暁光帝、冒険者ギルドで依頼を探す。いかがわしくはないけれど、怪しい場所ではありますね。
職業冒険者は依頼を受けて冒険するものです。
てきとうに危険なところを巡っていたら素人冒険者でしょう。
もちろん、両方とも冒険とロマンがありますけどね。
素人冒険者は報酬の多寡を問題にしませんから、貴族の落胤や豪商の次女次男ですねww こ〜ゆ〜のは貴種流離譚になっちゃいます。面白そうだけど、小生は『水戸黄門』でいいや〜
それに何より素人冒険者は道楽で冒険しているので仕事の成功率が怪しい、めっちゃ怪しいww
…なので、確かな仕事は金を積んで職業冒険者に依頼。けっこうどうでもいい仕事は金を惜しんで素人冒険者に依頼することになります。
ちなみにこの世界、冒険者と傭兵は区別が着きません(^_^;)
冒険者ギルドは怪しい人間達がたくさんいる怪しい場所なのです。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
「まずは冒険者らしく依頼を受けましょう」
「いかにも左様」
エルフのナンシーに誘われて童女アスタは一も二もなく従う。
なるほど、こうして冒険者というものは依頼を引き受けて冒険するものだと納得している。
一角獣のポーリーヌと女精霊のジュリエットは2人と分かれて、施療院へ向かって行った。
施療院は貧者のための福祉施設だ。多くは神殿や教会などの宗教団体が運営しており、病人やけが人を無料で治療し、炊き出しや宿泊施設も提供している。
当然、傷や病の癒し手が重要な役割を担う。しかし、回復魔法の使い手は少なく、聖魔法の使い手は更に少ない。
その非常に貴重な聖魔法の使い手がこの2人、ポーリーヌとジュリエットである。
いや、人間だから珍しいのであって、幻獣ならユニコーンもニュムペーもデフォルトで聖魔法が使えるのだが。
とりあえず、2人とも人間として暮らす以上、非常に貴重な聖魔法の使い手として振る舞わねばならない。
「アスタさん、また後ほど……」
「アスタさん、帰っちゃヤですよぉ〜」
ポーリーヌとジュリエットは名残り惜しそうに手を振りつつ、出かけていった。
どの施療院の患者も結構な数がいるので日が沈む前に戻れたら幸運だと言う。
けれども、この活動は冒険者パーティー紫陽花の鏡の評判にも関わるので有意義なことらしい。
さて、ここは瓦礫街リュッダ商業区、ナンシーとアスタは早朝の大通りを歩む。
市場や商店街を目指しているのだろう。荷馬車や荷車がたくさん行き来している。
荷物は生鮮野菜や鮮魚が多い。
「冒険者ギルドは魔石やモンスターのドロップ品を卸しているわ」
エルフの解説で仕事の一部がわかる。やはり冒険者らしい仕事があるようだ。
エルフの感覚では、冒険者は幻獣を狩って、魔石やドロップ品を得る。
だが、しかし。
アスタの感覚では、冒険者は幻獣を襲って魔石やドロップ品を奪い、生活の糧とする。
同じ行為も異なる立場では表現が変わるものだ。
ところで、自分と同じ幻獣が襲われているわけだが、童女アスタは『ふぅん』としか思わない。街にとっては幸いなことに童女を含めて幻獣の多くは社会性に乏しい。目の前で友達が襲われたならともかく、知らない幻獣が人間とどう関わろうと気にならないのだ。
人間が幻獣を襲って魔石やドロップ品を奪うように。
人食いオオカミが人間を襲って食べるだろうし。
魔女が人間をさらって使役したり、実験材料にしたり。
異形妖や鹿鳥が憎悪から人間を襲って殺したり。
この街でも昔はアイスドラゴンが領主を乗せて戦場を駆け巡ったという。
幻獣も人間もいろいろだ。
そう言えば、ポーリーヌの友達の水妖馬がしばしば背に人間を乗せて湖を渡ってやるとか。それで失敬な奴や悪党は容赦なく水中に引き込んで食ってしまうらしい。
こんなふうに幻獣も人間も多種多様だからそれぞれの所業について天龍アストライアーがいちいち考えることもない。
だから、天龍アストライアーが人化した童女アスタも考えない。
それでも、ナンシーは聞きたかった。
「ところで、アスタさん。もしも人間ともんす…」
口の端を衝いて出そうな問いを途中で呑み込んだ。
当然、『もしも人間とモンスターが戦っていたらどちらの味方をしますか?』と尋ねたかったわけだが、考え直したのだ。
自分に当てはめてみればいい。
もしも、幻獣の国なんてものがあったとして、そこに連れて行かれて、モンスターと人間の戦いを見せられたらどうするのか。
エルフのナンシーは間違いなく人間の味方をするだろう。
そういうことだ。
幻獣のアスタも幻獣の味方をするだろう。
実際、どこの街、どこの国でも、それで生きた幻獣を捕まえて街の中で無理やり働かせたり、見世物にすることは厳しく禁じられているのだ。ドラゴンや不死鳥など、手に負えないレベルの強力な幻獣が助けに来るからである。
八脚馬や鬼巨人を友として活躍するような、伝説の英雄を別にすれば、街中に幻獣を連れてくる事自体が危険なのだ。
もしも今、この街で幻獣を虐待したら?
