暁光帝、人間になる。〜人間にできることはドラゴンにもできる!〜
人化♀したドラゴンが遊びに来ました。
人化してるので人間にできることはすべてできます。
できるんです。
できたらいいな。
暁光帝に迫るエルフのナンシーと悪徳のジュリエット。
果たして暁光帝に「人間であること」を納得させられるのでしょうか?
お楽しみください☆
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「……」
事態を考えて、エルフは割れるように頭が痛い。
いや、椅子が無事だっただけでも幸運と思わねばならない。
「では、アタシが片付けとくねぇ。∂Φ/∂n=u〜」
ジュリエットが短く呪文を唱えると床に水が現れ、テーブルの残骸を押し流した。
塵芥は部屋の隅まで流れてそこでまとまった。
魔法で造られた水は煙のように消え失せて、床はまったく濡れていない。
3人はテーブルなしの椅子だけに座る。
「それでは続いてモン…こほん! 田舎者とバレないためのお話を続けましょう」
再び、話を始めるナンシー。
ついつい、『幻獣とバレないための』と言いそうになってしまったが、ギリギリで抑えた。
「アスタさんはどれくらいうまく人間のマネが…リュッダの人間のマネができますか?」
そこはわざわざ言い直さなくても良いと思われるが、これもまた勢いである。
そして、これに童女もまた勢いづいて答える。
「何でもだよ!」
喜色満面、虹色の瞳を輝かせている。
よほど自信があるらしい。
瓦礫街リュッダは王都に並ぶりっぱな都会である。外国との貿易で栄え、ベッリャ王国でも最大の富を稼ぎ出している。災難が多すぎて瓦礫だらけだが。
住民は垢抜けていて、ファッションでも食事のマナーでも流行の先端を走っている。
果たして、童女がこれらのことをできるのだろうか。
怪しいものだとエルフは感じていたが。
やはり、人ならぬ身のアスタからまともな答えが返ってくるはずもなく。
「ボクは瞬きも、息をすることも、汗をかくこともできるんだ」
自信満々、童女は胸を張っている。
「…」
一瞬の沈黙が場を支配する。
そして。
「全部、忘れてますが?」
さすがにこれは呆れてしまう。
この童女は冒険者ギルドの酒場で出会ったときからずっと、瞬きも、呼吸も、発汗もしていない。
ファッションや食事のマナーどころではない。
いや、それ以前に呼吸しないと人間は死ぬ。
けれどもアスタは窒息死なんて知らないのだろう。
「う…うん…無事、街に潜り込めたんで嬉しくて…つい、うっかりしていたよ。スーハー、フゥフゥ…スーハー、フゥフー……」
童女はあわてて息遣いを荒くし、目をバチバチさせ始めた。同時に顔から、頭から、胸から、背中から大量の水を吹き出している。
たちまち純白のワンピースがぐしょ濡れになり、床に水たまりができる。金属光沢のロングヘアも濡れて肌にまとわりついている。
気持ち悪くないのだろうか。
「あっ、そーゆーの、もういいです。人間のマネ、難しいです。なので、今はまだ息も瞬きも汗もしないでください。やりすぎると逆にバレます、田舎者だと」
こんな田舎者はいねぇ。
だが、“幻獣”とは言えないから無理やり“田舎者”で押し通す。
「……」
いやはや何とも、ここまで常識知らずだとは思わなかった。
姿形は完璧に人間の子供を模しているが、行いが人間の域に達していない。いや、超越しているのか。
これはまずい。
注目されるとバレそうだ。
とりあえず、止めさせよう。
「うん。まだ、ちょっと慣れてないね」
アスタは汗をかくのも、瞬きも、呼吸も止めて。
「ほいっと☆」
ささっとワンピースを脱ぐ。下着も脱ぐ。もともと裸足だからこれで何も着ていない状態、全裸になる。
そして、ぐっしょり濡れた紫の髪を放射状に伸ばす。
床に着きそうなほど伸ばしたロングヘアだ。童女はたちまち紫色の雲に包まれる。
「ひぃずざまん♪、ざまんうぃずざまぁいだすたっち♪」
意味不明の言葉で歌いながら髪を踊らせる。髪の毛でワンピースと下着をつかみながら。
金属の髪は童女を頭を中心に広がり、巨大な紫のボールのように見える。
魔法は一切使っていない。
「!」
そのことがナンシーとジュリエットをひどく驚かせた。
身体が汚れたり、濡れた場合、魔法が使える人間は生活魔法を使う。
生活魔法は少ない魔力で効率的に働く、暮らしを助けるための魔法である。冒険者に限らず、多くの人間が使える。
炊事、洗濯、清掃と様々な場面で活躍し、とりわけ、衛生の面で効果が高い。乳幼児の死亡率が下がった原因とも言われている。
山に登り、野をさまよう、冒険者にとっては必須の魔法と言ってよい。生活魔法が使えないと放浪していて汗臭くなり、臭いで幻獣に所在を知られてしまうことにもなりかねない。生死を分けるレベルで重要な魔法だ。
ところが、このアスタはそれだけ重要な魔法が使えないらしい。
紫陽花の家、天井が高くてよかった。
それでも、こうしてロングヘアを振り回しているとあちこちに届いてしまいそうだ。
スパッ! ガタン!
