復興した街で人間の王は何を思う? だから、暁光帝は知りませんにょ。好きにやればいいと思いますぉ☆
正義の刃が悪を断つ!
バキン! ガキン! キーン!!!
バトルシーン大好きです。
できれば毎回入れたいくらいですが、物語の展開もありまして…ままならないものですね。
そういうわけでアクションも一段落。
長らくお付き合いいただいた、こちら<<歴史です。産めよ、増やせよ、地に満てよ!? ゾンビ地獄じゃぁぁ!!>>の章もついに最終話☆
これにて一巻の終わりであります☆
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
ペレネー領の中央都市アリエノールは復興した。
超巨大ドラゴンの手慰みのおかげで。
今や、“英雄の町”、改め“龍の箱庭”アリエノールである。
そして、屍導師イレーヌの尽力によって再び中央との街道が再開し、人々の往来も活発になった。今はまだ隊商の休憩所程度だが、街道沿いに新たな町や村も生まれつつある。
港にはエングレス島の妖精人族や茸人族が乗った商船が訪れるようになり、同じく復興した海底都市の半魚人族も働いている。
市壁を背にした耕地で働く農民の数も足りてきて、無理やり百姓にさせられた冒険者達も徐々に本来の仕事へ戻りつつある。
通りを歩く新領主ルイーズと家令に数人の護衛が付いている。
全員をヒト族にしたいところではあるが、現状、ままならず。ヒト族に蜥蜴人や巨人族も混じっている。
そこで『人種の垣根を越えて勇者を集めた』とか、綺麗事を広めておいた。
実際はただの人手不足だ。
アリエノールがヒト族の街であることを示したいのであればヒト族だけで近習を編成するべきだろう。だが、何とか町を立て直したばかりでとにかく人材が足りず、そんな贅沢は叶わない。
そして、町の復興はおおむね成ったとは言え、まだ混乱が完全に収まったわけではない。目立つように武装した護衛を侍らせておけば無用の争いを避けられるというものだ。
「それにしても…かれこれ、何ヶ月になりましょうか。一向にスズメを見かけませんな」
町を見渡していた家令がつぶやいた。
「スズメ? あぁ、そう言えばそうね。人間を見るくらいしか余裕がなかったわ」
ルイーズは肩をすくめる。
この町の為政者なのだ。
ペレネーの大破壊と大再生という、空前絶後の大災害に遭って混乱の極みだった町を立て直す仕事を任された。人間以外に目を向ける余裕なんてなかったのである。
だから、言われて初めて人間以外の生き物のことを思い出せた。
「スズメだけではありません。ネズミやゴキブリも見られない。これは意外と重要なことですぞ」
「ん? 害虫に害獣、それに小鳥でしょ?」
いなくても問題ないではないかとばかりにルイーズは問い返した。
「えぇ。言われてみれば俺らもとんと見てませんが……」
「そうですね。ゴキブリもネズミも出ない快適な宿舎で暮らさせてもらってますわ」
「これもルイーズ様のご威光かと思っていましたよ」
護衛達も口々に肯定した。
おべんちゃらではなく本気でそう思っている。
暁光帝に殺されなかったということ、それすなわち、新領主が彼女から許され認められたという意味になるのだ。
ずいぶんと拡大された解釈だが、少なくとも町の住民達はそう考えている。
「アレは本当に恐ろしかったな……」
「心臓が縮み上がったぜ」
「無駄とわかっていてもひたすら神々に祈ったわ」
「船長のあわてること、あわてること。いや、どいつもこいつも震え上がっていたけどさ」
「とにかくどれだけ陸から離れられるかが勝負だったわよねぇ……」
当時のことを思い出しながら護衛達は口々に騒いだ。
海上へ避難した住民達も沖から故郷を眺めていたのだ。
