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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<街に侵入しよう! 人間に見つからないように!>>
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暁光帝と冒険者パーティー“荒鷲団” 〜えっ、ボク、入団しちゃうの?〜

晴れて冒険者になった我らが暁光帝。

ここまで来たら調子に乗るのも仕方ない☆

おや、誰かが仲間になりたそうな顔をして近づいてくるぞ。

…と、まぁ、暁光帝の頭の中は春一色です(^o^)


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 「おや、新人さんかね。冒険者についてわからないことがあれば、このわた…あぁ、この俺が解説して差し上げようじゃないか」

 突然、会話に割って入った者がいた。

 背は高からず、低からず。そうは言っても童女よりはずっと大きいが、中背の男だ。燃えるような赤毛のざんばら髪で精悍な顔付き、たくましい筋肉は貫頭衣で隠しきれない。いかにも冒険者らしい姿をしている。

 「あら、ボルゲンさん。よかったわね。この方は中級戦士でベテラン冒険者のボルゲンさんよ」

 受付嬢スーザンも尊敬の眼差しを向けている。

 使い込まれたレザーアーマーと大きなラウンドシールド、腰にはロングソードを下げている。顔以外に肌の露出はなく、身ぎれいで無精髭もない。

 中年のおっさんなのに清潔感があり、地味で平凡な顔だが、その分、信頼できそうな雰囲気をまとっている。

 「ああ、それはありがたい。親切に甘えさせてもらうとしよう」

 なるほど、これがベテラン冒険者かと感心した。

 両手を広げてその場で回転、片足を引いてもう片足を曲げて、紫色のロングヘアーを操作する。両腕を組んでふんぞり返り、金属光沢に輝く髪がスカートの裾を摘まんで持ち上げる。

 「ボクはブタよりも小さいアスタだよ。よろしく」

 ここでも完璧にアストライアー式カーテシーを決めてみせる。

 「おお、こりゃ、ご丁寧に」

 そう言って男も両手を広げて一回転し…そうになって途中で止めた。

 「あらあら、ボルゲンさんったら。うふふふ♪」

 釣られて珍妙な挨拶の真似を返そうとしたベテラン冒険者に受付嬢が笑む。

 ノリのいい男だ。

 「冒険者というのは基本、荒事(あらごと)代行(だいこう)請負(うけおい)業者だ。荒事でなくとも自分が苦手とすることを代わりにやってくれる奴はありがたがられるからな、代筆屋、会計士、弁護士なんてのもいるわけだ」

 赤毛のおっさんは基本から丁寧に説明してくれる。

 「弁護士も冒険者なの?」

 意外な事実である。

 「裁判もそうだが、商売や遺産相続、言葉の争いだって得手(えて)不得手(ふえて)があるだろ。弁護士は口喧嘩(くちげんか)の苦手な奴の代わりにそれを買ってやる、言ってみりゃ、議論の代行請負業者だ」

 赤毛はスーザンを指し示す。

 「そこの受付嬢がな、ギルドメンバーの能力を把握して依頼(クエスト)を斡旋したりもするんだ。俺みたいな戦士に離婚訴訟を任せたりできないだろ。逆に弁護士にモンスター退治をさせようなんて無茶ぶりも避けるわけだ」

 よく口の回る男だ。いっそのこと、離婚訴訟を任せてもいいかもしれないと思いつつも。

 「なるほど、無茶だなぁ」

 ロングソードを構えた弁護士が人食いオオカミに立ち向かう様子を思い描いて笑ってしまう。

 「ああ、そうだ。どっちが優れているってわけじゃない。ペンより重いものを持ったことのない青瓢箪(あおびょうたん)でも活躍できるし、わた…俺様のロングソードがぶった斬る敵もいるってこった」

