追い詰められた人々の運命や如何に!? 一方その頃、暁光帝は「どんな地図も4色で塗り分けられるのはなぜか?」と詰問されていますね。
ラナス大森林の幻獣達は侵入してくるゾアンゾンビを何とか撃退しようと四苦八苦していますが、最強の水竜ガルグイユまでも敗れ(別に負けたわけではない)、打つ手が失くなってしまいました。
あ、ダブル主人公(仮)の片割れ、ハゲ頭の吸血鬼ハミルトン男爵は隣でボーッと見てるだけでしたwww
戦闘能力ないんでwwww
そういうわけで今回は人間の側に物語の視点が戻ります。
領主の城に追い詰められた人間達はどうやってこの窮地をくぐり抜けるのでしょうか?
お楽しみください。
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明け方、城塞の領主執務室に家令がやってきた。
「何の用か?」
主はつぶやくように言った。
顔を上げる気力もない。
領主ミシェル・ロシュフォール辺境伯は目の下にくまを作って報告書に目を通している。
睡眠不足だ。仕事が忙しいことよりも眠れないことの方が辛い。
不安で不安でたまらないのだ。
「ふがー、ふがー、もうすぐレニーが助けてくれるぅ〜♪」
隣の長椅子で寝そべったガスパルが鼻提灯を膨らまして寝言をほざいていた。
ギヨームも息子の横でまどろんでいる。
「裏口の警備が空でした。閂もかかっていませんでした」
家令も疲れた表情で報告した。
兵士達の規範意識が乱れ、任務を放り出す者も出てきたのだ。
「おそらく、夜中に歩哨が逃げ出したのでしょう。外側からは閂はかけられませんから」
脱走である。
籠城中の脱走は重罪だ。
しかし、今の城塞に脱走兵を裁く余裕も刑罰を執行する刑吏も足りない。
脱走だけでなく命令違反や不服従も起きているのだ。
「そうか……」
それなりに状況を理解しているミシェルは何も言わない。
何も言えない。
命令書を発行したところで遂行してもらえるとは限らないからだ。
書類をめくっているが、あまりに絶望が深くて機械的に手を動かすくらいのことしかできなくなっていた。
「はぁ……」
状況を鑑みるにつけ、無力感に苛まれることが増してしまう。家令もため息を吐くばかりだった。
もはや、城塞は機能していない。
軍隊としては崩壊しつつあるのだ。
トントン!
そんなときにドアがノックされた。
そして、主が入室の許可を出す前にドアが勢い良く開かれた。
「領主様、正門をご覧ください! 大勢の女中さん達が訪れてくれましたよ!」
現れた兵士長はシワだらけの顔をほころばせて気色満面、大声を上げた。
「何!?」
わけがわからず、領主は目を白黒させている。
「全員がロイヤルプレミアムゾンビだそうです! サロメ様が救援に来てくれたんですよ!」
喜びのあまり、兵士長は幽霊女中を“様”付けして呼んでいる。
「ご主人様の王室御用達屍従者なら魔力場を設けて撹乱障壁が張れます。獣化屍従者の目から人々を隠して港まで護送できるでしょう」
一緒に入ってきた幽鬼アルフレッドが説明を補足してくれた。
「おぉっ!」
これで何とかなるかもしれない。ミシェルの顔にようやく血の気が戻ってきた。
騒ぎに耳をくすぐられ、まどろんでいたギヨームはうっすら目を開けた。
「…」
ようやくサロメが来てくれたらしい。
夜のうちにアルフレッドを使いに出しておいてよかった。
どれだけ領主が無能でもこれで全滅は避けられることだろう。
それはそれとして目を閉じる。
かつてイレーヌを死に至らしめた故郷、今回もイレーヌの製品をもてあそんで自ら危機を招いた愚かな故郷だ。
どうして自分はそんな場所を守ろうとしているのか。
もちろん、愛着はあるし、先祖代々の墓もある場所だ。
けれども、イレーヌに人間を辞めさせたバカがはびこる土地でもある。
もう、いっそのこと、きれいさっぱり更地にされてしまえばいい。
そうとも考えるのだが、ついつい口が動いてアルフレッドに頼んでしまった。
