大変! 人間達が大騒ぎしていますよ! 龍を退治しに派兵してくるかも!? あ、それは是非とも見てみたいものですね♪ 暁光帝は興味津々です。
天使や悪魔が各地の境界や神殿に神託を運んだおかげで人間達もペレネー領で何が起きたのか、現状を知ることができました。
はい、大変なことになりました。
大騒ぎです\(^o^)/
王様は、家来達は、どうするのでしょう?
お楽しみください。
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ペレネーの大再生でゴール王国もまた震え上がった。
『今こそ勇気が必要だ』とぶち上げたことで興った国家であったが、どうしようもないほどにひるんでしまった。
山谷と大森林をただの1日で真っ平らに均し、同じくただの1日で元通りに戻した超巨大ドラゴンに関わる勇気はなかったのである。
もちろん、領地を乱されたから暁光帝に刃向かおうなどと無謀を語る貴族は一人もいなかった。
ペレネー領と英雄の町アリエノールの救援に向かった軍隊が戻ってきた結果が惨憺たる有様だったからだ。
一般の兵卒達はほとんど無傷だったにも関わらず、隊長クラスの指揮官がことごとく発狂してしまい、軍として組織的な行動はほぼ不可能な状態だったのである。
そして、何よりも国の有力者達を震え上がらせたのは王太子の第一王子と老将軍の無惨な姿だった。ペレネー領を救うべく差し向けられた援軍を率いていたのだが、2人とも精神に異常を来して廃人と化していたのだ。
凛々しく若々しい力強さを見せていた若者は広げきった口からよだれを垂らして豚のようにいななくばかり。
厳しく頑固一徹だった老人はピクリとも動かなくなる強硬症を起こしてしまった。今では瞬いて息をするだけの人形のようだ。
勇猛果敢だった2人が完全に廃人となり、公務を任せられない状態であることは明らかだった。
国王は涙ながらに第一王子を廃嫡し、第二王子を王太子に据えた。
家来達も泣きながら老将軍をいたわり、引退の準備をさせるしかなかったのである。
調査の報告を受けた宰相は言葉を失っていた。
「むぅ! これは……」
2人は暁の女帝様に吼えられたわけでも御身に拝謁させていただいたわけでもなく、単に初期化されたペレネー領を眺めただけで精神が崩壊してしまったのだ。
暁光帝の何と恐ろしいことか。
「こんな目に遭ってまで戦ったのか…王子様、おいたわしや……」
「エングレス島から攻めてきた妖精人どもと勇敢に戦って打ち負かした老将軍が見る影もない…まるで等身大の人形ではないか」
「2人は戦ってなどおらん。暁の女帝様がなさる偉業を見てショックを受けただけなのじゃ。ただ、それだけで精神を壊してしまわれた…女帝様、まさに想像を絶する恐ろしさじゃ……」
「そこまでして我が国はペレネーのために尽くしたのに女帝様は振り向いてもくださらない。ただの1日で森も山も谷も動物達も元に戻してしまわれたのに……」
「いやいや、暁光帝は知性のない怪物に過ぎないのだ。物言わぬ獣が暴れただけのことよ。それに理由を求めて何とする?」
「知性のない獣だと!? ただの獣が魔法で森を再生させるものか!? 暁の女帝様は慎重に考えてご決断しあそばされたのだ!」
「振り向いてくださらないと嘆いてどうする? 逆に振り向いて下さる方が遥かに恐ろしかろう。彼女に見つめられたら何もかも終わるのだ。関心を持たれないことこそが何よりじゃ」
「また降りていらしたらどうしたものやら……」
「この王都を避けてくださったことだけはありがたい限りじゃ。もしもここにお降りあそばされていたらどうなっていたことか…くわばら、くわばら……」
「世界の破壊者、天にあり。暁光帝、畏れるべし。障るべからず、障るべからず……」
重臣達も口を揃えてペレネー領に関わることを止めるのだった。
もしも、暁光帝の機嫌を損ねたら王国全域を初期化されてしまうかもしれない。何しろ、相手は暁の女帝様なのだ。その気になればただの1日で全土が更地にされてしまう。
各地の神殿や教会に降ろされた神託により恐るべき偉業の全容が国の津々浦々に伝わり、神職も貴族も平民も奴隷もどうしようもないくらい震え上がっていた。
こと、暁光帝に関しては神々も無力。
人間が何をどう祈り祀ろうと聞いてくれないこともまた明らか。
こうなれば国王も否やはなく、ただ、ただ、失われた国民のために祈るばかりだ。
何とか精神の平静を保ち得て戻ってきた宮廷魔導師はペレネーの大破壊をその目で見た生き証人として恐るべき事件のあらましを綴った。
