幻獣達は暁光帝の到来を待ちわびています。はてさて、みんな、どんなふうに歓迎してくれるのかな?
ラナス大森林にまでゾアンゾンビがはびこりだした!?
困りきった幻獣達はついに最後の手段に打って出る!
暁光帝に泣きついたのです!
「せんせぇにいいつけるぞー」「せんせぇー、○○くんがいけないんですぅ〜」的な?
チクリですよ、チクリ\(^o^)/
アレも不思議なもので「言いつける」「チクる」という言葉を使えばあら不思議、まるで卑怯なことのように思えてしまいますね。
学校に於けるいじめや暴力といった不法行為を取り締まることは監督者たる教師の責任であり、生徒が頼っていけないはずもなく。
いや、「そのくらい先生に頼らずに自分でやれよ」って言われたら自力救済ですよ、奥さん☆
つまり、いじめっ子や暴れん坊を直接ぶん殴る!!!
そのまま暴力の行使になっちゃうんですが、いいんですか?
それならまだ「せんせぇにいいつけるぞ」の方がマシじゃないかとも思うんですが、さて?
そういうわけで地上の問題に暁光帝の介入が決定的になってしまいました。
この事態に人間や幻獣はどうするのでしょう?
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
龍の大図書館の掲示板にくだんの書き込みがなされて一週間後。
ペレネー山脈の最西端、ラルーン峰はあまり高い山ではない。それでも山なので軍隊を動かすには向かないので国境としては平和である。
もっとも、戦場にならない理由はもう一つあり、そちらの方がより重大だ。
山頂にドラゴンが棲んでいるのである。
それも立派な翼で空を飛ぶ、四足で7つ首の若竜だ。この有翼七首の“エレンスゲ”はドラゴンらしく人食いの凶暴な竜であるが、財宝を貯め込まない。しかも、なぜか、数多くの不死の怪物、骸骨達にかしずかれていたのである。
そのため、ラルーン峰の山頂はドラゴン付きの凶悪な不死の軍団が陣を敷いていて難攻不落の一大勢力になっていた。
そういうわけでラルーン峰は英雄の町アリエノールにとって脅威であるはずなのだが、冒険者も軍隊も挑もうとはしない。
冒険者は財宝を貯めない、やたら強いだけのドラゴンに旨味を見いだせず、近づかない。
また、軍隊は凶暴なだけで町に近づかないドラゴンを脅威と考えなかった。むしろ、『戦は竜を呼ぶ』の格言通りにならないよう刺激することを避けていた。
おかげでふもとの城塞はしばしば戦場になったものの、戦は長く続かなかった。
ヒト族も侏儒族も格言を恐れて長期戦を嫌がったためである。
ちなみにどうしても派手な戦争をしたい時は山頂の陣地を調べて有翼七首竜の不在を確認してから戦い始めるのであった。
もっとも、今はアリエノールが滅びてしまったし、北伐を唱えて勇ましく戦っていた南ゴブリン王国は疫病の流行で這う這うの体と両国とも悲惨な有様だ。
戦争などしたくてもできない状況であるが。
秋の日差しを浴びながら涼風を感じる山頂はとても贅沢だ。
平和で静かで落ち着いている。
今だけは。
水竜ガルグイユは忌々しげに太陽を見上げて不満そうだ。
陽光は夜行性の幻獣をひるませてしまう。
だから、もうすぐ魔女が防御結界魔法で日光に対する闇の魔法障壁を張る予定なのだ。
一応、山頂に石造りの砦が建てられていて地面の下には地下迷宮も広がっている。
これらの施設はもともと骸骨達が建てたものである。
スケルトンは不死の怪物にしては例外的に日照耐性が高く、昼間の日差しを浴びてもびくともしない。
だが、ガルグイユの友人である吸血鬼ハミルトン男爵や墓鬼らは太陽が苦手なので仕方ない、今は砦の下の地下迷宮で控えてもらっている。
「ウンメェェェー」
「メェェー」
「メェー」
山腹に広がる草原で多くのヒツジが飼われ、スケルトン達が羊飼いとして働いていた。
「凄ぇ数のヒツジだな…ここまでデカく牧羊してるとは驚きだ。立派な牧場じゃねぇか」
「ヒツジだけじゃありませんよ。牛も育てています。主に肉牛ですがね。ちゃんと牛乳も絞れてます」
ガルグイユが驚いているとスケルトンが説明してくれた。
「うちの有翼七首竜さんは美食家ですからね。人肉が不味いと最近は羊肉だけじゃなくて牛肉にも食指を動かしているんです」
