悪霊が人類の行く末を案じています。この世の終わりかな? もっとも、暁光帝はゴジアオイ先生が焼き尽くした花畑を見て唖然としているんですが。
英雄の町アリエノールの滅亡は周辺へよろしくない影響を及ぼしました。
ラナス大森林で特殊な魔気の増大が確認されたばかりでなく、その結果としてアンデッドモンスターが次々と“生ま”れてしまい、逆に動物がどんどん減っているのです。
これは森に侵入したゾアンゾンビの活動が原因であることは明らかで、超自然が自然を凌駕しつつあるのです。
このままでは全ての動物が死に絶え、それが世界へ波及してしまいます。
この新たな大量絶滅が進めば惑星規模の物質循環に甚大な被害をもたらし、世界の終わりという最悪の結末が見えてきてしまいました。
この事態を引き起こした人間達は当然のように無力であり、神々は神界リゼルザインドで押し黙ったままなすすべがありません。
事ここに至って森の重鎮達は最後の手段を執ることを考えます。
果たして世界の危機は回避できるのでしょうか!?
お楽しみください。
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滅び去ったアリエノールの町にもう人間はいない。
鳥以外の動物も失せてしまい、植物だけが生きている状態だ。
秋の日差しが建物を照らす。
誰も訪れないから芝居小屋はもはや廃墟だ。早くもホコリが積もってあちこちに蜘蛛が巣を張っている。
鳥や虫を除けば動く者は獣化屍従者のみ。
『人間どもを皆殺しにしろ』と命じられているので無人の町に用がなく、殺すべき相手を探して多くが出ていってしまった。
それでもまだけっこうな数が残っている。
もっとも、墓場の隣、死者の暮らす屋敷の地下室だけは今でも活気があった。
亡者女中達が主のためにかいがいしく働いている。
「僕らの町アリエノールが滅びてもまだ危機は終わらないんですか!?」
天井に届かんばかりの巨大水晶玉を見つめながら、幽霊貴族シャルル・ロシュフォールは絶句していた。
町のあちこちを映し出す、魔法の水晶玉で確認して、ようやく現実を認識できたのだ。
「このままだと世界中から人間が死に絶えてしまいます……」
呆然として頭を抱えた。
自分の出した最期の命令はしっかり憶えている。
『人間どもを皆殺しにしろ!』だ。
“人間”は全ての人種を意味する言葉であり、ヒトも妖精人も小人も獣人も対象になってしまう。アリエノールの町で起きた滅亡の悲劇が世界中で起きることになる。
誰も生き残れない。
文明が崩壊するどころか、人類が絶滅する。
大変なことだ。
「うん、まぁ、屍従者は主が死ぬと命令が無効化されて完全に停止するものなんだけどねー」
麗しい屍導師イレーヌが一緒に水晶玉を眺めている。
砕けた調子だ。
もう顧客ではないシャルルに敬語を使うのはやめたのである。
「ん〜♪」
操作すると映像が変わり、いろいろな場所を映してくれるが、そこに動く者は獣化屍従者だけだ。
今のアリエノールに人間は1人もいなくなってしまったのだ。
けれども、死女の言葉は幽霊貴族にわずかな希望を垣間見せた。
「命令が無効化されて完全に停止するって…もしかすると獣化屍従者を止められるのですか!?」
思わず声を張り上げてしまう。
しかし。
「あぁ、昔の仕様ね。今はダメ。止まらずに最後に受けた命令を遂行するよう屍従者の仕様を変えちゃったわ」
にべもなくイレーヌはかぶりを振った。
「そんな! どうして!?」
思わず、シャルルの語気が荒くなってしまう。
「貴方のお父さんに殺されたとき、屍従者も幽鬼も停止して、みんな滅ぼされちゃったのよ。それで反省してね〜 所有者が死んでも最後に聞かされた命令を遂行するよう仕様を変えたわけ」
死女はあっけらかんと答えているが、内容はまたしても領主の悪行がもたらした結果だった。
「父上? また、父上か! どこまで僕の足を引っ張れば気が済むんだ!?」
そのまま、テーブルに突っ伏した幽霊貴族。死んでも親子のしがらみからは逃れられないらしい。
「父は能力不足なのに辺境伯になってしまった凡愚でした。兄も同じ無能で到底、為政者の器ではなかったのに…そうなろうと足掻いた。その結果がこれです。これほど大規模な破滅です」
嘆いた。
止めどもなく涙があふれた。