そして、童女の背後で椅子が真っ二つに割れて倒れる。
高速で空中を走る髪の毛がたまたま椅子を通ったらしい。頑丈な椅子の脚から台座、背板まで一気に断ち割られている。
信じがたい。恐るべき切れ味だ。
「ナンシー……」
「さっき、金貨を余分にもらったから」
非常識にもほどがあると思った2人だったが、同時に『もういいや』的な気分にもなっていた。
今回のこれは、このアスタに関わって世界が滅びるわけでなし、椅子が一脚壊れるくらいならありがたいことだと思え。
「「…」」
お互い、心中は同じだった。
「ひぃらゔずぉんりぃごぉるど♪ おぅんりぃごぉるど♪」
意味不明の歌詞で〆て、ロングヘアをたたむ。髪は乾いて自然に背中から腰を経て足下へ流れる。後は下着を穿いて、ワンピースを着るだけだ。
「ひぃらゔずごぉぉぉぉぉるど♪」
スッと木札を、冒険者登録証を首から下げて完了である。
「お待たせ」
童女はにっこり2人に微笑みかける。
“汗”でグショグショに濡れた身体も服も髪も見違えるようにきれいだ。
「ア、ハイ」
死んだ魚のような目をするナンシーだったが、まだ危機が去ったわけではないと気合いを入れ直し。
「人間のマネは大変ですからね。他にはどんなことができますか?」
もう言い直す気にもなれない。気力が失せてしまったのだ。
「そうだね。これは凄いよ」
童女はまたしても自信満々だ。
「まぁ、それは期待できそうですね…」
まったく期待していないが、何か、少しでも人間っぽいことをしてくれるのではないかと一縷の望みを託して眺める。
「ボクは物を食べられるし、水が飲めるし…」
そこまで言ってグッと力を込める童女。
「死ぬことだってできるんだ☆」
自信満々、言い切った。
「えっ!?」
「マジ凄ぇ!」
2人も驚いた。
前半の“食う”、“飲む”の真似は童女が酒場でもやっていた。
だが、“死ねる”とは何か。
ほんとうに死ぬことができるのか。
死んでこの世からいなくなってくれるのか。
死んでこの世からいなくなって、世界を平和にしてくれるならこんなにありがたいことはないのだが。
「なるほど、わかりました☆」
もう期待を抑え込めない。
恐ろしい巨人に迫られて困る少年を助けて、お伴の猫が『お前はネズミに化けられるか?』と問い、おだてられて調子に乗った巨人がネズミに化けたところを食べてしまう。そんな童話が思い出された。
目の前の童女ももしや…と期待せずにはいられない。
「さすが、アスタさん。凄いですぅ。実際にやって見せてもらえますかぁ?」
なぜか、ジュリエットが進み出た。
「……」
それならばと相棒に任せる。
「カモンボーイ!」
童女は両手を広げていつでもどうぞのポーズ。
この場に男の子はいないが。
「では!」
いつの間にか手にしていた短刀を腰だめに構えてジュリエットが突進する。
ドン!
身体ごと体当たりしてアスタの胸にダガーを突き立て、そのまま、押し倒す。
成人女性と童女、体格差は圧倒的である。
童女は何もできずに床に押し倒され、ジュリエットは執拗にダガーを押し込む。
アスタはまったく抵抗しない。
人形のように転がされて何もしない。
ジュリエットはダガーを子供の胸に突き立てたまま、立ち上がる。
「えっ!?」
小さな体から真紅の血があふれた。
真っ白なワンピースの布地が朱に染まってゆく。
ピクリとも動かない。
本当に死んだのか。
ビョン!