牧場主もやっているドラゴンの経営方針に言及しつつ。
「アリエノールの町からやってきた獣化屍従者ですか、連中がうちのヒツジを狙ったんで我々が追い払ったんですよ☆」
自信満々、胸骨しかない胸を張った。
秋の陽光を浴びて白骨が輝く。
不死の怪物なのに太陽を厭わない。吸血鬼や墓鬼からは考えられない日照耐性だ。
「なるほど、それで侏儒達の土地には獣化屍従者どもが行かなかったんだな」
水竜は大いに納得した。
基本的に屍従者は特に命令されない限り同類を襲わない。そういう仕様だからだ。
いくら死肉で増えると言っても同じ不死の怪物の死肉を利用していいことになっていたら、すぐに同士討ちが始まってしまっていただろう。そういった不具合を抑えるための仕様である。
それで同じ不死の怪物のスケルトン達と事を構えることを控えてラナス大森林に向かったのだと思われた。
森の住人としてはいい迷惑である。
それでもこうして受け入れてもらっているのだから不満を漏らすべきではない。
「君らのおかげで人食いオオカミ達も三叉樹達も助かっているぜ、ありがとう」
きちんと礼を述べた。
スケルトン達が羊肉を提供してくれたおかげで人食い系の幻獣達が久々の肉食にありつけたのである。
正直、花白仙女や樹精霊の大豆ハンバーグがもたらす植物性蛋白質だけでは厳しいのだ。
ここのスケルトン達と顔の広い魔女には大いに感謝しなければならない。
「この山頂は魔宴の会場だからね。アリエノール在住の元・人間の魔女からご近所さんに至るまで大勢が集まるのよ。おかげでスケルトン達やエレンスゲ氏とも付き合いがあるわけ」
魔女が森と山の関係を説明してくれた。
魔宴は魔女の集会であり、魔法に長ける魔女達の情報交換の場になっているのだ。
ちなみに元・人間の魔女達は今回の騒動を嫌って早々に街を去ってここへ避難していた。魔女バケモノ連盟の正式会員でもあるから、もう嘘も吐けないし、幻獣側に来ることに抵抗もなかったらしい。
「うむ、我も森の重鎮達を歓迎できる光栄に浴せたことを嬉しく思うぞ」
有翼七首竜も大いに機嫌を良くしていた。
単純な大きさは水竜に引けを取らない。7つの頭は存在感があり、前足で握った大木が小枝に見えてしまう。立派な翼は広げると日を遮り、その影で吸血鬼が昼寝できるほど広い。
7つの頭が一斉に口を開くのではなく、真ん中の頭だけが喋り、他の6つはおとなしくしているから有翼三首竜とは違う。
見かけはおろそしいし、人間も食べる美食家なので人々からは恐れられているが、十四行詩については読む方も書く方も嗜む文化人…ならぬ文化竜である。
「ここまで牧羊が盛んになるとは思わなかったわ。もう魔宴で人肉料理が出されなくなって十年は経つかしら…えいっ!」
魔女が昔を懐かしがりつつ、浮遊魔法陣に魔力を込めて防御結界魔法を発現させた。山頂全体を覆う、この魔法障壁は陽光を抑えて不死の怪物が活動しやすくする効果があるのだ。
周囲が一気に暗くなった。
秋の日差しが魔法障壁に抑えられて夕暮れ空くらいになっている。
「いや、人肉は今まで過度にありがたがられすぎたのだと我は思う。実際、味も歯ごたえも香りも牛肉や羊肉には劣る」
エレンスゲはきっぱりと断言した。
「うちの牧場で育て上げたヒツジは絶品だぞ。それこそ魔宴に集まる美食家達をうならせるほどに美味い」
後ろ足で立ち上がって自信満々、胸を張る。
さすがはドラゴン。魔法障壁なしでも広げた翼で夜行性の幻獣を太陽光から守れるくらいに大きい。
頼もしい竜を見て地下迷宮に避難していた夜行性の幻獣達がわらわらとでてきた
「ほほぉ…これは見事な。それにしても人肉料理ですか…やはりドラゴンの好物なのですかな?」
魔女の技を称賛しつつ、ハゲ頭の吸血鬼、ハミルトン男爵は魔宴の料理に気を取られていた。
やはり、元・人間としては気になるものだ。
「そりゃなぁ…人肉を食べたことのないドラゴンなんていない、と言いたいところだが……」
ガルグイユが苦笑い。
ずっとラナス大森林の最奥で暮らしてきた水竜は生きた人間に遭遇したことがなく、当然、人肉も食べたことがない。
「ワォーン!」
「キャンキャン!」
「ウゥゥゥゥ……」