そして、天空からお降りあそばされた御方がどなたなのか、つぶさに観察できた。
とんでもなく恐ろしかった。
それはもう必死で逃げるしかない。
アレほど明確な破滅を目の当たりにして逃げる以外の選択肢などあるものか。
とにかく必死で船を走らせたものだ。
「ま、まぁ…あの当時のことは思い出したくないものですな」
家令も脳裏をよぎる恐怖の映像を振り払うかのように頭を振った。
自然を凌駕する超自然、自分の常識や悟性を根本から破壊する破壊力がある。
遥か彼方から眺めても暁光帝の恐ろしさは途方もないのだ。
よくぞ正気を保てたものだと自分でも感心している。
「それはともかく…ペレネーの大再生で何もかも全てを元通りになさった暁の女帝様がたかが小鳥とは言え、スズメをお忘れあそばされたこと…これに何か重大な意味があるのではないかと」
ただの考え過ぎかとも訝しむ家令はそれでも言葉を連ねずにはいられなかった。
「スズメ、ゴキブリ、ネズミ…そして、ヒト。そっか、汎存種ね」
共通点を考えてルイーズは以前、家庭教師の博物学者が唱えた生物の話を思い出した。
“汎存種”とは世界中のあちこちにいる、珍しくない生き物のことだ。
そう。
珍しくない。
珍しくないことこそが特徴と言える。
スズメはゴール王国だけでなく碧中海沿岸諸国のどこでも見かけるし、ゴキブリやネズミも同様だ。そして、ヒトは侏儒や豚人と並んで生息範囲が広い。
「そっか…そういうことだったのね」
遙かな天空へ飛び去った超巨大ドラゴンに想いを馳せる。
彼女は珍しくない生き物に興味を示さない。
それでヒトも元に戻してはもらえなかったのだろう。
実際、アリエノール以外の町とその住民は地上から消し去られてそのままだ。
つまりはそういうことなのである。
今はいないスズメだが、いずれ他の地方から飛んでくるだろう。ゴキブリやネズミのいない快適な生活もそう長くは続くまい。
ヒトも同様。
いずれ、他の地方からやってくる。
だから彼女は気にかけない。
「はぁ…つくづく暁光帝ね」
深くため息を吐いた。
「は? それは一体、どういう意味で……」
家令が目を白黒させている。
「いいえ。大したことじゃないわ」
ルイーズは肩をすくめた。
本当。
本当に大したことではないのだ。
けれども大したことではないおかげでヒトは自由に振る舞える。
大したことだったら暁の女帝様の興味を惹いてしまい、ヒトと町は龍の玩具に成り果てていたことだろう。
だから、結構なことではないか。
「フフ……」
自然と笑みがこぼれた。
ヒトがありふれていて珍しくもない、つまらない生き物で本当に良かった。
つくづくそう思う。
市場には交易品があふれ、大変なにぎわいだ。
軒ならぬ、雨よけの布地を連ねる店舗が並ぶ。どれも四方に建てた支柱に布をかけただけの粗末な造りだが、商品は豊かだし、大勢の客らが行き交っている。
食器に古着、新しい布と食べ物、森の珍奇な収穫物、それらを求めて住民と商人がごった返しているのだ。
なかなかの盛況である。
初夏の太陽が市場を明るく照らす中、新領主ルイーズと腹心の家令は町の視察に勤しんでいた。
「あら、これは“紙”というものかしら?」
ルイーズはひときわ大きな天幕の店に置かれた商品を眺めている。
「ハイ。オッシャル通リ、コチラハ“紙”トイウ筆記具デス。値段ハ1枚ガ……」
あまり顔色の良くない店員で発音も不自然なのだが、きちんと言葉で商品を説明する。
「ありがとう。十枚ほど購入させてもらうわ。金貨は使えるかしら?」
「大丈夫デス。コノ市場ナラモウドコデモ貨幣ガ使エルデショウ。オ包ミシマスカ?」
若く美しい領主の注文に顔色の悪い店員は同じく言葉で説明しながらきちんと対応していく。
「ありがとう。とてもいい応対だわ。握手しても?」
「モチロン。アリガトウゴザイマス」
