暁光帝、筋骨たくましい褐色の麗人から迫られる。これでロマンティックな展開に…なるといいんだけどなぁw
依頼人と会いにやってきた、我らが暁光帝♪
領主夫妻をスルーできず、幼女達に絡まれて戯れました。
そして、今度は褐色の麗人に絡まれますw
百卒長です。武人です。脳みそまで筋肉でできてます☆
筋肉は裏切らない!!
さぁ、童女に変化した暁光帝は美女の誘惑をかわせるでしょうか?
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
通路は広く、壁には絵画が飾られ、そこかしこに置かれた調度品はどれも立派なものだ。
ドラゴン城は要塞でもあるとともに街を統括する領主の屋敷でもあるから、それなりに権威付けになるものを用意しているのだろう。
百卒長に連れられてビョルンの仕事部屋に向かう。
大柄なハゲの黒人で童女アスタの背丈では彼女のヘソくらいまでしかない。豊満なエルフのナンシーでも背伸びして彼女の胸乳に届かないくらいだ。
鎧がはちきれんばかりの筋肉が凄いものの、アスタの目は鎧を押し上げるボールのような巨乳に釘付けである。
「アスタさんはどうやってそこまでの強さを身に着けたんですか?」
緊張しつつ、敬語を使い、百卒長が尋ねてくる。
彼女は単純な強さを信奉する単純な人間だ。よけいなことは考えない。只、守るべきもののために全力を尽くすのみ。非常に武人らしい武人である。
先程までの震えも止まっていた。
アスタの方が自分より強い。それも圧倒的に。
それを認めて、次に考えたことは敵対していないのだから味方にすればよいという単純な発想だった。
童女が首に掛けた木札は初級冒険者の証。
冒険者なら相応の対価を払って雇うこともできる。傭兵としてリュッダ軍に引き入れることも可能だろう。
これほどの実力者がなぜ木札の初級冒険者なのか、さっぱりわからないが。
「どうやって? う〜ん、ボクは初めから世界で一番強いから特別に何かしたことはないなぁ……」
紫色の頭をひねって考え込む。紫の髪は床に着くほど長いが、人間のロングヘアのようにそのまま垂れ下がってはいない。膝より下の部分が重力に逆らって童女の周辺をフワフワと浮いている。もちろん、城内だから、風にたなびいているわけでもない。
そして『世界で一番強い』という話もさり気なく語っていた。まるで『夏祭りの輪投げが上手い』とでも言うように。
「だから、歌や踊りが上手くなる方がいいなぁ。奇数の完全数が存在しないことも証明したいし…」
まったくもって身も蓋もない回答である。
「ええっ、最強であることの意味は……」
これには百卒長も目を白黒させて困惑するばかりだ。
「自分勝手に無茶してみんなに迷惑かける奴をぶん殴れることだね」
これまた童女はシンプルに答える。
「あー、その通りですね、アスタさん」
豊満なエルフのナンシーは半ば捨て鉢になって童女の言葉を肯定する。
何か、昼間から酒をかっ喰らって暴れる酔っぱらいをたしなめるみたいに言っているが、実際に懲らしめた相手は神様だよ。
しかも殺しちゃったよ、2柱とも。
ついでに魔王も踏み潰しちゃったよ。
後、おかげさまで嘘とデタラメが暴かれて、光明教団も暗黒教団も壊滅しましたよ。
それから、歌と踊りが上手くなりたいっておっしゃいますが、十五夜の月を眺めながら暁光帝が歌って踊ったら東の軍事大国が滅亡したんですが、それは。
お願いですから、今以上に強くなろうなんて思わないでください。
今、この時点ですら、暁の女帝様がくしゃみをすれば街が消し飛ぶんですから。
「…」
いろいろ言いたいことは山のようにある。
