何もかも終わりました。これでよかったんでしょうか? あっ、「後から文句をつけないよーに」は暁光帝のキャッチフレーズですぉ☆
物語は終わりました。
何もかもが終わり、幻獣達は呆然としています。
仕方ありませんね。
暁光帝がでてきちゃったんですから(^_^;)
みんな、これからどうしたらいいのでしょうか。
お楽しみください。
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あちこちを掃除しまくって天龍アストライアーが戻った時、ラルーン峰の山頂はどんよりした空気に包まれていた。
【やっほー♪ 終わったよー☆ みんな、満足してくれたかな?】
天龍は自分の仕事ぶりをアッピールしつつ、作業の終了を宣言した。
問題はない。
懸念されていた“世界の終わり”とか、何やらP−T境界に準ずるほどの大量絶滅の可能性だったらしい。だが、そのきっかけを引き起こさんと画策した悪党どもは確実に消し去った。
そもそも姿が見えなかったけれどもあれだけ丁寧に地表を掃いたのだ。最後は六翼の羽ばたきで何もかも吹き飛ばし、塵1つ残さなかった。
おかげで十分な範囲を真っ平らに均せた。
生き物は真正細菌や古細菌、そして、若干の微生物くらいしか生き残ってはいない。生物相については微生物相への影響を控えつつ、植物相と動物相を初期化しておいたのである。
自分でも丁寧な仕事ぶりだと思う。
これで不満を言われても困る。
それなのに。
なぜか、幻獣達の雰囲気は暗かった。
誰しもが神妙な顔つきでうつむいてしまっている。
「ア、ハイ……」
「そうですか……」
「トテモアリガトウゴザイマシタ」
何やら絶望の表情で返事をしてきたと言うか、気力を振り絞ってブツブツつぶやいている状態だ。
何がどうしてこうなったのやら、天龍アストライアーにもわからない。
うつむいてつぶやくだけの連中はまだマシな方で多くは立ちすくんで呆然としていたのである。
【どゆこと?】
首を傾げたが、返事はなかった。
ただ、とんがり帽子の魔女が酷く憔悴した表情で頼んできただけだ。
「お願いだから…もう頑張らないでください」
これまた何やら切実な願いのようだ。
何か理不尽だ。
とてつもなく理不尽だ。
しかし、こういうこともまたままあるものなのだ。
ドラゴンらしく呑み込まねばなるまい。
【よくわからんがよっくわかった☆】
気合を入れてあげるべく天龍は元気に答えたあげたのである。
その後、天龍はハゲ頭の吸血鬼ハミルトン男爵と歓談する機会を得た。
新たに提唱された数学上の概念に興奮したアストライアーは非常に喜んだ。
それこそ山脈や森林を掃除するよりもよほど楽しい。
もっとも、当の男爵本人は死んだ魚のような目であった。
いや、不死の怪物の吸血鬼なのだからもうとっくに死んでいたのではあるが。
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天龍アストライアーが世界を未曾有の危機から救った翌日。
王都から援軍を率いてきたルイーズはペレネー領に入っていた。
ずいぶんあわてて準備したが、兵站はそれなりに整っていて、水と食糧、それに矢を積んだ補給のための荷馬車が連なっている。
頑丈な軍馬と屈強な兵士とともに進んできた道のりは長い。
事態を重く見た国王は王太子である第一王子と実績を積んだ老将軍に指揮を執らせ、ゴール王国で随一と評判の宮廷魔導師も同行させてくれたのだ。
そして、今、目の前に広がる虚無を見てルイーズは呆然としていた。
そう、“虚無”だ。
断じて“景色”ではない。
いや、見渡す限り、真っ平らな大地を“景色”と評するのであれば話は別だが。
ラナス大森林があったところもコケすら生えていない茶色の平面だった。眺めていると幾何学の講義で習った『平面とは縁のない無限に広がる平らな面である』という定義が嫌でも思い出される。