ルイーズは店員の手を握ってから商品をお付きの者に渡した。
「お姫様……」
「ゾンビよ。握った手が冷たくて脈もなかった。でも、墓場のイレーヌ製じゃない。表情が硬くて顔つきがまだ死人のそれだわ」
訝しむ家令に観察した結果を伝える。
大々的に街道を整備した屍導師イレーヌの活躍は広く知られるようになり、ゾアンゾンビの災厄も逆に宣伝になっていた。
各地の神殿や教会から神託が広まり、すでに事件の詳細が伝えられていたのだ。
そのせいで事件の責任は前領主ミシェルとその長男アルマンにあることが周知されたものの、世界の危機を招いたゾアンゾンビそのものとそれらを製造した屍導師イレーヌは責められなかった。
むしろ、イレーヌの“製品”が高性能であることが広く認められるようになり、王都はおろか国外からも名の知れた死霊術師が町を訪れるようになっていたのである。
また、強大な幻獣である屍導師が町の守護者になっていると思われたこともアリエノールの印象を良くすることの一助になっていた。
実際はイレーヌとルイーズ、それぞれの思惑が一致した結果でしかないのだが、一般の人々にはわからない。
それもまた両者にとって都合の良い状況であった。
「人間達はイレーヌを責めない。なぜなら暁光帝が裁いた結果だから。それに異を唱えることは暁の女帝様に弓引くことに他ならない……」
ルイーズは肩をすくめた。
「…と、思われているわ。まぁ、おかげで父の責任もこれ以上は問われないし、私も連座に巻き込まれない。本当に暁の女帝様々だわ」
苦笑いを浮かべつつも超巨大ドラゴンに感謝した。
ペレネーの大破壊と大再生。
いずれも暁光帝の偉業だ。
神々ですら口をつぐむ暁の女帝様に人間ごときがもの言えようか。
そもそも彼女が何を考えていたのか、わかるわけがない。
それでもこれだけの事件だから人々の関心は強い。
当然、誰も彼もが噂する。
神職も、貴族も、平民も、奴隷も。
それらはやがてひとつの物語に収束して行った。
「はい。『暁光帝は滅びゆくヒト族に憐れみを垂れ、大地を初期化して災厄を除いた』ですよね?」
家令は何とも言えない顔で応えた。暁の女帝様のご意志を人間ごときが推し量る傲慢におののくといった心情である。
「“滅びゆくヒト族”であって“滅びゆく人間”でない辺り、やっぱり誰を世界の主役したいのかって話よねぇ…ホント、我が国はどこもかしこもヒト至上主義がはびこっているわ。でも……」
自国の風潮に自嘲の笑みを浮かべつつもルイーズは満足げだった。
「その方が支配しやすい」
あちらこちらの店舗で働くゾンビ達を眺めながら笑う。
様々な客に上手く対応しているように見える彼らだが、考えているようで実は何も考えていない。
周囲の環境に対応してあらかじめ与えられた命令セットを取捨選択しながら実行しているだけだ。
どれだけ巧妙に立ち回っているように見えてもゾンビは死人である。
扱いやすい道具だ。
けれども、客も店主もゾンビではない。
彼らは人間。
支配者が支配してやらなければいけない。
何とも面倒なことであるが、それこそ仕事だ。
「為政者の仕事は住民を幸せにすること…ではなく、夢を見せること、見せ続けること」
若き領主はやはり自嘲気味に語る。
「十分な食べ物と強力な軍隊で豊かで安全な生活を保証してやってもね、民衆は必ずもっともっとと願うものなの。為政者がそれに応えられれば良し、応えられなくなれば他の奴らが甘い言葉で民衆を惑わす」
真理を語った。
父、ミシェルがやったこともその変形だ。
当時、町は平和だった。そのせいで多くの傭兵が解雇されて不満を抱いてはいたが、それは少数。多くの住民は戦が遠のいたことでおおむね平和と繁栄を享受していたのだ。