もしも、自分が依頼しなかったらイレーヌは何もせず、町を見捨てていたのだろうか。
疑問は尽きない。
でも、冒険者は考えるのが苦手だ。
そういうのはアルフレッドや幼馴染みに任せたい。
ギヨームの意識は再びゆっくりとまどろみの中に落ちてゆくのであった。
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幽霊女中サロメの登場は城内に激的な変化をもたらした。
日夜、活躍する幽鬼アルフレッドの勇姿を見ていた人々は墓場のイレーヌ謹製の不死の怪物に強い信頼感を抱いていたのだ。
領主、ミシェル・ロシュフォール辺境伯は早速、救出すべき避難民のグループ分けを行った。
ロシュフォール家に縁のある親戚や友人を優先し、次に財政的な支持をしてくれる大商人や神職などの有力者、そして、納税できる程度に裕福な平民達、最後に奴隷を含む貧困層だ。
中庭に集まった人々の顔は明るい。
日々、増える猛獣兵士達を斥候が偵察してくれていたのだ。
遠眼鏡を使わなくても滅びた町をうろつくサイ兵士やゾウ兵士の巨体は数えられる。
もはや、全滅も時間の問題かと思われていたのだが、今や、不安はない。
サロメの率いる亡者女中達は一騎当千の働きを見せ、空から襲来する鷲化屍従者を近づく前に撃ち落としてくれている。
その隙のないこと、素早いことは人間の兵士とは比較にならない。その上、おびえた子供や老人を励まして安心させてくれている。
驚くべきことに回復魔法を使える亡者女中もいて病や怪我に苦しむ人々を治療していた。
普通の住民の理解の及ぶところではないが、回復魔法で生者を治せる不死の怪物がどれだけ非常識なことか。
城塞の魔導師達は揃って目を丸くしていたものだ。
避難民の組分けは完全に為政者の都合で決めたわけだが、幽霊女中サロメは言葉少なに答えるのみ。
「わたくしの仕事は護衛ですから」
言外に人間同士のしがらみには関わらないとにじませている。
やはりしたたかだ。
人間社会で暮らす希少な幻獣として戦力とは異なる要素、総合的なコミュニケーション能力が傑出している。
「そ、そうであるか……」
「お手数をかけます……」
領主も家令も言葉を失っていた。
優先順位の選定に関わらせて今後も協力体制を維持したかったのだ。しかし、サロメはそんな2人の思惑を見破っていたのである。
幽霊と言えども元は人間、優れた洞察力と言えよう。
「で、では……」
ミシェルは幽霊女中達に感謝の意を伝えるために軍楽隊を用意していた。
演奏が始まり、避難民ら聴衆も含めて大いに盛り上がった。
「サロメ様〜♪ サロメ様〜♪ 天下一の幽霊様〜♪ 寛大なイレーヌ様にお許しいただき〜♪」
合唱の歌詞は奇蹟の歌声を持つ去勢男子達が高らかに歌い上げる、墓場のイレーヌへの称賛であった。
サロメも含めて亡者女中達は主が讃えられることをもっとも喜ぶことが知られていたから皆、熱心に歌っていた。
「いやはやなんとも、ずいぶんな歓迎ぶりだなぁ……」
冒険者ギヨームは中庭の橋で感慨深く聞いていた。
かつては散々に否定され、こき下ろされた幼馴染みイレーヌが今や救世主に等しい扱いを受けている。
時代の変化と言えばそれまでだが、そんな一言では片付けられないものを感じる。
「どうしてここまで称賛するのかねぇ……」
疑問が尽きない。
領主ミシェル・ロシュフォールは確かに謝罪も反省もしたのだが、これほどまでに心を入れ替えるものだろうか。
奴の立身出世はイレーヌの否定から始まっているのだろうに。
「今回の件で思い知りましたからね」
いつの間にやら家令セバスチャンが隣りに立っていた。
ここ数日で家令の顔にはより多くのシワが刻まれ、より一層、老けたように見えた。
「墓場のイレーヌ様にはずいぶんとご迷惑をおかけしました」
「そりゃ、思いっきりかけられたわな。あそこで殺されなけりゃレニーは人間のまま……」
家令の言葉にギヨームは怒りを吐き捨てた。『俺と連れ添っていた』と言いそうになって口をつぐんだのだ。