 「言い方…」

 表現に文句をつけたくもなるが、赤毛の男なりに弁護士を評価しているようだ。

 それにしても言葉(づか)いが変だ。本来はですます調で喋るのだろうか。無理に荒っぽい言葉を使っている(ふし)(うかが)える。

 ボルゲンが話を続ける。

 「他にはな、依頼(クエスト)としては隠しメニューみたいなモンだが、“濡れ仕事”ってぇのがある…」

 声を潜めて周りに目を配らせながら話し出す。

 「ボルゲンさん!」

 子供にそういう話は、とスーザンが止めるも。

 「いやいや、この嬢ちゃんは見かけよりもしっかりしてる。ものの道理を解けばわかってくれるだろうさ」

 赤毛の冒険者はうんうんとうなずいた。

 「隠しメニュー? 何で濡れるの?」

 秘密の臭いを感じ取って童女アスタが興味を持つ。

 「“濡れる”ってぇのはなぁ…“血にまみれる”ってことさ」

 「なるほど、やっぱりそっちの仕事ね。へぇー、国じゃないんだ」

 これだけで理解する童女はなるほどボルゲンの言う通り『しっかりしている』のだろう。

 「ええっ!? 物わかりよすぎじゃないの? それに『国』って…」

 受付嬢はアスタについて考えを改めるべきだろうかと思い悩んだ。

 しかし、赤毛は童女アスタの反応を見て。

 「“濡れ仕事”、血にまみれるから殺人代行請負業者…ってわけだ。いわゆる、“殺し屋”って奴だな」

 こともなげに言う。

 いやいや、新人の、しかも未成年、子供に殺し屋稼業(かぎょう)を斡旋するベテラン冒険者とはずいぶん困ったものだ。いやはや、如何(いかん)ともしがたい。

 これに対し。

 「ふぅん…冒険者は殺し屋もやるんだ。それって暗殺者(アサシン)のことでしょ? てっきり、ここでも王様に直属の役人かと思ってたよー」

 聞いているアスタは予想外の反応を示しつつ、更に怖い話を始める。

 童女の語る“暗殺者(アサシン)”は防諜や治安維持の目的で雇われた、国にとって不都合な人物を物理的に排除することを専門に行う工作員(エージェント)のことだ。要するに、外国のスパイや国家転覆(てんぷく)をくわだてる反逆者をこっそり殺して始末する国家公務員のことである。

