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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<街に侵入しよう! 人間に見つからないように!>>
20/197

暁光帝、冒険者ギルドに挑む! 〜子供♀だけどママもパパもいないよっ!〜

ようやく人間の街にたどり着いた暁光帝です。

人化♀したのはいいものの、うまく人間として振る舞えるでしょうか。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 童女アスタは緊張していた。

 今から、最大最強の敵と対峙するのだ。

 『世界を横から観る』という遊びには何としても乗り越えねばならない壁がある。

 それは冒険者ギルドの受付嬢。

 彼女に冒険者と認められなければ遊びは始まる前に終わってしまう。

 最初からやり直しだ。

 まさしく最大最強の敵である。




 日が更に傾いて、街が赤く染まり始めた。

 冒険者ギルドは2階建ての木造建築だ。窓は多いがガラスの張っていない安普請(やすぶしん)である。

 扉は大人の胸辺りくらいに板を並べた、両開きのスイングドアでずいぶん開放的だ。緊急時に飛び込みやすくするためだろうか。

 公共の場のように思われていて、実際、そのような扱いだが、国や地方が運営しているわけではない。冒険者と傭兵の互助組織であり、各地にギルド長はいるものの、エレーウォン大陸の組織全体を統括する“ギルド総長”のような者は活発に働いていない。

 …という話を緑龍テアルから聞いている。

 「火を着けたらかんたんに燃えそうだなぁ」

 物騒なことをのたまいつつ、スイングドアを力強く開ける。扉がちょうど顔の辺りにあった。子供らしくアスタはかなり小柄な方だろう。

 「こんにちは」

 挨拶して辺りを見渡す。

 正面には3つの受け付け(カウンター)があるものの、今は暇なのか、係員は中央にひとり、若い女性しかいない。

 ウェーブが掛かった金髪で肩を覆い、大きな青い目が印象的だ。平民らしく化粧してはいないものの、情熱的な赤い唇が(あで)やか。また、チュニックを持ち上げる胸乳(むなぢ)の見事なことは驚くばかりである。

 胸につけている名札には“スーザン”とあり、やはり姓はなく名のみだから平民、それも戸籍を持たない自由民だろう。

 それにしても、金髪に青い目、そしてボールのような巨乳である。

 これらの要素は冒険者ギルドの定番だと教わったが、セクシーな白色人種(コーカソイド)でないと“受付嬢”になれないのだろうか。

 左右には丸テーブルが並び、酒と食事を提供できるようになっている。まだ、夕食には早いのか、数人が座っているだけだった。

 夕日がアスタを照らすと金属光沢のロングヘアーが輝いて世界を紫に(いろど)る。

 冒険者ギルドの扉も、壁も、窓も、テーブルも、椅子も、床も、そして、人間も。

 何もかもが紫色だ。

 あり得ない現象に、視線が一斉にこちらへと向いて。

 「お、おぉぅっ! もう飲みすぎたか…俺にはあの娘っ子の髪がピカピカの銅板みたいに光ってるように見えるんだが?」

 「ナント金属ノ髪!? ハジメテ見マスヨ!!」

 「おいおい、虹色の瞳(アースアイ)だぜ、凄ぇなぁ…」

 「ジャギ! ギギギギィッ!!」

 「上等のワンピースなのに裸足…しかも手ぶらって……」

 「グギャッ! ヒトダ! ヒトノコドモダ! カミガキラキラダ!」

 「はて? ヒト族…なのでしょうか…あの紫の髪と虹色の瞳(アースアイ)は…いやはや何とも、見たことのない人種ですね。興味深い」

 「剣呑(けんのん)、剣呑」

 世にも珍しい童女を見て、客らは口々に騒いでいる。

 勢いよく開かれたスイングドアはまだ開いたままで、夕焼けが差し込み、童女アスタを照らしている。

 逆光を浴びて輝く金属光沢のロングヘアー、雪のように白い肌、強烈な意志を秘めた虹色の瞳(アースアイ)、得も言われぬ美貌である。

 注目を浴びている。

 何人かが声を掛けてくるだろう。

 だが、童女は急いでいた。

 今日中に冒険者登録を済ませたい。そして、めくるめく冒険とロマンの世界へ旅立ちたいのだ。

 邪魔してくれるな。

 「こんにちは。ボクはブタよりも小さいアスタ。冒険者になるので登録する」

 長年、大勢が踏んだことで黒ずんだ床板の上を裸足でペタペタ歩きながら童女は宣言した。

 「ア、ハイ。では、必要なことを紙に書いてもらうので…」

 童女の勢いに中央カウンターの受付嬢スーザンが気圧(けお)されてしまう。

 あわてて紙を取り出して代筆の準備をするも。

 「だいじょうぶ。ボクは字が書けるから」

 そう言われて制止させられてしまう。

 アスタは挨拶する。

 両手を広げて、くるり回転すると腕組みして、ふんぞり返り、紫のロングヘアーを操ってワンピースのスカートの(すそ)をつかんで持ち上げる。そして、右足を折って左足を下げる。

