暁光帝、おびえる!? 〜超巨大ドラゴンが恐れるもの〜
本日は持ち物検査の話です。
エルフ♀が迫ります。
さぁ、暁光帝は何を持っているのでしょうか(^o^)
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「これで“所有”の話はお終いです。何か質問はありますか?」
エルフは問いを促す。
「ボクは2つしか持っていないけど、みんなは何を所有しているのかな?」
童女から意外な問いがやってきた。
「えっ?」
「2つ?」
2人は童女をしげしげと見つめる。
ワンピースと下着だけに思えるが、たぶん、着ている物は数えていないだろう。靴は履いてない。裸足だし。首から下げている冒険者登録証、すなわち粗末な木札がひとつ目の持ち物だろう。
もう1つは何だろう。
しかし、その疑問はおくびにも出さず。
「私はこの魔術杖と護身用の短刀、財布、小物入れ、ハンカチーフ、いざという時の為の魔気回復ポーションくらいかしらね」
ナンシーは今、持っている物をテーブルに広げ始めた。
超特級魔道師、妖精人のナンシーである。たいがいのことは魔法で何とかなる。だから、魔力が尽きた場合に備えてさえいればいい。
「アタシもぉ…同じようなものかなぁ」
ジュリエットの持ち物も似たようなものだった。只、魔気回復ポーションだけがない。体質的に不要なのだ。
「ふわぁ~ さすが、人間。すいぶんたくさん持ってるんだねぇ」
童女は小物入れに興味を示し、興奮している。
『さすが、人間』という物言いの時点で自分が人間でないことを認めてしまっているわけだが、本人が気づいていないのだからいいのだろう。
「これは針と糸…裁縫道具だね。2人ともハサミはないんだね」
感心すること、しきり。
ハサミがないのは当然。2人は魔道師なので布を裁断するにも魔法で十分なのだ。
「まぁ、この手の物はマーケットでいくらでも手に入りますから」
「次はその話をしましょうかねぇ」
2人は興奮する童女から私物を取り返し。
「…っと、その前に。木札…もとい、その冒険者登録証以外に何を持っているのかしら?」
ナンシーが尋ねる。
すると、童女はこともなげに。
「ボクは何も持っていなかったんだけどね。テアルが持って行けってくれたんだ」
言って、何か、不思議な仕草をする。
すると。
ドーン!!
物凄い衝撃音が鳴り響く。
そして、信じられない光景が2人の目の前に現れる。
樫のテーブルを圧する、巨大な革袋が乗っていた。
「!」
「!」
驚きのあまり、2人が声を上げる間もなく。
メキメキ! ドグシャァッ!!
頑丈な樫のテーブルは悲鳴を上げて脚が折れ、上板が割れて落ちた。
巨大な革袋ごと。
「キャー!!」
「何、何? 何事!?」
ようやく2人は悲鳴を上げる。
物凄い音と衝撃だ。
床板が割れるかと思えた。
2人は椅子ごと吹っ飛んでしまい、尻餅をついて眺めている。
目の前には山とそびえる巨大な革袋と、テーブルの残骸、そして座っても床に届かない足をぶらんぶらんさせている童女がいた。
「こ、これは……」
状況から考えて、この革袋こそが童女の“もうひとつの所有物”だろう。
どうやって出したのか。
そもそも着の身着のまま、何も持っていない裸足の童女である。どこにこんな大きな物をしまっていたのか。
「神器と呼ばれる伝説のマジックアイテム、“アイテムボックス”ですよぉ、たぶん」
ジュリエットが素早く説明してくれる。
「な、なるほど……」
納得できなかったが、エルフは無理やり自分を納得させた。
聞いたことはある。
とんでもない量の物質を収納できる、見えない箱の話を。中にしまわれたものは時間の経過がなく、食べ物は永遠に腐らないらしい。
“ウソノカガミ”、“マコトノツルギ”など世界を揺るがした“神器”という、超常のアイテムが存在することは歴史の事実である。
“アイテムボックス”はそれらに匹敵する代物だ。
それについては酒場で語られる、景気のいい与太話のひとつとして聞いていただけだ。
まさか、本当に存在するとは。
そんなものが目の前にあるなんて誰が信じようか。
だが、それしか説明が付かないのだ。
童女アスタは只、不思議な仕草で手を踊らせただけだ。次の瞬間、何もない空中から巨大な革袋が現れた。
魔力の波動は感じなかったし、手品でこんな物を出すことは不可能だ。
神器アイテムボックスにこの巨大な革袋を収めていたとしか、考えられない。
だから、ナンシーは無理やり自分を納得させたのである。
そうなると次の疑問は中身である。
『ボクは何も持っていなかった』『テアルがくれた』と童女は言っていた。
ならば、その“テアル”とやらに常識があることに期待したいが。
「中身を見ても?」
ここまでの状況から考えて、それは期待できないことがわかっている。
「どうぞぉ〜」
ナンシーの言葉に気の抜けた声が返ってくる。天井に届きそうな革袋に遮られて見えないが、反対側でアスタが椅子に座って床に届かない足をぶらんぶらんさせているのだろう。
こちらの不安にもまったく気づかずに。
いい気なものだ。
忌々しい。
いや、気づかせないように努めているわけだが。
「では、拝見します」
嫌な想像が頭をよぎる。
大量の水銀、牛の排泄物、人間の生首、はたまた、邪神に捧げるべく集めた生贄という線もある。
いずれにせよ、確かめないわけには行くまい。
天井に届きそうな巨大革袋によじ登り、ナンシーは袋の口紐を解く。
袋の口が大きく開いて、中身がこぼれだした。
キラキラキラ!