山のようにあるが、それら文句は飲み込んだ。
自分が暁光帝の有り様にケチを着けるのはおこがましいと感じたから。
ナンシーだって蚊柱のユスリカに『デブが!もっと痩せろよ!』なんて言われて聞くのか、怪しいものだ。
ユスリカどころか、アブラムシかもしれないし。
「ボクはキミの方が凄いと思う。てっきり、この街では金髪でおっぱいデカい白人種女性でないと偉くなれないとばかり思ってたよ」
また、トンチンカンで分けのわからないことを言い出す童女である。
「あー、いえ、その…まぁ、たしかに……」
一言で言えば偏見から来る人種差別なのだが。
「ここはベッリャ半島の、ベッリャ王国の、地方都市ですからね。ベッリャ人が白人なので私が出世しづらかったことはありますよ」
百卒長は気にしていない。
なぜなら。
「私の故郷は黒人種の国ですからね、あっちじゃ白人のベッリャ人が出世しづらい。お互い様ですわ」
ハゲ頭を撫でる。
「私は実力を買って欲しくて瓦礫街に来たんです。故郷じゃ、黒ん坊の方が優遇されるし、私の血筋も褒められますからね。でも、それじゃ駄目なんですよ。私が強いことを評価して欲しいんで」
どうやら徹底した実力主義者らしい。
故郷での出世を棄てて、自分の腕前を評価してくれる君主を探したのだろう。
実際、得体の知れないアスタに敬語を使っている。地縁、血縁、家柄を無視して『自分よりも強いアスタ』に敬意を払っているのだ。
「色恋から逃れるためにこの頭も剃りました。女の武器に頼ったり、情に訴えることはしたくないんで」
本当に徹底している。
女性としての魅力を棄てることで、それを評価するような上司の意向を排したのだ。
並大抵でできることではないだろう。
大変、立派なことだ。
立派なことなのだが。
「でも、おっぱいが大きいから勝ちだと思う」
これまた身も蓋もないアスタである。
「む…むぅ……」
百卒長はたじろいだ。
これがいやらしい男だったり、性根をこじらせた女だったらどやしつけてやるところだが。
アスタは童女だ。
子供が大きな乳房を好きなのは純粋で自然なこと。
何ら、問題はないのだ。
当然、それを咎めるような口を百卒長は持っていない。
だが、しかし。
おかげで思いついたことがある。
「それでしたら…そうですね。勝負と行きませんか?」
「勝負?」
何やら面白そうだと童女が食いついてきた。とたんに膝の辺りで浮いていた紫髪が腰まで浮き上がる。
「私と手合わせしてください。貴女が勝ったらこのデカパイは貴女のものです。今後、いつでも触ろうが、撫でようが、揉もうが、吸おうが、抱きつこうが、貴女の自由です」
百卒長はものすごい提案をする。
とたんに。
「!」
アスタの虹色の瞳がキラッキラ輝く。これまでにない、強烈な輝きだ。
「そして…もし、私が勝ったら貴女に稽古をつけていただきたい」
こちらも武道一辺倒で、脳みそまで筋肉でできた軍人らしい提案だ。
世界一強い奴に鍛えてもらえば今よりもっと強くなれるという目論見である。
「わかったよ。だけど、ボクはまだ手加減に自信ないから攻撃しない。代わりにキミが好きなだけ攻撃していい。ボクが泣いたらキミの勝ち、キミが疲れ果てて床に足を着いたらボクの勝ち。それでいい?」
やけに消極的な勝負方法だが、童女はやる気満々である。
よほど勝負に賭けられた賞品が魅力的なのだろう。
「わかりました。それならここでいいですね」
百卒長は鎚矛を握り、仁王立ちだ。
「ええええええええええええっ!?」
ここまでのやりとりがあまりと言えばあまりな展開なので口を出せなかった爆乳エルフである。
まさか、こんなアスタの操縦方法があったなんて。
意外!!