 宮廷風お辞儀(じぎ)、アストライアー式カーテシーを決めた。

 礼儀正しくも尊大な、謎の儀式だ。

 「ア、ハイ。それではこちらの用紙に記入していただきます」

 気圧されたまま、受付嬢は紙と()ペンを差し出した。

 「名前と住所と出身地を書いて下さい」

 この国の文明レベルの問題だが、少し茶色っぽい白紙である。名前欄も住所欄もない。紙も印刷も安いものでなく、書式なども統一されていないからだ。

 「承知した」

 アスタはカウンターのインク壺に鵞ペンを着けてサラサラと書いてゆく。

 「あら、きれいなリザードマン文字ですね。うぅ…達筆だわ…えーっと、お名前は『ブタよりも小さいアスタ』さんですね。住所はまだ決まっていなくて、遠い外つ国(とつくに)から来た…と。はい、わかりました」

 受付嬢はにっこり笑って書類を受け取った。

 今度は気圧されているわけではない。

 この国の識字率は低く、平民のほとんどは文字が読めない。

 公文書(こうぶんしょ)は大陸中央の竜帝国で生まれた“リザードマン文字”で記述される。また、商取引の契約書などにはこのリザードマン文字が簡略化された、少し権威の低い“人類共通文字”が使われる。

 平民は商人がせいぜい人類共通文字を書けるくらいで、一般人はそれすら読めない。もちろん書けない。

 だから、人類共通文字よりも上級のリザードマン文字をきれいに書ける童女は教養のある、とびっきりの優等生であることが証明された。

 本来、受付嬢は町の城門で門番からもらう(かり)旅券(パスポート)を確認しなくてはならないが、それすら免除される。

 リザードマン文字が読めて書けるのだからアスタは優遇されて当然だからだ。

 ちなみに、この街では炎魔法のファイアーボールを撃てる奴よりもリザードマン文字が書ける奴の方が少ない。

 受付嬢は考える。

 この()は立派な教育を受けたに違いない、と。

 それが証明されたのだから、この()は街にとっても、冒険者ギルドにとっても、有為な人物ということになる。

 ならば、珍妙な二つ名(ふたつな)が付いても、住所不定で出身地が不明でも、何ら問題ではない、と。

 だから、続けて。

 「人種は“ヒト”、性別は“女”、年齢は“子供”ですね」

 確認する。

 冒険者の名前や住所は自己申告だ。平民は戸籍すらまともに存在しない。“国民”なんて言葉もあるにはあるが、せいぜい『王様が好き』で『その国でよく使われている言葉を話す』ような『人間』という意味でしかない。

 だから、その“国民”から王族、貴族、神職の3つを取り除いたものが“平民”であり、“平民”はまともな戸籍のある“市民”と戸籍のない“非市民”に分けられる。

 ちなみに“奴隷”は個人所有も公有も含めて登録されているので衣食住と自由権以外の人権が保証されている。ほとんどがコボルト奴隷だが、待遇は非市民よりもいい。

 そして、“非市民”、これは単に“自由民”とも言うが、数はまともに数えられないし、文字も読めない。戸籍もない。名前は名付け親に着けられて名乗ってるだけだし、歳を数えられないから年齢も定かではない。

