暁光帝は上空から密林を観察しながら社会性アメーバ粘菌の活動を調べています。えっ、何ですか? ボクは忙しいんですよ?
親父のやらかしもなんのその、なんかすっかり立ち直ってしまった準主人公シャルル・ロシュフォールです☆
「死んで花実が咲くものか」と思っていたところへ「死んで花実を咲かせてこそ」と言われて目が醒めましたwww
う〜〜ん…いい加減、こいつも影響されやすいなwww
でも、シャルルが目覚めたくらいで何もかもが上手く行くわけもなく。
墓場のイレーヌ邸(地下1F)は新たな騒動が巻き起こるのです♪
お楽しみください。
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万物は流転する。
物事は変化するのだ。
死者の住まう屋敷の地下室、その天井に届かんばかりの巨大水晶玉、その映像の端に小さなメッセージが表示されていた。
それを見た幽霊女中サロメが目を見開いたのである。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」
呪われた怨霊らしい、実に恐ろしい叫び声であった。
「えっ、何?」
「どうしました!?」
屍導師イレーヌと幽霊貴族シャルルは驚いて同時に声を上げた。
「ついにラナス大森林の幻獣達が重大な決断を下しましたわ…彼女が来ます!」
地獄の底から響いてくるような、陰鬱な声でサロメは答えた。
覚悟はしていた。
今回の件は非常にわかりやすい大災害だ。
獣化屍従者は無限に増殖し、人類絶滅に邁進している。その過程で全ての動物が殺されて死肉に変えられ、ゾンビ制作の材料にされることだろう。
彼らは自然の産物ではない、死霊術という超自然の産物だ。
天敵がいないから増殖に歯止めがかからない。
つまり、遠からず、人類は絶滅し、世界が終わる。
本当にわかりやすい大災害だ。
「今回の件で真っ先に迷惑をこうむったラナス大森林の幻獣達が対応するのは理の当然。けれども、全く手に負えない場合、ある重大な決断を下さざるを得ません」
深刻な表情で語る。
「最終調整者に介入してもらうのです」
重々しい口調で幻獣の世界で起きている状況をまとめた。
それは幻獣達の慣習法だった。
誰に命じられたわけでもなく、本当に処理できない問題が起きた時、幻獣達はそれに頼るのだ。
「最終調整者? 最終調整‘官’ではないのですか?」
せっかく前向きに生きよう、もとい、前向きに“死のう”と決意したのにと当惑しつつ、シャルルが尋ねた。
語感からして“裁判官”、もしくは“相談役”のようだが、そんな役職は聞いたことがない。
「幻獣の世界に地位や役職はないのです。だから、少し乱暴ですがひとくくりに考えてしまえば“問題を処理する者”、その究極形と言えてしまいますわ」
幽霊女中が解説する。
「もちろん、日常的な問題について提言する知恵者はいますし、彼らもまた“調整者”です。けれども、その地域の幻獣達が互いに協力し合い、彼らが全力を出し尽くしてもなお解決できないような大問題が起きたときにだけ頼る相手……」
一拍置いて場を見渡してからおもむろに。
「それこそが“最終調整者”なのです」
言い切った。
「はぁ……」
「ほほぉ……」
2人とも大なり小なり驚いている。
シャルルにとっては初めての話だし、主に人間社会で活動する幻獣イレーヌにとっても馴染みのない言葉だった。
「ふぅん、“最終調整者”…それが“彼女”なのね。強力な女怪かしら」
死女は何らかの女性的な要素を持った幻獣を思い浮かべる。
知恵のある強力な女怪と言うと鬼蝮女帝だろうか。他には賢者として有名な獅身女や凶悪な夢魔妓くらいしか思いつかない。
ラナス大森林の幻獣とも付き合いがあったものの、素材の採集ついでに少し話すくらいでくわしくはないが、もしかすると森の奥にとてつもなく強い実力者でもいるのだろうか。。
「彼女のことはお二人ともよくご存知ですよ。あれをご覧ください」
首を傾げる面々にサロメは地下室にそびえる巨大水晶玉の端を指差した。
そこには長方形の枠が表示されており、タイトルが“龍の大図書館”と読める。
「拡大しましょう」
人差し指と親指を長方形の枠に向けて広げると表示が拡大して画面いっぱいに広がった。
これで否応なく読まされるように。
