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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<街に侵入しよう! 人間に見つからないように!>>
29/197

暁光帝、正体がバレる\(^o^)/

何やらわかりあっている美女2人。

恐るべき法則「3人で遊ぶと1人はのけもの」がやはり生きてしまいました。

さて、3人は童女アスタの正体にどこまで迫れるでしょうか。

いや、タイトルの時点で暴いちゃってるんですけどね…o| ̄|_


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 「貴女(あなた)達、いったい、何なのよっ!?」

 ナンシーは怒鳴る。

 この2人は冒険者パーティー“紫陽花の鏡”でも特異な存在だ。

 歳を取らない、不老の人種だけで構成される、紫陽花の鏡である。しかし、妖精人(エルフ)族のナンシーはともかく、ヒト族のジュリエットとポーリーヌが不老なのはどうしたことか。

 入団したばかりで時間もさして経っておらず、ほんとうに2人が不老なのか、確かめたわけではない。

 単に2人が自分達は歳を取らないと言っているだけだ。

 妙な話だがナンシーは信じた。

 嘘を言っているように思えなかったという単純な理由で。

 更に言えば、2人は魔力の回復量が異常に大きく、中程度の魔法ならほぼ無限に使える。高レベルの魔導師としても異質の能力だ。

 そこまで考えて思いついたことがある。

 この2人、やたら正直なのだ。

 「そういや、貴女達、嘘を吐いたことがなかったわね…ああっ! もしかして!」

 知り合ってから一度も嘘を吐かれたことがない。

 誠実であることは美徳だと思っていたから感心はしても、人ならぬ身ではと疑いはしなかったが。

 この2人、嘘を吐かないのではなく、嘘が吐けないのではないか。

 「貴女達、幻獣(モンスター)?」

 明確に尋ねた。

 すると。

 「そうだ」

 「そうよぉ」

 2人の美女はこともなげに答える。

 自分達が人間でないことをあっさり認めたのだ。

 「騙したのね!?」

 怒るエルフに。

 「心外(しんがい)だな。俺達を見て勝手にそっちがヒト族だと思い込んだんだろ」

 「今みたいに聞かれなかったからねぇ。せっかく瓦礫街に潜入できたんだから自分から正体を喋って回るようなマネはしないわよぉ」

 2人は呆れたように言う。悪びれる様子はまったくない。勝手にナンシーら、他のメンバーがヒト族だと思い込んでそう扱ったのだから、そのように振る舞っただけという話である。

 「む…むぅ…たしかに。だけど…ハッ!」

 エルフは気づいた。

 同じ幻獣だからアスタの正体に気づいたのか。

 「貴女達、アスタと同類なのね!?」

 迫るエルフに。

 「う〜〜ん、まぁ、落ち着け」

 「とりあえず、正体を見せましょぉかぁ」

 2人は服をスルスルと脱ぎだした。

 「えっ、ちょっと…何を……」

 全裸の美女を前にして同性でもひるんでしまう。いや、同性だからこそ、か。

 「変化(へんげ)を解くと服が破れるからね」

 「アタシらの人化(じんか)は服まで造れるわけじゃないのよぉ」

 一糸まとわぬ美女2人の身体が。


 しゅぅぅぅん!