そうでもないか。
小さな体が引っ張り上げられるように起きて、まるで操り人形のようにいきなり立ち上がる。
そして。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
建物が震えるほどの大音声で叫ぶと、アスタは再び倒れる。
「えええっ!?」
今のは何だったのか。
なぜ立ち上がったのか。
なぜ立ち上がってから悲鳴を上げたのか。
さっぱりわからず、エルフは混乱する。
目の前に倒れる童女。
純白の布地に広がる真紅の滲み。
投げ出された幼い手足は打ち捨てられた人形のよう。
「えっ? 何? ほんとうに!?」
あわてて小さな体を抱き起こす。
肌が冷たい。
そして、硬い。
細い手首に指を当てる。
「脈がない!」
童女の心臓は鼓動を完全に停止している。
あわてて、冷たく硬い目蓋を開かせる。
角灯の光を当てるも。
「瞳孔が完全に開いているわ」
童女の目は死者のそれであった。
息もしていない。
体温が低下して死後硬直を起こしており、瞳孔は開いたままで生体反応を示さず、脈がなくて呼吸していない。
完全に死んでいる。
「ええええええええええええええっ!?」
エルフは叫ばずにはいられない。
あれほどの脅威がこれほどかんたんに消え失せてしまうとは。
コトン
ダガーが乾いた音を立てて落ちた。
あふれる鮮血がワンピースから滴り落ちている。
今の今まであれほど元気だった子供が冷たい死体になって自分の腕の中で息絶えている。
まるで嘘のようだ。
その現実が信じられない。
悲しむべきか、怒るべきか、はたまた世界の危機が去ったことに安堵すべきなのか。
ナンシーはショックで呆然としていた。
そこへ唐突な声が響く。
「どれくらい死ねますかぁ?」
すぐ隣に相棒のジュリエットが立っていた。
すると。
「ろうそくが燃え尽きるくらいかな」
腕の中の冷たい亡骸が答えた。
「ひっ!」
エルフは小さく悲鳴を上げる。
童女は完全に死んでいる。
床にできた血溜まりは明らかに致死量を越えているし、死後硬直、体温の低下、呼吸の停止、脈の停止、広がりきった瞳孔、すべてが明確な死を示している。
「もっと死ねませんかぁ?」
「退屈なので無理〜」
ジュリエットの問いに死体の口が動いて答える。
異常。
およそ、あり得ない異常。
何もかもが、明らかな、おぞましい異常だった。
エルフは不老の人種だが、死なないわけではない。治療が間に合わなければ病気や怪我で死ぬし、冒険者などやっているナンシーは常に死の危険と隣り合わせだ。
だから、死に対する覚悟がある。
死を迎えた者に対する敬意がある。
生の尊厳と同じように死の尊厳もまた在るのだ。
だが、今、腕の中の死体が喋っている。
見ると、童女の死に顔が笑っていた。
まるでこの世のすべての死を嘲るかのように。
『何だ、お前? 死んだらすべて終わりとでも?』と嘲るかのように。
「くっ…」
エルフの胸中に強烈な怒りが湧き上がった。
このアスタは人間の死を冒涜している。
そう感じた。
だが、同時に強烈な無力感にも襲われる。
おそらく、上位の幻獣は死なないのだ。いや、死んでも好きに生き返れるのだ。
死んだら、死体になって、朽ちて、この世から消える、そんなお行儀のいい真似はしない。
思えば、暁光帝に殺された二柱の神、光明神も暗黒神も再生しているではないか。
神と比べられるような、上位の幻獣を完全に滅ぼすことはできないのだ。
そんな話を思い出した。
それも酒場で聞かされる酔っぱらいの与太話だと思っていたが、そうか、そういうことか。
同じく与太話だと思っていた伝説の神器“アイテムボックス”ですら存在することを思い知らされたのだから、死を超越する、これくらい当然なのかもしれない。
「じゃあ、死ぬのはもういいので生きてくださぁい」
「はいは〜い」
ジュリエットが声を掛けると死んだ童女が立ち上がって普通に動き始める。
「はぁ…」
自然とため息がナンシーの口から漏れてしまう。
救世主の伝説に『盲は見え、足萎えは歩き、死人が立ち上がる』とあるが、こんな感じだったのだろうか。
この童女は死者の再生を救世主抜きでやってみせたが。
もっとも、アスタは超常の存在、今更かとも思う。
気を取り直してジュリエットに床の血溜まりを流してもらい、童女の服を本人ごと洗濯してきれいにする。
ちなみにダガーで切られたワンピースには穴が空いたものの、童女の胸には傷一つ付いていなかった。流れた鮮血は先ほどの“汗”と同じく皮膚の汗腺から放出したようだ。
会話シーンが続きます(>_<)
まぁ、恋愛小説なんて9割方、会話だし〜
…うん、これ、恋愛小説じゃなくて異世界ファンタジー冒険譚ですね…o| ̄|_
小生、この『人化♀したドラゴンが遊びに来たんだよ』を描くにあたって、3〜6話分を一気に描いてしまうんです。まぁ、だいたい、小生が考える区切りのよい物語の一話分くらいですね。
今回のお話は暁光帝が冒険者パーティー紫陽花の鏡の共同住宅を訪れた夜の物語です。
ず〜っと会話してるんですよね、これがwww
そりゃ、美少女が女の子しかいない百合の園へ出かけて会話以外のことをやるとなると……R-18タグが付いちゃいますからね(汗
さて、次回、ようやく冒険者たちが手がかりを得ます(^o^)
お楽しみに〜




