追い詰められた幻獣達は最後の決断を下します。一方、その頃、暁光帝はワカメとミズカビの遊走子をどう分類するべきか悩んでいました。
長かった復讐譚もようやく終わり、ギヨームはイレーヌの無念(笑)と自分の恨みを晴らしました。
めでたし、めでたし\(^o^)/
そして、物語の視点はアリエノールの町の外へ。
幻獣達が困っています。
はてさてどうなってしまうのでしょう?
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
ヒト族のゴール王国はペレネー領の領都アリエノールが滅びた頃、ラナス大森林も大変なことになっていた。
人間のいなくなったアリエノールに用はないと獣化屍従者が本格的に町からあふれ出したのである。
森に入り込んだ獣化屍従者は死肉を求めて奔走し、生きた動物を殺して死肉に変え、それを元に増殖を始めた。
森の動物性生物量が物凄い速度で失われつつあった。
同時に負の生命力とξ-ⅳという特殊な魔気も増えていった。
今日も素敵な曇天。木漏れ日も差さない森をハゲ頭の吸血鬼ハミルトン男爵が歩いている。
「こんにちは」
「うゔぁぁぁ……」
「あ〜…う〜……」
挨拶を返してくれない、何とも寡黙な隣人らとすれ違った。
服装を見る限り、戦士と僧侶、おそらく冒険者だった男達だ。もっとも皮膚は変色し、肉は腐ってハエがたかっている。典型的な不死の怪物だろう。呪われた土地などの特殊な環境下に於いて死体が蘇ることがある、そんな怪物、“生ける死骸”に違いない。
「あ、そうですね。天気が悪いと色々はかどりますよね。うん、うん」
生前は人間だったおかげか、嘘は吐けなくても曖昧に相槌を打つくらいはできる。
無視はよくないし、コミュニケーションは大切なのだ。
しかし、残念ながら。
「え゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
「おぇっ! おぇっ! おぇろろろろろろっ!!」
元・戦士からはまともな言葉は勝ってこないばかりか、元・僧侶は盛大に嘔吐し始めてしまった。
「…」
男爵は呆然として立ちすくむばかりだ。
同じ不死の怪物の吸血鬼だから生ける死骸にかじられたり、殴られたりといった危険はない。
ないのだが、他の迷惑はこうむっているとつくづく思う。
後、全国アンデッド地位向上連盟は根拠のない差別と偏見に会員が苛まれていると主張するが、ここまで不潔で傍若無人に振る舞っていれば無理もないと思えてしまう。
頭を抱えていたら別の不死の怪物がやってきてくれた。
「おや、これはこれは! 新たな同胞ですな☆ もちろん我々は歓迎しますとも♪」
全国アンデッド地位向上連盟のペレネー支部長の墓鬼だ。心なしか、疲労感が漂っている。
死人は疲れないのでおそらく精神的なものだろうが。
「あぁー…うぅー……」
「おぺろびぇばぁ? あふぇふぇふぇふぇ!」
まともに返答しない生ける死骸達は奇っ怪なうめき声を上げたり、狂人の高笑いを返してきた。
「ええ、おっしゃる通りですね。そういうこともありましょうとも」
腐って干からびた肉体が黄色く発光する墓鬼は人間から見たらおぞましく恐ろしい怪物だろうが、同胞の吸血鬼からは気の毒な人物にしか見えない。
「最近、コノらなす大森林デ急激ニ不死ノ怪物ガ増エテイルノデス。オソラク、負ノ生命力ナドノ特殊ナ魔力場ガ偏在シテイルノデハナイデショウカ」
黒い肌が魅力的な半裸の美女、呪吸血鬼が疲れた表情で現在の状況を説明してくれた。
差別と偏見の撤廃を掲げる連盟だから、新たな同胞も選り好みするわけにはいかない。
けれども、知能の低いと言うか、まともな思考力すらない生ける死骸ばかり湧いてきて対応が追いつかないのだ。
「そうですか……」
獣化屍従者の扱いさえも未だに何も決まっていないと嘆いていたから大変なのだろう。
うなずく男爵だったが、心中は複雑だ。
連盟にも色々な意見があるらしい。
同胞だと歓迎する声も無きにしもあらず。けれども、『屍従者は人間の奴隷だろう』、『自由意思を持たない者は不死の怪物ではない』などの意見も根強いと聞いている。
両者の意見がよくわかるから男爵は何も言えない。
「いやはやなんとも」
苦労する仲間を横目に男爵は新たな複素数の概念に考えを集中させた。
逃避だとわかってはいるが、数学なんてもともとそんなものだとも思いながら。
****************************
ラナス大森林の奥、淡水湖のほとりでは上位の幻獣達が集まって難しい顔をしていた。
本日も曇天。
いや、別に森の空がいつも曇っているわけではない。吸血鬼や冥精霊などの日光が苦手な仲間に配慮して会合の日時を決めた結果である。
話し合いのテーマは当然、森の現状について。
「わたくしはもう我慢なりません。今、引っ越しを検討中です」
最初に口を開いた者は清浄を好む馬だ。
もちろん、“馬”と言っても自然界の生物ではない。人語を解するきれい好きの幻獣だ。
今、口を開いた天翼馬を始め、八脚馬、水妖馬、一角獣、二角獣とそうそうたる面々である。
「あー…うん、そのー…現状については我々も早急に何とかしなければいけないと考えてはいるのですが、いかんせん、諸般の事情で……」
腐った肉体にボロをまとわせ、黄色く発光する墓鬼がしかめ面で弁明した。
「貴方はそう言うが、現に何ともなっていないじゃありませんか!?」