「これは幻獣達が情報交換に使うという龍の大図書館の魔法掲示板ですか?」
「なになに…『ラナス大森林の幻獣一同より最終調整者へ。現在、新型屍従者の大発生により……』」
2人はそこに記された幻獣達の申請書を読んだ。
『世界の危機が迫っているのです!』、『破滅の根源を何とかしてください!』などなど、悲壮な絶望感の漂う書き込みが並んでいる。
また、獣化屍従者の仕様について詳細を記されていたり、森の魔気について図解や解析の結果も載せられていた。
「これは何でしょう?」
「“デカルト直交座標系”によるグラフね。情報を視覚的にわかりやすく表す、最近の流行よ。遠く天翼人の国で使われていたのが広まったみたい」
図表を見て当惑するシャルルにイレーヌが説明した。
「ほへぇ〜…ラナス大森林の幻獣は人間並の文化があるんですね」
幽霊貴族は感心しつつ、もう一つのことに気づいた。
「…ってことはこれだけの高レベルの話を最終調整者は理解できるのですか。凄い話ですねぇ……」
実感してしみじみ感じ入った。
グラフだの、魔力場の表だの、立派な教育を受けた自分ですら初めて見るのに野蛮な幻獣がそれらを理解するとは意外。古龍や不死鳥など、上位の幻獣は知恵が回り、知識も豊かなのだろう。
「うん、なかなかよく調べてるわ。私の獣化屍従者の仕様と動作原理を理解してないと書けない記事ね」
死女は手放しで称賛しているが。
「!?」
突如、文章の一部に目を奪われて絶句した。
それは『もはや天龍アストライアーにしか救えません!』という短い一文だった。
「えぇっ! この最終調整者ってもしかして……」
指差したまま凍りついたように硬直してしまう。
「ほほぉ…この“天龍アストライアー”ってのがくだんの“彼女”なのかい? はてさてどんな化け物なのやら……」
幽霊貴族はその名前をなぞりながら考えてすぐさま思いついた。
「えっ、これはもしや!?」
あまりのことに開ききった口を閉じられず、記憶から絞り出すのが限界だった。
「ああ、唯一無二の、大いなるアストライアーよ。潰した国は百を下らず、殺めた敵は万を下らず。世界の破壊者、天にあり。暁光帝、畏れるべし。障るべからず、障るべからず……」
自然と聖句が口を衝いて出る。
龍戒、光の神を崇拝する光明教団が常日頃、毎日、欠かすことなく唱えている戒めの言葉だ。
シャルルも例に漏れず、日常的に唱えていた聖句である。
だから、わかる。
“天龍アストライアー”という聖名の重みが。
「神殺しの怪物……」
つぶやいて、その重みにたじろいだ。
それを指し示す異名は数え切れない。
“平らげる者”。
“均す者”。
“この世の真の支配者”。
“忍び寄る天災”。
“破滅の邪龍”。
“世界の破壊者”。
“もっともわかりやすい破滅の形”。
様々な呼び名があるものの、意味するところは1つ。
世界規模の甚大な大災害をもたらす超巨大ドラゴン、暁光帝である。
その聖名を指し示す龍戒は暗黒教団と光明教団に共通なのだから影響力の強さが伺える。
かつて、いにしえの昔、光の神と闇の神が勢力を競って世界中を巻き込んで引き起こした神魔大戦の末期、この2柱を殺めて戦争を力ずくで終わらせたのが彼女だ。
それは架空の寓話でも何でもなく、教会に行けばいつでも誰でも聞かされる、神々の悔恨であり、反省でもある。
為政者としてはさらに剣呑な話もさんざん聞かされているので本当に恐ろしい。
「見る者をことごとく発狂させ、死に至らしめるというのは……」
おずおずと尋ねた。
「ほぼ真実ですね。人間の脆弱な精神には彼女の存在が耐えられない。一目、見ただけで廃人になってしまうことが多数。幸運にも耐えられた者だけが彼女の恐怖を次に伝えられるのです」
「そ…そうですか……」
幽霊女中から返ってきた答えは情けも容赦もない。聞けば聞くほど絶望に苛まれてしまう。
なるほど、毒を以て毒を制すか。暁の女帝様なら何とかしてくれるかもしれない。
「何か、とてつもなく嫌な予感がするんですが……」
幽霊貴族はいつもよりさらに青ざめた表情で語った。
暁光帝が地上に降りると何万人もの犠牲者が出て、生き残りが流民と化して国が滅ぶ。
それが天下の常道だ。
ペレネー領も滅びてしまうのだろうか。
死んで幽霊になってもシャルルは心配していた。
