廃都アリエノールに降る流星雨を死者が眺めます。詩的ですね。暁光帝は220と284を見つめます。詩的ですかね?
英雄の町アリエノールは滅びました(>_<)
善人も悪人もゾアンゾンビに襲われてしまい、住民のほぼ全員が町を出ていってしまったのです。
でも、まだ、残っている奴もいるんですよwwww
残り物には福があるかもしれません。
さぁ、どうなることでしょう?
お楽しみください。
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満天の月夜である。
広場はゴミひとつ落ちていなくてきれいなものだ。
ただ、隅の方に鎧や兜、そして、剣が山と積まれていることだけが不自然だった。
そんな広場で1つの影が動き出した。
きれいな礼服に身を包んだ若者だ。
辺りを見渡すと頭を振って何とか意識をはっきりさせようと努める。だが、どうにもならない。頭にぼんやりと霧がかかっているような感覚で色々なことが思い出せないのだ。
「う〜む、僕は一体……」
もう一度、月に照らされた風景を見渡した。
「何か、物凄くまずいことが起きてしまったような……むむっ、これは!?」
自分の手を見て驚いた。
袖も手そのものも半透明で透き通っているのだ。
「これはどうしたことだろう? 鏡が見たいな」
若者は壊れた舞台の横を通り過ぎ、貴人の控室に入った。身だしなみを整えるための鏡があった。
「うぉっ! 全身が白く透き通ってるぞ! これは一体!?」
若者は驚いた。
同時に自分の顔を見て思い出す。
「僕は……」
記憶の糸を手繰り寄せ、名前と地位の重みを感じた。
それから色々探していると1頭の獣化屍従者に出会った。ネズミの頭を持つ鼠化屍従者だ。
「おい、今、戦況はどうなっている!?」
半透明の青年は自分が置かれている状況が知りたかった。
ところが、ネズミの頭の鼠化屍従者はほとんど反応しない。
「コレハ人間ジャナイノデ討伐対象ニ該当セズ」
こちらの様子をチラリ見ただけで興味を失ったらしく、さっさと歩いていってしまった。
「えっ、どういうことなんだ? 獣化屍従者が言うことを聞かないなんて……」
自分をないがしろにする部下に青年は呆然としていた。
その時、背後から声をかけられた。
「おや、シャルル・ロシュフォール様。お元気そうで何より。こんばんは〜」
気楽な調子で明るく声をかけてきた乙女は布地がはちきれんばかりの爆乳を揺らしている。
そして、隣りに立った女中もまた青年と同じ白く透き通った姿だった。
2人とも自分より背の高い、長身の女性だ。
「墓場のイレーヌ嬢に…幽霊女中サロメ……」
若者は記憶の底から2人の名前を手繰り寄せた。
「あらあら、まぁまぁ…素晴らしい☆ ご主人様、お客様の記憶が完全に残っているようですよ」
「町中にできたメガデスポイントだからちょっと見ておこうかと立ち寄っただけなのに思いがけない幸運ね」
2人は嬉しそうに語り合う。
「あぁ、説明が必要ですね。“呪怨培地”とは大勢が亡くなるような大事件、戦争や災害などの爪痕を指し示す…まぁ、死霊術の専門用語ですわ」
墓場のイレーヌは生徒に教えるような調子で語る。
「恨みや憎しみ、悲しみや苦しみの感情が土地を呪い、強い負荷をかけた結果、不死の怪物が発生しやすくなった場所のことです。えぇ、今、蘇ったばかりの貴方のような幽霊を生み出しやすい土地なのですよ」
広場が呪われた土地になったことを語って気色満面で笑む。
こういう場所は死霊術的に重要なのだ。
呪いが酷すぎて非常に浄化しづらく、より少ない手間でより高品質の商品をより多く生産できるようになる。
つまり、イレーヌの仕事がやりやすくなるわけだ。
もちろん、怪物がはびこる呪われた土地が町のど真ん中にあるということは住民にとって楽しくはないだろうが。
「おめでとうございます。貴方は生前の記憶を保ったまま悪霊になっちゃいました」
「ご逝去、おめでとうございます。わたくしは幽霊貴族シャルル・ロシュフォール様を歓迎いたしますわ」
信じがたいことに2人は若者の死を心から喜んでいた。
だから、彼の死を祝ったのである。
「ハハハハ…そうですか、僕は死んでしまったのですね。もう人間じゃないんだ…ハハハハ……」
