一方その頃、幻獣達は世界の異変に気づきつつありました。あぁ、暁光帝はオオサルパが繁殖する環境について調べていますよ、当然ですね。
我らが主人公(仮)イレーヌの仇敵ミシェル・ロシュフォオール辺境伯は卑怯で短気な凡夫でした。
偉そうにふんぞり返って偉そうなことをホザくだけのザ・無能!!
だけど、それでも貴族の肩書があれば人々は着いてきます。
いいんですよ、中世ナーロッパ組織の頭なんて“無能な怠け者”が一番なんですからwww
後は本当に有能な“有能な働き者”が貴族の権威を利用しながらがんばって国を動かしてくれます。
中世ナーロッパ、凄ぇwwww
そ〜ゆ〜わけで凡夫ミシェル・ロシュフォールはイレーヌの美貌と凛々しい行動に魅入られてしまい、行動もイレーヌを追従する形になってきました。
アリエノールの住民は不幸しか見えません(>_<)
ところで、今回はダブル主人公(仮)なのですが、もう片方、ハゲ頭の吸血鬼ハミルトン男爵は何をしているのでしょう?
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
大混乱でアリエノールの町が滅びかけていた頃、ラナス大森林にもその影響が及ぼうとしていた。
曇天で昼なお暗い森の中をハゲ頭の吸血鬼が歩いていた。
例によって例のごとく、問題の解決に行き詰まっていたハミルトン男爵は頭をスッキリさせて発想の転換を促すべく、森を散歩していたのである。
もちろん、問題とは極座標系に於ける曲線と生物の構造に関する考察である。
解けなくても誰も困らないが、解けるとみんなが喜ぶ。そう、男爵は信じて疑わない。
少なくとも親友の水竜ガルグイユや魔女は喜んでくれるはずだ。後、森を気に入って大陸東方に帰ろうとしない花白仙女も理解してくれることだろう。
そこで人食いオオカミの群れに挨拶したり、三叉樹がシカを捕らえる様子を眺めたり、墓鬼と愉快な仲間達と雑談したり、平和な時間を存分に楽しんだ。
もしも、人間の冒険者だったら5回は生命の危機に陥っていたことだろう。
幸いなことに今のハミルトン男爵は吸血鬼であり、幻獣の一員だ。
だから、凶暴な人食いウズムシやくびりシダも少し寡黙な隣人でしかない。
ところが、平和な森で思索を楽しんでいた吸血鬼に突如、物凄い悲鳴が聞こえてきたのだ。
「うわぁぁっ! 助けてくれぇっ!!」
「こいつら、不死身だ! 攻撃が効かねぇ!」
「いやぁ! もう魔力が尽きちゃったよー!」
「リュタンがやられた! もうダメだ!」
悲鳴は森の浅い場所から聞こえてきてこちらに向かっているようだ。
「はて? 冒険者が三叉樹にでも襲われているのかな?」
男爵はあわてず騒がず悲鳴の上がった方向へ視線を向けた。
まるで他人事のよう。
いや、実際、他人事なのだ。
幻獣の悲鳴なら魔気信号を伴うが、それがない以上、人間の悲鳴だ。死んで吸血鬼という幻獣に変化してしまった男爵には思いっきり他人事だと言える。
戦いは苦手だし、人間と幻獣が戦っていても人間に加勢しなければならない理由ももはやない。
しかし、次の瞬間、思わず目を見開いてしまった。
冒険者らしき人物が5人、大あわてで飛び込んできたのである。しかも、男爵を見つけるとすがるように駆け寄ってきた。
「貴族の旦那! 助けてくれ!」
「哀れな平民を見捨てないでくれよぉ!」
「貴族なら領民を助ける義務があるんでしょう?」
「旦那だけが頼りだ!」
なぜか、冒険者が背後に隠れ、吸血鬼に救いを求めている。
どういう状況なのだろうか。
驚いていると彼らを追いかけてきた相手が現れて、男爵は更に目を見開いてしまった。
それは頭がオオカミの男だったのだ。
