人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ。〜ようやく本編が開始です〜
プロローグが終わり、ようやく本編が始まります。
ここから読み始めても何ら問題ありませんww
人間、神、天使、悪魔、この世のすべてから畏れられる邪悪なドラゴン“暁光帝”が美少女に人化♀して地上に降りて人間の街を目指します。
果たして、どんな冒険が待ち受けているのでしょうか。
乞う、ご期待☆
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
天龍アストライアーは人間の町に近い孤島の火山を改造して巣を作った。
無尽の魔力に物を言わせ、力ずくで火山そのものを円錐台に整形。
更に山腹を魔法強化した上、紫に着色、ついでに鏡面加工を施した。
火山島の東西、2つの村が水不足で発展を阻害されているようだから、用水路も設置してやった。
円錐台の上底面をえぐって半球の窪地にし、火口は真円、マグマ溜まりにつながる火道は完全な円柱にした。火道の支流はすべて塞ぎ、主火口以外はすべて潰した。
アストライアーは火山のすべてが幾何学的に完全な形になるよう腐心した。
噴火口には氷魔法と聖魔法による浄化フィルターを設けて火山ガスの水蒸気は飲料水に変えて一部は用水路に流し、残りで山腹を濡らすことにした。おかげで鏡面加工された山腹は摩擦がほぼなくなり、つるつるすべる、凍った湖のようになった。
頑丈なパイプを作り、水蒸気以外の噴出物は地下を通して遠く離れた海底に廃棄するようにした。
山麓が減った分、平地が増えたのでぎっしり詰まっていた家屋の群れを分散させた。汎観念動力を用いて数千戸を動かしたのだ。住民に気づかれないよう、わずかな動きを重ねつつ。
これらの作業を一晩でこなした上、人間に気づかせなかった超巨大ドラゴンの魔法はまさしく神業と言えよう。本人は“神殺しの怪物”だが。
彼女は待った。
自分の巣を調べに来る人間を。
すると、日が高く昇った頃に明らかに毛色の違う人間達がやってきた。
火山の調査、いや、この自分を調べに来たのだろう。
よく見ると鎧を着ていたり、剣を佩いている。魔導師の杖を持っている者もいる。
間違いない。彼らこそ、待望の冒険者なのだ。
冒険者達は懸命に火山の登頂を目指してがんばっていたが、鏡面加工された山肌はつるつるで登れない。
たくましい男達が悲鳴を上げて、すべって、転んだ。
それでも彼らはあきらめない。
ナイフをハーケン代わりにクライミングを試みたが、ドラゴンに魔法強化された山肌にそんなものが突き刺さるはずもなく、やはりすべり、転んで、泣き叫んでいた。
魔導師は呪文を唱え、魔法で山肌を傷つけて登れる取っ掛かりを作ろうとした。だが、人間の魔法がアストライアーの強化を破れようはずがない。
魔法が弾き返され、魔導師達は呆然として立ちすくんだ。
その様子が余りにも滑稽で、おかしくて。
アストライアーは腹を抱えて笑った。
そうして観察を続けていると人間達はよほど自分たちの失敗が悔しかったのか、口々に何事か叫んで騒いでいた。
「あーっはっはっはっ! 無駄無駄。山肌は形而上学的な構造を書き換えてある。人間の技術も魔法も無意味だからね。ボクの巣は誰にも攻略できないよ」
ひとしきり笑った後で満足して観察を続ける。
やはり人間達はワーワー騒いでいる。
彼らの努力は水の泡になった。
さて、この後、どうするか。
眺めていたら、冒険者達は騒ぎながら船で島を離れて行ってしまった。
何ともあきらめのよいことだ。
こうもうまく行くとは思わなかった。こちらとしてはありがたい。
これでもう自分にも巣にもたどり着ける者はいなくなったわけだ。
密かに人間を観察するドラゴンの秘密は守られたのである。
…と思う。
しかし、これで油断して不用心に振る舞うアストライアーではない。
更に一晩、火口に潜んで様子をうかがった。
もっとも、冒険者を欠いた島民達に出来ることがあるはずもなく。
その夜の監視は徒労に終わるのだった。
もちろん、これは徒労でよい。
人間達が登頂をあきらめたことを確認できたのだから。
超巨大ドラゴンはようやく安心したのだった。
初夏の太陽に海緑色の水面がきらめく。
碧中海に白線が走る。
速い。
伝書鳩を余裕で追い抜くスピードだ。
衝撃波で水柱が高く上がり、塩水で大気をかき乱している。