そんな未来があったのか、なかったのか、今となっては判然としない。
言い切るのはおこがましいが、言わないのも悔しい。そんな気分だ。
「いえ、そのことだけでなく…例の『屍導師イレーヌは自衛以外の目的で市壁の内部で戦闘行為を行ってはならない』ってルールのことですよ。あれも……」
家令の言葉は意外だった。
「何だと!?」
ギヨームの声にさらなる怒りがこめられた。今、イレーヌが活躍できないでいる理由の1つにも領主が関わっていたのか。
「たかが冒険者ギルドのサブマスター1人に光明教団との交渉をまとめられるものですか」
家令は疲れた口調で語りだした。
「もともと、冒険者ギルドはイレーヌ様に入れ込んでいました。恐ろしい幻獣の集団暴走だって屍導師の魔力ならかんたんに鎮められる。そのせいで領民の間にもイレーヌ様を支持する声が高まっていたんですよ」
困ったことだったと言いたげに家令は話した。
実際、イレーヌへの信頼と支持が高まれば歳を取って無能さが目立つと噂される領主への支持が揺らいでしまう。
死女とはいえ、美貌の乙女イレーヌとハゲ頭で怒りん坊のおっさんでは見た目でも人当たりでも人格でも勝負にならない。
「何より領主様はイレーヌ様が怖かったんですよ。その気になればすぐにでも城塞ごと自分を吹き飛ばしてしまえる屍導師がね」
小心者のミシェルはイレーヌの恨みが消えていないのではないかという疑念に取り憑かれて何とかしたいと夢見ていた。
「そして、ギルドマスターはイレーヌ様を信頼していたけれども、サブマスターはまだ信頼していなかった。だから、光明教団を煽ってサブマスターに働きかけ、イレーヌ様が市内で戦闘できなくなるよう……」
「そうか。例のこしゃくな決まりも領主が裏で画策していやがったのか」
家令の言葉にギヨームは不快感を露わにした。
あんな余計な決まりさえなければ今頃、イレーヌが屍導師の魔法でアリエノールを救えていただろうに。
「……わたくしが勧めました」
「お前かよ!」
こいつが余計なことを言ったのか、家令にギヨームの怒りが爆発した。
ところが、これで終わらない。
家令はさらなる爆弾を投下してきた。
「そうです…かつて、流行病で国境が平和になり、自室で腐っていたミシェル様のお耳に『嫌われ者を罪人に仕立て上げて処刑すれば領主になれる』とささやいたのもわたくしなんですよ」
とんでもない話を告白してきた。
何ということか。
当時のミシェルにイレーヌの謀殺を企ませたのもこいつだったのだ。
なるほど、あれほど短慮で考えなしの男に他人を陥れて手柄としようなんてまどろっこしい計画が立案できるわけがない。
「何だと!?」
一瞬、ギヨームは激高した。
しかし、どうにもおかしい。
妙だ。
「どうして今更、そんな話を俺にする?」
ギヨームは厳しい視線を向けた。
「この町の今はわたくしが創ったんですよ、繁栄も、破滅も、何もかも全て……」
家令は遠い目をしながら話していた。
「わたくしよりも知恵の回る者、わたくしよりも多くの知識を蓄えた者、大勢いました。ミシェル様よりも慧眼の利く者やミシェル様よりも諫言に耳を傾けられる者が大勢いたように」
家令の言うそれらは補佐官の素養と為政者の素養だった。
どちらも自分達よりも優れた者、即ち、“実力者”が存在していることを認めたのである。
「……」
聞いていたギヨームは訝しく思う。
「わたくし達は機会をつかんで逃さず、お互いに足りないところを補い合ったんですよ。ええ。わたくし達を支えてくれる者達とともに……」
頭が悪く、知識の足りない、劣等感まみれの補佐官候補と。
思慮に欠け、何事にも楽観的な、同じく劣等感まみれの領主候補が。
力を合わせて人生の困難に立ち向かった。
そして、成功した。
そう言っているのだ。
「才能も根性も努力も欠けた者だって立身出世を望んでもいいではありませんか?」
それは小人の夢だった。
夢を実現させるために努力した。
そして、凡愚が英才に挑み、ついに殺して立場を得た。