腰布を巻いただけの野蛮な装いで全身を深い体毛に覆われていて、立派な尻尾がある。武器は持っていない。鋭い牙と爪が得物のようだ。
一言で言えば二足歩行するオオカミだったのである。
見た目からして幻獣なんだろうが、今まで見たことがない。
「ほへ?」
呆然として間抜けな声を漏らしてしまう。
「ウウウウ……」
オオカミ人間はうなり声を上げながら近づいてくる。
どうやら背後の冒険者達を襲う気のようだ。
しかも、お代わりが来た。
「ワォォーン!」
「ガゥゥッ!」
「グヮァァッ!!」
3、4、5頭、最初の1頭を加えてたちまち6頭が集まってしまった。
まずい。
戦力的に敵いそうもない。
だが、吸血鬼はあわてなかった。
わかる。
こいつらは自分より弱い。
それは幻獣の直感だった。
だから、全身に魔力を込め、自分を中心に魔力場を発生させて背後の冒険者達を押し包み。
「【止まれ!】」
魔力を帯びた、“力ある言葉”で静止するよう呼びかけたのだ。
すると、オオカミ人間達は硬直したように止まった。
どうやら効いたらしい。
「【答えろ!】【何者だ!?】」
同じく“力ある言葉”で命じた。
それは吸血鬼の幻影魔法“魅了”であった。あれから妖人花に教えを請い、意識して使えるようになるまで習熟したのである。
これで人間、もしくは自分よりも下位の幻獣には言うことを聞かせられるはずだった。
ところが、相手との間に結ばれるはずの霊的関係が感じられない。
特殊能力“魅了”が抵抗されたと言うよりも取っ掛かりがなくすり抜けたような感覚を覚えた。
しかし、それでも意外なことに怪物達はおとなしくなり。
「私ハしゃるる・ろしゅふぉーる様ノ獣化屍従者デス。主ノ命令『世界中ノ人間ドモヲ皆殺シニシロ』ヲ遂行シテイマス」
最初の1頭が素直に説明してくれた。
「そうか……」
うなずいて吸血鬼は考えた。
見たこともないが、こいつらは屍従者の一種なのか。
彼我の間に霊的関係が成立していない以上、どうやら“魅了”にかかっていないようだが、屍従者なら仕方ない。
そもそも低位の不死の怪物は精神干渉系の魔法や特殊能力に耐性があるし、まともな思考力を持たない屍従者ならなおさらである。
だが、それならそれで逆にやりようがあるというもの。
「私はお前達と同じ不死の怪物、吸血鬼のハミルトン男爵という者だ。人間ではないからお前達は用がないだろう。戻って自分達の務めを果たすがいい」
堂々と言い放った。
すると、異様なゾンビ達は互いに顔を見合わせると。
「『第1原則ニ反シナイ限リ、屍従者ハ主ノ命令ニ従ワナケレバナラナイ』…当ぞんびハ人間ヲ探シニ行キマス」
やはり最初の1頭が回答した後、全員がくるり踵を返して帰っていった。
「ふぅ…思惑通りだったな……」
ハゲ頭の吸血鬼は一息吐いてから。
「屍従者は必ず主の命令を遂行しようとする。逆に言えば主の命令にないことはしないものだ。だから、諸君を魔力場で覆い隠して人間がいないように見せかけたら殺しの標的を見失って帰っていったのさ」
背後の冒険者達に説明してやった。
「はぁ…死ぬかと思ったわ……」
「一時はどうなることかと……」
「ハミルトンの旦那、ありがとうごぜぇやす」
「さすが旦那ですわ。本当に助かりました」
「おかげで命永らえましたぜ」
冒険者達は急死に一生を得たことに礼を言い、頭を下げて感謝した。
あれからハミルトン男爵も長くこのラナス大森林で暮らしているので多くの冒険者達から『森には人間に友好的なハゲ頭の吸血鬼がいる』と噂されていたのだ。
それ故、今回、助けられた冒険者達も素直に感謝したのである。
もっとも、命の恩人を手に掛けるような恩知らずはめったにいないものだ。それにこうして礼を失しない心がけもあるだろう。