 だから、冒険者登録する時も名前と住所以外は受け付けの係員が見て判定する。

 アスタの場合は人種が“ヒト”、性別が“女”、年齢が“子供”と判断されただけのことである。

 「うん。それでいい」

 童女は満面の()みで答える。

 ここまではよい。

 緑龍テアルの予想のままに手続きが進行している。

 このまま順調なら、残る問題も余裕でクリアできるだろう。

 そうすれば晴れてアスタも冒険者である。

 「では、手続きを進めます」

 わがまま勝手で粗暴な(やから)が多い冒険者だから、よい子のアスタは受付嬢にも好印象だ。

 スーザンもにっこり笑みを返して。

 「ああ…これはおまけですけれど、両親もしくは大人の親戚はいますか?」

 尋ねた。

 「!」

 ついに来た。

 …と思って、アスタは身構えた。

 やはり物事は順調に行かないのが常のようだ。

 意味不明の、難しい質問がやって来たのである。

 いや、“リョーシン”、“シンセキ” なる言葉の意味はわかる。遺伝上の関わりがある個体のことだ。

 恋をしない、子供を産まない、歳を取ることもない、虚無から生まれる幻獣には馴染(なじ)みの薄い概念だ。

 これらの言葉、実感はわかないものの、一応、意味はわかる。

 わけがわからないのは、なぜここでこの質問が飛んでくるか、である。

 か弱い肉体と少ない魔力を嘆きながら地上を()いずり回る定命(じょうみょう)の者。

 人間は歳を取り、いずれは寿命を迎えて死ぬ。自分が死ぬ前に、恋をして、子供を生んで、子供を育てて、自分の代わりにする。何が楽しいのか、さっぱりわからないが、そういう“世代交代”というものをやる。

 その過程で人間は成長するから、“オヤコ”、“シマイ”、“キョーダイ”、“シンセキ”といった関係を大切にする文化があるのだ。

 …と、聞いている。

 いや、死ななければいいではないか。

 もちろん、一部の生物に“寿命”という、生命のリミッターがかけられており、生まれてから一定の時間が経過すると老いて自動的に死ぬシステム“老化”が備わっていることは知っている。

 古い個体を強制的に排除して新しい固体に活躍の場を与える意味はあるのだろう。だが、苦労して身につけた知識や技能を持つ優秀な個体を機械的に排除して、海のものとも山のものともわからない、只、若い、新しいと言うだけの個体に役割を明け渡すのは如何(いかが)なものか。

 文明国というものを考えた時、新規の個体を利用してトライ&エラーを繰り返させるというシステムは非効率的に思える。

 ならば、“寿命”などという硬直化したシステムは排除してしまえばいい。

 魔法があるのだ。

 理不尽を排し、理想を実現する技術があるのだから、さっさと研究して“個体の不老不死”を成し遂げればいい。

 寿命、『人間は歳を取り、いずれ、必ず死ぬ』、そんな理不尽なシステムを十分に進歩した文明が放置するのは国家の怠慢(たいまん)である。

 だが、人間は“不老不死”という、先進的な概念を『自然に反する』とか、意味不明の理由を挙げて否定しているらしいのだ。

 馬鹿馬鹿しい。

 自分達こそ“文明”という新しいシステムを構築して“自然”という古いシステムから逃げ出したのではないか。

 どの口が『自然に反する』などとほざく。

 だいたい、一部の生物が“寿命”というシステムを保持していることを挙げて礼賛(らいさん)し、自分達の価値観に組み込むなど笑止(しょうし)千万(せんばん)

 “寿命”というものがあるのは『それが生物として道徳的に正しい』からではない。

 断じて、ない。

 ある生物に寿命があるのは、その生物が自然界で生き延びるための生存戦略としてそれを採用したということに過ぎない。

 すべての生物に寿命があるわけでもないし。

 “自然”というシステムに対して道徳を求めるな。

 生き物は人間に倫理を教えるために生きているのではない。

 “文明”を得て自分達が捨て去った“自然”を、今さら振り返ってありがたがり、『人間は歳を取って死ぬのが自然なのだ』などとほざくは只の“いいとこ取り”だと思う。

 そんなに“自然”がありがたいのなら無性生殖まで戻れ。自然界のほとんどの生物は恋愛などしない。単純に自分の複製(コピー)を作ってひたすらに増えるだけをこなすのだ。

 人間は“文明”というシステムを築いた時点で“自然”に後ろ足で砂をかけて出ていったのだから。

 振り向くな。

 そのまま突っ走れ。

 『文明のこういうところが嫌い』、『自然のこういうところが好き』ならまだいい。好きか、嫌いか、只の感情なのだから。

 だが、自然界に在るもの無いものを挙げて自分達に当てはめ、『これが正しい』『それは間違っている』などの道徳や価値観に結びつけるべきではない。

 少なくとも『文明人だからこうすべき』『自然でないからこうすべき』などの二重規範(ダブルスタンダード)を採るな。

 どうせ新しい個体を活躍させて国家を進歩させたい為政者(いせいしゃ)の思惑から生まれた価値観だろう。

 だから、“リョーシン”、“シンセキ”などという言葉は、その手の歪んだ価値観から生まれた、意味不明の郷愁を込めた、いずれ捨て去られるであろう、古臭い概念に違いないのだ。