「ええ、みんなで幸せになりたかったんですよ。それの何が悪かったんでしょう? どうして町は滅びてしまうのでしょう?」
家令の目からとめどなく涙があふれていた。
それを見ているとギヨームは胸の中に熱いものが浮かび上がってくる。
それは怒りか、悔しさなのか。
色々思うところはあるが、どうにも我慢ならない。
「お前は……」
言いかけてやめた。
きっとこいつは罰してほしいのだろう。
イレーヌの親友であるギヨームに。
罰せられれば許される。
それもまた損得勘定の1つだ。
けれども、それは認めがたい。
「そうかい。でも、お前の懺悔を聞いてやる義理はないわな」
冒険者は踵を返して去っていった。
吐き気をもよおすほどに胸がムカつく。
『小人閑居して不善をなす』、かつてイレーヌから聞かされた言葉がどうしても思い出された。
こいつや領主は暇を持て余すような状況に置いてはいけないのだ。
とりあえず、こいつからは後悔も反省も聞きたくない。
まだ、息子の戯言を聞いていた方がマシである。
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その後、サロメは避難民と兵士を安全に港まで移送した。
そこに冒険はなかった。
亡者女中にとってはいつもより少し気を張って歩くだけの作業、否、ただの“散歩”である。それだけで撹乱障壁が維持されるから獣化屍従者どもを退けられる。
後はたまに空から襲ってくる鷲化屍従者を撃ち落とすだけの作業があるくらい。
そう、“作業”だ。
精霊魔法の使える王室御用達屍従者にとって獣化屍従者など無力な的に過ぎない。
それを見て人々は墓場のイレーヌ謹製の不死の怪物に対して畏敬と感謝の念を強く抱くのだった。
接収した商船に人々を乗せて避難させた後は食料と水の運搬だった。
そもそも幽霊女中のサロメは浮遊しているし、一部の亡者女中は水の精霊魔法が使えるし、海上の運搬も容易かった。
そして、普及型屍従者の例に漏れず、獣化屍従者は海上に出られない。
これは泳げる泳げないなど能力の問題ではなく、並の屍従者は海を地形として認識できない。与えられた命令セットに海上での活動が想定されていないからだ。
おかげで空が飛べる鷲化屍従者でさえ、海上に逃げた人々の船を追おうとはしなかった。
避難民も兵士も亡者女中達の技術と知識に大いに感心したのである。
そして、時が経ち、アリエノールの町からは生きた人間の姿がすっかり途絶えてしまった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
窮地に陥った人間達ですが、物語の冒頭から我らが主人公(仮)の片割れイレーヌが救援をよこしてくれちゃいました。
よかった、よかった♪
あー…物語の盛り上がりも何もありませんね(^_^;)
えっ、人間が全然努力してない?
頑張ってギヨームが気持ちの整理をして自身の葛藤にけりをつけましたよ☆
おかげでアルフレッドを使いに向かわせてイレーヌに救援を求められたのです!!
あ、うん、頑張ったのはアルフレッドとイレーヌですね(^_^;)
早速、領主は避難民の優先順位を決めて…露骨な差別をやらかしました。
でも、安易に悪役ムーブを決めたわけではありません。
アンデッドメイド達を今後の戦いに巻き込もうと画策したわけです。
こいつもなかなかやりますね。
でも幽霊女中サロメは引っかかりません\(^o^)/
そして、家令セバスチャンの告白www
ようやく作中における「悪」の理屈をご紹介できました♪
悪人がただ悪いだけだとモンスターと変わりませんからね。
悪には悪の理屈がある!
こいつを主人公の理屈とぶつけさせて最終決戦でうまいこと対決させればシリアス作品の一丁上がりというわけです。
まぁ、うちはお笑い小説なのでそ〜ゆ〜わけにもいかないんですけどね(^_^;)
さて、そういうわけで次回は『廃都アリエノールに降る流星雨を死者が眺めます。詩的ですね。暁光帝は220と284を見つめます。詩的ですかね?』です。
請う、ご期待!