 一瞬で変わる。

 「部屋が広くてよかったぜ。あ? 『ヒヒーン』とか、いなないとくか?」

 男装の麗人、ポーリーヌは美しい白馬に変化していた。

 只の馬ではない。金色(こんじき)のたてがみとターコイズブルーの瞳は人間の時と変わらないが、額から長く鋭い角が生えている。

 一角獣(ユニコーン)だ。

 「あぁ、ポーレット…貴女、やたら女好きだと思ったら!」

 エルフの非難に。

 「ユニコーンが女好きで何が悪い? ミツバチが花の蜜を好むのと同じ、習性だぜ」

 ポーリーヌはこれまた、こともなげに答える。

 「じゃあ、そっちは…ええっ、ジュジュ!?」

 ナンシーはジュリエットを見て絶句した。

 「そぉよぉ、これがほんとうのアタシぃ♪」

 長身の美女は長身のままで、水色の髪は肩までないショートヘア、オレンジ色の瞳、情熱的な(くちびる)の赤も変わっていない。

 しかし、体型が大きく変化している。いつの間にかまとっている布はカーテンか。全裸を(いと)うのかもしれないが、まったく隠しきれていない。巻き付けた布地を突き破らん勢いで膨らむ胸乳(むなぢ)はまさに爆乳。片方だけで人間の頭ほどあり、ナンシーといい勝負だ。尻の肉もたっぷりついて、太ももは歩くたびにブルンブルン揺れる。

 更に髪は光を放ってキラキラ輝いており、後光(ごこう)も差している。

 だらしない爆乳を揺らす、豊満な女精霊(ニュムペー)だ。

 しかし、エルフ的には。

 「私よりもデブじゃん!」

 豊かに膨らんだ体型の方が気になる。

 「いや、アンタ、自分で『デブじゃない』言ってたでしょーが? それなら、同じ体型のアタシだって『デブじゃない』わよぉ」

 間延びした喋りも同じ。

 ニュムペーのジュリエットである。

 「む…むむむ…それもそうか。それにしても……」

 美しい。

 神々(こうごう)しいまでの美貌だ。

 ユニコーンもニュムペーも“モンスター”とは呼ばれない。神聖で麗しく、出会った人間に(さち)をもたらす、幻獣らしい幻獣だ。

 2頭とも聖魔法の使い手で、傷を癒やし、病を治す。存在そのものが瑞兆(ずいちょう)と言われている。

 もちろん、冒険者ギルドの討伐(とうばつ)リストに()ることもない。

 多くの冒険者が夢見る存在。

 一言で言えば“ありがたい幻獣”なのである。

 「なるほど、聖魔法が得意なわけだわ。あー、それで女好きなのもいっしょなのね」

 様々な噂を思い出す。

 ユニコーンの森、ニュムペーの泉、両方の地とも女性を誘惑する幻獣の話が広まっている。土地の名称通り、ユニコーンとニュムペーが若い女を求めていたのだろう。そして、それぞれの(ぬし)が人間に化けて瓦礫街へやって来ていたわけだ。

 「いや、あいつの方が女色がきついぜ」

 ユニコーンが非難すると。

 「女が女好きで何が悪いのよぉ? そんなに言うなら男好きの男になっちゃえー!!」

 ニュムペーが開き直る。

 2人とも性格も評判も似たようなものである。

 (いわ)く、『“レスボス島のポーリーヌ”は女好きで若い女の依頼しか受け付けない』、『“悪徳のジュリエット”は年端も行かぬ少女の尻を追い回す変態』と。

 冒険者パーティー“紫陽花の鏡”の評判にも関わる。

 「頭が痛いわ…」

 厄介(やっかい)ではあるが、今はもっと重要な問題が起きている。

 「じゃ、あのアスタは貴女達と同じ益獣(えきじゅう)なの?」

 エルフは目の前の幻獣に一縷(いちる)の望みを託す。

 ネズミを()る猫、虫を捕るコウモリ、ゴキブリを捕るゲジのような、人間の役に立つ動物。益獣はけっこう有名な話で、家庭を持ったばかりの若夫婦がゲジゲジを嫌うかどうかでその常識がわかると言われるほどだ。当然、ゲジを嫌って除こうする若夫婦は常識のない馬鹿だから付き合えないということになる。

 もしも、アスタの正体が益獣なら、自分達も瓦礫街リュッダも安泰(あんたい)だと思う。

 「そんな単純な話じゃないわぁ」

 ニュムペーのジュリエットがため息を吐く。

 「まぁ、この姿じゃ話もしづらいしな」

 ユニコーンのポーリーヌはハンドベルを(くわ)えている。

 軽く振ると。


 チリーン


 小さく乾いた音が鳴る。

 そしてユニコーンの姿が変わり。


 しゅぅぅぅん!


