“軍事パレード”って要するにお祭りですよね。暁光帝は観光に行きたくなってきました。
ゴール王国はペレネー領の次期領主であるロシュフォール辺境伯の跡取りを決めるイベントが始まります☆
現在、候補は長男アルマンと次男シャルル、それに親戚&友人一同。
取り仕切るは我らが主人公(仮)イレーヌの仇ミシェル・ロシュフォールです。
こいつは天下の往来で無実の乙女に濡れ衣を着せて忙殺した卑怯者の悪党です。
あれからン十年が経ち、卑怯者ミシェルは領主の座に着いて、結婚して妻を娶り、子供を儲けて、その子供が成長して、自分はそろそろ引退しようとしていますwwww
要するに幸せな老後に向けて頑張ってる感じです\(^o^)/
えっ、仇討ちは?
イレーヌがやる気ないので保留にしてたらこんなことになっちゃいましたwwww
あ、やりますよ、復讐☆
イレーヌはもう恨んでもいないし、殺されたおかげで超強力なアンデッドモンスターに生まれ変われたし、厄介な3桁に及ぶ祖先の介護から開放されましたが…復習します☆
いや、復習してどうする!?
宿題じゃいないんですからwww
復讐しますよ、ちゃんと。
とにかく復讐はほったらかしで平和的な軍事パレードです♪
これで跡取り候補が決まります☆
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
そして、翌週の昼、英雄の町アリエノールでは大勢の住人達が中央広場に続く大通りに集まっていた。
幸いなことにパレード日和で夏の日差しはまぶしいほどに明るく、沿道は歓声を上げる人々でいっぱいだ。
「うぉー、凄ぇー!」
「まぁ…なんてたくましくて頼もしいのかしら……」
「数え切れんほどの馬がいるぞ!」
「お前、そもそも数が数えられないじゃん」
「いいんだよ! 両手の指より多いってことなんだから!」
興奮した若者達が口々に叫んでいる。
島国でない、ゴール王国は国境を挟んだ向こう側に自分達と異なる人種、すなわち“敵”が存在する。
外国というものはそれがどれだけ友好的に振る舞っていようと潜在的な敵なのだ。それは同じヒト国家であっても変わらない。ましてや、人種の異なる、小人や妖精人、巨人や半魚人の国家は価値観も文化も違う異国である。
しかも南のゴブリン王国は明確な脅威であり、北伐を唱えてこの国への侵攻を繰り返し試みているのだ。
弱みを見せればいつ攻め込まれてもおかしくない。
そんな認識がある。
それ故、辺境伯とアリエノール軍は飾りでない、ペレネー領を防衛し、領民の安全を守る頼れる軍隊として支持されている。
だから、辺境伯の後継者候補が派手な軍事パレードを催せば応援しない者はいない。
もし、いたらそいつは敵国のスパイだろう。
今、また、新しい部隊が行進してきた。
「俺はギュスターヴ・アンリ・デ・ラ・バルテレミー、領主ミシェル・ロシュフォール様の再従姉妹の夫であーる!」
先頭を行く指揮官が指揮棒を振り上げ、大音声で呼ばわった。
そこへ一糸乱れぬとヒト兵士達が続く。その数、50人ほどか。童人も巨人もいない。
その代わり、ぬいぐるみのような犬人達が鎧を着てヒト兵士の間に混ざっており、部隊の人数をかさ増ししてる。
「誰だ、アレ? 伯爵様とは名字も違う他人じゃないか」
「長い名前だけは偉そうだな」
「鎧は立派だけど勲章は1つしかつけてないわ」
民衆の評価は芳しくない。
「むぅ…コボルト奴隷でかさ増ししたのがバレたか……」
領主の再従姉妹の夫の機嫌が悪くなった。
そして、背後に付き従う嫁の機嫌はさらに悪くなった。
「ちょっと、アンタ! 全然ダメじゃないの!」
領主の再従姉妹はものすごく不機嫌な声で怒鳴った。
「あ…うぅ…いや、その、お前……」
鬼嫁に叱られてたちまち夫は小さくなった。領主の再従姉妹である妻の機嫌を損ねると立場が危うくなるのだ。
こうして雇い主が妻と言い争っていても兵士達は黙ってついていく。
この辺は職業軍人らしい図太さである。
人数だけはこれまでの行進の中で一番だ。コボルト奴隷でかさ増ししていたが。
ところが、そこへとんでもない部隊が続いたのである。
物凄い人数だ。
部隊は長く長く続いていて、観客が目を凝らしても最後尾が見えない。しかも、ヒトしかいない。異人種は1人もおらず、本当にヒトだけの部隊である。
この部隊の指揮官はとんでもない人数を率いているのだ。
「俺はアルマン・ロシュフォール! 領主ミシェル・ロシュフォール様の嫡男であるぞ!」
先頭を行く肥満体が指揮棒を掲げて怒鳴った。腹の底から声を絞り出すような絶叫である。よほど領主の後継者になりたいらしい。
蟄居させられていたせいででっぷり太ってみっともなく突き出た腹の肉がぶるんぶるん揺れている。ヒゲこそ剃っているものの、たるんだ二重顎のせいで軍人に見えない。