行軍を進めて海岸まで達したが、そこが英雄の町アリエノールがあった場所だとは信じられない。何しろ、沿岸の形も変わってしまっていたのだ。
港だった場所もご丁寧に均されていたが、そこはかつてヒトと半魚人でにぎわっていたものだ。
今は人っ子一人いない、無人の海岸に白波が虚しく打ち寄せるだけ。
「わー…水平線と地平線がつながってますねー」
左右を見渡し、何か、無意味な言葉が口を衝いて出てしまった。
辺境伯ロシュフォール家の長女であるルイーズはペレネー領を守る義務がある。
だが、領民はおろか、領地まで失われてしまってはどうしたらいいのか。
山がない、谷がない、湖がない、港がない、畑がない、井戸がない。
つながってしまった水平線と地平線しかない。
途中、南にペレネー山脈の残骸を眺めながら進んでいたら、山がごっそり削り取られていて向こう側が見えた。
“向こう側”、すなわち南ゴブリン王国だ。
北伐を唱える、かの敵国からしたら遮るものとてないこの平原は宿願を叶える好機そのものだろうに軍隊どころか、1人の侏儒すらも見当たらない。
さもありなん。
この地を見て捲土重来を期するゴブリンの将軍はいるまい。失地回復しようにも町も村も失くなってしまっているのだ。
森も田畑も泉もない土地から何を奪えばいいのやら。
もっとも、それよりも遥かに重大な問題がある。
「えーっと……」
隣に目をやった。
「ひぐっ!?」
「えひゃぃっ!!」
奇妙な声を上げたのはゴール王国の第一王子とこの軍隊を実質的に率いる老将軍だ。
次期国王である王子は進取の気質に富む、精悍な面構えの眼光鋭い青年だった。
老将軍は歴戦の猛者であり、南ゴブリン王国だけでなく、エングレス諸島からやってくる侵略者や北の獣人王国からの襲撃を何度も退けた実績があった。
だが、両方とも過去の話である。
2人とも酷く憔悴し切ってかつての勇姿は見る影もない。
ゴール王国はその成り立ちから勇気を何よりも重んじる気風がある。
だから、王太子も将軍も勇敢である。
初代国王のように。
初代ゴール王は『今こそ勇気が必要だ』とぶち上げて家来を鼓舞し、北ゴブリン王国を征服した。そして、かの国の王城まで進撃したのだ。
もっとも、全て無人の荒野だったが。
恐るべき超巨大ドラゴン、暁光帝が舞い降りて何もかも滅ぼし尽くした後の土地だったからだ。
それでも神々さえ恐れて近寄らなかった土地に挑んだ初代ゴール王は本物の勇者であったことは間違いない。
しかし、だからこそわかるのだ。
この地で何が起きたのか。
わかるから第一王子も老将軍も精神をやられてしまった。
それでも何とかついてきているのはゴール王国の気風が関係している。何よりも勇気を尊ぶ王家の伝統が2人を縛り、恐怖に屈することを許さないのだ。
だが、それだけに2人が味わっている恐怖は凄まじい。
それを勇気で押さえつけているのだから2人にかかる精神的負担は想像するにあまりある。
「あ…ゔ…ぅ…ぬゎ……てくま…くまやこん……」
「らみぱす…らみぱす…るるるるる……」
2人とも何事かつぶやいているものの、聞いてもさっぱりわからない。意味不明だ。
今にも馬から転げ落ちそうで何とか手綱を握っているだけの状態である。
落馬したら大変なのだが、主を支えるべき従者がいない。
発狂して動けなくなってしまったので置いてきたのだ。
他の発狂してしまった従卒達とともに。
「ア、ハイ……」
馬上で舌打ちしそうになったが、ルイーズは何とか我慢した。心中、『こいつらもうダメだ』と思っているものの、口には出さない。これだけ参っているのだから言ったところで不敬を咎められることもなさそうだが、言葉にして出したら自分の心が折れてしまいそうなのだ。
それほどまでに酷い惨状なのである。
全てが失われた土地という異常な環境がもたらす恐怖に多くの人間は耐えられない。
