暁光帝、冒険者パーティー“紫陽花の鏡”の共同住宅へ。〜美少女は美女と語る〜
祝、茨城県、最下位を脱出☆
大変、めでたい♪
…
……
………
こほん、まぁ、それはそれとして。
ついに、暁光帝が女の園、冒険者パーティー紫陽花の鏡に入団しました(^o^)
入団試験をすっ飛ばしての入団です。
暁光帝は美女達とうまくやっていけるでしょうか。
乞う、ご期待☆
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
日が暮れて、夜道は墨を流したように暗い。
ランプの油は安くないし、商業区でも街灯は大通りだけ。一歩、通りを離れると月の出ない夜は一寸先もわからない、文字通りの真っ暗である。
か細い光を放つ角灯だけが頼り。それを持つナンシーが先頭で導いている。
「受付嬢に話は付けておいたから、アスタちゃ…アスタさんの住所は私達と同じでいいわ…いいですよ」
敬語を使うべきか、呼称をどうするべきか、まだ悩んでいるところだ。
「足元に気をつけてくださいねぇ。でも、すぐ近くですよぉ」
その辺、ジュリエットは悩まない。礼儀をわきまえ、敬語を用い、うやうやしく話しかける。
「う〜ん…だいじょうぶ。見えるから」
童女アスタは上機嫌でナンシーの後に続く。
自慢の虹色の瞳は暗視の分解能も高い。月が出てなくても問題なく、星明りだけでも通りをすみずみまで見通せる。
相変わらず、とんでもない反則級の視力だ。
「るんるん♪ とぅるんとぅるんるん♪」
自然と歌ってしまう。瓦礫街リュッダに到着したその日に冒険者パーティーに加入できた幸運が嬉しい。
「ああ、それから」
破顔して告げる。
「ナンシー、ジュジュ、敬語は要らないよ。ボクのことはふつうに“アスタさん”と呼んでくれればいい」
楽しくて、ついつい声が弾んでしまうも。
「ア、ハイ」
「了解ですよぉ〜」
ナンシーは難しい顔でうなずき、ジュリエットは気軽に答えた。ジュリエットの方は多少、慇懃さが和らいだよう。
今、アスタは敬語を不要だと言いつつ、2人を呼び捨てにしおいて自分のことは“アスタさん”と敬称付きで呼ぶことを許可している。その上、ジュリエットに至っては“ジュジュ”と愛称呼びである。
「ナチュラルに偉そうね」
「ナチュラルに偉そうですねぇ」
2人は同時に同じ感想を漏らしてしまう。
「そりゃ、ボクは偉いからね〜」
アスタは上機嫌のまま答える。
「な…なるほど……」
「さすが、アスタさんですぅ〜」
2人はそろって『『よくわからないけど凄ぇ』』と思うしかない。
裏通りをしばらく歩くと目的の建物“紫陽花の家”に到着した。冒険者パーティー“紫陽花の鏡”の共同住宅である。
ジュリエットの言うとおり、たしかに冒険者ギルドから近い。
それは大きな家だが、1階建ての平屋だった。木造ではなく、白い壁は漆喰モルタルだろうか。窓枠には高価なガラスが張られていて、冒険者ギルドよりも高級感がある。
庭は広く、周囲を紫陽花が囲っている。
両開きの門扉は鉄製で、魔力で開く仕組みのようだ。
家と庭を守る鉄柵は高い。大人の身長の三倍はあるだろう。てっぺんに鉄製の忍び返しが尖っている。
魔力を流し込んで門扉を開き。
「ようこそ、紫陽花の家へ」
エルフのナンシーが歓迎した。
「へぇ…ここが今日からボクの巣になるのか」
相変わらず、妙な物言いの童女であるが。
「ええ。こちらがアスタさんの巣になりますねぇ」
ジュリエットは動じない。
その言い方こそが正しいかのように続けてやる。
「直方体だね」
“紫陽花の家”、このパーティーで共有する家を見てアスタはますます上機嫌だ。
もともと、天竜アストライアーは幾何学的な対称性にこだわる。今の自分、童女アスタの容姿も線対称であり、身体の左右は完全に一致し、髪の毛一筋ほどの違いも許していない。
もちろん、人化した童女アスタの好みも変わらず、この直方体の家を気に入ったのだ。
「うぅ……」
家の形にコンプレックスがあるナンシーは複雑だ。このような単純な形はしばしば“レンガブロック”とそしられることが多い。
「どうぞぉ〜」
ジュリエットがドアを開く。
鉄製で無骨なドアだ。まるで牢獄のようだが、鉄柵の忍び返しと合わせて防犯のためだろう。
「うちは、今はうら若い女性ばかりの5人パーティーだから、どうしたって不心得者が湧いてくるのよ。まぁ、用心しといて損はないわ」
ナンシーが面倒くさいと言いながら玄関に迎えてくれる。
「へぇ〜」
アスタは感心した。
すでにジュリエットが魔力を込めてくれたので光魔法による照明が煌々と室内を照らしている。