ロシュフォール家の愚行と暁光帝の偉業について。
領主ミシェルと長男アルマンの失敗は明らかだった。
亡国のゾンビ禍を引き起こしてしまった次男シャルルの所業も理解はできる。
また、状況を報告し、援軍を求めた長女ルイーズの行動は評価されて然るべきだ。
これらを鑑みてゴール王が下した裁きは当初、驚きを以て迎えられた。
領主ミシェルはお咎めなし。
死亡したアルマンとシャルルも名誉剥奪や死後処刑などはなし。
ルイーズについても連座に問われず、次期領主として認められたのだ。
もちろん、あまりに軽すぎるこの裁定について王の判断を疑問視する声が上がったものの、それらは宰相の一言で退けられた。
曰く、『すでに暁の女帝様がお裁きあそばされたことは明白。それに人間の何を付け足すべきや?』、と。
こう言われてしまうと家来達は二の句が継げない。
他ならぬ暁光帝が裁いたのだ。
そこから何を引こうが、何を足そうが、不敬に問われる虞がある。
暁の女帝様を相手に無謀な真似など想像するだに恐ろしすぎてめまいがする。
また、復活したペレネー領と弱体化したロシュフォール家に野心を抱く者も少なくなかったが、王家の権力を以て押さえつけられた。
それにそういった野心家の親類縁者が全力で野望を阻止したのである。
ペレネー領は関わった土地、ロシュフォール家は関わった家と考えられていたからだ。
そこに手を出すということは暁光帝に関わりを持つことと等しい。
そんな恐ろしいことを誰がするものか。
こうしてゴール王国は南方の土地に手を出すことを控えるようになったのである。
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そして、南ゴブリン王国である。
北伐を唱えて意気軒昂な侏儒達だったが、甚大な被害をもたらした大震災について考えざるを得なかった。
また、ペレネー山脈に空いた大穴と言うか、新たに生まれた大平原の原因についても同様。
誰が、もとい、何がそれをなしたのかを考えれば姉妹国の北ゴブリン王国を滅ぼした破滅の邪龍が再び舞い降りたことは明らかだった。
暁光帝に対する恐怖はヒトもゴブリンも同じ。
むしろ実際に姉妹国を滅ぼされたゴブリン達の方が強い。
だから、女王は失われた民草を偲んで喪に服するよう呼びかけるだけにとどめた。
ゴブリン達は震え上がり、暁の女帝様が降りた土地がまたしても国内でなかったことをただひたすらにありがたがるのだった。
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夕日がアリエノール城塞を照らす。
領主の執務室で佇む女性は1人夕焼けの城下町を見つめていた。
そこへ扉がノックされたので女性は入室を許可した。
「ルイーズ様、兵どもが壁から生えた剣や槍を恐れていますが、如何いたしましょう?」
「恐れるがままにするよう。そして『怖がれるだけ幸せだ』と伝えなさい」
家令からの問いにルイーズ・ロシュフォールは短く答えた。
再び王都から戻ってきたら大変なことになっていたのだ。
いつの間にか、町が復活していた。
しかも、奇っ怪なことに家々の扉が壁と一体化していて開かず、井戸の釣瓶が軸にくっついていて降ろせず、剣や槍などの武具が壁から生えていたのだ。
それでこの町が暁光帝の手慰みで復元された箱庭であることを思い知らされた。
家々も武器や釣瓶も驚嘆すべき大魔法“物質創造”によって無から創り出されたに違いない。
それだけに恐ろしい。
森や生き物ですら正確に蘇らせた暁光帝がこれらの品々や家屋敷をやたら曖昧に再生させたことは彼女が人間に対してかなり無関心であることを伺わせる。
おそらくラナス大森林を再生させるついでに行ったのだろう。
どうでもいいから手を抜いて曖昧に直したのだ。
恐ろしいことだ。
とてつもなく恐ろしい。
だが、それがいいとも言える。
彼女が人間に関心を抱いていないこともまた明らかなのだから。
「なるほど。承知いたしました」
家令も頭を下げた。
ゾアンゾンビの材料にされてしまった人々はもう恐れることすらできない。生きて恐怖できることこそ僥倖だとつくづく思った。
彼は以前の家令セバスチャンとは別の、ルイーズの腹心である。
「それにしてもわたくしとしては思いの丈が叶ったと申しましょうか、お姫様が領主になられてこんなに嬉しいことはございません」
新たな家令は気色満面で女主人を称えた。