まばゆいばかりの光が煌めく。
それは開けた口から光を反射させてコロコロ落ちる。
ハマグリほどの大きさの円盤で美しい。
袋の口からこぼれたものは大量の金貨だった。
「なぁぁぁぁぁぁっ!?」
ナンシーは驚きのあまり、叫びが言葉にならず。
「はぁぁ……」
ジュリエットは額を押さえて深いため息を吐いた。
エルフの心配は童女アスタが善良な市民から欲しいものを力ずくで奪うのではないかということだった。
とんでもない。
天井にまで届かんとする黄金の山。
こんな、途方もない財宝を持っているのだ。
買い取れるだろう。
ドレスでも、宝石でも、絵画でも、馬車でも、それを牽く馬でも、土地でも、家屋敷でも、それこそ、妻や夫、子供、人間でも買い上げてしまえる。
悪夢が見えた。
童女がふらふらと出掛けた商店街で目の付いた珍品に散財する姿が。
ふつうなら無駄金を投じる、頭の弱い、哀れな子供の図だ。
しかし、投じる金の量が違う。
まさしく桁違いだ。
ばらまかれる金貨と黄金に殺到する民衆の群れ。
市場にあふれかえった金貨は物品の価格を高騰させ、市民は物が買えなくなって暴動が起きる。
入港した交易船は商品を買い叩かれ、出港前の仕入れをしようにも物価が高くてできない。
暴動で大勢が死に、多くの商人が破産して首を吊る。
街をキャンバスに死と破壊に彩られた地獄絵図が描かれるのだ。
間違いなく通貨膨張が起きるだろう。経済混乱だ。通貨の供給過多で市場は崩壊し、交易で成り立つこの街は滅亡する。
そしてナンシーは気づいた。
何とかしないと、この悪夢が実現してしまう。
明日にでも。
まだ、人間の生首が袋いっぱいに詰め込まれていた方がよかった。臭いし、汚いし、おぞましいし、どうしようもないくらい不愉快だろうが、何とか荒野の果てにでも埋めればなかったことにできる。生首の山だったなら。
でも、これは金貨の山だ。
恐ろしく比重の大きい黄金を荒野の果てまでどうやって運ぶ?
金は同じ体積の鉛よりも重い。黄金の山を運ぶのに荷馬車は何台、必要か?
積み荷が重すぎる。1台の荷馬車を牽くロバは4頭か、6頭か。いったい全部で何頭、必要なのだ?
