森の大騒動! 大変なことになりました。幻獣達はどう戦うのでしょう? あぁ、暁光帝は一次関数のグラフが本当に真っ直ぐな直線になるのか、確かめていますよ。
ついにラナス大森林にまでもゾアンゾンビが侵入してきました。
我らがダブル主人公(仮)の片割れ、ハゲ頭の吸血鬼ハミルトン男爵は恐るべき怪物5頭を相手に丁々発止の大立ち回りの末、これらを撃退しました。(誇張表現あり)
侵入者の正体が謎の美人ネクロマンサーの手になる怪物、新型アンデッド“ゾアンゾンビ”だとわかったのです☆
強烈な衝撃でした。
それはかつて第一次世界大戦で投入されたマークⅠ戦車くらい人々にショックを与えたのです☆
膠着状態の塹壕戦で誰もが縮こまっていたところへ巨大な鉄の塊が侵入してきたら、そりゃ、兵士もびっくり仰天、一目散で逃げ出しますわwwww
新兵器の登場は常に華々しいものなのです。
「死体を原材料に増殖する」というアーキテクチャはゾンビ工学の一大転換点であり、死体がつきものの戦場での有用性は火を見るよりも明らか。
軍用ゾンビ業界に革命を起こして、くだんのネクロマンサーは国際的な称賛をほしいままにし、フランケンシュタイン死体有効利用賞の受賞も確実と思われ……
……そうになりましたが、戦場が壊滅してしまいました\(^o^)/
ゾアンゾンビはアリエノールの町を滅ぼしつつ、周辺へ拡散。
破滅の輪を広げようとしています。
「戦友の死体は皆ゾンビだ! 世界に広げよう、破滅の輪☆」
さぁ、幻獣達も大騒ぎです。
のほほんと星型二重正四面体の外接球の半径を求めていられなくなってしまいました(>_<)
(おまいはほんとにそれを求めたいのか?)
(うん、ちょっと知りたい。だって気になるんだもん)
さぁ、どうなってしまうのでしょう?
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
不幸なことに吸血鬼ハミルトン男爵の懸念は的中してしまった。
獣化屍従者がラナス大森林でも増殖を始めたのだ。
「クマやシカばかりじゃなくてリスやネズミまで捕まえて死肉にし、それを材料に数を増やしているわ。鼠化屍従者? 小さいネズミの頭をした奴が虫まで漁ってるのよ」
魔女が頭を抱えていた。
どうやら獣化屍従者は増殖に制限がかかっていないらしい。
森の生物量を全て自分達の増殖に費やそうとしているかのようだ。
「このまま森の動物達が消費され尽くしてしまうと人食いオオカミや三叉樹が参ってしまうわ」
竜種や不死鳥のような上位の幻獣は食事が不要だが、そうでない者の中には飢え死にする者も出てきてしまうだろう。
「わたくしや森精霊らが大豆ハンバーグなどを作っていますが、いつまで保つのやら……」
花白仙女が困っている。森が気に入って大陸東方に帰らなかった仙女は色々と森のために貢献してくれていた。
植物を育成する得意の魔法で植物性の蛋白質を造り出してくれているのだ。
だが、十分足りているとは言いがたい。思いの外、餌となる動物が減っていてこのままでは人食いオオカミも三叉樹も栄養が偏ってしまうことだろう。
「僵尸…いえ、こちらでは屍従者ですか。死者を奴隷として扱うとか、わたくしにはそういう感覚がわかりません」
根本的な部分に厳しい意見を述べてくれた。
エレーウォン大陸の東方ヒト族諸侯が営む国々では祖先を敬う風潮が強く、遺体を粗末に扱うことはことさらに忌避される。同じ死霊術の利用でも“僵尸”は遺体の運送技術でしかない。
花白仙女もまた人間と関わる生活を送っているうちに様々な影響を受けている。
無給で働かされる奴隷として死者を扱う文化に批判的であるのも無理はないだろう。
「むぅ……」
批判されてハミルトン男爵は何も言い返せない。