乾いた笑いを響かせてシャルルはあらためて鏡を見た。
白く透き通った姿は幽霊女中サロメと同じ。
なるほど、自分は死んで黄泉の国から迷い出たに違いない。
人間の死は不死の怪物の誕生。
だから、人間でない同胞から祝われる。
そのことが抵抗なく、すんなりと頭に入って理解できた。
「僕が死んだとき、大勢が戦っていましたが…どうなったのでしょう? どうして広場はこんなにきれいなのでしょうか?」
卑劣な裏切りに遭い、自分は殺された。
最期に命じた言葉もはっきり憶えている。
とんでもないことを命じてしまった。
恨みも後悔も怒りも憎しみも悲しみもある。
けれども、そのどれもが熱くない。
死ぬ直前までは強烈な感情に身を焼かれてまともに考えることすらできなかったのに。
今は胸を焦がすような、あれらの感情が残っていない。
これも死んでしまったからなのか。
「あぁ、あの後ですか…色々大変でしたよ」
死女は静かに話しだした。
大勢が亡くなったものの、死体は全て獣化屍従者を造るための材料にされてしまった。
武器や防具は不要だったのでそのまま転がされていたが、一応、形見なのでそのまま捨て置くのは忍びがたい。そこでイレーヌに派遣された亡者女中達が広場の隅にまとめておいてくれたのだ。
「獣化屍従者達は最期の命令…貴方の遺言を遂行すべく活動していますよ」
死女は最も重大な事実について言及した。
“最期の命令”、それは幽霊となったミシェル・ロシュフォールの記憶にもしっかり刻まれている。
確かに『人間を殺せ! 皆殺しだ! 世界中の人間どもを皆殺しにしろぉぉぉっ!』と叫んでしまったのだ。
まずい。
思いっきりまずい。
「もしも、彼らが忠実にあの命令を遂行したら……」
思い出してシャルルは絶句した。
それが意味するところはとんでもないことになってしまう。
「いいえ! 違いますっ!! 僕は断じて人類絶滅など望んでいないっ!!」
思わず、絶叫してしまった。
「今すぐ配下の獣化屍従者達に中止命令を出さなければ!!」
無用の被害を抑えなければとの想いからあわてて指揮棒と剣を探す。部隊の指揮官は剣を佩き、指揮棒を振ることで兵士達に命じるのだ。
「剣は!? 指揮棒は!? あぁ…鎧もない!」
着飾って名乗らなければ部下達が命令を聞かない。
急がないと大勢の市民に犠牲が出るだろう。
目を皿のようにして見渡すが、自分の指揮棒が見当たらない。
一体、誰がどこへやったのだろう。
「ない! ない!」
悪霊となった青年は必死で探していた。
けれども、広場はきれいに掃除されていて何も落ちていない。
そこで武器や防具がまとめられている場所に走った。
だが、見つからない。
「これは!? 違う! 私の指揮棒じゃない!…あぁっ!」
探して、探して、ようやく目当ての指揮棒を見つけ、持ち上げようとして驚いた。
つかめない。
手が指揮棒をすり抜けてしまうのだ。
当惑していると絶望的な事実が告げられる。
「幽霊は普通の物質に触れることができませんよ。何せ幽霊なんですからね」
「幽霊の肉体を構成する霊物質を調整しないと無理ですね。まぁ、悪霊なら半年は練習しないと」
不死の怪物の専門家とその助手が決定的な事実を解説してくれた。
説明が続く。
「普通、幽霊の肉体は霊物質で構成されています。これは通常の物質に干渉しづらい。重さもないから浮くんですが、空気とも干渉しないから飛んでるわけじゃありません」
専門家らしく死女が専門用語を交えて話す。
「では、どうして移動できるのかと言うと大気をイオン化することでイオノクラフト現象…まぁ、風の精霊魔法みたいな原理で推進力を得ている。だから、“ひゅ〜どろどろどろ〜”なんて異音が発生するんですよ」
幽霊の実態について微に入り細を穿ってわかりやすく説明してくれた。
「は…はぁ……」
半分くらいわからなかったが、このままでは指揮棒も持てないし、剣も佩けないようだ。
どうやらサロメのようなベテランならともかく、並の幽霊では物に触れることさえできないらしい。物を使えるようになるには半年は練習しないといけないのだと言われてしまった。
だが、それでは間に合わない。