ところが、ミシェルは住民に厭われているからとネクロマンサーのイレーヌを糾弾して処刑し、それを為した自分は英雄だと主張。そんな“手柄”を掲げて自分に領主を任せてもらえないかと懇願した。
社会に不平不満が少なかったから自分で“問題”をでっち上げて自分で“解決”したのだ。
自分で家に火を着けて火事だと騒ぎ、それを消火して自分の手柄とするかのような欺瞞と独善である。
ところが、その卑劣な行為が認められ、ミシェルが領主の座に着いてしまったのだ。
なんともはや。
だが、突き詰めて言えば父だけが悪いわけでもない。
その主張が論拠に乏しい甘言であることを誰も見破れなかったことこそがアリエノールの悲劇だったのだ。
そういう意味では前々領主であった祖父も親子の情に勝てなかったのだろうか。
「そして、民衆の欲を満たせなくなった為政者は引きずり降ろされる。こうして国が滅び、新たな国が打ち立てられるわ。進歩と衰退、歴史はその繰り返しよ」
ルイーズは父が蟄居させられている別荘の方に目をやった。
失意を抱えて落ち込んでいるが、足繁く通う怪しげな輩が跡を絶たない。父に『運が悪かっただけ』『いずれ再起を』と甘言を囁いているのだろう。
「監視の目は十分に」
家令が短く応えた。
また前・領主の愚行を見せられるのかもしれない。
何しろ、ミシェルには“実績”があるのだ。
その可能性は大いにある。
「アリエノールは暁の女帝様が下した裁きで生まれた町…という夢を見せ続けなさい。住民達は誇らしく思って私を支持するわ」
ルイーズは冷徹な為政者の顔で語った。
暁光帝が為した偉業、その結果がアリエノールの町だ。これは事実であり、取り繕う必要も偽る必要もない。
それを論拠に彼女の心情を推測し、自信満々の口調で語れば民衆は信じて、そんな栄光の夢を見せてくれる為政者について来る。
アリエノールは“龍の箱庭”、アリエノール住民は暁の女帝様にお選びいただいた優秀な民族だと、持ち上げてやるのだ。
何しろ神殺しの怪物が関わってくれたのだから影響力は抜群である。
確固たる論拠には乏しいものの、優越感をくすぐられた民衆はいい気分になり、全力で領主の言葉を信じる。
こうなっては神も国も民も異論をさしはさめない。
ありがたいことだ。
「彼女が何を考えていたのかなんて誰にもわからないし、彼女にそれを訊く勇者も現れない…ということですな。だから民衆が夢見るように解釈してヒトであることを誇らせておく…と。仰せのままに」
家令は頭を垂れた。
“ヒト至上主義”、“神の言葉”、“弱肉強食”、“長幼の序”、“五障三従の教え”、人気の思想はどれも巧く使うことで支配をたやすくする。
人々は夢を見て、夢を食らって、夢を実現すべく働くのだ。
それで幸せだと感じる。
結構なことではないか。
家令も主と同じ考えであった。
為政者の仕事は民衆がそう感じるようにこれらの言葉を紡ぐことなのだ。
「どんなに満ち足りた暮らしをしていても足りない足りないと嘆く不幸者もいれば、何もないのに暮らしを楽しむ幸福者もいる。人間とは何ともはや……」
“幸せ”というものは幻想だと思う。
欲しがれば足りず、諦めれば目の前にある、そんな夢なのだ。
「イレーヌ嬢もこちらの思惑通り働いてくれておりますが、1つだけ厄介なことがありまして……」
「あら、何もかも順調だと思っていたけれど?」
家令の声に不穏な響きを覚えてルイーズが顔をしかめる。
こういう話しぶりのときは用心しなければならない。
思いがけない先行きを示されることがある。
「プガギューの使者が参りまして…その…『若君を知らないか?』、と」
口ごもりながら家令は珍しい国名を挙げた。
“偉大なるプガギューの国”、名付けの感覚はすこぶる悪いが、それが豚人の感性だ。
