その頃、神様は大変でした。えっ、暁光帝は知りませんにょ。依頼されたクエストをこなしただけですからねw
えーっと、前回で<<歴史です。産めよ、増やせよ、地に満てよ!? ゾンビ地獄じゃぁぁ!!>>の章は終わったんじゃないんですか?
いえいえ、まだ語られない物語があったのです♪
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
物語の時間はまたしても少し遡る。
そう、彼女がラナス大森林に呼ばれる少し前の頃に……
エレーウォン大陸の東方にそびえるもう1つの最高峰、リゼルザインド山から各地に神託が降りる。
「神を讃えよ」
「神を崇めよ」
「神を信じよ」
「神に祈れ」
日々、少しずつ言葉を変えて各地の巫女や預言者に神々の意向が告げられる。
どの神からのお告げであるかは宗教ごとにそれぞれ違うが。
内容はほぼ同じだ。
人々は神々からの要求にひたすらかしこまり、一心に祈りを捧げた。
畑の豊かな実りを求めて祈り。
恋の成就を夢見て祈り。
武運長久を願って祈り。
病魔を恐れて祈り。
金運がもたらす財産を欲して祈り。
仕事を怠けられる幸運に感謝して祈り。
そうした祈りは天に昇り、リゼルザインド山の山頂にある神界へ届けられる。
それは神々の糧として聖なる神力の源となった。
人間達の欲望と不安が祈りを生み出し、信仰が神々を支えたのだ。
そして、同時に。
神々が聖なる力で地上の人間達に作物の豊穣や戦の勝利を授け、病や怪我などの災難を退かせる……
……こともあった。
祈りが神に届いても、それが必ずしも叶えられるわけではない。
神頼みとはそういうものだ。
もっとも、どの神にどれだけ祈るのか、それは人間の自由に任せられている。
また、神々は計画に基づいて多くの人間を救けることはできない。
かつて神魔大戦を集結させた彼女に忖度して“神々の律”が遵守されているからだ。
それは『人間に大規模かつ計画的に干渉してはならない』という決まりであった。
だから、神々の恩寵が祈った人間に降り注ぐ量はずいぶん減ってしまった。
だが、神は天に在り、全て世は事もなし。
人間は神々を恐れ、ひれ伏し、祈る。
神々は人間を救い、祈りと信仰を得る。
互いにほそぼそと。
あぁ、神魔大戦の頃の主役が何と落ちぶれたことかと神々は嘆くのだった。
それでも全知全能を謳われる神々である。
人間はひたすらに神託に耳をかたむけ、可能な限りその言葉の通りに働こうと努めた。
とりわけヒト族は熱心に祈る。
妖精人族や小人族、獣人族や童人族も祈るはするがやはりヒト族は格別だ。不信心者も少なくないが、敬虔な信徒は自分の生活を犠牲にしてまで熱心に信仰する。
ありがたい話だ。
神々が人間をありがたがってどうするという話にもなってしまうが、宗教も商売。
神力がもたらす奇蹟と人々の祈りが交換されるのだ。
人間と神々の商いである。
それで互いに得をするのだから良いではないか。
もちろん、それだけは済まない。
神々が人間を支配して、人間が神々に支配されているうちに。
人間は信仰して従うことが当たり前になり。
神々は崇められて命じることが当たり前になり。
上下関係が生まれ、責任と権力が生まれ、決まりができてあらゆる行為が善と悪に分けられるようになり、それが人間社会と神界の常識となった。
「我は神である! 人間達よ、我に従え!」
「ハハー! 恐悦至極、我らは未来永劫、主への忠誠を誓います!」
こんな具合に。
一神教は光明神ブジュッミと暗黒神ゲローマーだけだったので。
他にもたくさん神々がいる。
だから、人間達が頭を下げる先も多岐に渡る。
それでもいいのだ。
「神様、助けてください!」
「神様、お願いを聞いてください!」
「神様、許してください」
「神様、アイツを罰してください」
「神様、神様!」
人間達は一心に祈る。
その祈りそのものは純粋だ。
よしんばその内容が汚れていても。
それこそ神々が諮問すべき善悪なのだろうが、神々は神々で事情があるのだ。