何か、言いたいことがあるらしく、人食いオオカミ達も生真面目な顔で吠えたりうなったり。
皆、人肉について一家言あるらしい。
エレンスゲは否定するが、やはり人食いの幻獣の間で人肉は特別な意味を持つのだろう。
「それなら天龍アストライアーも人肉が好きなんですか?」
男爵は恐ろしくなった。
元・人間として暁光帝の恐ろしさは嫌と言うほど聞いている。彼女が人食いだったらとんでもないことになるだろう。
「いやいや、何を言う? 彼女が人間を食う? 百万人を放り込んでも一口になるかどうか、怪しいものだぞ」
「我ら、若竜よりもずっと大きい古龍ですら彼女の鱗1枚に及ばんのだ。大きさが違いすぎて話にならんわ」
ガルグイユもエレンスゲも口を揃えて否定した。
「はぁ…それほどの違いが……」
ハゲ頭の吸血鬼も言葉を失った。
これから来るであろう彼女の威容はどれほどのものなのだろうか。
かつて、この目で見た時は夜だったし、遥か沖に現れた暁の女帝様が歌って踊る姿を拝んだだけだった。彼女が降りた瞬間、雲が吹き飛んでしまい、比較対象がなくなったのでさっぱり大きさがわからなかったが、はてさて、どうなることやら。
興味津々である。
そこへ突如、大きなざわめきがやってきた。
「さすがは魔女殿ですね。このくらいの日照なら我々も活動に支障はありませんな」
ボロを着た腐った死体こと墓鬼が興奮した面持ちで魔女の魔法障壁を褒め称えていた。
全国アンデッド地位向上連盟のペレネー支部長は黄色い発光体が本体で直射日光はやはり天敵なのだ。こうして日照を抑えてくれるのは本当にありがたい。
「うぴー、ぽわぁー、むむひー」
「あぶらまはりく♪ まはりたかぶら♪」
「ドカ、バカ、ボカ、ボン♪ ドカ、バカ、ボカ、ボン♪」
「おると、ぱら、めた!」
「へきさにとろへきさあざいそうるちたん☆」
「死ンデ始マル新タナ人生♪ 豊カナ死ガ貴方ノ未来ヲ作リマス♪」
「さぁ、死のう! 今すぐ、死のう!」
ズラリ並んだ不死の怪物、喰屍鬼や生ける死骸が騒ぐ。
「我々、魔女ばけもの連盟ニコソコウイウ魔法ガ必要ナノデハ?」
黒い肌のたくましくも妖艶な呪吸血鬼が驚異の魔法障壁について必要性を唱えている。
「そうだね。確かにその通りだ。やはり、ワシら、全国アンデッド地位向上連盟には新しい血が必要である。ぜひとも屍導師イレーヌを勧誘しようじゃないか」
墓鬼がぶちあげると。
「頑張リマショウ! 未来ヲ目指ス、ぺれねーノあん連!!」
半裸の美女が叫んで。
「「「未来を目指す、ペレネーのアン連!!」」」
「てくにく、てくにか、しゃらんらー♪」
リビングデッドら、アンデッドモンスターが唱和した。
物凄い盛り上がりようである。
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頂上の陣地から少し外れた場所、まばらに牧草の生えた地面が穿たれて造られた洞窟はなかなかに広かった。
土壁はすでに乾いていて通気孔もしっかり機能している。おかげで酸欠にもならず、ランプの明かりでそれなりに明るい。
墓場の隣の屋敷と同じく巨大水晶玉もしっかり設置されていた。
もっとも、この場に酸素が必要な好気呼吸する人物はいない。幽霊に屍従者ら、不死の怪物だらけである。
「土の精霊魔法でこれほどの洞窟を地下に穿つ魔力はさすがですわ、ご主人様」
いつものことながら屍導師の魔法には驚く。顔をほころばせて幽霊女中サロメが主を讃えた。
「森の連中と一緒にのんびり天龍アストライアーの仕事ぶりを見物しようかと思ってたのに…思いの外、アン連の死者達がうるさいから地下に引っ込まざるを得なかったのよ」
屍導師イレーヌは全国アンデッド地位向上連盟の圧力に閉口して地下に逃げ込んだのだった。
有能な敵よりも厄介な味方の方が負担になることが少なくない。
人間から見た死霊術師は忌まわしい呪われたゾンビを扱う邪悪な魔導師だ。国家は便利に使い、民衆は一方的に嫌うのみ。当然、社会の目は厳しい場合が多い。
ところが、幻獣から見る目は大いに異なる。
屍従者の製造者であり、それを商う商人である死霊術師イレーヌは全国アンデッド地位向上連盟から見て非常に難しい立場にあるのだ。