それでも引き連れている部隊は圧巻。
「300、400…いや、500人いるぞ!」
「お前、凄いな。そんな大きな数も数えられるんだ」
「君はデキる男だと思っていたよ」
民衆がビックリ仰天している。ほとんどの人々が3以上の数を知らず、物を数えても『1、2、たくさん』になってしまう中、計算のできる商人がいたようだ。
「500人…領主様の軍の半分のそのまた半分か。凄ぇな……」
「これほどの人数を集められるんならそれだけ支持されてるってこった」
「次期当主はアルマン様で決まりね」
民衆の期待は大いに高まった。
人々は強いリーダーを欲するのだ。
国境とラナス大森林に接する町、アリエノールは常に脅威にさらされている。それ故、領民を納得させてくれる強いリーダーはありがたい。
アルマンでもう決まりだろうと人々は思っていたの。
だが、しかし、そこへ最後の部隊がやってきた。
指揮官は若く精悍な面構えの青年で威風堂々と歩いている。
その威厳は無様に肥えたアルマンとは比べるべくもない。
その上、彼の背後に続く部隊が異様。
先ずは巨人よりも一回り大きい巨体の2人だ。
驚くのは大きさばかりではない。腰布しかつけていないが、それはいい。筋骨隆々の裸体を覆うのは左がトラの毛皮、右がライオンの毛皮である。しかも着ているのではなく、そういう皮膚なのだ。首からは猛獣の頭が生えて、左の男、右の男、それぞれがトラとライオン。虎縞とたてがみが恐ろしく、口には相応の牙が生えている。
2本足で歩いているが、毛皮に包まれた両手には鉤爪もある。
どう見ても猛獣の肉体を得た兵士だ。
しかも2人の首には首輪が巻かれていてそこから伸びる鎖を指揮官が握っているのだ。
この若き指揮官が恐ろしい猛獣兵士の手綱を握っていることは明らかだった。
彼らの後ろに2本足で歩くオオカミの猛獣兵士が続く。その数、20人ほどで体格もヒト男性と変わらないが、目つきが違う。武器こそ持っていないものの、鋭い眼光と鉤爪は野生の力を感じさせて恐ろしい。
その後ろにはサイの猛獣兵士が歩く。4人だけだが、見上げるだけで首が痛くなるほどの、雲衝くような巨体だった。太い脚と頑丈な角はヒト兵士の軍団など一瞬で蹴散らしてしまいそうだ。動きは鈍重だが、ズシンズシンと足音が凄い。
次は人数で攻めてきた。ドブネズミの頭を持つ、子供ほどの体格の兵士が30人ほど続く。
驚くべきことに部隊の上には空を飛ぶ者達がいる。肩から腕の代わりに翼が生えた、ワシの頭を持つ猛禽兵士達だ。足には凶悪な鉤爪が生えていて、空中から襲いかかるときに使うのだろう。もちろん、湾曲したくちばしは容易に敵兵の首をもぎ取るに違いない。
これでもまだ終わりではない。
最後にとんでもない巨人が続いていたのだ。
それはサイの猛獣兵士ですら子供に見えてしまうほどの超巨体、まるで小山が動いているような錯覚すらも覚えるほどの、ゾウの猛獣兵士だった。
1人だけ存在感が違う。
歩くたびに大地が揺れるほどの足音を響かせるのだ。
ゾウの頭からは長大な鼻と象牙が伸びる。とてつもなく頑丈そうで、こいつが突進してきたら要塞の城門ですら一瞬で砕け散ってしまうのではないかと思わせるほどに大きい。
それに100人ほどのヒト兵士が続くものの、彼らは立派だが奇異ではないから、驚くほどではない。
全体で200人を越える大部隊だ。
人数だけならアルマンの部隊に劣るが、それ以外が衝撃的すぎた。
猛獣兵士は獣や鳥の姿をしているが、獣人ではない。
獣人は毛深くて尻尾が生えているし、猫のような耳が頭の高い位置から生えている。そして、ヒトよりも力が強い。だが、違いはそれくらいだ。
彼らは猛獣兵士のように大きくもなければ、爪や牙もない。
猛獣兵士は明らかに獣人ではない、全く別の存在なのである。
驚いていた住民達だったが、異様な部隊が進むに連れ、気を取り直して反応した。
「こいつぁ、とんでもねぇや……」
「トラ男やライオン男は巨人族よりも大きいわ…本当に人間なの?」
「いやいや、あのサイどもを見ろよ。突進されたらお城の騎士様だって太刀打ちできねぇわ」
「アルマン様の部隊が霞んじまうわな」
「ゾウの化け物、凄ぇな…あいつ1人にお城も落とされちまうんじゃねぇか」
「彼らがいれば悪魔の軍団が攻めてきてもやっつけてくれそうね」
手放しで褒め称えている。
そこでついに指揮官が口を開いた。
「僕はシャルル・ロシュフォール! 皆も知っている偉大な魔導師イレーヌ嬢の協力でこのような猛獣軍団を率いている! 僕と彼らが町を守るのだ!」
指揮棒を掲げて、若き指揮官は吠えた。
すると、続く猛獣兵士達も叫んだ。
「「ガオオオオオッ!」」