まともに統一もされていない、文化果つる野蛮な国である。勇猛さを競って百を越える大小の部族が常にいさかいを繰り返し、周辺を脅して捧げさせた貢物で暮らす略奪経済を営んでいる。
札付きの、どうしようもない、軍事大国じみた、野盗の集団。それがルイーズの認識だ。
だが、家令の言葉には聞き捨てならない単語が含まれていた。
「“若君”? もしかして…“オークの若君”が行方不明なの?」
一瞬で顔色が失った。
それはまずい。
とてつもなくまずい。
彼らはかつて偉大な国家を営んでいた。それこそくだんのプガギューが大酋長を務めていた頃の話だ。
もっとも、現在は各部族、各個人が好き勝手バラバラに暴れるばかりでまともに統一も取れていない。
しかし、それが“若君”のこととなると話が変わる。
オーク全体が一丸となり、全員が命がけで戦うのだ。
そうなれば周辺諸国の1つや2つ、かんたんに滅ぼされてしまうだろう。
「それが…『若君は我が領にいる』という噂が出回っているのです」
ダメ押しで家令が現状を解説してくれた。
「おぉ…神よ……」
怒り狂ったオークの群れが地平線を埋め尽くす光景を思い浮かべてルイーズは真っ青になった。
「また暁の女帝様にお願いしたくなってきたわ……」
天を仰いで遙かな空の彼方に思いを馳せる。
龍の箱庭アリエノールはまだまだ落ち着くことができないらしい。
波乱万丈、群雄割拠、これからも冒険とロマンがてんこ盛りだ。
きっと落ちぶれる者も成り上がる者も大勢いるだろう。
果たして誰が成功し、誰が失敗するのやら。
それは暁光帝のみぞ知ることである。
いや、彼女は関心ないだろうけれど…と、ついつい重いため息を吐いてしまう新領主ルイーズであった。
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ダヴァノハウ暗黒大陸の東に浮かぶ巨大な島メスリエールは人跡未踏の魔境として恐れられている。
理由はかんたん。
生きて帰った人間がいないからだ。
時々、見られる緑色の巨大なドラゴンが孤高の八龍の1頭、緑龍テアルであることは知られている。それで島を訪れた勇気ある探検家は皆、食われてしまったに違いないと、しばしばそのように噂されていた。
周辺諸国ではメスリエール送りが実質的な死刑として扱われ、大逆などの重罪に対する処罰にのみ利用されていた。
緑の病魔大帝。
不潔なネズミの群れを率いて繁栄する町に疫病を運び、住民達が苦しんで死ぬ様子を眺めて楽しむ。
邪悪なことでは暁光帝に勝るとも劣らぬ、非常に恐ろしいドラゴンだ。
……と、一部の賢者がそのようにのたまう。
また、王侯貴族の間ではしばしば恐怖の対象として囁かれる。
そんな、知る人ぞ知る脅威であった。
それほどまでに畏れられる緑龍テアルであったが、実際のところ、島を訪れた人間は殺さない。
大切な実験動物だからだ。
やってきた人間はひとり残らず捕まえて実験場に入植させている。
犯罪者や変人も厭わない。
むしろ好む。
テアルもまた多様性を面白がり、そのような異分子が安定した社会にもたらす変化を観察したがっている。
だから、場合によっては魅入った人間に新たな才能や能力を与えたり、欠損した器官を補ってやったりする。そして、パワーアップさせた彼らを送り込んで入植地を混乱させるのである。
多様性の増加による変化が人間社会に与える影響に興味があるのだ。
『それは異常者が社会を引っ掻き回す様子を楽しんでいるのではないか?』とのそしりも甘んじて受けよう。
いや、幻獣の誰もそんなふうにそしってこないが。
とりわけ仲間の孤高の八龍はあまり人間に関心がないのである。
そんな緑龍が支配するメスリエールに足繁く通うドラゴンが1頭。
全世界から危険度最大と畏れられる暁光帝こと、天龍アストライアーである。