 幻獣のいたところには全裸のポーリーヌが立っていた。

 「ほへぇ…」

 驚くエルフ。

 「今のが妖女サイベルの呼び鈴、幻獣を人間に化けさせるマジックアイテムよぉ」

 背後から声がして振り返ってみると全裸のジュリエットがいた。デブの一歩手前くらいに膨らんだ豊満な体型はバランスの取れた麗しい姿に戻っている。

 「最近、出回るようになったのぉ。でも、使える幻獣は限られているしぃ、造れる幻獣はもっと少ないわぁ」

 ジュリエットは床に脱ぎ捨てた服を拾って着てゆく。

 同じく着直しながらポーリーヌが説明する。

 「妖女サイベルの呼び鈴を使うにはな、ある程度の魔力と人語を解するくらいの知能が必要だぜ。樹木人(トレント)なら使えて、人食いライオンじゃ無理だな」

 ユニコーンが化けたポーリーヌだが、説明はわかりやすい。

 トレントくらいの魔力と知能があれば妖女サイベルの呼び鈴で人間に化けられる。人食いライオンのような、知能の低い幻獣(モンスター)は人間に化けても人語を解さず、四足で歩くのですぐに正体がバレてしまうのだろう。

 「そうか、アスタもこのサイベルの呼び鈴で人間に化けたのね……」

 迷惑な話だとエルフは考えた。

 フェニックスか、ドラゴンか、はたまたクラーケンか。何者かは知らないが、とんでもなく強力な幻獣が人間に化けて街へやって来たのだ。

 しかし。

 「何しに?」

 当然の疑問が口を衝いて出る。

 上位の、やたら強い幻獣が人気のおもしろグッズで人間に化けた。そこまではいい。

 人間に化けて何をしようというのか。

 街に入り込んで何をしようというのか。

 嫌な予想が脳裏をよぎる。

 もしかして。

 人間がきちんと街を治めているのか見に来たのではないか。

 王は民草(たみぐさ)を公平に扱っているか。

 民は勝手を言わず、王を(うやま)い、互いに助け合って暮らしているか。

 家来(けらい)(あるじ)に尽くしているか、主は家来に(むく)いているか。

 神は傲慢であり、傲慢な者こそ神である。神は人間を裁くのが大好きだし、裁いて神罰を下すのはもっと好きだ。神に匹敵するような、強力な幻獣なら神と似たようなことをするだろう。