暁光帝がやって来るだろう。
一瞬で瓦礫街リュッダは滅亡する。
いや、やって来るも何も、今、ここにいるし。
「ん〜?」
童女が怪訝な顔をしている。
「あーっと…」
心中を悟られてはならない。
『自殺したい貴方に朗報です! 今、この街で幻獣をいじめたら大チャンス! もれなく暁の女帝がやって来て貴方を殺してくれます!』なんてキャッチフレーズが頭の中を駆け巡る。
まずい。
その場合、殺されるのは“貴方”だけじゃない。おまけで街そのものも灰燼に帰せしめられる。
「冒険者ギルドの仕事はいろいろあるけど、幻獣の捕獲はないわ。法律で禁じられているの」
話を逸らそうとしてついつい真逆のことを喋ってしまった。
思いっきりアスタに幻獣と人間のどちらの味方に着くか問う話ではないか。
しかし。
「そっかぁ…ボクなら話すだけで街に連れて来れるんだけどなぁ」
童女は残念そうに語る。しょんぼりしたのか、紫色のロングヘアが力なく垂れてしまう。
「!」
話の方向が想定外に飛んでいったのでエルフは驚愕した。
なるほど、アスタなら話すだけで幻獣を説得できるだろう。何と言ってもすべての幻獣の支配者、“マスター・オヴ・モンスターズ”暁光帝なのだから。
「……」
しまった。
自分は最高のビジネスチャンスを逸してしまったのではないかと悩んだ。
それでも。
「残念だけど法律だからね。他にも仕事はたくさんあるから」
そう言って童女を慰める。
考え直したのだ。暁の女帝を利用しようと野望を抱いた者達のことが思い出されたから。
人類文明が始まって以来、数多の野心家が孤高の超巨大ドラゴンを利用しようと野望を巡らせたものだ。その絶大な力を使えば世界を我が物にすることすら可能。だから、その身に余るほどの野望が生まれ、それに駆られた者らが血眼になって追い求めた。
そして、そのことごとくが破滅した。
暁光帝に関わることは死を意味する。
もちろん、例外はあるものの、それは関わりがまったくの偶然であり、野望を抱いていなかった者ばかりだ。
儲かりそうだ、とか。
地位や名誉を期待して、とか。
権力の基礎にできそうだ、とか。
野望を抱いて関わったアプ八どもは例外なく破滅している。
だから、今、目の前にいる、金属光沢の紫髪をたなびかせる童女を利用してはならない。
エルフは心の中で誓った。
「さぁ、掲示板を見てみましょう」
「うん」
2人は冒険者ギルドのスウィングドアをくぐる。
「おや!」
真っ先に2人を迎えてくれたのはハゲの冒険者だった。
「おはようございます、アスタさん。それに“紫陽花の鏡”リーダーのナンシーさんも」
使い込まれたレザーアーマーを着て、ロングソードとラウンドシールドを装備する、中肉中背、中年の男である。よくいるふつうの冒険者でランクも中くらい。何もかもが普通という、特徴がないのが特徴のボルゲンであった。
しかし、昨日は燃えるような見事な赤髪だったのに、今は無毛。完璧につるっぱげだ。
「おはよう、ボルゲン。んんん? 昨日はフサフサじゃなった?」
虹色の瞳を輝かせ、興味しんしんと言った感じで尋ねるアスタだ。もちろん、人化したドラゴンに遠慮などあるわけがない。
「あっ、いや…おはようございます、ボルゲンさん。えーっと…アスタさん、そういうことは面と向かって尋ねちゃいけません。髪を切る…ってことは…あぁ…うん、人間にはいろいろ理由があるのです」
「えーっ! 何でー?」
ナンシーはあわててアスタをボルゲンから引き離す。若干の心残りもあるが、今は素直に引っ張られる童女であった。
「あー、すみませんね。また〜」
ナンシーは軽く手を振って離れる。
「あ、はい。またー」
ボルゲンも手を振って離れていく。
「……」
豊満なエルフは難しい顔だ。
「女の子が髪を切るのは失恋の痛みを和らげるためと言います」
「ボルゲンはおっさんであって、女の子じゃなくない?」
「う〜ん、正直、私はエルフでして…ヒト族のことはよくわからないんですが、あれだけふさふさだったボルゲンさんが髪を切るのは特別な理由があると思うんですよ」