いや、それなら自分の方が有利だ。
この爆乳で暁光帝を操れるかもしれない。
「いや、いや、いや、いや、いや、いや…ないわー」
野望に暁の女帝を利用しようとする者は只、破滅するのみ。
己を戒める。
そんなナンシーが自分の爆乳を眺めつつ、常識と野望の狭間で葛藤している内に。
「では、参ります!」
雲衝くような巨女が愛用の得物を構える。それは柄まで金属製で、とんでもなく大きい。到底、片手で扱うものには見えず、知らないで見たら両手で使う戦鎚だと思ったことだろう。
「∫f⊿t」
呪文を唱えると百卒長の周りに魔力線で描かれた魔法陣が浮かび上がる。己に魔法を掛けて筋力と骨格を強化するのだ。
「まだ、強くなれるの……」
ナンシーは絶句した。
これだけの体格があれば基礎体力だけで並の戦士など吹っ飛ばせる。しかも、彼女の唱えた強化魔法は特級レベルだ。冒険者ギルドでアスタを殴った馬鹿の拳撃など比べ物にならない破壊力だろう。
「むん!」
浅黒い巨女はメイスを振り上げて力を込める。
利き腕が緊張して膨張した筋肉が小手をきしませる。両足はどっしりと床を踏みしめ、広背筋と三角筋、脊柱起立筋がググッと盛り上がる。
「…」
対する童女は何も言わない。
相手は自分の4倍は重い巨女であるのに。
只、両足を肩幅くらいに広げただけだ。別段、緊張することもなく、巨女を見上げている。その幾何学的に線対称である、あどけなくも美しい顔には恐怖の色はまったく見られず、逆にワクワクする期待感さえあるように思える。
その光景はさながら今から処刑される童女の図だ。
アスタは兜どころか、帽子さえかぶっていない。
金属製の棍棒が打ち下ろされて、子供の頭蓋が砕け、脳漿が飛び散る、悲惨な未来しか見えないように思われる。
しかし、巨女はためらわない。
童女は自分に向かって世界最強を唱えたのだ。実際に人智を超えた技も見せつけられた。
もはや、何を遠慮する必要があるか。
金属製の脛当てを着けた足を踏み出す。
同時に渾身の力を込めた鋼のメイスが振り下ろされる。
ドガッ!!
メイスが見上げる童女の額に叩き込まれた。今度は紫の髪でガードしない。金属の塊がまともに頭蓋に打ち込まれたのだ。
アスタは膝を屈することさえなかった。只、受け止めただけだ。巨大な衝撃が童女の頭から背骨を通り、足に伝わる。
それは特級魔導師である百卒長が練り上げた魔法により強化された筋力が生み出したもの。並の男は見上げないと話ができないほどの巨体に施された魔法は信じられないような怪力を生み出し、それが金属の塊を通して童女の華奢な身体に叩き込まれたのだ。
その巨大な衝撃は童女の裸足まで伝わってから床に響いた。
そして。
バキィッ!!
耐えきれずに床の石材が割れ砕けた。
百卒長、何という凄まじい膂力か。
童女の両足がくるぶしまで床にめり込んでいる。
しかし、童女の表情には一切の変化がない。
「うぅ…」
せめて苦痛で顔をしかめるくらいはするだろうと考えていた百卒長の方がひるんでしまう。
驚愕のあまり、目が見開かれ、黒人らしい厚い唇が震える。
「ボクはまだ泣いてないよ。どうぞ」
アスタから逆に促されてしまう。
これを受けて巨女は気合いを入れ直し。
「むぅ…承知!」
言葉で己を鼓舞して。
ガラン!
大きなラウンドシールドを投げ捨てる。
そして、今度はメイスを両手で握り、振り上げる。
防御を捨てた構えだから、上半身を大きくのけぞらせて、全身の筋肉を緊張させる。
百卒長は大きく息を吸い込み。
「うらぁっ!」
気合一閃、全力で振り下ろす。
ドガァッ!!
再び、無骨な金属の塊が強烈な衝撃力で童女の頭に叩き込まれた。
今度は全身のバネと両腕の力を込められている。そのパワーは先程の2倍を軽く上回っている。
ズゥン!