 やはり恐ろしいことになるのではないか。

 瓦礫街に神罰が下ることを考えると目の前が真っ暗になる。

 しかし。

 ポーリーヌの返事は意外なもので。

 「遊びに来たんだよ」

 これ以下はないくらい、ひどく単純だった。

 「ほへ?」

 思わず、ナンシーが口をポカンと開けてしまうほどに単純だった。

 「遊びに…来た?」

 聞き返してしまう。

 「退屈しておられたようだしなぁ。たまたま、ここにいらしてくださるなんてありがたいことだぜ」

 「たまたま、丁度いい遊び場を発見なされたのねぇ」

 幻獣コンビは納得して喜んでいる。

 瓦礫街リュッダに来たのは偶然らしい。

 「えっ、何かおかしくない? 神様レベルに強力な幻獣なんでしょ? この瓦礫街へやってくるんでしょ? 人間を見て、裁いて、神罰を下して…」

 “溜飲を下げるんでしょう”と続けたかったが止めておいた。

 神は(たた)るものだ。

 祟るから神だ。

 人間を見て、裁いて、罪状を言い渡して、罰を下して、溜飲を下げる。

 神とは裁くものなのだ。

 フェニックスであれ、ドラゴンであれ、クラーケンであれ、ギガースであれ、神に準じる幻獣なら、同じようなことをするものではないか。

 そんなに強力な幻獣がこの瓦礫街リュッダへやってくるのだから、当然、その目的は人間を裁くことではないのか。

 しかし、この考えは目の前の幻獣達には不評のようだ。

 「そりゃ、自意識過剰だぜ。あの御方が特別な使命を()びてこの街を探し出した…な〜んてあり得ない」

 ポーリーンはつくづく呆れたという態度だ

 「いいか? 人間は世界の主役じゃない。町で暮らしているとついつい忘れがちだが、世界には人間の何千万倍もの生き物がいて、それと同じくらいの幻獣がいる。その上、水や石、空気っつー無生物なら何千億倍だろうよ」