今も有毒藻類が繁茂する緑瘴湖に浸かって龍の大図書館からのメッセージを吟味しながら興奮していた。
「おや、ついにラナス大森林の学校が開校したんだね。四元数を教える学校か。実に面白そ…何!? 博物学の特別講義で……」
超巨大な質量を湖水に浸けつつワナワナと震えている。
一切の道具を必要としないので直に脳内で魔法掲示板の内容を閲覧しているので単純にアブナイ龍に見えてしまっているが気にする様子もない。
掲示板に書き込まれたメッセージがあまりにも衝撃的な内容だったからだ。
「芽殖孤虫の単離培養!? 不可能だよ、そんなこと! いや、これは…寄生させた宿主を生かす…言わば“共生培養”!? こんなことを思いつくなんて……」
激しく興奮して語りかける。
この扁形動物は極めて珍しい寄生虫症を引き起こすことで知られている。
本来の宿主もわからないのだが、人間が発症すると非常に高い致死率を示す。当然、宿主である患者が死ぬと寄生虫も一緒に死んでしまうから、まともに観察されたことがほとんどない謎の生物である。
それ故、博物学者にとっては垂涎の的なのだ。
「大変だよ! 彼らは生きた芽殖孤虫を飼育しているんだ! これはぜひとも見に行かねば!!」
思わず前足を叩いてしまう。
そのせいで衝撃波が発生し、湖水が吹き飛んで溢れ出してしまった。
【落ち着いてください、天龍。緑龍はもういませんよ】
鈴が鳴るような美しい“声”が響いた。
魔気信号による情報伝達だ。
目の前で空中に浮いている天翼人が語りかけてきたのだ。
立派な胸乳の持ち主でアストライアーのお気に入りである。
「えっ、テアルはどこ? これから図書館からすんごいお知らせが来るって言っといたのに……」
【言ったから逃げ出したんじゃありませんか? 寄生虫の話を聞きたくなくて】
「むぅっ! 何ということだい、そりゃ? 親友がわざわざやってきたというのに……」
【遠くからわざわざSSSレアな寄生虫の話をしにやってくる親友ってどうなんでしょう?】
「うむぅ……」
超巨大ドラゴンから見れば宙を舞う塵のような存在だが、天翼人は魔気信号による“声”で言葉を作り、天龍と会話を交わしている。
【いきなり学校へ行くなんて言わないでください。貴女が降りるだけで地上は大変なんですから】
「うみゅぅ……」
天翼人に諌められた天龍アストライアーは緑色の湖水をかぶって不平を漏らした。
世の中、本当にままならぬことばかりである。
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アリエノールの中央広場はかつて大勢が亡くなって呪怨培地と化していた場所だった。だが、肝心の呪いが消費し尽くされて今ではすっかり平和な場所になっていた。
神秘も超自然も失せた広場を満月が照らす。
初夏の風が心地よい。
けれども、夜になると町は一寸先が闇の真っ暗になる。
だから、誰もが眠る。
ヒト族は夜目が利かないのだ。
暗闇でも目が見える蜥蜴人や犬人のような人種もいるが、この町では少数派だ。
それで日が沈むと商店も酒場も閉まってしまう。
夜は寝るもの。
ヒト族が営む他の町と同じく、アリエノールは健全に運営されていた。
しかし、どこにだって例外はあるもの。
有力者が演説するための舞台のそば、半ば透き通った姿の人物が満月を仰ぎ見ていた。
突き出た腹の肉がぶるんぶるん揺れて、二重顎の脂肪もたっぷり。不摂生で肥え太った肉体に不釣り合いの軍服を着ている。
「ここはどこだ? 中央広場? 俺は何をしてどうなったのだ? いいや、そもそも俺は誰だ?」
訝しげに夜の広場を見渡すも自分以外に動く人影は見当たらない。
「名前も身分も思い出せない…でも……」
若い男の幽霊はかすかな記憶を頼りに帰ろうとした。
広場を離れて家のあった場所へ戻ろうとしたのだ。