今よりも勢力を広げたい。
他の神々よりも尊重されたい。
零落したくない。
より大きな神力を使えるようになりたい。
様々だ。
不老不死不滅の神々もその辺の内情は死すべき定めの人間と大して変わらぬ。
こうして。
人間は地上に、神々は神界に、それぞれ勢力を張り、繁栄しようと互いにひたすら努めていた。
しかし、そんな神々と人間達の関係が揺らぐ大事件が起きてしまう。
またしても恐るべき一報がもたらされて神界リゼルザインドは恐慌に陥っていた。
それはたびたび神界を震え上がらせてきた……
『暁光帝、降りる』
……と言う恐怖の一報ではなく、『一週間後に行く』というやたら単純な予告だった。
期限を告げられたとは言え、それでも彼女が地上へいらっしゃることには変わりない。
「来週、彼女が来るらしいのですわ」
「それは“予定”じゃなくて“決定”だろうぜ。彼女は決して嘘を吐かねぇ。正しいことしか言わねぇんだ」
「何てことだ! 今度はどんな酷いことになるのやら…どうにかして止められないものか!」
「俺が勇敢に立ち向かいさえすれば……」
「お主が立ちふさがったところで彼女が瞬き一回する間に吹き飛ばされるだけじゃろうに」
「近づいてはならん! 見てもならん! 聞いてもならん! ひたすら息を殺してやり過ごすのだ!」
「そうよ! 海の底へ逃げましょう! あそこなら彼女も来ないわ!」
「いやいや、デティヨン海の悲劇が起きた時、彼女は海の底から飛び出したんだぞ」
「どうしたらいいんだ? どうしたらいいんだ? どこに行けば安全なんだ!?」
神々はあわてふためいた。
けれどもどうすることもできない。
彼女の意志を妨げることは全き破滅を意味する。
何者も彼女の進路に障ってはならないのだ。
彼女こそは神殺しの怪物。
不老不死にして永遠不滅である神々を殺せる唯一無二の超存在、大いなる天龍アストライアーなのだから。
そして、一週間後、事件は起こった。
暁の女帝様がゴール王国の南部、南ゴブリン王国との国境に近いラナス大森林に降り立ちあそばされたのだ。
その結果、もたらされた被害は極めて甚大であった。
ペレネー領を含む広範囲の領土が消し飛び、ラナス大森林はほぼ全域が消滅、実質的な国境であったペレネー山脈にも大穴が空いたのである。
信心深いヒト族が暮らす、神々にとって豊かな土地は丸ごと更地にされた。大勢の人間達が暮らす町や村が大地から跡形もなく刮ぎ取られてしまったのである。
それもたった1日で。
否。
それはろうそくの一本が半分も燃えぬほどの間で行われていたのだ。
あまりに広範囲、あまりに短時間だったため、何者も対応できなかった。
これぞ、暁光帝の新たな偉業。
“ペレネーの大破壊”である。
事件がもたらした衝撃は激震となって神界リゼルザインドを揺るがし、神々をかつてない大恐慌に陥らせていた。
ペレネー領はヒト族の土地である。
敬虔な信者が多く。
欲望を抱いては神々に祈り。
不安に駆られては神々に祈り。
ヒトは篤い信仰に帰依していた。
そんなヒト族が多く住む、広大な土地が1頭のドラゴンによって均されたのだ。
森の木々も、鳥も獣も、川や泉の魚も、そして、人間も、一切の例外なく大地から根こそぎ消し去られてしまった。
人間も植物も動物も差別することなく全てを平等に扱う、いかにも彼女らしい行動であった。
“初期化”。
暁の女帝様はご自分の偉業をそのように語りあそばされた。
だが、神々にとって“平等”は困る。
犬が、鳥が、魚が、キノコが、木が、祈るか。
祈るわけがない。
人間だけが自分達よりも上位の存在を夢見て、救いと許しを願い求めて祈るのだ。
ましてや、翁面獅子や死哭女、不死鳥や牛頭魔人、幻獣が神に祈るものか。
幻獣は神々を自分と同等の存在としてしか認識していないのだから。
それ故、全ては人間のために。
世界の主役たる人間のために。
人類を繁栄させなければならない。
人間の篤い信仰こそが安定した祈りの供給を約束するのだから。