 両手を広げて此岸(しがん)の広さを示す。

 そして、指でゴマ粒ほどの隙間を作り。

 「人間なんてちっぽけな存在、歯牙にもかけなかったあの御方が何か興味を持ったとしても、せいぜい暇つぶしのお遊びだろうよ」

 ユニコーンは本当に不快そうだ。人間がアスタに選ばれたという考えそのものが気に食わないらしい。

 「あの御方のことだからぁ…大方、友達に言われてぇ、ベッリャ半島に遊びに来て街道を見つけんじゃないかしらぁ」

 ジュリエットは想像する。アスタはしばしば友達に言われて世界中をフラフラするのだ。

 「南のダヴァノハウ大陸から北上、碧中海(へきちゅうかい)を目指して飛んできてぇ…どうしたら人化の術で遊べるか考えたんだと思うわぁ」

 長い付き合いなので、それなりにアスタの行動を理解できる。

 こうすれば楽しいと言われればそうするだろう。

 「神様レベルの幻獣が観光旅行…なのかな? いや、そうだとしても異民族だらけでしょ。生活習慣の行き違いから旅先で怒って暴れたりしたら…」

 やはり大変なことになる。

 実際、あの童女はこちらの暮らしに慣れていない。

 行き違いや誤解から暴力沙汰に発展して、それでアスタが怒り出したらやはり町が大変なことになる。

 「あの御方はこの上なく穏やかで優しいのよぉ」

 ジュリエットは恍惚(こうこつ)の表情で語る。

 「まぁ、あの御方を怒らせる方が難しいよなぁ」

 ポーリーヌも同じく恍惚の表情。

 どうやら、アスタはよほど(うやま)われているらしい。

 「じゃあ、アスタは危険じゃないのね」

 ホッと一息吐く。

 ようやく瓦礫街リュッダの危機は去ったようだ。

 「はぁ? 何言ってるのぉ?」

 「ヤベェに決まってるじゃん」

 急に真顔になった2人に呆れられる。

 まだ、危機は去っていないようだ。

 「いや、今、『穏やかだ』『怒らせる方が難しい』って…」

 「あの御方が正体を現したら(またた)く間に街が消し飛ぶわよぉ」

 「別に怒らなくても、あの御方がくしゃみするだけで街が滅びるぜ」

 恐ろしい話を聞かされた。

 この2人は幻獣だ。

 嘘を吐かない。

 嘘が吐けない。

 だから、2人が言っていることは真実ということになる。

 信用するしかないのだ。

 「つまり…まとめると、アスタは人間に化けた恐ろしく強大な幻獣で、さしたる理由もなくこの街に遊びに来ていて、くしゃみするだけで街が滅ぼせる…と?」

 この上なく嫌な結論に達してしまう。

 ナンシーは真っ青になっていた。

 「その理解で問題ないわぁ」

 「うん、そういうことだな。よくわかってるじゃん」

 2人、いや、2頭からお墨付きがもらえた。

 嫌なお墨付きだ。

 「ああああああっ、もうっ! アレの正体はいったい何なのよっ!?」

 もうアスタを“アレ”呼ばわりだ。

 「まだわからないのか? 今日、めちゃくちゃ噂になってたろうが。でっかいモンスターが現れたって」

 ポーリーヌが呆れる。どうしてあの噂と結び付けないのか、と。

 いや、呆れている本人も結び付けられていなかったのだが。

 「はぁ? でっかいモンスター? そんな噂、聞いてないわよ!」

 怒り気味に抗議するエルフ。

 これに釣られて。

 「ああ、もう! アストライアーだよ! 天龍アストライアー!!」

 ポーリーヌも声を荒げて本名を強く告げてしまう。

 ところが。

 「えっ、アス…何、それ? そんな名前のモンスター、いたっけ?」

 ナンシーは理解できない。

 さもありなん。

 この名称“アストライアー”は人間の間では光明教団(ブジュミンド)暗黒教団(ゲロマリス)にしか通じないのだ。

 そして、このエルフ、神々に関わりたくはないという理由で無宗教であった。

 「御名(みな)じゃ、ナンシーにわからないでしょお〜 人間向けにわかりやすく言えばぁ〜…」

 親切に補足してやるジュリエット。

 「暁光帝(ぎょうこうてい)

 はっきり、きっぱり、誤解されぬよう言い切った。

 「はひっ!?」

 唖然とするナンシー。思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げてしまった。

 エルフの意識の中で、“暁光帝”はモンスターではない。過去、冒険者ギルドの討伐対象になったことがないからだ。

 いや、そもそも、地震や嵐、火山の噴火、飛蝗(バッタ)の大発生を退治しようとする者がいるだろうか。

 そんな大災害の中でもとびっきりの、最もわかりやすい破滅の形。それが暁光帝なのだ。

 “モンスター”などという、危険な幻獣レベルの範疇(はんちゅう)にカテゴライズされるものではない。

 それで、今朝、火山島に暁光帝が現れたと聞いて驚いたし、危機感も感じたものの、“モンスターの襲来”とは考えなかった。

 暁光帝は正真正銘、本物の“天変地異(てんぺんちい)”なのだ。

 軍事力、経済力、技術力、それら、国家の全力を注いでもどうにもならない、全国民が絶望に(さいな)まれる、それほどまでに大規模な天災なのである。

 だから、『アスタの正体は強力な幻獣(モンスター)だ』と言われても、暁光帝のことは考えつかなかった。

 破滅の規模(レベル)が違いすぎるからだ。

 だが、意識の中に今までの情報が入ってくると、自然にそれらが精査されてまとめられていく。

 特徴的な虹色の瞳(アースアイ)、金属光沢で輝く紫の髪、“所有”の概念に馴染みがなかったこと、伝説の神器アイテムボックス、古代の金貨を貯えている友達、およそ6桁の差に及ぶ圧倒的な能力値(ステータス)、幼い子供ながらリザードマン文字どころかハルピュイア文字まで操る語学力……

 そして、何より『間違った神は罰してやるべき』という、傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度が指し示すもの。