「なるほど、理にかなっているな」
童女はエルフの説明に納得する。
「だから、こういう人間の多い場所で不躾に失恋の理由とか、相手とか…いろいろ詰問するような真似は慎むべきですね。彼は心が傷ついているのですから」
エルフは人間の道理を説く。人化したドラゴンに。
わかりやすいように。
丁寧に。
すると、至誠、天に通ず。
「ふむ。委細、承知」
アスタはうなずく。どうやら事態を理解してくれたようだ。
しかし、童女の心に別の疑問が湧いて出る。
「で、さ。“シツレン”って何?」
これまた興味しんしん尋ねてくる。
幻獣は生物ではない。虚無の空間からいきなり出現する幻獣は初めから大人の姿で現れる。当然、生物のように子供も産まないし、老いさらばえて死ぬこともない。
幻獣は世代交代しないのだ。親もいなければ子もいない。姉妹兄弟もいない。
元から有性生殖とも無性生殖とも無縁である。
だから、幻獣は恋しない。
“恋愛”という感情も行動もない。まったくない。
故に“失恋”という言葉も知らないし、その意味も理解できない。
けれども、不老のエルフはこういう難儀な状況に対処する術を知っている。
「“失恋”は難しい言葉です。前提として“恋愛”という事象について知っていなくてはなりません。説明にはロウソク3本が燃え尽きるくらいの時間がかかりますよ」
サラッと軽い感じで話を流す。
「そっか〜 それは相当難しそうだね。わかった。後でテアルに聞くわー」
童女は周囲に浮かせた金属の髪を静かに降ろす。キラキラ輝く線の群れが垂れたので、アスタの好奇心は治まってくれたのだろう。
おかげで、ナンシーは一安心である。しかし、その“テアル”というのがわからない。
「さぁ、参りましょう」
そう言って先に進みながら考える。
以前からアスタの話にしばしば登場する、この“テアル”とやら。およそろくでもない手合だろう。
このアスタの、つまりは暁光帝の親友で、彼女に人化の術を指南し、金貨を山ほどくれるような輩だ。
ほぼ間違いなく、孤高の八龍の1頭だと思われる。
相当、厄介なドラゴンなのだろう。
今後のことを考えるとこの“テアル”とやらについても調べておかねばならない。
面倒なことだと思いながら、冒険者ギルド1階中の受付に向かう。
早朝にも関わらず、大勢が集っている。しかし、仕事の依頼書が貼ってある掲示板の前は空いていた。文字が読める冒険者がほとんどいないからだ。
代わりに4人の案内人が立っていて、次々にやって来る冒険者達に仕事を斡旋している。3つの受付カウンターにも今はそれぞれ受付嬢がいて応対している。
合計7人が冒険者の相手をしているわけだ。
「う〜ん、これは……」
これだけの人数がいて1人も文字が読めないのかとアスタは呆れ返る。
「いや、冒険者って基本的に斬ったり突いたり殴ったりの人達ばかりですから…あ、ほら、文字が読める人達はあっちにいますよ」
ナンシーが示す方向、1階のすみに数人が座っている。彼らは良い服を着て行儀が良さそうだ。おそらく、弁護士や会計士なのだろう。同じ冒険者と言っても口喧嘩や計算の代行請負業者だ。焦る様子もなく、朝の慌ただしい時間が過ぎるのを待っている。
「ふぅむ…たしかにあの方が楽そうだね」
童女は感心したが、会計や裁判の仕事にはあまり惹かれない。自分でスタスタと掲示板の前に歩いてゆく。
「幻獣の討伐や駆逐はボクには合いそうもないからやめとくよ。他によさげなのは……」
視線を巡らせる。
「そうですね。それがよろしいかと」
ナンシーはホッと胸を撫で下ろしている。
よもや、モンスター討伐を請け負ったアスタが苦戦するとは思っていない。凶暴な人食いライオンや人食いグマが土下座して命乞いする姿が思い浮かんできて頭が痛くなっただけだ。
「ドラゴンの調査依頼があるね。火山島のとは別の奴で」
「えっ?」
意外な話に驚いて、エルフは童女が見つけた依頼書を読んでみる。それは掲示板のてっぺんにあった。