 文明国であるのなら、早急(さっきゅう)にこれらの言葉を排して個体の不老不死を実現すべきである。

 ハァハァ……

 もっとも、今、ドラゴン的な価値観で人間の国家運営を論じていても仕方があるまい。

 この場は“リョーシン”、“シンセキ”に関わる、厄介な問いをかわさねばならぬ。

 しかし、だいじょうぶ。

 これも緑龍テアルから対応策を聞いている。

 少し間を置いて遠くを見つめ。

 「エエ。ズット、トオクニ……」

 アスタは声を沈ませてうつむいた。

 「まぁ!」

 受付嬢は同情する。

 こんな可愛らしく小さな童女が親を失って1人で生きていかなくてはならない境遇(きょうぐう)は哀れ以外の何物でもない。

 ホロリと涙を流して。

 「わかりました。安心してください。この街の冒険者ギルドは児童の自立にも協力しています」

 書類に“親なし”と追記する。

 「…」

 勝った。

 アスタにとっては幸いなことに、瓦礫街リュッダには児童の労働を禁止する法律がない。

 この街では子供もある程度大きくなったら親の仕事を手伝うのが当たり前だ。その場合はもちろん無給である。

 その点、冒険者ギルドは子供にでもできる安全でかんたんな仕事を斡旋(あっせん)するし、対価も支払う。食べ物や通貨で。

 良心的である。

 アスタはニヤリ笑った。

 自分に親がいないことをごまかせた。

 なるほど、『(やまい)は口より()り、(わざわい)は口より()ず』だ。わずか数語の返答で受付嬢は勝手に納得してくれた。

 言葉でごまかせると教えてくれた親友の緑龍テアルが賢いのか、受付嬢スーザンが純真なのか、悩ましいところではある。

 どうやら、童女が親と死別したか、親に捨てられたか、そう考えてくれたらしい。

 いずれにせよ、けっこうなことだ。

 『こいつには初めから親などいない』、『こいつは虚無から生まれたのだ』…なんて、よけいな真実(こと)は思いつかないでくれたのだから。

 これで難関をひとつ突破できたと喜ぶ。

 後に控えるは最後の検査だけだ。

今回からようやく美女も美少女も出てきます。

まだまだ♀×♀展開にはなりませんが(^_^;)

ちなみにアスタ、我らが暁光帝が人化♀した童女アスタは10歳くらいです。身長141cmの体重36kgと設定しました。この辺りの数値がないと力学で解析できませんからね。ジャンプしたり、水上を走ったりのwww

さて、今回、初登場の冒険者ギルド受付嬢“スーザン”ですが。

名前は英語の教科書『ニューホライズン』から拝借しました。中学生の“Mike_Smith”君一家のお母さんの名前が“Susan”でしたっけ。鼻が長い、目が細いなど地味な特徴しかなかったんですが、何か憶えてるんですよね~

もっとも、こちら、ギルド受付嬢のスーザンさんは金髪巨乳ぅんなうら若き美女(独身)です。

人間共有文字は読み書きできますが、リザードマン文字は読むだけで書けません。

MP6.28しかありません。冒険者ギルドのメンバーですが、あくまでも受付嬢ですので。

生活魔法は使えるので事務仕事はそつなくこなします。

戦闘や調査など冒険に役立つ技能はありませんが、やはり最大の強みは文字が読めて書けること、会計計算ができることです。

ご覧の通り、人がよくて陽気なリア充ですね。

今後も出番は多いので憶えてあげて下さい(^∇^)

ところで、今回はまともな戦闘シーンが描けましたかね。

心理戦ですが。

暁光帝は心理戦が苦手です。

幻獣(モンスター)なので、人間ならたいていできる“あること”ができません。

なので、こんなに緊張していたわけです。

さて、それは何でしょう?

おいおいわかるかと思いますが、これも物語の仕掛け(ギミック)です。

小生がそれを描く前に読者(みなさん)に見破られたら………

……

………

……………まぁ、それもまたよし。

お楽しみに~

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