死人だらけのお化け屋敷の地下室で号泣するとか、つくづく幽霊らしい幽霊だと自分でも思う。
そんな死者の泣き言に慣れているのか、イレーヌの反応は同情的ではない。
「戦いは必ずしも強い奴が勝つとは限らないし、競争は必ずしも優れた者が勝つわけじゃないわ。勝敗には色々な因子が絡むもの」
これまたあっけらかんと言う。
言い換えれば『勝負は時の運』か。月並みな言葉を色々修飾して伸ばしただけだ。
「これが神の定められた…運命だと?」
愚父は形ばかりの信徒で信仰も見せかけだったが、シャルルは敬虔な光明神の信徒だ。唯一絶対神である光の神を崇拝し、『みんな仲良く健やかに』という教えを信じ、実行している。
それで大勢から支持され、部下達からも慕われていたのだ。
『全ては神の思し召すままに』と考えてきたのだから、物事の推移は運命に支配されていると考えるのも当然である。
しかし。
「宿命も偶然もないわ。如何なる時、如何なる場所でも勝つ、そんな“強者の存在”そのものが幻想だと言ってるの」
死女は運命論など意に介さない。
強者が勝ち、弱者が負けるという実力主義の根幹さえも否定している。
「神の…神のご意思を否定するのですか?」
堂々たるその態度に動揺して幽霊貴族の言葉が揺らいでいた。
内心、『神をないがしろにするとは何と不敬な』とも思ったが、不死の怪物なのだ。神から見放されて当然かとも気づいた。
そう考えると自分もまた同じなのだと実感してさらに動揺を深くした。
「神学論争には興味ないわ。あの時、あの場所でお父さんが仕掛けて私は死んだ。同じくお兄さんのせいで貴方も死んだ。でも、今は私も貴方もこうして元気だわ。死んでるけど」
イレーヌはかつて殺されたことを何とも思っていない。死んで強大な不死の怪物に変化した今となってはどうでもいいことだ。
おかげで3桁に及ぶ人数の祖先と縁が切れた。
もっとも、領主の勝手でやったことだ。恨みもしないが、感謝もしない。
「でも、僕は負けた……」
自分を殺そうとした兄アルマンは返り討ちにしてやったが、結局、シャルル自身も裏切られて殺された。
敗北の味が苦い。
何度思い出してもはらわたが煮えくり返る。
それでもイレーヌは状況に動じない。
「あら、負けたままでいるのかしら? これから時間は無限にあるんだからやりたいことをやればいいのに」
いたずらっぽく嗤い、死女は平然と幽霊貴族の消極的な姿勢を挙げて他の方法があることを示した。
だが、しょせんは言葉である。革新的かつ楽観的であっても言葉だけでは納得させられない。
「人間を辞めてしまったんですよ! もう何もかもおしまいじゃありませんか!?」
号泣して深い絶望を語るシャルル。あふれて頬を滴る涙が実に幽霊らしい。
しかし、どれだけ嘆いて見せてもイレーヌは平然としている。
「人間でなければ得られない幸せがあるように人間であっては得られない幸せもある」
とんでもないことを言い出した。
それは生きた人間にも死んで人間を辞めたばかりの幽霊にも思いつかない考えだった。
「そんなもの、ありません!!」
信じられるわけがない。幽霊貴族は激しく反発した。
ヒトは世界の主役である。ヒトこそが世界を支配する権利を持っているのだ。
そんなヒト至上主義が青年の心を染め上げていた。
そのため、ヒト族どころか人間を辞めてしまったことに強烈な引け目を感じている。
だから、否定したい。
幽霊も幸せになれるかもしれないという考えを。
だが、しかし。
「それがあるから私は死んで屍導師になったの。当然、今は幸せよ」
またしても死女は麗しき幽霊女中サロメの肩を抱いてニッコリ笑う。
そこには人間を辞めたことに対する負い目などまったくない。むしろ、自信満々で胸を張っている。
「まぁ、ご主人様ったら……」
サロメもまんざらでない様子。
「!?」
シャルルは目を丸くした。
いや、いや、女性同士ではないか。
女性同性愛は光の神に否定された禁忌だ。
光の神の教えはあまねく全ての人間を縛るのではないか。
だが、すぐに考えをあらためる。
「そうですか…貴女方はもう……」
死者には法律が適用されない。人間の法も神の法も。
そのことに思い至って言葉に詰まった。
「でも、それは人間からも神からも見放されたということではありませんか……」
今の自分は呪われた悪霊、不死の怪物だ。
もはや天国の門が自分に向かって開かれることはない。