けれども、ろくに移動できない。
舞台の前から立ち去れないのである。
「これは一体どうしたことだ? 俺は…俺は……」
男は泣きながら土地に縛り付けられた我が身を嘆く。
地縛霊は死んだ場所から離れられない。
今は誰も教えてくれないが、かつて教師から聞かされたそんな話を思い出した。
「俺は…俺は…もしかして死んだのか? どうして死んだんだ? 何が悪かったんだ?」
男は辺りを見渡したが答えてくれる者はいない。
「そんな! 兄より優れた弟なんて存在しないのに……」
生前にこだわっていたであろう文句が自然と口を衝いて出る。
それで状況が変わるというわけでもないが、その言葉が気に入って男はつぶやき続ける。
「兄より優れた弟なんて存在しない…兄より優れた弟なんて存在しない…兄より優れた弟なんて存在しない……」
満月の下、ロシュフォール家の長男はまだしばらく孤独に過ごさなければならないようだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ルイーズの目から見たアリエノールの町とこれからの展望です。
父親ミシェル、長男アルマン、次男シャルル、そして、長女というか末妹ルイーズ…母親以外の全員が登場したロシュフォール辺境伯家ですわwwww
作中では悪役と狂言回しと正義の味方を輩出してくれた名家です♪
今回、フランスはピレネー山脈のバイヨンヌ地方をモデルにした“ペレネー領”という土地を考えました。
当然、登場人物は基本的にフランス人ですので。
フランスを代表する悪役と言うと真っ先に思い浮かぶのが“ロシュフォール伯爵”かな…と(^_^;)
大デュマの名著『三銃士』に登場して主人公ダルタニヤンと三銃士の前に立ちはだかる剣の名手です。
めちゃくちゃ面白くて10回は読み返しましたか。
見事なアクション描写と胸踊る展開、そして、リシュリュー枢機卿の陰謀…これを覆さんと活躍するダルタニヤンと三銃士の活躍が最高なんですよね。
小生は子供の頃、ほとんど漫画を読みませんでした。
理由はかんたん。
漫画は15分くらいで読み終わっちゃうからですwwwww
小中学生の財力じゃ漫画は贅沢な代物だったんですよ(^_^;)
その点、小説は長く楽しめますからね。
とりわけ『三銃士』なんて図書館で無料で借りられますよwwww
最高じゃありませんか。
まぁ、もっと読みたくなって結局、本屋をはしごする羽目になったんですけどね(^_^;)
漫画を読むようになったのは高校生の時分からで、これまた目から鱗が落ちまくりwww
それまで日本の作品は明治の文豪が書いた純文学ばかりがもてはやされていて、どれも作品の雰囲気がジメジメしていて人情やら義理やらのしがらみで主人公もがんじがらめでまともに活躍できない作品ばかりで心の底から嫌悪していましたが……
漫画はそういうことがまったくなくてスカッとしました(^o^)
それであっさりメインを漫画に乗り換えたわけです☆
アニメもその頃から真面目に見るようになったものです(^_^;)
初めて“芽殖孤虫”について知ったときは非常に印象的でした。
別に科学雑誌やイロモノ情報誌から得た知識じゃありません。
ふつうに事件が新聞に載っていたのです。
あれはけっこう前のことで登校する前に読んだ新聞に『芽殖孤虫によって死亡!』というような記事がありました。
極めて珍しく、過去にほとんど例のない、とんでもなく不可解な扁形動物によって寄生された人物が死んでしまったという記事です。
これの何が凄いのかって天然記念物レベルの激レアSSS生物による死亡事故ということになるのです(>_<)
ありえないと思いましたが、俄然、興味を惹かれて、それ以来、何かにつけて調べていました。
ちなみに!