「それで“獣化屍従者”とは一体、何者なんだね?」
感謝よりも説明を求めたい。自分が救ってやった冒険者達に尋ねた。
「へぇ、実は……」
冒険者達はアリエノールの町で起きた大混乱について知っている限りのことを伝えた。
「なるほど…後継者争いが高じて内乱が起きたのか」
ハゲ頭の吸血鬼は状況を理解したものの、首をひねった。
「屍従者はそんなに強力な…幻獣じゃない。諸君が倒してしまえば済むことではないのかね?」
途中、口ごもったが、疑問を言葉にしてみた。
正直、屍従者を“幻獣”と表現することに抵抗があるのだ。
屍従者は自然発生する生ける死骸と違い、人間に所有され、人間に利用される、人間の奴隷だ。
いや、自由意志すら持たない屍従者は“奴隷”とさえ言えない。
主に逆らうどころか、まともに考えることすらせず、ただ、命じられたことを実行するだけの機械に近い。言わば、“道具”だ。
“奴隷”ですらない、ただの“道具”を自分と同じ不死の怪物とは思いたくない。
そんな吸血鬼の心情を知ってか、知らずか、冒険者は脅威について語り始めた。
「へい。旦那は『ゾンビに噛まれると噛まれた奴もゾンビになる』ってゆー警告を知ってますかい? あいつらに…猛獣兵士どもに噛まれるとそうなっちまうんでさぁ」
冒険者はブルブルと震えた。
仲間や同業者が大勢やられた。噛まれて倒れた後、再び、起き上がった時はもう怪物に成り果てていた。
初めて戦ったときも冒険者達が優勢だったのに倒れた同業者が怪物になって襲いかかってきた。それで時間をかけるほどに不利になってしまい、結局、逃げ出す羽目になってしまったのだ。
「それは…物凄い新規軸だね……」
男爵はただ、ただ、驚いた。
増殖する幻獣なんて極めて稀だ。
そもそも幻獣は世代交代しない。
親が子供を産んで、その子供が育ってまた親になり、再び子供を産む、そういう生物の自然な営みと無縁なのだ。
多くの幻獣は虚無の空間から湧出する、始めから成長した成獣の姿で。
そして、歳を取ることはない。寿命がなく、死なない限り、永遠に生き続ける。
それが自然界の生物と根本的に違う、超自然界の幻獣という存在なのだ。
その数少ない例外こそがハミルトン男爵ら、不死の怪物なのである。
人間が死んで変化した者だから、普通の幻獣と出自が異なる。それで他の幻獣から微妙な反応をされたりもするのだ。
それはともかく素直に感心した。
「う〜ん、そんな商品を造り出すとは天才的な死霊術師に違いないね」
製作者を称賛した。
感心したが、同時に複雑な気分だ。
噛みついて仲間を増やすのは吸血鬼の専売特許だったはずなのにそれをあっさり屍従者に奪われてしまった。
“闇の貴族”とも呼ばれる吸血鬼だが、言われるほど凄いわけでもないのかもしれない。
「へぇ。“墓場のイレーヌ”っつー、天才だって聞いてますです」
もう町に戻れないかもしれないと冒険者は暗い顔で応えた。
「うぅむ…やはり天才か……」
男爵も考え込んだ。
アリエノールの滅亡はラナス大森林にも何らかの影響を及ぼすかもしれない。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ついにゾアンゾンビがラナス大森林にもやってきてしまいました。
さしもの怪物達も自分達以上の魑魅魍魎が跳梁跋扈する森では好き勝手できない?
いやいや、ろくでもないことを初めたようです。
心配するハミルトン男爵が心配していますが、どうなることやら……
さて、そういうわけで次回は『森の大騒動! 大変なことになりました。幻獣達はどう戦うのでしょう? あぁ、暁光帝は一次関数のグラフが本当に真っ直ぐな直線になるのか、確かめていますよ。』です。
請う、ご期待!