それほどの衝撃を受けても童女の身体は揺るがない。しかし、床石は耐えきれず、完全に砕けて、その可愛らしい足を膝まで飲み込んでしまった。
それでも童女の表情は変わらない。いや、更なる期待を込めて見つめている。鎧に包まれたボールのような巨乳を。
「これが…世界一の強さか……」
黒い巨女は両目を見開いて驚くも。
「ぬぅ…たぎるわぁっ!」
再び、メイスを構え直して、今度は右から横に振り抜く。
「えっ!?」
これにはナンシーも驚く。
上から垂直に打ち込まれた打撃なら足で支えられる。床石が大変なことになるものの、頑丈なアスタの身体なら受け止められるだろう。
だが、真横から来た衝撃は受け止められない。アスタの体重はふつうの子供と同じなのだ。
吹き飛ばされて壁に打ち付けられてしまうだろう。
「!」
さすがに不味いかとエルフが拳を握り、思わず目をつぶってしまう。
そして、凶暴なメイスが横から童女に襲いかかる。
ガズン!
無慈悲な鉄塊が鈍い音を立てて小さな頭に衝突した。
しかし、童女は微動だにしない。
いや、わずかに右足が動いていた。
何ということか。
アスタは右足に力を込め、あえて頭をぶつけて行き、こめかみでメイスを受け止めたのだ。
これまで2回の攻撃でメイスの威力はわかっている。だから、それと同じ威力の、いや、わずかに上回る程度の威力で頭突きをメイスに打ち付けたのだ。
自分のこめかみで。
人体の急所であるこめかみで。
「ぐわぁっ!?」
のけぞったのは百卒長の方だった。
メイスが弾かれて腕が痺れる。まるで岩を殴りつけているようだ。
しかし、打ちごたえが違う。
明らかに人間の体に打ち込んだときのものだ。
只、肉がひしゃげない。骨が砕けない。やわらかな子供の肉体だと言うのに。
「くっ…」
肉体よりも精神にダメージを受けて体が崩れそうになる巨女。
今までに積み上げてきた経験。
たゆまぬ鍛錬で得た技。
鍛え上げた肉体。
今、すべてが意味を失いつつあるのだ。
「…」
童女の表情はやはり変わらず、只、じっと見つめている。荒い息で百卒長の巨乳が揺れるのを。
「うぅ…負けるかぁー!」
百卒長はメイスを握りしめ、気合いを入れ直す。
釣り上がった眉、血走った目、歪んだ口の間から強く噛み締めた歯が覗く。
彼女は殴りながら殴り返されていた。
もちろん、アスタは一発も反撃していない。だが、メイスを振り下ろすたびに巨女の魂が叩かれるのだ。
『お前の鍛錬は無駄だった』、と。
『お前の意思は無意味だった』、と。
『お前の決断は何ももたらさなかった』、と。
『お前の信じた力は年端も行かぬ子供にすら届かない』、と。
重い金属製の鎚矛で殴りつけるたびに積み重なる否定、否定、否定、否定、否定。
目の前の現実が今までの努力を、決意を、練り上げてきた魂を打ち砕く。
それでも百卒長は信じた。
力こそ我が道と。
戦って、負けて、死にかけて。
敵の技に、敵の武器に、敵の意志に、おののいた昔日の自分がいた。
だが、そのたびに立ち上がって更なる力を求めた。
力で敗北しても、惑わずに更なる力を求めて、更に強い力を得て、その力で反撃して敵をねじ伏せた。
百卒長は神ではなく己の力を信じる。
だから、もう一度振りかぶって。
「うおぉりゃぁぁっ!!」
鬼神と化した百卒長がアスタに向かってメイスの連打を叩き込む。
ドガッ! ドガガガガガッ!!