それどころか、地獄にすら行けず、永遠に地上をさまよい続けなければならなくなってしまった。
やはり絶望するしかない。
考えれば考えるほど気持ちが沈んでしまった。
けれども。
「生前の夢が潰えたなら死後の夢を追い求めればいい」
神に愛されなくなったと言うのにイレーヌは平然と未来を語る。
発想のコペルニクス的大転換で『死んでからも夢を見る』と唱えたのだ。
もう無茶苦茶であるが、なるほど、不死の怪物なら不可能ではない。
「僕は立派な領主になって人々を導きたかったのです…その夢を今の僕がどうして実現できるでしょう? 幽霊なんですよ!」
嘆くように、怒鳴るように、シャルルは言った。
やはり、夢は破れたのだ。
死人が王になれるわけがない。
死んでるのだから。
誰だって、そう、奴隷であっても死者には従わないだろう。
「歳を取らない不滅の指導者になればいいわ。あぁ、いっそのこと、死者を導けば? 不死の王として死者の国を永遠に統治なさいな」
麗しき死女はこれまた発想の転換を示した。
“不老不死”や“永遠の統治”など、為政者の夢を添えたおまけ付きである。
「!?」
思わず、シャルルは動揺してしまった。
発想の転換が凄すぎる。
いや、何十年も死人であり続けてきた屍導師にとっては当たり前の考えなのかもしれないが。
なるほど、“理想の国家を永遠に統べる不滅の指導者”という考えは悪くない。
「そうですか…そういう道もありえるのですか……」
脳ならぬ、不死の怪物の思考を司る“死の花”がフル回転し、幽霊貴族の思考を巡らせた。
考えてみると悪くない。
いや、むしろ、よい。
それが能う限り賢明であり続けるのなら、政治が決して腐敗しない、理想的な独裁国家を打ち立てることさえも可能なのだ。
自分は死んだが、まだ終わってはいないのではないか。
“成し遂げられたもの”とも言われたが、成し遂げられた後に何かやってもいいのかもしれない。
絶望に落ち込んでいた思考が急速にプラス方向に転じてきた。
「もう一度言うわ。貴方には無限の時間がある。好きなだけ休んで好きなだけ考えればいい。屍導師は死者を歓迎するわ」
イレーヌは両手を広げてシャルルを迎えた。
その姿は自信に満ちあふれ、威風堂々、何者にも揺らがぬようにさえ見えた。
「……感謝します」
誠にありがたい申し出である。太陽の光が差さないこの地下室は幽霊にとって理想的な休憩所だ。シャルルは素直に受け入れることに決めた。
「理想社会の実現ですか……」
為政者なら誰でも一度は考える夢だ。
過去、立派な名君だけが実現できたという理想郷である。だが、どんなに立派な人間だっていつかは死ぬ。名君が没すればいずれ暗君が現れ、政治が腐敗して国家は滅びていく。
それが世の常だ。
父ミシェルがいい例である。
しかし、例外を作れるかもしれない。
決して老いることも死ぬこともない、能う限り賢明であり続ける指導者は永遠に衰えることなく、公平で公正な社会を築いて人々を導いていく。
そんな政治家の夢を幽霊貴族なら実現できるかもしれない。
そう思うと身体が震えた。
「あ…あぁ……」
幽霊になっても自分にはまだ情熱がある、他人の話を聞いて感動できる、そう実感した。
死んだのが何だ?
人間を辞めたのが何だ?
夢を叶えられるかもしれない。
幽霊貴族の青年は新たな希望の光を見出し、死んで初めての喜びに打ち震えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
コロコロ変わる物語の視点wwww
今回はダブル主人公(仮)イレーヌと準主人公シャルルの近況でした(^_^;)
またしても会話文だらけwwww
またしても論理ギャグwwww
こんなんばっかしですね〜
楽しんでいただけたのか、激しく不安であります。
そして……
祝! 百合☆
ついに「この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。」という警告が生きてきました\(^o^)/
あ〜〜
うちの『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』はお笑い小説だし、メイン主人公の暁光帝は恋愛能力0の朴念仁だし、物語は進めなくちゃいけないしで全然、百合展開を持ち込めませんでしたが!