何が何でも人間を第一に、人間だけを尊重してほしい。
ところが、今回の偉業でペレネー地方は甚大な被害を受けてしまった。
いや、“被害”どころか、全くの無に帰した。
真っ平らに、完全な平面に均されてしまったのだ。
人間はおろか、虫1匹さえも生きていない。
豊かな祈りを捧げてくれる人間が土地ごと刮ぎ取られてしまったのだ。
「彼女はまたしても踊ったらしいのですわ」
「踊る!? 何ということだ!!」
「前回は海上でフラダンスだったが……」
「今回は地上でタップダンスを踊りあそばされたのだとか」
「地上でタップダンスを!? なんと恐ろしいことじゃ!!」
「タップダンスを踊るなんて…そんなことが許されるのか……」
「許されるも許されないもない。彼女がなさることなのだ」
奪われた土地と信者について神々は恐れおののいたものの、表立って彼女に意見する勇気はない。
せいぜい、不満を口にするくらいだが、あまりの恐ろしさにそれすらもはばかられた。
高山をひとまたぎにし、四足で歩いていても頭が雲を衝くというか、雲を突き抜ける超巨大ドラゴンが地上に降り立った。
そのせいでペレネー領を含む多くの土地に暮らしていた信者達が失われ、それまで神界にもたらされていた豊かな祈りが尽きた。
それぞれの土地で信仰されていた土地神や文化を司っていた神が神力を失った。
勢いの失せた神々の多くが貧しく落ちぶれていく。
祈りの減少はペレネー領と関わりの少ない神々にも影響を及ぼした。
誰しもがおびえて活動をつつしんだのだ。
そうなれば不安が不安を呼び、神界全体の勢いが衰え始めた。
ペレネー領で何が起きたのか。
すぐさま話題に上り、調査が進められ、ゾンビ禍の事実が判明した。
けれども問題が起きた当時の祈りはどれもまともに吟味されず、自分以外の神が叶えるだろうと放置されていた。
個々のゾンビは大した問題ではないと考えられていたのだ。
腐敗と怠慢である。
『暁光帝は事件の犯人を探している』という噂がまことしやかに囁かれた。
すぐさま死女イレーヌの名が上がったものの、美貌の屍導師はゾアンゾンビの製作者に過ぎない。
稀代の天才ネクロマンサーは関係者だと見なされ、多くの神々から呪われた。
呪われたが、元々、屍導師とは神々から見放されたアンデッドモンスターだったので状況は何も変わらない。
それならと問題の根が問われ、これほどの大事件を一介の幻獣が起こせるわけがないという話になり、関わったであろう神を探して疑心暗鬼の念が渦巻いた。
もちろん、ペレネーの大破壊に神は関わっていないのだが。
恐怖に打ち震える神々は誰かのせいにしたくてたまらなかったのだ。
だからこそ縮こまりながらも犯人探しを行い、それらしい神の名が挙げられては非難が繰り返され、罪悪の有無が問われた。
けれども、いくら探しても神々の中から“犯人”は見つからない。
神界リゼルザインド全体に暗雲が立ち込めた。
もはや神々はうなだれて嘆くばかりであった。
こうして流通が滞り、労働が評価されなくなって。
神界は長く不景気に苦しんだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
こちらの最終エピソード、現在、鋭意執筆中です\(^o^)/
六回目の音読&校正作業中に気づきました。
あれ? 結局、人間側から見て事件の評価はどうなったのか描き忘れてない?…とwwww
例によって頭の中にはあるんですけどね。
イレーヌとサロメ、ハミルトン男爵のその後を描き終えたらもういいかな状態になってしまいましたwww
そこで今、おおあわてで帳尻を合わせているわけです(^_^;)
こちら、物語の本編後のエピローグになりまして、まだまだ続きます。
具体的にはこれを含めて6本ほどwwww
お楽しみに〜〜
さて、そういうわけで次回は『えっ、人間達が恐れおののいている? うん、まぁ、苦情はラナス大森林へどうぞ。言われたことをやっただけの暁光帝は何も知りませんにょ。』です。
請う、ご期待!