目の前の様々な事実からここで起きたことを想像できる人間、賢しくも宇宙の真理に気づいてしまった人間は発狂して廃人になるのが常である。
戦場や災害で直面する死の恐怖、政争で追い落とされる恐怖、恋愛で愛する者に裏切られて捨てられる恐怖などとは比べるべくもない。
今まで当然のことと自分が信じ、価値を置いてきた常識が根底から覆される恐怖。
宇宙的恐怖は精神そのものを蝕むのだ。
これに耐えられるのは真実に気づかない愚か者か、真に勇敢な者だけである。
「宮廷魔導師殿、これは一体、何が起きたのでしょうか?」
わかりきったことではあるが、宮廷へ報告することを考えれば確認せずにはいられない。背後に控える魔導師に声をかけた。
「そ、そうですね……」
後衛なのに意外と勇敢だったのか、魔導師は真っ青に青ざめているだけで何とか平静を保っていた。
「あ…ゔ…彼女がいらした…ようです」
魔導師は震え声で語った。
何が起きたのか、それはよくわかっている。
神でも、悪魔でも、不死鳥でも、他のドラゴンでも、こんなことはできない。
全く以て不可能だ。
彼女以外には。
わかってはいるけれども曖昧に答えた。
これ以上の混乱を避けたかったから。
だが、ルイーズとしては言葉を濁されても困る。
「はぁ……」
浮かない返事をしながらゴクリと息を呑んだ。
城塞を後にした時点ですでにルイーズの覚悟は決まっていた。
伊達に有能な怠け者はやっていない。これほどわかりやすい大災害なのだ。放っておけば世界が滅びる。彼女ご自身で事に当たると判断なされたであろうことは想像に難くない。
だから、もしかするととは思っていた。
その結果がこういう事態になったことに精神は揺さぶられたが、何とか正気を保つことはできている。
「“彼女”ですか…それは一体、どなたのことで?」
魔導師の逃げ道を塞いでしっかり固有名詞を口に出して発言するように促した。
「あぁ、それはその…う〜ん、何と申しましょうか…ハイ、その……」
またしても言葉を濁しながら、すっかり参ってしまった第一王子と老将軍に目をやった魔導師だが、ここまで聞かれてはごまかせないと観念する。
「暁光帝、降りる」
短くもはっきり伝えた。神経が参ってまともに乗馬もできない2人を案じながら。
「…ということだと思います。たったの数日で、これほど広範囲に、ペレネー領の全域を均して平らげるなど、こればかりは他の何者にもできませぬ。思うに神でも悪魔でも……」
続く言葉は出せなかった。
絶叫がその場を切り裂いたからである。
「おぶひぃぃっ! ぎぉこぉてぇぇぇぇぇっ!!」
馬上の第一王子は顎が裂けんばかりに口を開き、見開いた眼を痙攣させながらブタがいななくような声を張り上げていた。
「えっ!?」
驚いて目を見開いたルイーズだったが、すぐに理解した。
第一王子はこの地で何が起きたのか当の昔から承知していたのだ。
状況を見れば暁の女帝様ご自身が訪れてゾンビに汚されたペレネー領を御自ら浄化なされたのであろうことはわかる。
賢しい者なら。
背後に続く兵士達は幸いにも愚かで気づかなかったが、第一王子は不幸にも賢しく理解してしまったのだ。
この世には真の支配者がいる、と。
それは魔界に君臨する魔王でも、神界リゼルザインドにおわす神々でもない。
ゴール王国を支配する父である国王など足元に及ばぬ超存在。
忍び寄る天災、殺戮と破壊の化身にしてもっともわかりやすい破滅の形である。
太陽すらをも覆い隠す巨大な六翼を広げて自らこの地に赴き、己の治世を乱す輩をラナス大森林ごと何もかも全て大地から刮ぎ取ったのだ。
あれほど多くはびこっていた獣化屍従者どもを1頭残らず殺し尽くしたのである。
信じがたいことに。
いや、信じがたくてもそれ以外の可能性はありえない。
彼女は怒っている。
彼女がいつここへ舞い戻ってくるかもわからない。
もしも彼女が戻ってきたら?