また、現在の状況は他人事ではないのだ。生き血を分けてくれるシカやクマがいなくなったら吸血鬼も吸血できなくなってしまう。
困惑しているのは男爵だけではない。
いや、むしろ憤慨しているのか。
「獣化屍従者とやらは全く以てダメだ! 我々は奴らとの如何なる類縁関係も断固として否定する!」
全国アンデッド地位向上連盟のペレネー支部長、墓鬼が激しく憤っていた。
「人間の命令に唯唯諾諾と従い、自尊心も自由意志もない! あんな奴らは不死の怪物の面汚しである!」
いつもの丁寧な口調が影を潜め、口汚く罵っていた。
死体を材料に生まれた不死の怪物はしばしば使い勝手のいい奴隷として利用されることがある。屍従者はその典型例だ。
しかも獣化屍従者は勝手に数が増えている。
そんな連中を加入させたら全国アンデッド地位向上連盟が主の人間に乗っ取られてしまうかもしれない。
墓鬼の警戒心と嫌悪感は理解できた。
そして、ここでさらなる爆弾が投下される。
「それにね、奴らの活動に合わせて負の生命力が増しているの。負の生命力は不死の怪物の発生に関わる特異な魔気よ」
魔女がグラフが描かれたパピルスを示した。
横軸が時間で縦軸が特異な魔気力線“負の生命力”の密度のようだ。
「今までこのラナス大森林に不死の怪物が少なかったのはこの特異な魔気が弱かったから。でも、グラフの通り、魔気“負の生命力”と“ξ-ⅳ”が増している」
グラフ上の2本の曲線は時間の経過とともに特異な魔気が増えていることを示している。
「何と! 幾何級数的に増大している!?」
吸血鬼は思わず声を上げてしまった。
今のところ、増加量は大したことないが、見る者が見ればわかる。いずれとんでもない増え方に発展するかもしれない。
「ううむ、その増え方じゃと…もしや、世界中が獣化屍従者だらけになってしまうのではないか?」
樹木人が不安げに疑問を口にした。
「そして、例の命令が遂行された場合、人類絶滅なんてことも大いにありうるのじゃ」
とんでもないことを言い出した。
「むぅ…でも、あながち言い過ぎとも言い切れませんね。奴ら、獣化屍従者は増殖に制限がかかっていないから死肉がある限り、無限に増えてしまいます……」
驚きつつも暗い未来が想像されて男爵はめまいがした。
「うむ、ならば仕方あるまい。俺が起つ」
徐々に逼迫する状況を見て、水竜ガルグイユはおごそかに宣言するのだった。
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森の窪地に獣化屍従者が集められていた。
魔人茸や毒人茸に頼んで押し込んでもらったのだ。
「よし」
見上げるほどに大きな水竜ガルグイユは鱗をきらめかせて頼もしい。
「うぅむ…やはり他に方法はないのかね?」
ハミルトン男爵の口調は重い。
このまま放っておけばラナス大森林の生物相が変わってしまい、幻獣も不死の怪物だらけになってしまうだろう。
それは豊かな多様性を楽しめるラナス大森林が失われてしまうことを意味する。
「ない!」
短く応えたガルグイユだ。
覚悟は決めた。誰かがやらなければならないことである。
同じ幻獣を手に掛けることは気が引けるが、このままラナス大森林の滅亡を座して見過ごすつもりはない。
森にはびこる獣化屍従者を絶滅させる。
それができるのは最強の幻獣ドラゴンだけだ。
正確には獣化屍従者は同じ幻獣とは言い難いし、ガルグイユは若竜だし、色々違うのだが、些細な話である。
森にとって有害な因子は排除せねばならない。
今回はそれが獣化屍従者だったと言うだけのことだ。
恐ろしい水竜らしく同胞を始末するべく悲壮な覚悟を決めていた。
「許せ」
小さくつぶやくと口を開けた。
目の前の窪地には大量の獣化屍従者がいる。
一瞬で終わることだろう。
悲劇ではあるが森を救うためだ、仕方がない。
ブッシャァァァァーッ!!