「いや、それでは困ります! 理屈はどうあれ、僕には責任がある! 領民に対して為政者の義務を果たさねば!」
血の叫びだった。
シャルルは喉が張り裂けんばかりに主張したのである。
しかし、イレーヌは落ち着いた口調で意外な言葉を唱えた。
「もういいんですよ。貴方には何の責任も義務もありません。だって死人なんですから」
美貌の死女はさも当然と言った口調で続ける。
「“責任”の反対は“権力”、“義務”の反対は“権利”です。でも、死者にはもう権力も権利もない。死んでるんですからね」
わかりやすいよう対義語の概念で話す。
「だから、責任や義務も課されない。貴方の祖先が過去の失政について責任を問われないようにね」
実例も挙げて丁寧に論理を積み重ねていく。
「自覚なさいな。貴方はもう“成し遂げられたもの”の一員になってしまったんですよ」
にっこり笑ってえげつない事実を告げた。
死人に口なし。
ならば、死者が権利を行使することがないように義務を負うこともない。
「そんな! 僕は…僕は……」
シャルルは肩を落としたが、今まで生きてきたことの重みからすぐさま解放されるわけではない。
「いや、でも! 領民が! 守るべき僕の領民が待っています!」
顔を上げ、キッと鋭い視線を投げかけてイレーヌを見据えた。
それは貴族の後継者に生まれた青年の気概だった。
権力を振るうために責任を負い、責任を負うために権力を振るう。為政者として当然のことだ。
けれどもイレーヌはそれさえもどこを吹く風といった態度である。
「ハッ! 死人に頼る? そんな非常識な領民はいませんよ」
つくづく呆れたという仕草で肩をすくめた。
為政者の責任を論じた後は常識を説く。
「貴方は死にました。死体は獣化屍従者が増殖するために使われた。大量の犠牲者が出て広場が呪怨培地になり、おかげで貴方は生前の記憶を保ったまま幽霊に変化できたのです」
「主の遺体を増殖の材料に使ったのか!? なんて酷い! 獣化屍従者に忠義の心はないのか!?」
「忠義心、仕様書になかったので導入していません!」
「そ、そうだとしても…いや、違う! 遺体を材料に使うなんて! 人間の心がないのか!?」
「殺されて人間、辞めましたから! 人間の心、ありません!」
しばし、2人は言い合った。
けれども、互いの言い分は色々な意味でよく理解できる。
よく理解できるが、同意はできない。
価値観が違うからだ。
人間は死を悼み、遺体を尊重する。
死女は死を祝い、遺体を利用する。
2人ともかつて人間であったが今では不死の怪物だ。
ただ、イレーヌは生前から半分くらい死んでいたようなもので、シャルルは夢と希望を胸に青春を謳歌していた、そういった出自の差異が意外と大きいのだ。
「ふぅ…義務とか、責任とか、倫理上の問題はもういいです。僕はアリエノールの町を救いたい。どうにかして獣化屍従者達に中止命令を出させてください。製作者の貴女ならできるでしょう?」
「無理です。人間を辞めたので貴方はもう魔気信号の固有パターンが変わってしまった。あの子達はもう貴方の命令を聞きません」
「ほへ?」
何とか気を取り直して建設的な方向へ話を進めようとしたシャルルだったが、イレーヌから技術的に不可能だと否定されてしまった。
今までの責任や義務の話はどこへやら、始めから中止命令が無効らしい。
そこで必死に考えた。
何か、手はないのか。
考えに考え、幽霊シャルルは1つの希望を見出した。
「あー…それでは…そうだ! 貴女は稀代の死霊術師なのでしょう!? 命令を聞くように獣化屍従者達を改造してください!」
シャルルの所有者認証が不可能なら獣化屍従者の方を変えればよい。
天才なのだからできるはずだ。
しかし、そこへスッと幽霊女中サロメが進み出る。
「シャルル様、お忘れですか。墓場のイレーヌ謹製の屍従者は最高の安全対策が施されています。所有権の書換えには時間がかかる、つまり……」
幽霊女中はぐっと力を込める。
「1体を書き換えている間に別の新しい1体が生まれてしまうのです」
非情の結論を告げた。
「えっ? えっ?」
シャルルにはサロメの言うことがよくわからず、目を白黒させてしまった。