よろけた足でえっちらおっちら運んで無事なわけがない。
荷馬車の轍には金貨がこぼれ落ちるだろう。
キラキラ光る金貨を目指して誘蛾灯に群がる虫のように人々が集まるに違いない。
金貨を見て興奮した民衆が我先にと群がり、奪い合いが始まる。
血で血を洗う、暴動に発展する。
黄金の魅力には誰も逆らえない。
騒ぎを止めようと駆けつけた兵士だって金貨の山を見たら理性が飛ぶだろう。
剣が振るわれ、守るべき民衆が殺されて。
その次は兵士と兵士の間で同士討ちが始まる。
ああ、隠そうとしても、やはり死と破壊に彩られた地獄絵図が広がってしまう。
そもそも、すべてを隠しおおせるわけがない。
どうしたって噂になる。
埋めても誰かが掘り起こしてしまう。
そして、市場は崩壊する。
瓦礫街リュッダは滅亡する。
悪夢が実現してしまうのだ。
今、ようやく理解した。
ジュリエットの言ったとおりだ。
何と言うことか。
この童女アスタはナンシーの理解を遙かに超える存在であり、別に敵対しなくても容易く世界を滅ぼせるのである。
「えーっと…このお金はいったい……」
ゴクリ喉を鳴らし、エルフは何とか言葉を絞り出す。
「うん、テアルがくれた。人間の街で潜むのに便利だからって」
またしても童女はこともなげに語る。
どこの世界に荷馬車からあふれるほどの金貨をポンとくれる友達がいるのだ。
非常識にもほどがある。
そう憤慨したナンシーだったが、このアスタの友達ならさもありなんと考え直した。
間違いない。
その“友達”はもっとたくさんの金貨を持っているのだ。最低でもこの十倍か、多ければ数百倍の金を。
そんな幻獣は何か。友人の“テアル”とやらについて考えればアスタの正体を推し量れるかもしれない。
だが、今は金貨だ。
とにかく、こいつを何とかしなければならない。
「ふむ、このお金は丁度いい。アスタさんはお金の使い方がわかりますか?」
努めて平静を装って尋ねる。
リュッダの街には何百年となく関わってきたのだ。もはや故郷と言ってもいい。断じて滅ぼさせはせぬ。
決意も新たに童女を見つめると。
「う〜ん…“買い物”だよね? 欲しいものがあったら店員と話して“値段”を聞いて、言われた金額のお金を支払う…だっけかな」
アスタはわずかに顔をしかめている。
しめたものだ。
どうやら、童女は買い物に自信がないらしい。
「はい。おおむね、そのとおりですね。けれども、買い物は難しい。只、言われた通りの金額を支払うのは……」
エルフは眼力を込めて。
「田舎者のやることです!」
力強く言い切った。
「むぅ!」
童女も驚いて目を丸くする。
「それはまずいね。買い物は難しそうだ。やはり特別なやり方があるのかな?」
興味しんしんと言った様子で尋ね返してくる。
「ええ。そうですね」
童女が食いついた。
ここから先は人間の技“口車”で言いくるめる!
それしかない!
「商人というものは自分の商品を左から右へ動かして利益を得る、お金を稼ぐことが目的です。だから、言い値で品物を買う客を馬鹿にして、あらかじめ決めておいた価格より高い値段を告げる。これを“ふっかける”と言います」
「ふっかける? 嘘を吐くのか!?」
「はい。嘘を吐かない商人はいません。商人は嘘つきです」
「何と! これは…きっついなぁ……」
エルフの言葉に童女は落ち込んでいる。
「やはり…」
小さくつぶやく。
思ったとおりだ。
幻獣は嘘が吐けない。
凶暴な鹿鳥や人食いオオカミなどは知能が低いが、樹木人や蛾人は人語を解するほどに賢い。
そして、人語を操る幻獣は知能こそ高いものの、嘘が吐けないのだ。
ドラゴンやフェニックスのような、強力な幻獣でさえも、だ。
理由は不明だが、『幻獣は事実と異なる事象を思い描いて言葉にすることができない』という学説が有力だ。
だから悪魔との契約も信頼できる。悪魔は人間を騙すが、嘘を吐くこととはないからだ。皮肉なことに悪魔は人間との約束を違えないのだ。
もちろん、例外はあるかもしれない。
しかし、目の前の童女が商人の嘘を異常に警戒している。そして、買い物をためらっているのを見ると、“やはり”という感覚がぬぐえない。
この娘の正体は幻獣。それも一番手のドラゴンやフェニックスに匹敵する、強力な奴だ。
それでも嘘は吐かない。
いや、嘘が吐けない。
だから、嘘つきを異常に警戒するのだ。
「まぁ、買い物で出自がバレてしまう田舎者は多いのでそこまで気にする必要もありませんが…心配ならしばらく私達といっしょに買い物しましょう」
ナンシーが助け舟を出してやると。
「おお、それは助かる☆ ありがとう♪」
渡りに船と、童女は目を輝かせて感謝した。
「そうそう、紫陽花の家の一室をアスタさんに貸しますので家賃として金貨を10枚もらっても?」
「ああ、もちろんだよ。10枚と言わず、百枚でも千枚でも。どうぞ、どうぞ☆」
買い物の問題から解放されたのが嬉しいのか、童女は気前よく金貨を差し出した。
この金銭感覚が恐ろしい。
「このリュッダも“瓦礫街”なんて言われてしまう、今日この頃ですからね。お金はありがたい」
腹に一物抱えながらもナンシーは金貨を両手からこぼれそうになるほど受け取った。
「……」
ジュリエットは咎めない。
金が欲しくてエルフがねだったのではないと知っているからだ。
この場で重要なのは何より情報。
見たところ、金貨は全部が全部、同じものではなく、1枚1枚が違う貨幣だった。これら金貨の出処を探ればアスタの正体に迫れるかもしれないのだ。
「では、これはしまっておくね」
童女が再び、不思議な仕草で手を打ち振ると山のようにそびえる巨大な革袋は忽然と消えた。
神器“アイテムボックス”に収納したのだろう。
後には砕けて残骸になったテーブルだけが残された。
腹の探り合いww
暁光帝もエルフのナンシーも何とか切り抜けました。
そして、幻獣の弱点も\(^o^)/
いろいろなアニメや漫画で「魔物」「妖怪」の描写についてどうも納得いかないところがありまして。
魔物も妖怪も長生きはしても不老ではないし、恋もするし、子供も産むし、飯も食えば水も飲む。
あれ? これ、只の猛獣じゃね?