「ええ。期せずして得た地位だけど暁光帝に感謝しなきゃいけないのかしらね……」
新領主ルイーズは執務室の窓から城下町を眺めた。
夕日が赤く染めた街の通りを人々が歩む。
ヒトに獣人、妖精人に小人が視界に入る。人々の中にあってひときわ大柄な蜥蜴人が目立つが、ようやく半魚人もちらほら見られるようになってきた。
「ホッ…海底都市の復旧もだいぶ進んだようね」
一息吐いた。
暁光帝の尾による被害が海底に築かれた半魚人の都市にも及んでいたのだが、それらはドラゴンの大魔法で復旧してはもらえなかったらしい。
さすがの彼女も海中の都市までは注意を払ってくれなかったようである。
当時、ゾンビ禍は途方もない被害をもたらし、アリエノールの町は滅亡寸前だった。いや、その後、本当に滅びてしまったし。
それでも屍導師イレーヌのゾンビメイドが助けてくれたから町の住民はかなりの数が生き残れた。
最初に救出された冒険者の一団がいたおかげでラナス大森林での狩猟や採集も順調だ。
「復興は予定通りね」
大まかなところは窓から眺めるだけで確認できる。ルイーズはとりあえず満足していた。
「はい。暁の女帝様は食料庫と耕作地、それに井戸も復元してくださいましたから。食料庫の扉は壁と一体化してましたし、井戸の鶴瓶は降ろせませんでしたが」
苦笑いしながらも家令はありがたく思った。
恐るべき超巨大ドラゴンが人間のことを配慮してくれたとは思えない。理由は不明だが、彼女は何かを修復するという遊びに興じていたのではなかろうか。
その行動はどうとでも解釈できそうだ。
実際、様々な意見が飛び交っていた。
一部の学者は彼女が知性のない怪物だと蔑むし。
歴史家は龍の姿をした慈悲深い女神だと敬うし。
大衆は災いが形を成したものだと恐れるし。
家令にはどの意見が正しいのかわからなかった。
だから、ルイーズの言うところに従い、ありがたく思うことにしたのだ。
すなわち、『暁光帝の慈悲と考えた方が得』である。
何が真実であるかを問うよりも何が民衆を導くことに有利かで見定めるべきという考えだ。
「森も街も復活させた暁光帝は少なくとも伝説の大魔法“物質創造”が使えます。それはドラゴンの気まぐれや遊びとも考えられるし、また、世界を支配する偉大な女帝様の慈悲とも考えられる。ならば、後者で考える方が民衆を導きやすいというもの」
家令は主の考えを復唱した。
ルイーズは物事の真偽にこだわらない。それよりも物事の見え方の方を気にして、解釈次第で得られる利の方を尊重するタイプだ。
清濁併せ呑むタイプの為政者として典型例だと言えよう。
「私は彼女に遠く及ばないわ。だから、使える者は使うし、頼れる者には頼る。それでもまだ足りないから四苦八苦して汗を流す。私に比べたら彼女は余っている…あり余っているのよ……」
苦笑いを浮かべる。
更地にされたというか、幾何学的に完全な平面に均された土地だったのに今では市壁も建造物もすっかり復元してもらえた。
それはまさしく僥倖である。
人々は酷く恐れおののいたし、前領主ミシェル・ロシュフォールも前の家令とともに震え上がって『見るな』『触るな』『何もするな』と後ろ向きだったが、帰還したルイーズが一喝したのだ。
『これもまた女帝様のお慈悲なのだ。それをないがしろにする領主は無能の極みである』、と。
そして、王命を明らかにしてミシェルを領主の座から引きずり下ろし、新領主として人々に食料庫を開くように命じたのであった。
こうして無能なミシェルと家令は強制的に引退させられ、そして、蟄居する羽目に陥ったのである。
これに対して民衆から『もっと厳しい対応を』との声も上がったものの、『すでに暁光帝の裁きが下されているから』という宰相の言葉を引用して強引に議論を終わらせた。
非常に上手いこと立ち回って無能な父親の助命を勝ち取ったとも言える。
「食料庫を開けたら小麦もライ麦も大麦も山と積まれていたわ。先日、訪れたときは真っ平らな大地だけだったのにね…よくもまぁ……」
つくづく凄まじいと肩をすくめる。
物も、カネも、ヒトも、魔力も、兵力も、何もかも足りない人間だ。何なら寿命だってドラゴンに比べたら全く足りていない。せいぜい百年にも満たない時間を懸命にあがいて生きるだけだ。
だが、神ならぬその身を嘆いても始まらない。
ルイーズは民衆に命じて畑を耕させたり、麦でパンを焼かせたり、井戸を修理させたり、足りない兵士を補充したり。
もちろん、そのたびに転職を渋る人々の尻を蹴り上げて百姓にしたり、兵士にしたり、それもまた大変だった。