『文字が読める冒険者を求む。最低でも人類共通語の読み書きができること。近年、単眼巨人の襲撃から街を守ってくれるドラゴンについて調査されたし。報酬は金貨2枚と銀貨8枚なり。詳細が分かれば特別報酬を追加するものなり』
依頼者の名前は博物学者ビョルン、昨日、童女の騒動に巻き込まれていた痩せぎすの男だ。
昨日、アスタの価値を見抜いて教えを請うていたからそれなりに常識のある、つまり話のわかる男なのだろう。
「じゃあ、これにしようかな」
「ええ、それなら依頼書を受付嬢のところへ」
ナンシーが促すとアスタは紫のロングヘアーを操る。ふわり紫髪が浮くと、スルスル伸びて掲示板のてっぺんに張ってある依頼書にたどり着く。脚立要らずだ。
ペリッと剥がして、裸足でペタペタ歩き、受付の列に並ぶ。金属光沢に輝く豪華な紫のロングヘアーと高級感漂う純白のワンピースに子供らしい裸足が居並ぶ冒険者達の間で強烈な違和感を醸し出している。
だが、児童ながらも、眼光鋭く背筋をピンと伸ばして佇むその姿はまさに威容であって、その迫力は冒険者ギルドにたむろする三下を寄せ付けない。
実際、一身に注目を浴びながら誰も話しかけて来ない、それはまさに孤高と言えよう。
いや、髪が紫にピカピカ輝いている童女が変なのは間違いないわけで、それに話しかける勇気を誰も持っていなかったとも言えるが。
「まぁ、よかったわ…」
ナンシーがつぶやく。
よけいなトラブルで神経をすり減らしたくはない。
チンピラに絡まれたところでアスタは面白がるだけだろうが、それでもトラブルの種はいくらでも考えられる。
殴られたアスタが『これが冒険者流の挨拶というものか』と真に受けて殴り返し、血祭りにあげられたチンピラの死体の山が築かれる、とか。
想像するだに面倒だ。
平和が一番。
「この依頼を受ける」
童女が受付嬢スーザンに依頼書を差し出している。
「ああ、これですね。リュッダ領主ジャクソン・ビアズリー伯爵直属の博物学者ビョルンさんの依頼です。くわしいことは直接、ビョルンさんに聞いてください。彼はドラゴン城に勤めています」
金髪巨乳の白人種は依頼書を処理して、城までの道順を教える。
「ありがとう」
アスタは依頼書を受け取る。
「あ、お待ちください。この依頼はアスタさん個人が受けるのですか? それとも、紫陽花の鏡として受けるんで?」
スーザンは依頼の法的処理について細かいことまで詰めてくる。
「アスタは紫陽花の鏡の新メンバーよ。当然、報酬も功績も彼女1人のものとしたいからそのように処理して」
エルフはパーティーリーダーとして新人の手柄を大切にしたい旨を申し出る。
「では、そのように」
受付嬢は書類を処理して。
「アスタさん、がんばってください」
童女を激励した。
可愛らしい新人冒険者を励ます、冒険者ギルドの受付嬢として当然の行いである。
ちなみに、可愛くなくて態度の悪い新人冒険者については金髪巨乳の受付嬢から激励してもらえない。それもまた当然である。
「ありがとう。ボクはブタよりも小さいからお任せだよ」
アスタはしっかり挨拶を返してから、ナンシーとともに出てゆく。
さぁ、冒険の始まりだ。
システムソフトの『マスター・オヴ・モンスターズ』って戦術シミュレーションゲームが大好きでした。
それはもう何十時間もプレイしたものです。パソコン版ですが。
ユニットのモンスターが進化するのが楽しみで、楽しみで。
同じくモンスターがユニットのメガドライブ戦術SLG『バハムート戦記』とかサルみたいに何度もプレイしたものです。
楽しい戦術シミュレーションゲームをプレイしたのは『サモンナイト』が最後だったかな。
最近、このジャンルが下火なのが哀しひ……
さて、我らが暁光帝は人化して街に入り込み、ようやく冒険者として依頼を受けることができました。
これからが冒険の始まりです(^o^)
まずは依頼人に会わなくてはいけません。
そこでドラゴン城へ向かいます。
瓦礫街リュッダ領主ジャクソンが住まう城です。
勇者ジャクソンあらため、英雄ジャクソン。
さぁ、どんなことになりますやら。
ご期待下さい!
 