玄関が応接室を兼ねる設計だ。依頼者を家の奥に招かず、入り口で応対するのだろう。冒険者の共同住宅らしいデザインだ。
大人が寝られるほどの長椅子、趣味のよい壁掛け、そして若い女性には似つかわしくない、りっぱな鏡が置いてある。
この鏡、部屋のどこからでも覗ける位置にあるので、精神干渉による幻術を警戒しているのだろう。人間に化けた幻獣も鏡に映せば正体がわかると言われている。
もちろんアスタの人化はそんな鏡で見破られるほどチャチではないが。
そして、りっぱな花瓶である。しかし、生けられている花が造花なのは妖精人のナンシーのためか。
恐ろしく天井が高い。
身長高めのジュリエットの2倍はあろうか。どうやって天井の掃除をしているのだろう。
おかげで只でさえ広い室内がとても豪華に思える。
実際、ジュリエットが指を鳴らして魔力を込めると、どういう仕組みなのか、テーブルと椅子が滑ってきた。
「ふぅん…風魔法で摩擦を減らして飛ばしてるのか。なかなかの技術だなぁ」
虹色の瞳は魔気力線が視える。マジックアイテムに刻まれた魔術式も丸見えだ。
「さぁ、こちらに」
「ありがとう」
さり気なく椅子を引いてくれるジュリエットに感謝して、アスタは席に着いた。
6人がけの豪華な樫のテーブルだ。
「どうぞ」
ジュリエットがガラスのコップに黄色い液体を入れて出してくれた。
「へぇ、今度は何だろ」
童女は紫のロングヘアでコップを傾け、これまた、天井を眺めながら一気に飲み込んだ。
舌全体に滲み込む酸味と甘味、喉越しの冷たさ。
「うん、美味しいね」
これほどわずかな液体が味覚を刺激する。何という素晴らしい体験か。
これもまた『世界を横から観る』という遊びの醍醐味であろう。
「えーっと…アスタさん、飲み物は一気にぐい飲みせず、口の中で味わいながら少しずつ飲むとさらに美味しく感じられますよ」
対面に座ったエルフがアドバイスをくれた。
「なるほど!」
そういう飲み方もあるのかと感動する。
世界は驚きに満ちている。
世界は楽しいものなのだ。
腰掛けたはいいものの、大人の椅子は高い。足が床につかなくてブラブラさせている。
煌々と光る魔法の照明に照らされて、金属光沢の髪がキラキラ輝く。雪のように白い肌に虹色の瞳が映え、もう得も言われぬ美しさだ。
「ほわぁぁ…」
「あわわわ…」
この世のものとは思われない美貌に当てられて言葉を失いながらも、大人2人は意思決定を完了させていた。
今からやるべきことはすでに冒険者ギルドの壊れたテーブルで相談済みなのだ。
だから、後は実行するだけである。
「私達、“紫陽花の鏡”についてはさておき、まずはここ、瓦礫街リュッダで暮らす上で知っておくとよい話をしましょう」
ナンシーは努めて穏やかに話し始めた。
実のところ、今から始まるのは腹の探り合いを兼ねた、アスタへの生活指導である。
もっとも、“指導”とは言え、童女に命令はできない。高飛車に命じて怒らせようものなら、この街ごと自分達が消し飛ぶという共通理解の下、ナンシーとジュリエットの共同作業でことに当たろうというわけだ。
したがって、強制ではなく、話はすべて忠告という形式を採るつもりだ。
「へぇ…そいつはありがたい」
アスタは素直に喜んでいる。
「私達は必ずしも瓦礫街の生まれじゃありませんよね。それぞれの出自というものがあります。けれども、互いにそれを詮索するものではありません。私達自身、自分が田舎の生まれだとは知られたくありませんから」
「うん。そうだね」
エルフの言葉に童女は快く同意する。
「だから、私達自身がよけいな詮索をされぬよう、瓦礫街での生活に溶け込めるよう努めるべきです」
「まさしくそのとおりだね」
ナンシーの言葉に童女は全面的に賛同する。
「…」
さすが、相棒だとジュリエットは感心している。
嘘は吐いていない。だが、論理の展開の中で“幻獣”を“田舎者”で置き換えて自分達を『出自を隠すために努力している者』と定義し直している。
この手の言葉遊びはやはり人間が巧みだ。
「では、アスタさんがどれだけ都会の生活に溶け込めるのか、今から質問してみましょう」
「ボクの知識を見せるチャンスだね。ドンと来いだよ」
童女は上機嫌で受け入れてきた。
親友の緑龍テアルに聞いて人間社会での常識はたっぷり仕入れてある。何も心配することはない。堂々と答えてみせようという態度だ。
「では、アスタさんに問います」
ナンシーはグッと眼力を込めて。
「“所有”とは何でしょう?」
鋭く尋ねた。
「!?」
そこからか!?