上、左、右、上、斜め右、斜め左、一切の容赦なく、目にも止まらぬ連撃が叩き込まれる。
轟音が響き渡り、衝撃で床も壁も天井も震える。
通路に飾られた花瓶が落ちて砕け、壁の絵画が吹っ飛んで破れ、高価な彫刻にヒビが入った。
それでも巨女の腕は止まらない。
自分が信じ、鍛え上げた筋力を振るう。
「くっ…ほんとに人間?」
ナンシーもたじろいでいた。すでに自分の周りに防御結界を張っている。万が一、流れ弾が飛んできても受け流せるように。
ここまで強烈なパワーは見たことがない。
何が百卒長を突き動かしているのだろうか。
怒れる巨人族の戦士が仲間の仇を粉砕するところを見たことがあるが、ここまで強烈ではなかった。
恐ろしい。
感情が限界を越えて、ここまで人間の肉体を酷使できるとは思わなかった。
アスタは自慢の長髪を使うことなく、只、立っている。
その表情はわからないが、顔を上げてまっすぐ百卒長を見ている。
だから、顔面への攻撃も真正面から受けて止めているのだ。
鉄の塊が頬に、鼻に、額に、そして眼球に容赦なく叩き込まれる。
それでも、童女はひるまない。
瞬きもしない。
そして。
「ぐぅ……」
嵐のような連打が止まり、百卒長の巨体が揺れた。
ガラーン!
巨大メイスが床に転がる。柄が曲がって奇っ怪な形になってしまっている。
百卒長の身体が崩れ、ドスンと音を立てて両膝が床を突く。
強化魔法が切れて、筋肉も骨も元の状態に戻ったのだ。疲労も極限まで溜まっている。下ろした腕はもう持ち上げられない。
「ハァハァ…ま…参りました」
息を切らしながら敗北を認める。
真っ向勝負を申し込み、自分に有利な条件で引き受けさせた。
童女自身は強化魔法を使っていないのだ。いくら何でも泣くだろうと思っていた。
ふつうの人間なら百回は死ねるほどの打撃を叩き込んだのだ。
いかに世界最強と言えども痛みは感じる。これほどの激痛に耐えられる人間はいない。さすがに涙の一滴くらいは流すだろうと思っていたのだ。
しかし、アスタは表情ひとつ変えず、平然としている。
いや、よく見ると口元がわずかに歪んでいた。
笑っている。
笑っているのだ。
「クス…クスクス……」
笑みは広がり。
「アハッ! キミは降参してボクは泣いてない。勝負はボクの勝ちだ! つまり…アハッ! アハハハッ! アーッハッハッハッハッ!!」
腰に手を当てての哄笑となった。
童女はこの上なく上機嫌であった。
自分は遊戯に勝ち、勝負に賭けられた賞品がもらえるのだから。
ところが、これがよくなかった。
高笑いすると口が開く。
大きく開く。
当たり前だ。
大口を開けると歯が見える。
当たり前だ。
しかし、ここで。
「それが世界最強の秘密だったんですね!?」
素っ頓狂な叫びが響いた。
心が折れて床に膝を着いていた百卒長の目に輝きが戻っている。力を失った右腕に代わり、左腕でアスタを指差し。
「その歯がっ!!」
大気を切り裂くような大声を上げる。
「みゅむっ!?」
童女はあわてて口を閉じ、両手で口を押さえる。
「アスタさん、それは……」
ナンシーにも見えていた。童女の口の中が。
淑女の口の中を覗くなどエチケットに反するが、仕方なかろう。
童女は両手を腰に当ててふんぞり返り、大声で高笑いしていたのだから、見えない方がおかしい。
「白く透き通っていてギザギザの歯って……」
エルフがつぶやく通りである。
アスタの歯は白く半透明だった。その上、切歯も臼歯もなく、全部が鋭い犬歯なのだ。
そもそも、人間の歯というものは前歯が切歯、すなわち扁平な直方体で食べ物を噛み切るのに適している。奥歯が臼歯、すなわち臼のような円柱で食べ物をすり潰すのに適している。
