今や今やと待ち構えていた幻獣達の前に暁光帝がやってきました。ようやく、ようやく、主役の登場でございます。
ついに我らが主人公、暁光帝が登場!!
…する気配がしました(^_^;)
ラナス大森林の幻獣達はラルーン峰に避難して事態の推移を見つめています。
はてさて、どうなることやら……
お楽しみください。
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時間は少し遡る。
水竜ガルグイユと有翼七首竜、2頭の竜が骸骨達に囲まれている隣で魔女が水晶玉を眺めていた。通信用水晶板とは違う、机に乗せて使う、本格的な品だ。
「森の奥、湖のほとりにまで獣化屍従者が達したわ」
魔女らしいトンガリ帽子をかぶって魔女は神経質そうに指で机をトントン叩いている。
「ついにそこまで……」
花白仙女は恨めしそうに離れた地面を見つめる。その下にあの屍導師イレーヌが潜んでいることがわかるのだ。
もっとも、墓鬼らに教えてやる義理もないから黙ってはいるが。
「で、さぁ〜 イレーヌの怪物達は何してるん?」
相変わらず、軽い感じで妖人花が尋ねた。
半裸の美女は新たな災厄にもあまり困っていなかった。
得意の精神干渉系“魅了”の魔法も死人が相手では効かないのでできることもなかった。けれども、獣化屍従者が他の幻獣を襲うこともないから迷惑をこうむることもない。
互いに不干渉の姿勢だ。
ならば、積極的に争う必要もない。
むしろ、魔女の張った魔法障壁で陽光が遮られて辺りが暗いことの方が気になる。
「クゥ〜ン」
「クゥ〜〜ン」
イレーヌの屍従者相手には人食いオオカミ達もおとなしかった。やはり、死体は死体でも食べられない死体に興味はなく、獣化屍従者どもとは戦わなかったのだ。
「いいわね。このくらい暗くないとうちらは動けないし」
闇に住まう冥精霊は黒い長衣から黒い翼を広げて伸びをする美女だ。死と闇を司ると言われているが、まっとうな死者と違う不死の怪物は苦手である。
「頭がオオカミやライオンのアンデッドがやたら増えたわよねぇ……」
水も滴るいい女、水精霊は普通に立っていてもロングヘアが濡れて本当に水が滴っている。
「亡者は臭くて敵わないわ」
樹木に宿る樹精霊は屍従者と生ける死骸の区別がついていない。
「木々の間を巡っていると嫌な魔気を感じることが増えていたわ。たぶん、あれが“負の生命力”ってゆーアンデッドを増やす原因なんだと思う」
森精霊の意見は正鵠を射ていた。
獣化屍従者が動物を殺して死肉にしているため、蔓延する死が土地を呪い、イレーヌの好む呪怨培地と化していたのだ。そのせいで不死の怪物がやたら増え続けているのである。
女精霊達も机に置かれた水晶玉を見つめた。
「あ、また、シカが狩られたわ。このままじゃ、森の動物達が絶滅させられちゃう」
谷間を観察していた谷精霊が嘆いた。
鳥に獣に虫に、色々な生き物達がきれいな森の豊かな自然を形作る、そんな光景を愛してきた女精霊達にとって今のラナス大森林はため息しか出ない。
「次は町を見るわ」
魔女が水晶玉を操作し、今度は廃都を映し出した。
「これがアリエノール…あれだけたくさんの人間達が暮らしていた町なのに…今じゃ、見る影もないわ」
松精霊が嘆いた。
ヒト族や妖精人族の美女に容姿が近い女精霊は粗暴な人間を恐れて人里には近づかないものだ。
この松精霊はその例外である。
海辺の町アリエノールでも塩害を抑えるための防風林として松を植えている。そこを棲家にした松精霊はしばしば町を訪れていたのだ。
「中央広場も城塞も…あぁ、円形闘技場まで……」
そこはお気に入りの場所だった。吟遊詩人が歌い、豪華な芝居が催されていた。もちろん、剣闘士や猛獣が戦うこともあった。
人気の催し物があると大勢の観客で満員になり、松精霊も贔屓の芸人に拍手喝采したものだ。
それが今ではどうだ。
打ち捨てられた座席は割れたり、壊れたり、酷い状態である。人々が殺到した通路には枯れ葉が積もり、至るところに蜘蛛の巣が張られている。
「あのステージでは吟遊詩人が歌っていたのよ。素晴らしい美声で私もため息が出たわ…それが今じゃ……」
喉を詰まらせる。
当のステージは獣化屍従者が所在なげに歩いていた。殺すべき標的が見当たらないから探しているのだ。
町の荒廃ぶりは目も当てられない。
死肉で増える獣化屍従者が殺して殺して殺しまくり、住民の死体で仲間を増やしていった。それが足りなくなると家畜や野良犬、野良猫、果ては虫まで集めて死肉に変えた。
その結果、町で動く物は鳥だけになった。
それすら長くは続かず、巣が狙われるようになると鳥達も町を去った。
今や、アリエノールは死の町だ。
貴婦人や有力者が集った豪華な建物も裏寂れて、呪われた亡者どもが徘徊するのみ。