ついにサロメ☓イレーヌの百合♀×♀関係を描写できました♪
ええ。
5行だけwwww
元々、入院中に心臓リハビリテーションで循環器疾患病棟を散歩しながら悪魔竜サタンと暁光帝のバトルシーンを夢想していたんですが、それだと30行くらいで物語が終わっちゃうのであ〜でもないこ〜でもないとプロットをこねくり回しているうちに……
「あぁ、ゾンビの製作者が要るなぁ」と『イルーニュの巨人』の妖術師ナーデルみたいなネクロマンサーを考えたんですが、そりゃ、巨乳ぅんな美女にしないとという義務感?
当然、助手も巨乳ぅんな美女で2人とも長身で…と設定して〜
消灯後、病室のベッドで百合ん百合んな展開は当然と色々エピソードに肉付けしていたらまんま官能小説にwww
でも、やっぱりメイン主人公が暁光帝なので関係ないエピソードをバッサリ切ったらこんな物語になりましたぉwwwww
つまり、元々は2人の百合ストーリーだったんです\(^o^)/
実はこの5行の百合♀×♀シーンも途中プロットと言うか描写する直前まで「もう面倒くさいからアンデッド美女の友情ストーリーくらいに薄めちゃおうか」とも思っていたんですが、せっかく目次の左上に警告文も載せましたしね。
あ〜…なんですか、最近のポリコレですか?
“ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)”とや、いい迷惑ですね〜〜
小生、「描くな!」言われるとメチャ反発して筆が進むんですよ(^_^;)
逆に「描け!」と言われると萎えます。
とりわけ「もっと空気を読んで同性愛を描くべき」とか言われるともう最低最悪に萎えちゃうんですぉwww
でも、まぁ、元々好きなものを嫌いになってやる義理もありませんしね。
やっぱり「好きなときに好きなものを好きなだけ描くのが同人誌の醍醐味じゃぁぁぁぁぁっ!!!」の精神で生きます(^o^)
誰かに配慮して描くなんて真っ平ごめんですから。
「描くな!」と言われても「描け!」と言われても無関係に描きましょう♪
でも、ついこの間まで百合もやおいも「描くな!」言われてたんですよね〜
それが創作意欲につながっていたひねくれものは小生だけじゃありますまい。
なんかはしごを外された気分です(^_^;)
しかし、このままポリコレが進んだら吉屋信子の『花物語』や竹宮景子の『風と木の詩』から始まった“禁断の愛”が禁忌でも何でもなくなっちゃいますね。
リアルで実践している方々にとっては喜ばしいことなんでしょうし、そういうのを夢見て描いてきたわけですが…なんともはや。
戦前のドイツ映画『制服の処女』→戦前の少女向け小説誌『 少女倶楽部 』→吉屋信子『花物語』→(戦時下の圧力で空白期間)→(戦後もヘテロ恋愛だらけの百合砂漠)→OVA『くりぃむレモン2・エスカレーション〜今夜はハードコア〜』(エロ百合)→少女小説『マリア様がみてる』→(“姉妹制度”で本格ブレイク)→百合♀×♀キス満載『桜Trick』→『閃乱カグラ』→『まちカドまぞく』→『リコリスリコイル』→『お兄ちゃんはおしまい!』→『機動戦士ガンダム_水星の魔女』……
……と、まぁ、色々迫害されつつも連綿と続いてきた日本の百合文化が欧米からやってきた新たな黒船? ポリコレの影響でまたずいぶんと変わるのかもしれません。
今までは「描くな!」「描くな!」「描くな!」「描くな!」「描くな!」「描くなぁぁぁぁぁっ!」の一辺倒だったのが真逆の「もっと社会に配慮して描け!」に変わりつつあるわけで(^_^;)
いや、おまいが影響されてどうするんだって話ですけどね〜
さて、そういうわけで次回は『暁光帝は上空から密林を観察しながら社会性アメーバ粘菌の活動を調べています。えっ、何ですか? ボクは忙しいんですよ?』です。
請う、ご期待!