「う〜ん…一口に“最終調整者”と言っても結構たくさんいるのよね? どうして天龍アストライアーが関わってくるのかしら?」
不安に駆られながらイレーヌは疑問を口にした。
他には浮島巨亀や蝮女王などがいるはずだ。また、海の問題だと多獣海魔や渦潮魔女が関わることも少なくないらしい。
どうして天龍アストライアーでなければならないのか、それが気になる。
「ええ、他に世界樹“ペリーヌ”が有名ですよね。最近も牧童精霊と半人半馬の間で起きた紛争を見事に解決しました」
サロメは著名な最終調整者の名を挙げた。
幻獣の間では珍しく戦争が起きたのだ。発端はわからないが、同じ草原を住処とする牧童精霊と半人半馬が争い始め、それが同族を巻き込んで拡大し、庇護者である多頭大蛇やなぜかやってきた人食いサソリなどの大物も絡んで大変なことになった。
それを解決したのが巨大な樹木の幻獣、“ペリーヌ”であった。
激しく罵り合う牧童精霊達と半人半馬達を鎮め、多頭大蛇を退かせ、何をどうやったのかさっぱりわからないものの、人食いサソリを説得したのだ。
非常に見事な手腕である。
「けれども、今回は草原がちょっと荒れる程度の事件とは規模が違います。ラナス大森林では自然の動物を差し置いて超自然の獣化屍従者が優占種になりつつある」
状況の違いを説明した。
生物群集に於いて競合する他の種よりも生物量が大きい分類群を“優占種”というわけだが、現状はとてつもなくまずい。
超自然が自然を凌駕しつつある、完全な異常事態なのだ。
「それで彼女が…“物語を終わらせる者”が呼ばれたんです」
背後の巨大水晶玉に映る長方形の枠を示しながら結論を述べた。
「それは…つまり、あ…あぁ…そういうことなのね」
ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた死女だったが、頭の中で物事を整理してようやく理解した。
“ストーリーエンダー”、物語を終わらせる者。
そうだ。壮大な戦記だろうと勇猛果敢な冒険譚だろうと涙の止まぬ悲劇だろうと彼女が来れば全てが終わる。
何もかも終わってしまう。
だから、幻獣達もむやみに依頼することを控えるのだ。
彼女が来れば“物語”が終わってしまうから。
だが、もう遅い。
何もかも。
「ご主人様、実は貴女が殺された日の前夜、彼女が沖を訪れていたんですよ。あの大嵐は歌と踊りだったんです」
幽霊女中は在りし日の出来事を思い浮かべて感慨に耽った。
海神を沸き立たせ、天空を大いに乱したあの夜は忘れられない。
夜の海だったし、嵐におびえて人間達は皆、引きこもっていたが、幻獣の世界でもとてつもなく重大なことが決定した夜だった。
「むむむ! 何やら新しい書き込みが来たぞ!」
幽霊貴族が長方形の枠を指差す。
そこには明らかに他と異なる紫の飾り文字で記された文章が表示されていた。
【この世の終わり? それってP−T境界と同じくらいなん? じゃあ、仕方ないかな】
そう読める。
これに反応してすぐさま新たな書き込みが生じた。
ラナス大森林の幻獣達である。
それは『そうなんです!大変なんです!』『すぐ来てください!今すぐ来てください!』『このままでは本当に世界の終焉が訪れてしまいます!』と狂ったかのように救済を求める文章だった。
「あっ、これが天龍ですよ。けど…みんな、相当あわてていますね。彼女がすぐに来て一番困るのは彼ら自身でしょうに……」
呆れてものが言えないとサロメは額を押さえた。
しかし、それどころではない。
「そんな!? これが天龍アストライアーの…暁光帝の言葉だと!?」
シャルルは酷く驚いていた。
「暁の女帝様が厳しい文語体で喋ってない!」
頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
勉強熱心なので光明教団でも図書館でも色々な本を読んだ。歴史書に記されていた超巨大ドラゴン暁光帝はいつも冷たい目で人間を見つめながら超然と話していた。
もちろん、一人称は“我”だし、常に決然と断言するような口調だった。そこに迷いやためらいは微塵もない。
それこそ『我が治世に逆らう人間どもに鉄槌を』とか、『もはや生かしておくべからず』とか、『許すまじ、全てを灰燼に帰させしめん』とか、権威ある歴史書にはこれらの発言が記されていた。