 緑龍テアルの曰く。

 『スパイに殺し屋、世界征服を企む悪の秘密結社、珍しくない。だから、どこの国も暗殺者(アサシン)で対抗しているのだ』

 …そうだ。

 冒険とロマンにあふれまくっている話だが、親友の言うことに間違いはないから、きっと世界の裏に潜む真実なのだろう。

 だから、童女は赤毛の話にも動じる気配がない。

 「殺し屋が役人…どういう育ち方したらそんな考えになるのかしら」

 唖然とするスーザン。

 殺し屋について語る童女は無邪気なもので、まるで事務仕事がきつい衛兵の話をしているかのよう。

 「んー、暗殺者かぁ…」

 物凄くつまらなそうだ。

 この童女アスタは天竜アストライアーが変化(へんげ)したものであり、人間社会の禁忌(タブー)に対しても特別な感情を抱かない。

 超巨大ドラゴンとしては、この街の特定の誰かを殺せと命じられたところで、それは庭の白バラに付いたアブラムシを一匹だけ退治してくれと頼まれるに等しい。

 物凄く面倒だ。

 しかも、アスタが殺人を告白したところで、孤高の八龍(オクトソラス)の他のドラゴンは『ふぅん』で済ますだろう。『誰、それ?』とすら聞いてくれないかもしれない。

 いや、もっとひどくて。

 『瓦礫街リュッダのなんちゃら(なにがし)ってゆー有名なおじさんを殺したのは…実は、このボクなんだ』

 『えっ、あのカイガラムシに名前があったの?』

 『カイガラムシじゃないよ。アブラムシだよ!』

 『同じ半翅目(はんしもく)じゃんw 植物の寄生虫で草の汁、吸うんでしょw 同じやんw ツマグロオオヨコバイよりダメじゃんww』

 『違うんだってば!』

 『そんなことより、ツマグロオオヨコバイの可愛さは異常www』

 『それは認めざるを得ない…o| ̄|_』

 こんなやり取りが目に浮かぶ。

 孤高の八龍(オクトソラス)だから、こんなものだろう。

 そもそも孤高なんだし、それほど他人に関心を持つとも思えないし。

 ほんとうに物凄くつまらない。

 童女の感想はこれに尽きた。

 「いやいや、いやいや、只の殺し屋じゃないのさ。正義の味方なんだぜ」

 ボルゲンはニヤリと笑う。

 「正義の味方? 殺し屋が?」

 意外な方向に進む話にアスタは少しだけ興味を惹かれた。

 子供に殺人をそそのかす大人の図だが。

 「この街は犯罪に甘い。いや、そこまで手が回らないとも言える」

 赤毛の冒険者は丁寧に説明する。

 瓦礫街リュッダはまだ破壊された市壁の瓦礫が転がっている。それくらい荒れている。治安維持のための兵士の数も十分とは言えず、最近はオーク盗賊団の暗躍も激しく、役人も手一杯なところがある。

 「この街では平民の誰かが死んでも捜査なんてされないんだ。たとえ、殺されたところで誰も見てなければ犯人は捕まらない」

 とんでもないことを言い出す。

 「えっ? ずいぶんダイナミックなんだね」

 さすがに驚く童女。

 どこそこの商人が殺されて犯人が商売敵(しょうばいがたき)だったとか、どこかの国の王様が毒殺されて王位を狙った親戚が死刑になったとか、様々な殺人事件を噂好(うわさず)きの魔女(ウィッチ)から聞かされている。そういう話からして犯人はたいがい捕まるものだと思っていた。

 だが、アスタが聞かされた話は、大商人や王侯貴族などの有名人に限定される。貧乏な平民や戸籍のない非市民が殺されたところでいちいち捜査などされないのだ。

 それに役人はともかく、兵士は腕っぷしが強いから兵士になったのであって頭がいいわけではない。証人から話を聞いたり、証拠を集めたり、犯罪の捜査なんぞできるはずもなく。

 本来、犯人の特定には『動機』『機会』『手段』の3つが必要とされるが。

 瓦礫街リュッダでは『証人』『犯人』『死体』の3つがそろっていないといけない。

 つまり、よほどのことがなければ殺人事件の犯人は捕まらないのだ。

 「だから、殺された奴の親や子、そして親戚が自分で犯人を探し出すのさ。そして、ここにやって来て…冒険者に敵討(かたきう)ちの代行を依頼するんだ」

 赤毛はしっかりうなずいて。

 「社会による正義の復讐だよ」

 明確に言い切った。

 「あー…そのぉ…ボルゲンさん……」

 表立っては言いたくないらしい、受付嬢スーザンが顔を伏せる。

 ボルゲンは「まぁまぁ」となだめていた。

 「ふぅん…法律の(さば)けぬ悪を裁いてくれよう…か」

 何事にも理解の速い童女である。

 アスタはボルゲンの言う“正義の味方”という言葉に惹かれた。

 かっこいいからである。

 冒険者ギルドが請け負う敵討ちの代行は法律の裏付けがない。殺された被害者が必ずしも善人とは限らず、また、素人(しろうと)の捜査だから(かたき)(もく)される人物がほんとうに犯人なのか、よしんば犯人であっても本当に悪人なのか、その辺はわからない。神ならぬ身の冒険者ギルド事務局がすべてを知り()る立場というわけでもないだろうし。

 とどのつまり、これは只の殺人代行請負業者、殺し屋と何も変わらない。

 だが、人間と価値観を共有しない孤高の八龍(オクトソラス)が1頭、天竜アストライアーあらため童女アスタからすればその辺は割とどうでもよく。

 『面白いか』、『つまらないか』

 この2つが評価基準である。

 そして、童女の判断は。

 「駄目だわー やっぱり、全っ然、駄目だわー」

 あっさり否定であった。

 社会の闇に潜む悪党に対抗し、こちらも身を潜めてこっそり始末する、正義の味方。

 格好いい。

 凄く格好いい。

 とても格好よくはある。

 しかし、目立たない。地味だ。

 親友の緑龍テアルに自慢できない。

 ツマグロオオヨコバイの話をされておしまいな気がする。

 激しくそんな気がする。

 駄目だ。

 殺し屋は駄目だ。

 とてもつまらなそうだ。

 「そ…そうですか…それじゃ仕方ありま…ねぇなぁ……」

 物凄くがっかりしている冒険者ボルゲンである。

 「ホッ…」

 こちらは安心する受付嬢スーザンである。

 リザードマン語を読み書きできる貴重な人材を暗殺業界なんぞに取られたくはない。

 敵討ちの依頼書は童女の目の届かないところに貼ろうと決意した。

 赤毛のボルゲンは気を取り直して。

 「ま…まぁ、そういうわけで他人が苦手なことができる奴なら冒険者になれるわけだ。お嬢ちゃんは読み書き算盤(そろばん)ができるんだろ。なら、そういう仕事を請け負うのもありだぜ。割がいいしな」