隣でジュリエットが絶句している。
まさか、こんな基本的な質問をかますとは。
これではまるでアスタが人間でないことを完全に承知しているようではないか。
これでは正体が露見したと気づいてアスタが激高するかもしれない。
恐る恐る童女の方を見やると。
「ある人間が何かをずっと使ったり、壊したり、捨てたりしてもよい、そんな状態のことだよ。所有するには、他者から買う、もらう、盗む、奪う、または誰の所有でもない何かを拾えばいい。後、自分で作るという手もあるね 」
何やら真剣に答えている。
子供でも知っているようなことを、上級公用文字であるリザードマン文字の使い手に尋ねた相手を怒るでもなく。
この問いは大の大人に『太陽が昇るのは東ですか、西ですか?』と問うに等しい。
馬鹿にされたと怒りだしてもおかしくない問いかけに真剣に答える、それは『“所有”とは何か?』の問いが当たり前でない者であることの証左に他ならない。
「…」
ジュリエットは想像する。
“所有”という概念がない暮らしを、そんな生活を送っている存在を。
まず、ドラゴンが排除される。ドラゴンは財宝を貯め込むものだ。それを奪われることを嫌って冒険者とやり合うことが知られている。
巨人でもないと思う。ギガースは愛用の得物を持っていて、“俺の棍棒”が他人に使われることを嫌がる。
そうなると、やはり、大烏賊や不死鳥当たりか。貿易船を襲うクラーケンも海の底に何か貯め込んでいそうだから“所有”の概念があるだろう。ドラゴンに匹敵すると言われるフェニックスが何かに執着するという話は聞かないから、可能性はある。しかし、アスタの正体がフェニックスならあそこまで戦慄を感じるだろうか。強さはともかく他を害する幻獣ではない。
これらに続く合成獣、人面獅子、鷲獅子などはしばしば人間を襲うので財宝を貯め込んでいる気がする。“所有”というか、強いこだわりがありそうだ。
他に強力な幻獣としては他に夢魔や人食いサソリなどがいる。この2つは特殊すぎて想像もつかない。
「う〜ん……」
悩ましい。ジュリエットは幻獣に関する知識で人後に落ちるつもりはないが、それでもアスタの正体については何も思いつかない。
もう少し下の幻獣なら雷巨鳥や人食いカブトガニなど“所有”の概念を持っていなさそうな奴らがいくらでも思いつくが、強いとは言え、恐ろしくはない。
この“悪徳のジュリエット”を戦慄させるほどのモンスターではないのだ。
ジュリエットが思い悩んでいる間にもナンシーの質問は続く。
「今、答えてくれた中にあった“盗む”、“奪う”は規則違反なので好ましからざることですね。規則については?」
「エチケットやマナー、倫理もしくは道徳、そして法律の三段階があるね」
ルール違反に対する童女の回答はやはり簡潔だ。
続く補足も。
「エチケットやマナーは破ると他人から咳払いされる」
「道徳や倫理は破ると他人から悪口を言われる」
「法律は破ると他人から剣で斬られる」
わかりやすい。
「はい。よくできました。アスタさんはとてもよく理解しています」
「でしょー。えっへん☆」
露骨な礼賛にも素直に喜ぶ。童女らしい反応だ。
しかし。
「抑止力にならないわぁ」
間延びした声ながらジュリエットが意見する。
「そうね」
短いやりとりで理解するナンシー
“咳払いされる”、“悪口を言われる”、“剣で斬りかかられる”、いずれもこの童女を傷つけることは不可能だ。精神的な影響はともかく、物理的な影響は皆無だろう。
ならば、童女がマナー違反、倫理違反、法律違反を繰り返すことは必定。
対策を取らねばならない。
問題が起きる前に。
今すぐ。
「只、その回答には少しだけ訂正が必要ですね」