裏寂れた通りの1つに獣化屍従者に見落とされたであろう骸骨が転がっている。その髑髏はわびしく打ち捨てられて眼窩から虫が出入りしている。
どうやら呪いが消費され尽くしているらしく、新たな不死の怪物が生まれる気配もない。
「メガデスポイントが使い潰されるなんて……」
あれほど多くの人々が殺されたのにと驚いた。獣化屍従者の増殖が蓄積された呪いを吸い尽くしたに違いない。そして、増えた分の亡者がラナス大森林を新たな呪怨培地に変えつつあるのだ。
滅びが滅びを呼び、世界中に広がりつつあることは明らかだった。
「あぁ、栄華を極めた英雄の町が廃都に……」
幻獣の身でありながら長く付き合った町だった。親しみを感じていたからか、強い寂寥感に身を震わせてしまう。
だが、しかし、その時、松精霊の身体を異様な感覚が襲ってきた。
「!?」
暑くも寒くも痛くもない。
だが、おかしい。
何かが異常だ。
手が、肩が、腰が、足が、異様な感覚に襲われている。
「えっ?」
あわてて立ち上がろうとして驚いた。
身体が浮くのだ。
足が牧草を離れて全身が空中をフワフワ漂っている。
「あらぁっ!」
「これは!?」
「なるほどー、これが彼女なのねー」
「これだけ離れていても感じられるとはさすがだわ」
「きゃははははは☆」
女精霊達が楽しげに浮いている。両手をパタパタと羽ばたかせてみたり、宙に浮いた髪で新しい髪型を試してみたり、空中で踊ったり。
もちろん、冥精霊のように元から空が飛べる者もいるが、そうでない者達も楽しげに空中浮遊に興じていた。
ラルーン峰のあらゆるところで全ての物体から重さが失われているのだ。
「これは!? いや、これがそうなのね!!」
松精霊はようやく理解できた。
この信じがたい現象は唯一、天龍アストライアーのみが使えると言われている奇蹟の御業だと。
「重力魔法…彼女が来たんだわ」
「この妙ちきりんな感覚は宙を浮く幻獣にだって感じられるんですねぇ」
魔女の言葉に花白仙女はしみじみ語った。
その時、全員の頭の中に“声”が響く。
【やぁ、ボクが来たよ☆】
何やらやたら楽しげな、魔気信号による“言葉”だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
人間の町アリエノールはすでに滅びてしまい、ラナス大森林を侵食するゾアンゾンビの脅威に幻獣達はおののいています。
今回は様々なニュムペーが登場♪
ギリシア神話で定番の美女の亜神というか、下級女神ですね。
諸説様々で神には及ばないけれども怪物よりは上位の存在みたいな描かれ方をすることが多いんです。
また、神々のように不老不死というわけでもなく依代の樹木が枯れたら一緒に滅ぶみたいな設定もあったりなかったり。
インターネット小説投稿サイトで人気の作品でしばしば登場する“女神”がだいたいこのニュムペーみたいな感じですね。
もっとも、こちら『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』では普通に“幻獣”としてひとくくりにしちゃってます。
発音も「ニンフ」とか、「ニュムペ」とか、いろいろありますが、こちらでは「ニュムペー」に統一させていただきました。
小生がこの手のファンタジーで定番の種族や女神に接したのおそらく少女マンガ誌の『プリンセス』や『少女コミック』ですね。
中山星香女史やあしべゆうほ女史がかなりハードな漫画を描いていらっしゃいましたっけ。
その後、『ギリシア・ローマ神話』を本格的に読み込んでイメージが固まった次第です(^_^;)
だから、逆に『ロードオブリング』ってゆー映画で“エルフ”を見ても新味は感じませんでしたwww
すでに原作小説版の『指輪物語』も読んでましたしねwww
いや、小生の場合、ファンタジーよりもホラーから馴染んできた感じですが。
そういや、我らが主人公、暁光帝の本名“天龍アストライアー”はギリシア神話の暁の女神アストライアー”Ἀστραία”から引っ張ってきました。
人間の堕落に呆れたオリュンポス12神をはじめ、多くの神々が地上を見捨てて去っていった時、最後まで残ったのが暁の女神アストライアーでした。
それだけ人間に執着していたとも言えます(^_^;)
また“正義の女神”という側面もありまして。
主人公にふさわしいかな、と。
ラテン語表記だと”Astraea”で発音も“アストラエア”になりますかね。
英語の発音もこれに準じて“アストリア”になりましょうか。
小生はやはり最初に目にした“アストライアー”が気に入っているのでそのままに。
さて、そういうわけで次回は『ついに暁光帝が来てしまいました。世界の終わりそっちのけ遊んで…もとい、大活躍しています(^_^;)』です。
請う、ご期待!