紫の長髪は金属光沢に輝き、潮風を切り裂いて踊る。
小さな裸足が海面を蹴って跳ぶと、すぐにもう片方が次を蹴る。
その連続で水上を走っているのだ。
童女の身体が海水に沈むことはない。背よりも高い水柱が弾けて、とんでもない高速で前進している。
童女アスタは陸地に向かって走っていた。
学んだのだ。天龍アストライアーが地上付近で小さな子供に人化すると巨大な真空が生じて大事になる、と。
もしも、人間の街で童女に変化したら轟音と強風で住民らが大混乱に陥るだろう。吹き飛んだアスタが衝突して市壁が崩れるかもしれない。
そうなれば事態が流動的になるだろう。
潜入の妨げになるのであまり目立つのは避けたいし。
そこであらかじめ遙か上空で人化してから海に落ちることにしたのだ。
この方法なら気づかれることなく人間の街に近づける。
それでも、用心しなければならない。
瓦礫街リュッダは港湾都市だ。りっぱな港があり、漁船は当然、大型帆船もしばしば行き来している。
そこへ年端も行かぬ少女が海上を疾走して飛び込んだらやはり騒ぎになるだろう。
それもまた望ましくない。
「海を走るヒト族は少ないからねー」
アスタは知っているのだ。
半魚人族なら走れたような気がするが、今の自分はブタよりも小さい童女である。鱗もないし、マーフォークに見間違えてはもらえないだろう。
だから、瓦礫街の北にある岩壁から上陸することにした。そして、人間のように街道を歩いて街に入るのだ。
これなら怪しまれることはないだろう。
多少、遠回りになるが、水上も走れる童女の脚力なら問題ない。
今のスピードだって水柱が大きくなって海上の船に見咎められぬよう抑えているに過ぎないのだから。
やがて断崖が見えてきた。
すると、童女は目視でタイミングを測り、ためらうことなく海面を蹴って。
バシュゥッ!!
大きく跳んだ。
怪力による衝撃を受けて海面が爆発するような水柱を立てる。
潮風が紫のロングヘアーをたなびかせる。
断崖の岩壁に大波が破裂して、真っ白な水しぶきが上がている。崖は高くそびえており、海鳥がたくさん舞っていた。
宙を跳ぶアスタを海鳥達が見つめる。ふだん、こんな大きなものが海上から跳んでくることはない。
海鳥達が騒ぎ始める。
それで童女は不安になった。
鳥の騒ぎに人間達が警戒するのではないかと。
騒ぎが大きくなる前に登ることにする。
ドギャッ!
着地ならぬ、顔面から岩壁に衝突した。
「ふぉぶっ!」
思わず声が漏れた。童女の体ではまだ着地に慣れていない。無様ではあるし、驚きもした。
だが、それだけだ。
計画に支障はない。
「ふんぬ!」
かまわず岩肌にしがみつくとそのまま腕の力だけで身体を引き上げて岩壁を登り始める。
ほぼ垂直の岩壁だ。裸足を引っ掛ける取っ掛かりもない。だが、脚力は不要。童女に変化しても、天龍アストライアーの膂力はそのままなのだ。
ザコッ!
怪力で叩きつけると岩肌に5本の指が食い込む。後は余裕で身体を引き上げるだけだ。
波と風に削られた岩壁は険しく、岩肌は荒く尖っていたが、童女の柔肌が傷つけられることはない。
自然の岩ごときが天龍アストライアーを痛めることなどあり得ないのだから。
スルスルと登って、海鳥の鳴き声がやかましくなる前に岩壁の上にたどり着く。
「さて…」
周囲を見渡す。
幸いなことに緑の木々がまばらに生えて、貧弱だが林になっている。
人影は見当たらない。
下生えが濃いから、小柄な童女なら余裕で隠れられるだろう。
「いいね」
上機嫌である。
誰にも見つからずに上陸できた。
これなら後は街道を南下して瓦礫街リュッダにたどり着けるだろう。
道はわかる。昨日、上空からじっくり観察しておいたから。
「その前に…っと」
聖魔法で海水にまみれた身体を浄化しようとして。
「あ…」
魔法が発動しない。
魔力が身体をめぐるばかりで外に魔気力線を放射できないのだ。
「しまった」
童女タイプの人化は魔力を完全に押さえ込むことにより、驚異の魔気容量ゼロgdrを実現するのだった。
これで人間でないことが露見する可能性は皆無となるが、代わりに魔法が一切、使えなくなるのだった。
「まぁ、いいか」
魔法が使えないなら、林の中で池でも探せばよい。
湧き水が多い土地だからそれくらいあるだろう。
「じゃあ…」
周りに人がいないことを確かめてから地面を蹴る。
ダン!