けれども、少し考えればわかる。
単純に処理が追いつかないのだ。
1体を処理している間に別の新しい1体が生まれて人間を殺しに行くから手に負えない。
全ての獣化屍従者達に中止命令を聞かせる前にあの破滅的な命令が遂行されてしまう。
「何ということだ……」
シャルルは唖然として立ち尽くした。
もはや打つ手がない。
死肉を利用して獣化屍従者は無限に増殖する。
やがてあらゆる村、あらゆる町へ行くだろう。
限りなく数を増やし、命を絶やす、不死の軍団だ。
誰も勝てない。
誰にも止められない。
最期の命令が遂行される。
シャルルのせいで全人類の絶滅するのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
遅ればせながら準主役シャルル・ロシュフォール復活\(^o^)/
そして、またしても新語“呪怨培地( メガデス ポイント )”が登場しちゃいました。
“死霊術( ネクロマンシー )”というものをあ〜だこ〜だとひねくり回しているうちにこ〜ゆ〜概念が必要かな、とwww
実は!
『フランケンシュタイン』のフランケンシュタイン博士と『イルーニュの巨人』の妖術師ナーデル、彼らが使った死体蘇生術って根本的に違うのです。
博士の方は解剖したカエルに電流を流したら足が動いたってゆー死後の生体反応、つまり自然科学。
妖術師の方は10人の弟子達による祈祷と儀式、つまり超自然科学こと、ずばり魔法です。
で。
うちの『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』はファンタジー作品ですから自然科学の方にはお帰り願って魔法の出番ですわ。
なので“呪怨培地( メガデス ポイント )”なんて新語もでっち上げたわけですwww
そんなこんなで幽霊の原理とかもずいぶん考え込みましたよ。
壁や床をすり抜ける幽霊はどういう原理で動いているのか?
移動のための推進力は?
重力と言うか、万有引力の影響は受けるのか?
慣性の法則は適用されるのか?
もしも、適用されないのなら夢惑星エランの自転に置いてかれてしまい、幽霊は惑星軌道上に取り残されてしまわないか?
絶対静止系の問題はどう絡むのか?
壁や床をすり抜ける、つまり、通常の物質と干渉しない?
空気とも干渉しないのなら喋ることも音を立てることもないはず?
番長皿屋敷のお菊さんがお皿を数えていたから中途半端に物質と干渉してる?
じゃあ、幽霊の肉体を構成する物は何か?
霊物質? 半物質?
あれやこれや\(^o^)/
これらの問題に何とか解決を…まっとうな“解決”は無理なので無理やりけりをつけて今に至りますwww
こ〜ゆ〜どうでもよさげな設定とか世界観を曖昧にして物語を組み立てると、はい、矛盾だらけの嘘んこ話の一丁上がり〜…ってことになっちゃいます。
そして、音読しながらの校正作業中に作中の矛盾で萎えまくって執筆が中断されてしまい……はい、何もかもおしまい\(^o^)/
こうなるのがわかってるから矛盾をどうにかしないといけませんwwww
因果なものですね〜〜
あ、今回も論理ギャグです。
笑ってもらえたらいいんですけどね〜〜
こればかりは描き手の小生のセンスと読み手の皆様のセンスが合うか、合わないか、これだけに関わってきますからね。
ほんと笑っていただけたら幸いです☆
あ、エピソードタイトルで暁光帝が見つめていた220と284は互いに友愛数です。
220の約数は…1, 2, 4, 5, 10, 11, 20, 22, 44, 55, 110, 220
284の約数は…1, 2, 4, 71, 142, 284
んでもって…
1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
1+2+4+71+142=220
…となりまして、自分を除く約数の総和が相手の数になります。
まぁ、なんてなかよし☆ なんておめでたい☆
うむ。
めでたいか?
さて、そういうわけで次回は『アリエノール滅亡! あっ、ヒメキノコシロアリの巣で育てられていたキノコの壊滅に暁光帝は大ショックです(>_<)』です。
請う、ご期待!