 それは神殺しの怪物(アストライアー)、只1つだ。

 意識の中に組み立てた推論図が入ってくる。

 そして、恐るべき結論『童女アスタは暁光帝』が認識された。

 「あ…」

 ナンシーの表情が歪み。

 瞳から色が消え。

 形のより(つや)やかな唇が震えながら。

 口が開いて。

 「ああああああっ! ぎぉごぉてぇぇっ!? おっべれろげるゔぇずずでぶぇぇぇねぇっ!! どぅわごぉぉぉぉっ!!!!」

 意味不明の絶叫でのたうち回るエルフ。完全に正気を失っている。

 いずれ世界を滅ぼすであろう、目に見える形を得た破滅そのものが自宅の一室で寝ているのだ。宇宙的(コズミック)恐怖(ホラー)に襲われて正気を失うのも無理はない。

 「あ〜、やっぱり言わないほうがよかったんじゃねぇか? 人間の理性にゃ耐えられないかもだぜ」

 ポーリーヌは少し心配している。

 「うちのナンシーはこれくらいじゃ参らないわよぉ」

 相棒を信じているのか、突き放しているのか、わからないが、ジュリエットはエルフを抱きしめて落ち着かせている。

 「にじゅうさん、にじゅうさん、にじゅうさん、にじゅうさんですよぉ〜」

 耳元に数をささやくと。

 「にぃ…にじゅぅ…さん……」

 ナンシーは息も絶え絶えにつぶやいた。

 その瞳にわずかな光が戻ると。

 「にじゅうさんっ!?」

 ガバッと起きる。

 「ぐがわぁっ! 孤高の八龍(オクトソラス)の好きな数なんて憶えてられるかっ! あいつらの本名とか、誰が知ってるっ!?」

 激怒して悪態を吐く。

 涙とヨダレと鼻水と汗で美貌が酷いことになっている。

 妖精人(エルフ)、そしてベテラン冒険者としての自負もあり、ナンシーは幻獣にくわしく、とりわけ、強力なモンスターについては博物学者レベルの知識がある。ドラゴンやフェニックス、合成獣(キマイラ)人面獅子(マンティコア)夢魔(サキュバス)などの手強い敵については常に新しい情報を得るように努めている。

 しかし、孤高の八龍(オクトソラス)は別だ。ドラゴンとは言え、冒険者がどうこうできる存在ではないし、基本的に自分達の縄張りから出て来ないので関わることがない。それ故、孤高の八龍(オクトソラス)について調べたことがない。

 “23”という数にこだわることは記憶の片隅に置いてあったが、個々の名前などは知るわけがない。

 「ハルピュイア語ね…そりゃ、アスタは読めるし、書けるわ。天翼人(ハルピュイア)って…ドラゴンを源流にするらしいじゃないの……」

 どうやら正気を取り戻して、論理的に推論を組み立てられるまでに頭も回復したようだ。

 国際公用語にもなっているハルピュイア語は修得が難しいことで知られている。天翼人(ハルピュイア)族そのものがめったに見られず、出会えるだけで幸運と言われるくらいだ。非常に尊敬されていて、その卓越した能力の源流はドラゴンにあると言われている。

 ドラゴンが与えた言葉と文字を(いしずえ)に最古の人類文明“ハルピュイア文明”が(きず)かれた、と。

 それなら、教えた本人であるドラゴンのアスタが使えて当然だろう。

 童女の正体は判明した。

 しかし。

 状況が最悪であることが決定しただけだ。

 アスタは暁光帝。

 唯一無二の、大いなるアストライアー。

 月が綺麗だからと踊り明かして都市を踏み潰し。

 健康のために大陸を駆け抜けて山脈に大穴を空ける。

 なるほど、くしゃみをするだけで街が滅ぶだろう。

 しかも、彼女は遊びに来たという。

 何をするのか、さっぱりわからない。行動がまったく予測できない。

 好奇心旺盛な超巨大ドラゴンが小さな女の子に化けて街を闊歩(かっぽ)するのだ。

 強力な、いや、破滅的な能力値(ステータス)はそのままに。

 「ああ…」

 ジュリエットの言葉が思い出される。『やばいのは剣で斬ったり、槍で突くことじゃない。正体を見破ることだ』と言われたものだ。

 しかし、それすらも訂正せねばなるまい。

 「もしも、この街を気に入ったアスタが孤高の八龍(オクトソラス)を集めて宴会(パーティー)を開いたら……」

 街が滅ぶどころじゃない。

 国が滅ぶ。

 「どぉしたらいいのよぉー」

 邸内にエルフの絶叫が響き渡るのだった。

ジュリエットとポーリーヌは幻獣でした。

いや、この場にアスタもいたら幻獣3頭と人間1人でしたね。

うん、冒険者パーティー紫陽花の鏡はメンバーの半分が人間じゃないwww ヤベェwwww

とりあえず、暁光帝はパーティーメンバーになれました。

ここからどうなるのか、お楽しみに〜

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