エルフは付け加える。
「それらの違反行為については友達が減るのです」
より明らかで効果のありそうな抑止力を示す。
「えっ、そなの?」
うまい。
アスタが食いついてきた。
「はい。エチケット違反やマナー違反で友達がおよそ3分の1くらい減ります。道徳違反や倫理違反でおよそ半分に減り、法律違反ではおよそ3分の1しか残りません」
具体的な数量を示しつつ、“およそ”という言葉を追加することでぎりぎり嘘は吐いていない。
童女に対する尋問と腹の探り合い、この過程で嘘は吐かないと言うことが決められていた。アスタを嘘で騙すことで得られるメリットと嘘がばれて激怒されるデメリットは秤にかけるまでもないからだ。
「それは困るな…」
ここに来て初めて童女の顔が曇った。
ナンシーとジュリエットにとっては幸いなことに、アスタにも“友達”の概念はあるらしい。
これなら先の言葉が抑止力になってアスタがルール違反に及ぶことは避けられるだろう。
告白します。
ぶっちゃけ無理だと思ってました。
20年くらいは最下位だろうと。
我が故郷、絵に描いたような田舎なんですよ〜
みんな、「おらが〜」「おらは〜」「〜だっぺ」で話しますし。
ほっぺた赤いし。
田んぼと畑と、田んぼと畑と、田んぼと畑と、田んぼと畑と、しかないし。
電車の車窓から見える光景が田んぼと畑と、田んぼと畑と、田んぼと畑と…
でも、都会に来たときは泣きましたっけ。
田舎と違って珍しい昆虫が全くいない。
何をして遊べばいいのか、途方に暮れたものです。
好物の吉原殿中も水戸の梅ものし梅もないし。
畑で虫取りばかりやっていた子供にはきっつい環境の変化でした。
だけど…祝、茨城県、最下位脱出☆
都道府県魅力度ランキング、7年連続最下位だったのに…
しかも、何と42位! 最下位から5位も上げましたよ。
爆上げですよ。
ありがとう、茨ひより♪
いやぁ、めでたい。最高です。
…
……
………
さて、うちの暁光帝もようやく人間の世界に馴染みかけています。
美女2人に囲まれて幸せな時間を過ごしますね。
百合♀×♀展開が満載のはずですが…ちっともそ〜ゆ〜ことにはなりませんね(ToT)
でも、連載開始当初は商人♂、息子♂、赤毛の冒険者♂、犬(♀?♂?)しかいなかったんですから、だいぶ、状況は改善されて来ましたね。
そして、豆腐!
豆腐ですよ! 豆腐!
我らが“紫陽花の鏡”共同住宅は白い直方体です。
中世ヨーロッパに漆喰やモルタルはあったので建物としてはありでしょう。
紫陽花の鏡は金持ちパーティーなので高価な漆喰もそろえられるでしょうし。
当初、玄関と応接室は別と考えていたんですが、冒険者パーティーの共同住宅ですからね。
女性だけの家に依頼人を奥まで通すのも何ですし。
ちなみに個人の部屋は全部が同じ大きさです。縦横は8m×8mで高さは3.5mと広くてでかい。
暁光帝じゃないけれど、どうやって天井あたりの掃除をしているのやら(^_^;)
なので、紫陽花の家は縦横18m×50mの高さ3.5m………豆腐です\(^o^)/
2階建てにしなかったのは召使い部屋とか考えるのが面倒だったから。
厩舎とかありませんしね。
トイレは3つ、浴室が2つあります。キッチンとダイニングがそれぞれ1つ。他にプレイルームが2つと冒険者らしく武器庫が1つ。
生活するには十分でしょう。
見取り図を添付しておきました。
説明が英語なのは小生の使ってるお絵かきソフトKritaが日本語だと不安定になるからです(>_<)
本日より、ここ、紫陽花の家が暁光帝の新しい巣になります。
日常生活が描写されるのまだ先の話ですが。
お楽しみに〜