女好きの馬が話す。性根は腐っているが、額から立派な角を生やした真っ白な馬、一角獣だ。丁寧な言葉遣いにも関わらず、口調は荒い。
「困るんですよ。普通に走っていてもぶつかりそうになる。生ける死骸なんぞに衝突したらどうなることやら」
地上最速を謳う八脚馬も不満たらたらだ。精悍な面構えながらこれまた二枚目である。
幻獣の馬達はいずれ劣らぬ美貌を誇る。それは人間からもモテるだろう。
「横を通るだけで臭いわ」
「話すと病気が伝染っちゃいそう」
「いるだけで不快ね」
水精霊や樹精霊ら、女精霊達からの評価も散々だ。
「森の動物達が減っているわ。それにつれて不死の怪物が増えている。これら2つの現象に関連があるのではないかと疑うのは当然でしょう」
花白仙女の報告も暗い内容だった。
「「「クゥ〜ン……」」」
仙女の足元にたむろしている人食いオオカミ達も悲しげにうなった。日頃、食うか食われるかの殺伐とした勝負の世界に生きているだけに気弱になったときの落差が酷くて哀れを誘う鳴き声だ。
「この子達も三叉樹達もはもう一週間、ずっと大豆ハンバーグしか食べていません」
植物の生育に長けた森精霊が心配そうに語った。
わさわさ〜 わさわさわさ〜〜
こちらは三叉に分かれた根で歩く肉食植物、三叉樹の群れに囲まれている。
「ムームー!」
「モケケケケ!」
「ケッヒョ、ケッヒョ!」
何を言っているかはわからないものの、魔人茸や毒人茸ら歩くキノコ達も不満げだ。
「う〜む、現在、人食い系の幻獣は花白仙女と森精霊らが養っているのか…危ういな」
水竜ガルグイユも将来に暗い影を落とす現状を案じた。
「昨日、一日がかりで測定してみたわ。負の生命力やξ-ⅳと言った特殊な魔気の環境が著しく悪化しているわ」
魔女はパピルスを示した。
そこには森の各地で測った魔気の状況と不死の怪物の発生率が記録されていた。
「これらのデータは花白仙女の推測を裏付けている。獣化屍従者の増殖が特殊な魔力場を強めていることは明らかよ」
はっきりとした口調で言い切った。
「むぅ……」
ハゲ頭の吸血鬼、ハミルトン男爵も異論は差し挟まない。相関係数を明示されなくても獣化屍従者の活動が森の動物達が減らしていることは明らかだ。
「このままではラナス大森林が滅びてしまいますね」
絶望的な状況に口調も沈む。
「それだけじゃすまんよ」
樹木人も重い口を開く。
「獣化屍従者の増殖には制限がかかっていないんじゃ。つまり、無限に増殖できる…いや、増殖するじゃろう。彼らを突き動かす命令が命令だけにそれが意味するところは1つ……」
避けがたい未来の到来におののいている。
獣化屍従者は『人間どもを皆殺しにしろ』と命じられている。
命令を遂行するために増殖する、増殖するために殺す、殺して増殖する、その繰り返しに制限がかかっていないのだ。
全ての動物が死肉に変えられてしまうことだろう。
人類絶滅だけでは終わらない。
夢惑星エランの自然環境が激変してしまう。
「世界の終わりじゃ」
老木は短く簡潔に結論づけた。
自然環境の激変がもたらす影響は人食い系の幻獣だけにとどまらない。
大気中に宿る精霊の霊気も変質するから低位の幻獣も参ってしまう。最悪、食事も呼吸も必要としない上位の幻獣しか生きられない世界になってしまうだろう。
「もはやこれまで。最後の手段を執るしかないようだ」
ガルグイユは覚悟を決めた。
獣化屍従者は水竜ブレスでも殺せなかった。
森で最強の自分でも倒せない奴らを処理する方法はないものか。
「そうじゃな。お主がダメなのじゃから他に手はないかもしれん」
「最後の手段か…他に方法がないんじゃ仕方ないわね」
「世界の終わりを止めるためよ。やむを得ないわ」
「もう救えるのは……」
樹木人も花白仙女も魔女も口々に賛同していた。
「最後の手段?」
意味がわからず、吸血鬼は当惑した。
もう世界の終わりは避けられないと思っていたが、何か手段があるのだろうか。
すでに死んでいる獣化屍従者を殺すことはできない。
彼らは無限に増殖する。
その口に命の息がある者を全て食い尽くして。
死者の軍団が侵攻し、世界を滅ぼす。
そんな未来しか視えないのに。
ところが、水竜ガルグイユは語る。
悲壮な面持ちで。
「彼女と話そう」
たった一言、告げるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ラナス大森林の幻獣達がとても困っています。
このままでは人類絶滅なのです\(^o^)/
あ、人類が滅亡してもドラゴンや魔女は困りませんねwww
吸血鬼や人食いオオカミは困りますがwww
でも、世界中の動物が絶滅したら好気呼吸が減って惑星規模の酸素循環と炭素循環が乱れちゃいます(>_<)
やっぱり世界の終わりですねwwww
そこで幻獣達は最後の決断を下しました。
さぁ、どうなることでしょう?
人類の絶滅は避けられるのか?
世界の危機は本当に来てしまうのか?
事ここに至って神々は何をしようとするのか?
そもそも「2以上の任意の整数は一意的に素因数分解されることが証明されなければならない」って話はどうなったのか?
さて、そういうわけで次回は『悪霊が人類の行く末を案じています。この世の終わりかな? もっとも、暁光帝はゴジアオイ先生が焼き尽くした花畑を見て唖然としているんですが。』です。
請う、ご期待!