そもそも彼らからすれば屍従者は人間の奴隷である。実際、屍従者は無給で働かせられているわけで奴隷以外の何者でもない。
「アン連の連中からすれば死体をそんな風に扱う死霊術師の評価はズバリ“奴隷商人”ですわ。評判はすこぶる芳しくないわけで敬遠されるのも仕方ありませんねぇ……」
サロメは苦笑いを浮かべた。
全国アンデッド地位向上連盟の同胞達は思い込みが激しく、正義の追求に余念がない上、死んでいるのにやたら未来志向だ。
それは悪いことではないが、正直、暑苦しいと言わざるを得ない。
「女中さん達も影響されちゃって困ってるのよね〜」
イレーヌは肩をすくめた。
自身に仕える側女には生者はいない。全て王室御用達屍従者であるが、自我と自由意思を持たせている。
安物の普及型屍従者とは違うのだ。
おかげで曖昧な命令であっても定義エラーを返されることなく、こちらの意図を汲んで鷹揚に遂行してくれる。
遂行してくれるのだが、自我と自由意思を持つからこそ墓鬼や呪吸血鬼の話をまともに聞いて同情してしまう者も少なからず。
放っておけば亡者女中達が全員、全国アンデッド地位向上連盟ペレネー支部に行ってしまいかねないのだ。
けれども、それを面白いと捉える向きもある。
「う〜ん、でも、有翼七首竜の不死軍団は面白いですね。不死の怪物なのに軍隊としてきちんと機能しています。私が貢献できる余地だってあるかもしれない」
幽霊貴族シャルルはラルーン峰の骸骨達を高く評価している。普段は羊飼いをしながらも、いざというときのために戦う用意を整えているからだ。
しかしながら、これらの言葉は強い反応を引き起こしてしまう。
「それならシャルル君は森へも行くべきです」
「ばっちりアン連とも付き合ってくださいませ」
主従2人から冷たくもきっぱり言われてしまった。
「いや、その、アン連はちょっと……」
嘘が吐けなくなったので言葉を濁すくらいしかできない幽霊貴族であった。
全国アンデッド地位向上連盟については空回りしている印象が強い。
副長の呪吸血鬼はともかくペレネー支部長の墓鬼は強烈な熱意で社会改革を推し進めんと努めているのだが、当の幻獣達には社会そのものがないように思えるのだ。
とにかく社会性が乏しいと言うか、希薄である。
今回の騒動についても水竜ガルグイユや花白仙女ら、一部の者が頑張っているだけで他は言われるままに避難しているのみ。他の重大な問題については全くと言っていいほど関心がないように思えた。
墓鬼はそんな幻獣達をどう変えようというのだろうか。
「う〜ん、もうすぐ人類が絶滅してしまうんですが……」
この世から人間が全て消え失せてしまえば新たな不死の怪物も生まれなくなると思う。それなのに墓鬼も呪吸血鬼も関心を示さず、ひたすらイレーヌとサロメを連盟に加入させようとするばかりであった。
「アン連ってそんなに重要な団体なんでしょうかねぇ……」
自然と疑問が口と衝いて出てしまった。
だが、そんな重大発言が咎められることはなかった。
突如、異様な感覚が襲ってきたのだ。
「ん? これは一体?」
目で見える範囲に異常は見当たらない。異臭も嗅げないし、異音も聞かれない。
空気にも異常はなく、熱くもないし、寒くもない。
だが、何かが違う。
幽霊貴族シャルルは宙に浮いたまま周りを見渡した。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ラナス大森林と英雄の町アリエノールに近い、ラルーン峰の登場です。
こちらも小生が循環器疾患病棟に入院して心臓リハビリテーションに励んでいたときに思いついた設定ですねwww
初期プロットではゾンビ製作者と助手が逃げ出して小さな峰に避難、そこから暁光帝の偉業を眺めて震え上がるって展開になるはずでした。
エレンスゲもその時点で登場する予定でして当時は単に「ドラゴン」とだけ想定していましたっけ。
んでもってまたしても主人公の暁光帝は出番なしですぉwww
でも、さすがにそろそろ……
さて、そういうわけで次回は『今や今やと待ち構えていた幻獣達の前に暁光帝がやってきました。ようやく、ようやく、主役の登場でございます。』です。
請う、ご期待!