みるみるうちに地面が遠くなる。綿雲のあたりまで跳んだ。
快晴なので雲はまばらだ。
陽光に紫のロングヘアーが金属光沢でキラキラ輝く。
眼下の林を見渡す。
「あった」
膂力と同じく視力も天龍アストライアーのそれに劣らない。虹色の瞳の驚異的な分解能がわずかな時間で目ざとく目的のものを見つける。
木々の隙間から覗く池だ。いくつかあった。そこで街道に近い、南の池を選ぶ。
最高点に到達すると一瞬だけ静止して、すぐに落下を始める。
小さな体をあおる風が凄い。
両手を上に挙げつつ空気抵抗を調整して、そのままの姿勢で足から落ちて行く。
どんどん地面が近づいて。
ドーン!
地上に激突して轟音が鳴り響いた。
足を突っ張ったまま地面に落下したのだ。
空中での姿勢制御は完璧だが、着地の衝撃を和らげるような動きは忘れてしまった。
「う〜ん…うまく行かないもんだね」
やかましい音に顔をしかめる。
だが、周りにうるさい着地を見咎めるような人間はいない。
ならば、何の問題もないだろう。
童女は見つけた池に向かって走り出した。
「うん、いいね」
空き地に小さな池が綺麗な水を湛えている。
そのまま、勢いを殺すことなく池に飛び込む。スピードを抑えて走っていたので水しぶきはさほど。
透き通った水を頭からかぶる。
潮の臭いを落とせればよい。
下着にまで水が入ったが気にはしない。いずれ乾くだろう。
池から上がると。
「う〜ん」
伸びをしつつ、紫の髪に力を込める。
髪の毛一本一本が身体から離れて放射状に広がった。髪の毛の間に空気が入り込む。
後は髪を騒がせるだけ。
シュワシュワとうごめく紫の髪。
今、見られたら紫の毛玉のようだろう。
こうすればすぐに髪が乾く。
存分に髪を飛び跳ねさせるとついでに服を脱いで全裸になる。
髪を操作して布地をつかみ、ワンピースも下着も全部、空中を踊らせる。
高速で飛び跳ねさせたらこれらもすぐに乾いた。
親友の緑龍テアル、曰く。
『人間は鼻も利くから見た目ばかりでなく、臭いにも気をつけるべき。そうすべき』
…だそうだ。そこで、入念に海水を落としたのである。
これで臭いを怪しまれることはあるまい。
「ふふふふ」
全裸の童女は不敵に笑う。
完璧である。
服を着るとすぐに出発した。
そして、街道にたどり着いたが。
走らない。
全力で走ればすぐにでも街へたどり着けるが、目立つことは控えたい。
『世界を横から観る』という遊びは街に潜むことから始まる。街に押し入ってはならないのだ。
南東に向かう街道は右側が背の高い草に覆われる草原、左側が出てきた林である。
こうして人化して歩いてみると意外と広いことがわかった。
車道は2台の馬車が余裕ですれ違える道幅があり、更にその両側に歩道がある。
歩道も荷車を引いて困らないくらいに広い。
「ふぅん…」
少しかがんで紫のロングヘアーを操る。
スボッ!
車道の石を髪の毛で引っこ抜いてみた。
平らな敷石ではなく、大きな分厚い石を路面に敷き詰めあった。どうやら安定性をこだわったようだ。
「思った以上によくできているなぁ…」
魔法によって強化されているわけではないが、十分な強度と耐久性がありそうだ。
人間が使う分には。
そこまで考えて。
「別にドラゴンが歩くわけじゃないしなぁ…」
納得して紫色のロングヘアーを動かし、分厚い石を埋め込んで戻した。
歩き出す。
「るんるん♪ とぅるっとぅるんるん♪」
機嫌がいい。
これが『世界を横から観る』ということか。
今や、ブタよりも小さい童女である自分は今まで世界が隠してきたもろもろを低い視点から存分に暴いて眺めることができる。
楽しい。
ワクワクする。
ようやく物語が始まりました(^_^;)
これの前までのお話、実はプロローグです。只の雰囲気作りです。読み飛ばしても何ら問題ありませんwww
いや、ここから描こうかなとも思ったんですけどね。
とりあえず、暁光帝は美少女に人化♀して地上に降りました。
これから人間の街にも潜り込んじゃいます♪
お楽しみに〜