Linux環境の漢字変換機能でも“がしょくこちゅう”と入力すると一発で“芽殖孤虫”と変換されますwww
つまり、それだけメジャーな生物であり、世の中の人々がそれだけ関心を持っているということの証左であります♪
正直なところ、小生には自分の趣味嗜好が偏っていてあまり一般的でない、マニアックなのではないかという疑念を抱かなくもありませんでした。
しかし、お気に入りの『お兄ちゃんはお○まい!』も『魔法少女にあこ○れて』も大人気ですし、プレイ中の『グランブルーファ○タジーリリンク』も大ヒットしていますからね。
これで“芽殖孤虫”の漢字が一発変換できるとくればもう疑う余地はありません。
小生の趣味嗜好はごくごく一般的であると言えましょう☆
そして、芽殖孤虫は生き物好きなら誰もが興味津々のメジャー生物なのです♪
…と、言うわけで暁光帝もトレントの研究にめちゃくちゃ惹かれているのです。
実にめでたい\(^o^)/
あ、最近、たゆまざる研究の結果、この芽殖孤虫について正体が明らかにされ、完全な新種であることが判明したようです。
まぁ、致死率100%に近い寄生虫症を引き起こすので極めて有害ではあるんですけどね。
でも、世界的に見ても未だ20例に満たない症例ですから、本当に幻の生物で。
感染経路も未だに全くわかっていません。
本来の宿主が何でどうやって人間に感染するのか、その解明が待たれます。
で。
こちらの執筆がやたら遅れた理由はゲームです。
去年の師走にPlayStation5ソフトの安売りやってたんで観てみたら名作『ドラ○ンズドグマ_ダークアリズン』PlayStation4版が500円切ってるんですよ\(^o^)/
そりゃもう買うしかないじゃありませんかwww
オリジナルのPlayStation3版もその後の改良版PlayStation3『ドラ○ンズドグマ_ダークアリズン』もさんざんやり込んだですが、いつの間にやらPlayStation4版が出ていたとは意外!
これにハマっていたら1月末に待望のPlayStation5『グラ○ブルーファンタジー_リリンク』が出てしまい…あ、もちろん購入しました。
ちょっとやってみるつもりがガッツリハマってしまい…o| ̄|_
いや、小生は『ファイナルファンタジー』好きだったんですよ。
そもそも最初のファミコン版からハマってましたし。
当時の『映画のようなゲームが作りたい』っていうスクウェアのゲーム製作者の言葉が印象的でした。
でも、現代のようにゲーム機の性能が上がってしまうと表現力が向上して「映画のようなゲームで当たり前」になってしまい、当時の作り手達の理想が逆に足かせのようになってしまったのか…最近のFFシリーズは2本が2本とも亡国の王子様のかわいそうな物語? 壮大な悲劇?
ごめんなさい。
小生は苦痛も苦悩ももうお腹いっぱいでつ……
本家がこの調子なので、こちらPlayStation5『グラ○ブルーファンタジー_リリンク』がやたら輝いて見えてしまい、実際、プレイしてみたらめっちゃ楽しい♪
アクション部分も探索部分も最高☆
…ってなわけで、こちら192話から197話までの6本もやたら時間を食ってしまったわけです(^_^;)
後、当初は5000文字くらいのエピローグのつもりで執筆したら2万文字ちょいに膨れ上がり、5回ほど校正した後には4万文字オーバーに(^_^;)
校正作業ってこわい……o| ̄|_
さて、そういうわけで去年末から連載してきた本章はこれにて完結でございます。
皆さん、長いこと付き合っていただきありがとうございました(ぺこり)
次回は新章突入<<路地裏の興行! 阿片をキメて脳みそアッチョンブリケの下級冒険者が挑んできたぞ!(仮題)>>です。
おそらく今までのうっぷんを晴らすがごとく怒涛のバトルシーン満載の章になる予定。
巨乳ぅんな美女モードの暁光帝が悪漢どもをバッタバッタとなぎ倒す!
そんなシーンをご覧に入れる予定であります。
またしばらくかかることでしょうが、気長に待ってやってくださいませ。
請う、ご期待!