「むむむ、こうなったら“中生竜”という新しい分類枠を作って、そこに入れてしまえば……」

 破れかぶれに禁じ手を持ち出すビョルンであった。

 「あー、こらこら、その手は駄目でしょーが。学問の敗北だよ」

 子供のアスタが学者のビョルンを叱りつけ。

 「孤高の八龍(オクトソラス)には同種がいない。だから、分類なんて不可能だよ」

 明らかな論拠を示して戒める。

 「む、むぅ…たしかに……」

 童女の意見を受け入れて博物学者は凹んだ。

 そして、ずいぶん鋭い質問だと驚いた。ふつう、冒険者が好むドラゴンの話と言えばドラゴンスレイヤーに尽きる。冒険者たるもの、一度は憧れる竜退治の物語だ。だが、竜種はとてつもなく強いので冒険者が戦えるドラゴンは限定される。当然、孤高の八龍(オクトソラス)は違うし、子供に尋ねられて不意打ちを食らった気分だった。

 加えて、実はアスタの質問、題意を満たす正解が存在しない、いわゆる意地悪な難題である。

 『孤高の八龍(オクトソラス)の青龍カエルレアは何に分類されるのか?』と問うておいて『孤高の八龍(オクトソラス)は分類できない』という質問そのものを否定する解答を示す。

 学者同士の問答としてもかなりずるい感じもするが、そこはビョルンだ。尊大に意地悪な質問を投げかけた子供に怒ることもなく己の未熟として受け入れた。

 「へぇ…」

 豊満なエルフは感心する。

 この学者、子供にやり込められても逆上せず、受け入れて自分の思想を鍛えることに使う。戦士にも似た、(いさぎよ)い態度だ。

 「……」

 ちなみに、本物の戦士である巨女ギュディト百卒長は難しい話が始まった途端、微動だにせず、脳みそをポヘ〜っと明後日(あさって)の方向へ働かせて空想の世界に逃げ込んでいる。

ここから始まる『博物学者ビョルン編』はそれだけで一本のつもりでしたが、ビョルンと暁光帝が思いの外がんばってくれたので4本分になってしまいました。

きっついわー

目がしょぼしょぼするわー

眼精疲労だわー

まぁ、そういうわけで長いんですが、その分、力を入れているのでお楽しみください。

さて、小生、夢がありました。

大きくなったら博物学者になろうと思っていたんです。

で。

高校生の時に博物学者になりたい旨を主張したところ、「そんな職業は存在しねぇ」と\(^o^)/

“博物学”って中世ヨーロッパの自然科学の総称だったんですねwww

そりゃ、もう消え失せてるわwwww

植物学、動物学、鉱物学の3つを合わせたもので理系のいろいろな分野を網羅する大きな学問でした。

…なので、この博物学者ビョルンにはけっこう思い入れがあります。


さて、次回はいよいよ暁光帝が博物学者ビョルンと対決します☆

依頼人と戦う冒険者♪

冒険者の鑑ですね。

乞う、ご期待☆

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