水竜のドラゴンブレス、それは名前通り水だった。膨大な奔流がみるみるうちに窪地を覆い尽くす。
正真正銘、本物の洪水が起きたのだ。
大勢の獣化屍従者はなすすべもなく膨大な水に飲み込まれていく。
誰もが水面下に沈み、もがいている。何とか、浮こうとするも水竜ブレスの水は密度が小さく泳ぎが達者な者であっても絶対に浮かないのだ。
しばらくすれば全員が沈むだろう。
確実な殲滅だ。
「はぁ……」
終わった。
何もかも。
十分な時間が経った後、水竜ガルグイユはため息を吐いてその場を後にしようと踵を返した。
ところが。
「あれ? あれれ?」
「何ともなってないわね」
「水竜ブレスが効かない!?」
仲間達が口々に騒いでいる。
「むむ?」
驚いて水竜が振り返ると大量の獣化屍従者達が水中に沈んだままだった。
「効いてるじゃないか」
不審に思っていたが、水竜ブレスの水は幻獣の特殊能力なので魔力の供給が尽きると現実の時空間から消え失せていく。
まるで何もかも幻のように。
そして、窪地を埋め尽くしていた洪水はきれいサッパリ消え去った。
ところが、そこに広がった光景は信じがたいものだった。
「何ぃ?」
愕然とする水竜だった。
水が引いた後の乾いた窪地に獣化屍従者達が立っている。2本足の猛獣達は1頭も倒れることなく平然としていて、何事もなかったかのように歩き回っている。
「馬鹿な!? どうして溺れない!?」
ガルグイユは悪夢を見ているかのような想いだった。
水竜ブレスはありとあらゆる者を溺れさせる、無敵のドラゴンブレスのはずなのに。
「あ、屍従者は初めから死んでいるので息をしません。つまり、溺れないんですよ」
隣でハゲ頭の吸血鬼が呆れていた。
どうやら誰も不死の怪物の有り様について理解していなかったらしい。
やはり、この辺は墓鬼の言う通り、幻獣の間に広がる無理解があるのかもしれないと懸念を感じてしまった。
「意外と使えないわね」
「最強と言っても得手不得手があるのじゃ」
「じゃあ、もういっそのこと魔女の隕石大豪雨で一掃しちゃわない?」
「う〜ん、あれって威力は申し分ないけれどばらつきがあるから無傷で生き残る奴もいるのよ」
「殲滅しなければいけないのじゃ。生き残りがいたらまた増殖して元の状態に戻ってしまうぞい」
仲間達はああでもない、こうでもないと話している。
「溺れても死なないなんて……」
最強の水竜ガルグイユは唖然として見つめるしかなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
物語の視点はラナス大森林、つまり、幻獣の側に移りました。
さしものモンスター達もゾアンゾンビの乱から全く無関係でいることはできません。
何しろ隣で起きた事件ですからwww
幻獣もゾアンゾンビも人類の敵っちゃー敵ですが…ゾアンゾンビの方が遥かに危険ですね。
本人達が人類絶滅を掲げてますし、何より個々の個体がそのために邁進している。
1頭1頭が人類絶対殺すマンなんですぉwwww
そして、読者の諸姉諸兄もお気づきになられたかもしれませんが……
「何と! 幾何級数的に増大している!?」
……この表現、完璧に前時代的です\(^o^)/
現在の学校カリキュラムだと“等比級数的”が正しいんですよね〜
でも、小生はこちら“幾何級数的”って表現の方が好き♪
理由:単純に読み慣れているから。
それこそコナン・ドイル卿の『失われた世界』やエドガー・ライス・バロウズの『火星のプリンセス』の頃からここぞという場面で登場する「幾何級数的に増大している!」が印象的でして☆
その後のE.E.スミスの『レンズマン』やエドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』でもしばしば見られましたっけ。
確かに現代の学校カリキュラムでは“算術級数”や“幾何級数”という表現が“等差級数”と“等比級数”にあらためられましたが…文学上の表現としては馴染みが薄い。
それに最近は“指数関数的に”という表現の方が散見されますしね(^_^;)
じゃあ、そっちにしろって話なんですが、小生は“幾何級数的に”って表現の方が好きなのでこっちにしちゃいましたwww
数学的によりアグレッシブにするなら階乗を連続関数に仕立て上げた上に複素関数にまで拡張した「“Γ関数”的に増大している!」ってゆー方がより面白いし正確だし、強烈なんですが!!!
うん、Γ関数的に増大したら地球が吹っ飛ぶwwww
そこまでいくともうわけがわからない\(^o^)/
そして、森で最強のモンスター、水竜ガルグイユがついに立ち上がりました☆
1ページで沈みましたがwwww
ゾンビは死んでるのでこれ以上は死なない。
実に魅力的な仕様ですね(^o^)
さて、そういうわけで次回は『追い詰められた人々の運命や如何に!? 一方その頃、暁光帝は「どんな地図も4色で塗り分けられるのはなぜか?」と詰問されていますね。』です。
請う、ご期待!