これら、モンスターがいつの間にやら、人間に虐待される「少数民族」として描かれることも!
いや、別にいいんですよ。
そういう描写した方が面白くなる場合も確実にあります。
只、その場合、「珍しい」という付加価値が失われるおそれがある。
小生はそれが気に入らない。
昔、『ウルトラマン』を見ていて怪獣が退治されるたびにしょんぼりしていました。
怪獣という珍しい生き物が殺されてめでたしめでたし。
めでたくねぇぇぇぇっ!!!!
なので、本作品では「幻獣」の設定をかなりユニークなものにしました。
生物じゃないんですよ。
ええ、ちょっと変わった猛獣でもありません。
もちろん、人間に虐待される哀れな“少数民族”でもありません。
だいたい、こんな感じ↓
・幻獣は虚無から生まれる。
・幻獣に性別はない。
・幻獣は生殖しない。当然、親もいなければ子もいない。
・幻獣は成長しない。当然、老いない。
・幻獣は病まない。しかし、呪われるはする。
・幻獣は嘘が吐けない。
・幻獣が自力で人化するには幻影魔法の習得が必須。
・幻獣は妖女サイレンの呼び鈴で人化できる。
動物は「配偶」「食餌」「逃避」などの行動を行います。
また、どの生物もエコロジー的に食物連鎖に組み込まれていて、自然界でそれぞれの役割を持っています。
ライオンやクマなどの猛獣が人間を襲う、それも生食連鎖の一端でしょう。
そこで社会を守るために人間が害獣を殺す、これも社会防衛の一端であって責められることでもない。
だけどね…
つまらない!
珍しくない!
小生の作品にそんな当たり前のこと入れたくありません。
「ふつう」ってのは悪なんですよ。
どれだけ「異常」なのか、そこにセンス・オヴ・ワンダーがあるのです。
だから幻獣は生き物ではない。
彼らはずいぶん違う者、珍しい者なのです(^o^)
今回、暁光帝の弱点の1つを描きました。
暁光帝、嘘が吐けませんwww
問われたら正直に答えるしかない。嘘が吐けないんです。
だから、前のお話、冒険者ギルドのシーンで受付嬢スーザンと会話して。
もしも…
スーザン:「アスタさん、貴女は人間じゃありませんね?」
アスタ:「はい。ボクは人間じゃありません」
スーザン:「その紫の髪、実は貴女、人化♀したドラゴンなのではありませんか?」
アスタ:「はい。そのとおりです。すみません」
スーザン:「あー、ドラゴンは冒険者になれないんですよ〜 はい、お帰りはあちら〜」
アスタ:「しくしく…さようなら」
…となりまして。
『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ〜暁光帝、降りる〜』、完。
…
……
………
終わっちゃったよ(>_<)
こうなってしまうので暁光帝はあれだけ警戒していたわけです。
受付嬢スーザン、マジ、ラスボスwwww
だから、暁光帝にとって冒険者登録証の木札がとても大切なものなのです(^o^)
さて、次回も会話シーンが続きます(ToT)
あんまりアクション要素はありませんが…何とか面白くなるよう努めますので(^_^;)
お楽しみに〜〜