 重そうなラウンドシールドを掲げてみせる。

 「(はな)やかな討伐の依頼(クエスト)だけどな、こんなごっついモンを背負って山だの谷だの、えっちらおっちら歩き回って怪物と戦うんだ。それより、暖かい部屋で書類を眺めて高給取りの方がいいだろ?」

 冒険者らしからぬ、謎の士業()しである。

 「う…う〜ん……」

 アスタは考え込んでしまう。

 天龍アストライアーに敵はいない。

 超巨大ドラゴンの前では巨人ですらひとつまみである。

 攻撃する必要すらないのだ。

 天使や悪魔、神々の軍団を相手にしてさえ一方的でほとんど戦いにならなかった。

 ここで人間にとっての脅威であろう幻獣(モンスター)、たとえば人食いサソリや梟熊(オウルベア)と“戦う”のか。

 無意味だろう。

 いや、最悪、人間と関わりの深い合成獣(キマイラ)人面獅子(マンティコア)に出会うかもしれない。

 連中はズバリ友達である。

 『アストライアーさん、何してんスか?』

 『今、ちょっと人間に化けて冒険者の真似(まね)してんの』

 『うはっwww!! OKKKKKKwwww!!!』

 茶飲み話にされるであろうことは想像に(かた)くない。

 それは嫌だ。

 「だけど、ボクとバレさえしなければ……」

 相手が自分を天龍アストライアーと看破できなければ、あくまでも一介の冒険者アスタとして振る舞える。

 「いやいや、それでも……」

 たとえ、一介の冒険者アスタとしても、だ。友達をぶん殴っていい理由にはならない。

 「そうでしょう、そうでしょう。ですから、ここは瓦礫街の中で冒険してみてはいかが?」

 赤毛の男は両手をこすり合わせんばかりの勢いで勧めてきた。

 「人間の街の中で、か…なるほどなぁ」

 童女は何となく納得し始めていた。

 わざわざ人化して街に潜入したのだ。

 荒野に出てモンスター退治など本末転倒ではないか、と。

 ボルゲンの話も一理ある。

 しかし、代筆や会計は地味だ。

 もっと派手に大活躍できる依頼(クエスト)がいい。

 いろいろ考えていると。

 「おや、新人さんですか? しかも町中での依頼(クエスト)を請け負ってくれる? ありがたい」

 今度は目深(まぶか)にかぶったフードの中から眼鏡(メガネ)を光らせる男が寄ってきた。

 「私はビョルン、博物学者のビョルン。主に幻獣(モンスター)について研究しています」

 フードを外すと眼鏡と(ほお)のこけた顔が現れた。長衣(ローブ)に覆われた身体も痩せぎすで不健康そうだが、言葉は力強く、どうやらこれがふだんの健康状態らしい。

 見た目、年齢が定かではないがけっこういい服を着ている。しかも『博物学者』を名乗るのだから大学か、役所か、はたまた金持ちの後援者(パトロン)か、それなりの者に(つか)えて給金をもらっているもしれない。または、独立した好事家(ディレッタント)という可能性もある。

 いずれにせよ、りっぱな大人が子供であるアスタ相手にも丁寧な言葉遣いというのも奇妙に思えるが。

 「貴女がリザードマン文字が書けて小柄だということは私の調査に都合がよい。この街に潜む幻獣についての調査に、ね」

 博物学者ビョルンは上機嫌だ。

 この街の冒険者ギルドは実力主義である。地縁血縁などのコネクションが育っていないとも言えるが、ここで問われるのは『何ができるか?』と『やり遂げられるのか?』の2つ、能力と信頼のみである。