彼女は世界を呪われたゾンビで穢そうとした人間を許さないだろう。
彼女は戻ってきてその青く透き通った鉤爪を自分に向けて振り下ろ……
「ぅぶぴぴぇぇぇぇっ!」
妄想が脳を蝕むとまたしてもブタがいななくような絶叫を上げて第一王子は馬から転げ落ちた。
落馬は危険な事故だ。
当たりどころが悪ければ死ぬこともありうる。
けれども、幸いなことに王子は死ななかった。
代わりに真っ平らに均された地面でしたたかに身体を打ち付けて苦しんだ。そして、頭を地に着けたまま背骨が折れそうになるほど弓なりにのけぞって目を見開き、またしても顎が裂けそうなほどに大口を開いて絶叫した。
「ぷぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
のたうち回りながらまるで屠殺されるブタのような泣き声を上げた王子には野心に満ちていた頃の面影はない。男前のりりしかった顔は二目と見られないほどに醜く歪んでしまっていた。
「うわぁっ、殿下!」
「たいへんだ!」
「殿下が落馬なさったぞ!」
兵士達がわらわらと駆けつけてきたがもう遅い。
王子の精神は完全に狂気で蝕まれてしまっていた。
落馬で傷を負っていなくてもすでに廃人である。
「将軍! どうしましょう、将軍!?…あぁ、将…軍…?」
従卒の1人が馬を引いたが老将軍の様子がおかしい。
ピクリとも動かないのだ。
肉体が馬から生えているかのように首から背筋までがピンと立ったままで手綱を握る手も動かない。動く馬に合わせて重心を移動させる様子が見られないのだ。
「将軍!?」
馬上で身体を捻り、ルイーズも様子をうかがったが、老将軍も第一王子と似たような状態だった。
勇気を奮い起こして無理やり恐怖を押さえつけていたようだが、やはり精神が保たなかったらしい。あまりに強烈な心的衝撃で肉体が硬直して動かせなくなる強硬症を引き起こしてしまっている。
「誰か、気付け薬を!」
「将軍閣下!」
駆けつけた兵士達が懸命に老将軍を助けようとしているが無駄だろう。
「あぁ…私が不用意に話したせいで……」
魔導師が青ざめていた。
言ってることは間違っていない。
こいつが放った一言が不幸な2人の精神を破壊してしまったのだ。
しかし、それもやむを得ない。
報告するには王室直属の配下の口から何が起きたのかはっきり発言してもらわなければならないのだから。
「そうね。彼女が…暁の女帝様がこの地にいらしたのね……」
廃人と化してしまった老将軍と第一王子を横目にルイーズは世界を見つめた。
地平線と水平線がつながってしまった平たい世界を。
「あぁ…終わったんだわ」
ため息を吐いた。
アリエノールの町だけではない。ペレネー領そのものが失われた。失陥ではなく、完全に消えて失せたのだ。
終わったのか。
終わらせられたのか。
もうどちらでもいい。
領主の座を巡って競われた戦いも終わったのだから、もう何でもいいだろう。
ルイーズは自分自身もまた終わったのか、それとも…と、ただ、考えるだけだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
この回は“その後”のお話その1です。
ロシュフォール家の長女ルイーズ・ロシュフォールの視点で事の顛末が語られました。
いえ、ルイーズは何も悪くありませんけどねwww
ゴール王国の名だたる面々が発狂して何かもがおしまい\(^o^)/
暁光帝の所業ですからこうなるのも仕方ありません(^_^;)
“カタプレクシー”と“カタレプシー”は18〜20世紀初頭の推理小説や怪奇小説にしばしば出てくるんですが、小生はあんまり区別がついていなくてwww
今回、きちんと調べました(^_^;)
そういや、最近の作品、小説や漫画やアニメには“着付け薬”も登場しなくなりましたね。
昔の作品だと気の弱い登場人物は男女の別なく気絶したものでして、そのたびに“着付け薬”の出番があったものです。
ホームズの助手ワトスン博士やポワロの助手ヘイスティングス大尉は常に携帯していたような。
そりゃ、名探偵の事件で衝撃的な展開になれば様々な人物が気絶したものですからねwwww
最近は殺人の遺体を見ても気絶する人物を見かけませんわwwww
20世紀の人物と21世紀の人物、同じ人間で同じ人種のはずなのにね……不思議なものです。
さて、そういうわけで次回は『あふたーさーびす? 暁光帝が知らない言葉です。何ですか、それ? ボクがやらなきゃいけないことはもう終わったはずですよ(怒)』です。
請う、ご期待!