ところが、魔法掲示板で見る実際の本人はずいぶん砕けた話し方である。むしろ子供っぽいと言ってもいい。
「あぁ…天龍アストライアーはこの上なく優しくて上品で美しいおしとやかな貴婦人ですよ。めったなことじゃ怒りませんし、声を荒げることもありませんわ」
幽霊女中は常識だと言わんばかりの態度だ。
「そぉ? 詭弁を弄していい加減な論説を唱えた相手にはかなり厳しいとも聞いてるけど?」
「それは誰だって怒りますわ、ご主人様」
イレーヌが差し挟んだ異論にサロメはこれまた当然であるかのように答えた。
「……」
シャルルはやり取りを聞いて唖然としていた。
ただ、歩くだけで山谷を踏み潰し、雲を突き抜け、嵐をも蹴散らす超巨大ドラゴンが実は常識のある貴婦人だったなどということが信じられない。
そして、巨大水晶玉に新たな文章が表示される。
【うん、じゃあ、一週間後にボクが行くよー 諸々、よろしくねー】
文字だけなので口調はわからないが、そこから読み取れる感覚は軽い。とてつもなく軽い。まるで『来週、釣りに行こう』と誘っているかのよう。
「ハァ…これが暁光帝の勅命なんですね。暁の女帝様が御代は永遠と言いますが、こんなに軽くても唯唯諾諾と従う幻獣達は一体どうなっているのやら……」
幽霊貴族は頭を抱えた。
威厳がなければ支配者は務まらない、これが常識だ。辺境伯の子供として長年、帝王学を学んできたからよくわかる。
しかし、暁光帝の言葉には威厳がない。
全くない。
それでも幻獣達は逆らうことなく彼女に従っている。
いやいや、逆らうどころか、すっかり頼り切っているようにさえ見える。
何をどうすれば暁光帝は世界を支配していられるのだろうか。
「俄然、興味が湧いてきましたよ。ぜひとも今後の参考にさせていただきたいものです」
理想の為政者になるという新たな夢のため、学ぶ機会は逃さない。
死んだシャルルは死に死にと強い意欲を見せるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ついに我らが主人公、暁光帝の登場です☆
ようやくセリフの2行だけですがwwww
序盤、海上でア・カペラのリサイタル開いて空へ帰っていって以来、ず〜っとエピソードタイトルでオオミズアオとかアリ植物とかムラサキホコリとか見てるだけの生活だったドラゴンにようやく出番が回ってきましたwww
人化する前の暁光帝じゃ、出番なんてこんなものですぉww
登場した途端、物語が終わってしまいますからね\(^o^)/
まぁ、人化した後の童女モード 暁光帝なら……
ミシェルがイレーヌに迫って断罪しようとしたその時に童女モード暁光帝「にこにこ顔面パンチ!」ってぶちかましてふっ飛ばし〜の、
周囲で騒ぐ光明教団の信者どもと安酒で雇われた傭兵どもをまとめてぶん殴って地面に転がし〜の、
「俺の息子を殴ったな!」と怒り狂う前領主だって一族郎党もろとも「にこにこ顔面パンチ!」でぶちのめし〜の、
最後は「悪は滅びた!」とキメておしまい。
誰も殺されず、誰も不幸にならず、めでたしめでたし。
うん、5行で終わってしまった…o| ̄|_
このドラゴン出てくるとあんま変わんねーな(^_^;)
登場すると光の速さでお話が終わってしまうのでなかなか出番が作れませんww
こちら、拙著『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』を描く上で最初にインターネット小説投稿サイトの人気作品を読み漁っていたんですが、やはり「努力も修行もなしで最初から強い」「敵なしで最強」「天下無双の強さで大活躍」って路線が人気と気づきまして。
もともと、こういう斬新で画期的な設定は新しもの好きの血が騒ぐwww
それならと「主人公は人化♀したドラゴン」に決めたわけです。
これなら最初から無敵で最強で無双できますからww
うん、これじゃ強すぎてバトルシーン描けないな\(^o^)/
おかげで暁光帝は基本、舐めプですぉ☆
そして、今回、性懲りもなく人化する前の暁光帝を登場させたいと考えてしまいましたwww
おかげで主人公の出番が減る減るwwwww
さて、そういうわけで次回は『幻獣達は暁光帝の到来を待ちわびています。はてさて、みんな、どんなふうに歓迎してくれるのかな?』です。
請う、ご期待!