 リザードマン文字が書けるということはりっぱな教育を受けた者であることを示し、それは同時に数学と哲学と論理学と修辞法を修めていることも示す。

 それがこの国の常識だ。

 そして、幸いなことにアスタは哲学以外は修得している。

 ドラゴンなど、上位の幻獣は暇なので学問する者が多い。特定の縄張りを持たず、世界中を旅する天龍アストライアーは各地で話を聞くことができ、たいがいの学問は修めてしまっているのだ。

 「ああ、算術も幾何も得意だし、ハルピュイア文字も書けるよ」

 童女は胸を張る。

 「何と!?」

 博物学者は絶句した。

 ハルピュイア文字は各国の外交文書で用いられる、第一級の国際公用文字である。自分ですら読めない文字を書けるというのか。

 この若さで、いや、幼さでそこまでの学問を修められるものだろうか。

 やはり、この童女はヒト族ではないと確信したが。

 「…」

 そのことについて触れる気はない。

 エルフのような不老の人種もいるのだし、そういう者の亜種と考えれば辻褄(つじつま)が合う。それに自分の専門は“幻獣”であって“人種”ではない。

 学者らしく、専門外の問題についてはスルーした。

 「有能だなぁ…じゃあ、できる新人さんを歓迎しよう。こちらへ」

 「紹介してくれるの? ありがとー」

 他の冒険者と顔合わせをしてくれるらしい。

 望外の展開だ。

 赤毛の男に誘われてカウンター横の大テーブルに寄る。

 すでに6人が座っており、どうやら何かのグループらしい。

 「おぉぅっ! 嬢や、キラッキラだなぁ〜 俺達は冒険者パーティー、荒鷲団(あらわしだん)。まぁ、一杯やれや」

 ショートソードとバックラーの冒険者は赤ら顔(あからがお)ですっかりでき上がっているようだ。

 大コップに()いだ酒をよこす。

 「ありがとう」

 やはり、椅子には腰掛けないが、紫の髪を操作してコップを受け取る。

 「「「おおぉー!」」」

 なぜか、歓声が上がる。

 何やら宴会芸だと思われたらしい。

 8人がけの大テーブルには雑多な人種が並んでいる。

 明らかにヒト族ではない者が目立つ。

 そして注目されている。

 頑丈な外骨格の蟻人間(ミュルミドーン)は触角を伸ばしているし、半魚人(マーフォーク)目蓋(まぶた)のない目をこちらに向けている。

 真向かいに座る少女はアスタと同じくらいの背丈(せたけ)だが、明らかに周囲から一目(いちもく)置かれており、おそらくこの冒険者パーティー荒鷲団のリーダーなのだろう。周囲の態度からして見た目と年齢が一致しないようだ。ヒト族ではないのかもしれない。

 やはり、この少女も驚いた表情を見せている。

 その隣に座る醜い侏儒(ゴブリン)長衣(ローブ)魔術杖(メイジスタッフ)という出で立ちだから魔導師なのだろう。彼女もアスタを見つめて驚いている。

 人化している自分に何か驚かれるような要素があるのだろうか。

 「ん?」

 髪でつかんだコップの中身を伺う。

 ()げ茶色の透明な液体がランプの明かりに照らされて波打っている。鼻を()くアルコール臭からしても人間が飲料水の代わりに飲む酒だろう。

 特に問題はなさそうだ。

 大コップを紫の髪でつかみ、高く持ち上げて。

 「この出会いを祝して、乾杯(かんぱい)!」

 酒の席で見られる礼儀としての言葉を放ってから。

 ええい、ままよと勢いを付けて。


 ぐいっ!