幸いなことに南ゴブリン王国の脅威は見られないままだったから、時間さえかければそれが表出する前に軍を再編することも可能だろう。
もっとも、野蛮なゴブリン達だってこの地に何が降りて何が起きたのかは理解しているから震え上がっているはずだ。
暁光帝に北ゴブリン王国を滅ぼされた南ゴブリン王国だからその辺は心配ない。
「彼女が死にものぐるいの命がけでペレネーの大破壊と大再生を成し遂げた…とは思えないわ」
「ええ、両方の偉業をそれぞれたったの1日で成し遂げたんですからね。全身全霊の全力を尽くしての苦行だったらさすがにもっと日にちが…それこそ何週間、何ヶ月もかかったことでしょう」
家令が主の言葉を肯定した。
本当に凄まじい。
いや、暁光帝の偉業はたいていが一瞬で終わってしまうのだが。
百万人を消し去ったデティヨン海の悲劇も、ヒト族最大の帝国を滅亡させたオルゼポリスの喜劇も、押し寄せる豚人の大軍を鏖殺したドゥンキルヒンの悲劇も、ことごとくがほぼ一瞬で成し遂げられているのだ。
およそ信じがたいことだが、これこそが歴史の示す真実なのである。
おそらくペレネーの大破壊も大再生もろうそく1本が燃え尽きる間もなく完遂したに違いない。
「彼女はほとんど暇つぶしか、片手間にこれだけの偉業を成し遂げたんだわ。ハハハ…人間には到底真似できない、まさしく偉業よ。おかげで暴走するゾアンゾンビの脅威から世界は救われんだわ。ハァ……」
高山さえもひとまたぎにする超巨大ドラゴンが鼻歌交じりに偉業を成し遂げる様子を思い浮かべてため息を吐いた。
「彼女は世界を支配してるんじゃない。世界が彼女に頼ってるんだわ」
ルイーズは城下を眺めながらこの世の真理を語る。
「国家を支配する“独裁者”と子供を育てる“母親”ってよく似てると思わない?」
我ながらよく思いついたものだ。自分の発想を自嘲気味に語る。
「違いは面倒を見るべき相手が“国民”か、“子供”か、それだけの違いですな」
家令は冷静に答えた。
もっと安全を、もっと幸せを、もっと尊敬を、などなど飽くことなく次々にせがむ国民は乳を欲しがって泣く子供と同じなのか。
独裁国家の国民と乳飲み子を一緒にするという発想にめまいがしたものの、自分達のゴール王についても思うところはある。
少々、独善的なのだ。
碧中海沿岸諸国の例に漏れず、この国も国民からの要望やら突き上げやらがそれなりに多い。
王はそういった声に応えるために無茶な命令を下すこともあるわけで。
それが独裁とそしられるかどうか、はてさて何とも悩ましいところだ。
「まぁ、愚痴をこぼしても何も始まらないわ。それより…今夜の予定は大丈夫?」
「ハッ、万事つつがなく」
気持ちを切り替えた主に家令は予定通りだと答えた。
「よかった。これで今後の復興も順調よ」
ルイーズは窓から景色を眺めながら町外れの無縁墓地を思い描くのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ルイーズとともにペレネー領を救援に行った援軍も戻ってきて目の当たりにした事態の詳細を語りました。
もっとも、王子様と将軍が犠牲になって王室に大打撃wwww
みんな、滂沱の涙を流して嘆きます。
はてさて人間達の解釈は?
…というわけで前回に引き続き、今度は人間達の反応です。
信賞必罰、王様は臣下の行動を評価せねばなりませんからねwww
まぁ、何もしないんですけどwwww
人知を越えた怪物が大暴れした大災害? 大再生?
いずれにせよ、神格化されちゃってますからね。
実態が知性のない化け物でも恐るべき超神でも王様がやれることなんて変わりませんってwww
為政者はそれを解釈して民衆が聞きたがっている答えを提供するだけですwww
そして、ルイーズ・ロシュフォールは無事、ペレネーの新領主になりました。
いやはや、王様としては他に手がなかったのです。
実際、反対する連中は多かったのですが、「じゃあ、おまいがペレネー領に行って領主やれ」って話になるとみんな青ざめて拒みますからね。
この辺りは宰相が巧くやってくれました。
そして、ミシェル・ロシュフォールの顛末も決まりました。
この物語の悪役ですが、末路はこんなところでしょう。
まぁ、本人が信じていた天国に行けないと理解した時点で罰は終わっているんですけどねwww
さて、そういうわけで次回は『復元された自然の中で幻獣達は何を思うのか? そりゃ、当然、暁光帝への感謝ですよ。まさか、忘れてたりしませんよね?』です。
請う、ご期待!