ところが、アスタは前歯も奥歯もすべてが鋭い犬歯、すなわち肉食獣の牙になっているのだ。
加えて、材質もおかしい。
透き通った半透明の白だ。材質がどう見ても歯の主成分である水酸燐灰石には見えない。人間の歯は骨とほぼ同じ成分でできていて非常に硬くて軽いが、透き通ってはいないはずだ。
切歯、犬歯、臼歯、1つの個体が異なる形状の歯を持つ異歯性はヒト族の特徴だ。妖精人族や小人族も同じくそういう歯である。対して、蜥蜴人族や半魚人族は牙しか持たない。
しかし、アスタはどう見てもヒト族の子供で、鱗のあるリザードマンやマーフォークには見えない。
よしんば、リザードマンやマーフォークの新種だったとしても半透明の牙はないだろう。
それでも、エルフの驚きは一瞬だった。
すぐに呆れへと変わる。
「仕事が雑すぎ」
感想はそれだけだった。
おそらく暁光帝はよほど早く遊びたかったのだろう。
6本の角、巨大な尾と六翼は消して、前足を腕に、後ろ足を足に変えて女の子の姿に変身したが、歯はあまり変えずに元の牙の形をそのまま使ったのだ。
暁の女帝を間近に見て生きて帰った者は少なく、その後、正気を失わなかった者は更に少ない。それでも漏れ聞かれる話というか、幸運な生還者が残した伝説では、暁光帝の角は6本あり、白く半透明だったと囁かれる。そして牙も同じだった、と。もちろん、異歯性はなく、すべてが鋭い犬歯、つまり肉食獣の牙だとか。
つまり、アスタはその恐ろしい牙をそのまま縮めて今の歯に変えたのだ。
何か、超巨大ドラゴンの容姿作成する様子が目に浮かぶ。
『いや〜、だいじょぶ、だいじょぶ! どうせ口の中まで見ないって! あーはっはっはっ!』
こんなノリで人化の術を練り上げたに違いない。
「そりゃ、髪の色も紫になるわ。はぁ…」
自然とため息が衝いて出る。
「見せて…見せてください! それが世界最強の秘密なんですね!?」
「むー! むー! むー!!」
口を押さえてかがむアスタに百卒長の巨体がしがみついている。
走って逃げてしまえばよいのだが、両足が床に埋まっている。無理やり抜けば床を破壊してしまうだろう。たしか、むやみに他人の所有物を壊してはならないという法律があったはず。法律を破ると友達が3分の1に減ってしまう。
とりあえず、巨乳の谷間に挟まれたいという童女の夢はかなった。鎧越しだが。
「はぁ……」
エルフは只、ため息を吐いて天を仰いだ。
今回、出てきた百卒長さん、ちゃんと名前があります。
が、結局、紹介しきれませんでした。
脳みそまで筋肉でできてますが、頭は悪くありません。ちゃんと勉強して魔導師として優秀です。
筋肉を強化する魔法を覚えるために勉強したんですがww
…なので、学問的な話を聞かされると脳みそが拒んで空想の世界に逃げ込む性癖があります(^_^;)
力に頼り、力を求め、力を得て、味方を守るために更なる力を欲する、ある意味、求道者ですね〜
彼女が求める「世界最強」は遥かに遠く、それは一種の理想でした。
それは人間の中で一番強い者を指すのか。
それとも魔族や幻獣も含めて一番強い者を指すのか。
その先にいる神々も含めて世界で一番強い者なのか。
素手で最強なのか、武器を使って最強なのか、魔法を使ってもよいのか。
疑問は尽きず、道は遙か遠く…
…と、思われていたところ、いました。
目の前にwwww
すべての疑問を取っ払い、ぶっちぎりで世界最強の少女は生まれつき強いので努力も何もありませんでした(^_^;)
最初から世界最強なのでそれに意味を見出すこともせず……
百卒長からしたら「あれ?」ですぉww
さて、次回はようやく依頼人に会えます。
依頼人は何を望むのでしょうか?
果たして、暁光帝は彼の望みを叶えられるのでしょうか?
乞う、ご期待!