 天井を眺めつつ、(さかずき)をあおった。

 ごくごくと一気に飲み干す。

 酒はアスタの小さな口から食道を通って胃に落ちる。

 「うん。面白い味だね」

 ペロリと舌で口の周りを()める。

 液体を飲むのは何年ぶりか。

 天龍アストライアーは水を飲まない。それどころか、物も食べないし、息もしない。その超巨体を維持し、活動させるエネルギーは食事や呼吸などで(まかな)えないのだ。

 だから、食事をしないのではなく、食事ができない。

 物を食べても水を飲んでも、単純に口から体内に取り込んだだけで“胃袋”の中で消滅させるのみ。

 口に入れて飲んでいるように見せかけているだけで実際に飲んでいるわけではないのだ。

 それでも味覚はあるから舌で味わう事自体はできるし、こうして人化したので歯ごたえや喉越(のどご)しの感覚もわかる。

 これほど少量の液体が舌を刺激するとは。

 ブタよりも小さくなることの意味が実感できて楽しい。

 「「「「おぉぉーっ! すげぇぇぇっ!!!」」」」

 豪快な飲みっぷりに歓声が上がる。

 「あ、貴女(あなた)、だいじょうぶなの? それ、火酒(ジン)よっ!!」

 正面の、もう1人の童女が震える声で尋ねてくる。

 どうやら心配してくれているようだ。

 「火酒(ジン)…だいじょうぶだよ。何しろ、ボクはブタよりも小さいんでね」

 にっこり笑って余裕を見せる。

 今、飲んだ酒は“火酒(ジン)”というらしい。

 目の前の童女にしか見えない人物の様子から察するにからかわれたようだ。

 『うわぁ、まいった』くらいは返すべきか。

 いや、不自然な反応を見せてしまい、それで当惑されても困る。

 火酒という飲料は何らかの理由で自分が飲むべきものではなかったようだ。慣習的な理由か、宗教的な理由か、はたまた生理学的な理由か。

 後ほど調べておかねばなるまい。

 対面に座る、もう1人の童女は

 「そ…そぉ…そりゃ、よかったわね」

 当惑しつつも。

 「私は“キャロル”。このパーティーのリーダーをやってる童人(ホビット)で、こう見えても大人よ」

 あどけない、可愛らしい顔の童女が胸を張る。

 “ホビット”とは聞いたこともないが、どうやら子供にしか見えない小柄な人種のようだ。

 先日、上空から街を観察したときは気づかなかったが、ずいぶん子供が多いようにも思えた。おそらくドワーフやこのホビットをヒト族の子供と間違えてしまっていたのだろう。

 「ハンス! こんな子供に何やってるのよ!」

 「いや、まさか、一気に飲むとは思わないじゃん」

 リーダーに叱られて酒をよこした男がひるんでいる。

 「でも、あれだけの火酒を飲んで平気なんだからこいつは大物になるぞ」

 ハンスは肩をすくめて『だから俺は悪くない』というジェスチャーをした。

 アスタが飲まされた“火酒”とは蒸留酒のことだ。火を着けると燃えるほどアルコール濃度が高い。『1杯飲んだらフラフラで、2杯飲んで天国へ、3杯飲んだらぐでんぐでん』と宣伝される強力な酒で、大人でも小さなウイスキーグラス1杯で酔っ払う。子供に大コップ1杯は命の危険すらある量だ。

 こんな代物(しろもの)をアスタに差し出した、このハンスは相当に酔っ払っているのだろう。

ずいぶんとキャラが増えました。

赤毛の冒険者は第一話に出てきた奴ですね。

実は“ボルゲン”なんて名前だったのです♪

いや、相棒のコボルトはどうしたって言われてもまだ出てこないんですけどね。いや、いることはいます。この話でも隅の方に。

でも、賢い犬は危険に近づかないので出番もありませんwww

商人と息子はいずれ市場のシーンでも。

まぁ、男キャラはあんまり出番がないので憶えてもらえなくてもかまいません(^_^;)

何しろ冒険♀×♀小説ですから!!!

うん、まったく百合♀×♀要素ないわー……o| ̄|_

冒険者パーティーのゴブリンは上級魔族デルフィーヌの周りにいた連中の仲間です。悪魔の下でとぐろ撒いていることに馴染めず、自ら、冒険の道に進んだ気高い女性です。

ちなみにこのパーティーでは一番レベルが高い(^_^;)

だけど、ゴブリンなんで♀×♀恋愛に絡みません。ゴブリンは無性生殖ですのでww

さて、次回はついに戦闘シーン!!!

…って、毎回言ってる気もしますが、今度こそバトル(笑)です☆

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