「「「ウォォォォン!」」」
「「クヮァァァッ!」」
「「「「「キーキー!」」」」
「「ウォォォッ!」」
「パオォォォォン!!」
獣の雄叫びが轟いた。
人ならぬ身の怪物の咆哮は凄まじく、人々は膝を屈して押し黙るしかなかったのである。
シャルルは名乗りで父親の名前を出さなかった。
そんな奴の権威を借りなくても自分はやっていけるという、若者らしくも大胆で天晴な態度だった。
パレードを見ていたギヨームと家族達も驚いていた。
「何だ、奴らは? あんな、ケダモノじみた化け物が国を守るだと?」
あまりと言えばあまりの光景にギヨームは頭を振ってどうにか正気を保っていた。
「うぅむ、あれは獣化屍従者…ご主人様の新規軸です。まさかすでに完成していたとは……」
幽鬼のアルフレッドも言葉を失った。
隠密活動を得意とする沈着冷静な不死の怪物なのに珍しく感情を露わにしている。
「“ゾアンゾンビ”って…じゃあ、あいつらも死体が動いてるのかい?」
息子ガスパルはアルフレッドの言葉からゾンビの一種だと当たりをつけて考え込んだ。
「だけど、ヒトの死体からはヒトのゾンビ、ゴブリンの死体からはゴブリンのゾンビが造られるんでしょ? 原材料の死体と人種が違うなんてありえないんじゃ?」
ゾンビの作り方を思い出しながら考えた。
死霊術師は死体を集めては死霊術で不死の怪物として蘇らせてきた。
それはイレーヌもイレーヌ以外の死霊術師も同じだ。
「んー…けどさ、元の死体が腕や足がもげていて足りなかったとき、他の死体から“部品”を取って“原材料”に付けていたよね。確か、“邪魔法”って言う……」
あの屋敷での作業風景を思い出しながら喋った。
イレーヌは天才なので壊れた不死の怪物を修復する“邪魔法”という技術も使えるのだ。
もしも、それを応用したとすれば、あるいは猛獣兵士のような怪物を生み出すことも可能かもしれない。
「肯定します。ガスの推測は正しい。屍従者の原材料は死体ではなく死肉。ご主人様はそれに気づいて異なる生物の死肉を融合させる技術を思いついたのですが……」
アルフレッドは言いよどんだ。
何かひどく気になることがあるらしい。
「畜生! 胸騒ぎが止まらねぇ! このゾアンゾンビって奴は何かヤベェんだろ? 一体、何がまずいんだ!? 言ってくれ、アルフィー!」
ギヨームは興奮して叫んだ。
ベテラン冒険者はいざというときの自分の勘を信じる。今がその時だと思ったのだ。
するとアルフレッドは何か重大なことに気づいたらしい。
「いけません! グィル、今すぐ家族を連れて避難を! 万が一のことが起きるかもしれません!」
声を張り上げて警告していた。
「わかったぜ! ガス、妹達を! お前、逃げるぞ! アルフィー、みんなを守れ!」
驚いて呆然としている妻の手を取ったギヨームは息子に他の子供達の世話を任せて走り出した。
「おぅっ!」
ガスパルは短く答えて妹達を両脇に抱きかかえて走り出した。
「承知!」
アルフレッドは幽鬼らしく足音を立てず、背後に気を配りながら静かについていく。
「…」
自分の心配が杞憂で終わればいいと考えながら。
「最悪、町が滅びるかもしれない。ご主人様、何をなさってるんですか」
自分は稀代の天才、屍導師イレーヌに造られた幽鬼だ。それ故、今までは主やサロメ以外の不死の怪物に遅れを取るなどありえないと、たかをくくってもいた。
だが、今回ばかりはそうもいかないかもしれない。
有能な執事の顔が引きつっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
不穏な雰囲気を振りまきながら軍事パレードが始まりましたぉwww
あ、サブタイトルで暁光帝が観光に来たがってますが、あの龍が来ると跡取り競争もイレーヌの復讐もゴール王国も全部まとめて終わりますのでwww
主人公なのに出番がありません(^_^;)
ここからしばらく領主一家のお家騒動が続きます。
凡愚の父親と凡愚の長男、有能で才気煥発の次男とすこぶる有能だけどやる気のない末娘という、問題だらけのロシュフォール辺境伯家ですね。
イレーヌは純粋にビジネスとして商品を提供しました。
なので、ここから先は領主一家それ自身の問題ですわ。
この当時も瓦礫街リュッダに人化♀した暁光帝がやってきた時代も碧中海沿岸のヒト国家は多くが封建制です。
だから、基本的に長子相続ですね〜
あ、長男教ではありません。魔法がありますからね。
もっと以前、人間が魔法を使えなかった時代は軍事的な衝突が男の体力だけで決着が着いていたのでゴール王国もけっこう男尊女卑の風潮は残っています。
完全な男尊女卑国家は作中だとヴェズ朝オルジア帝国くらいでしょうかね。
いつも暁光帝に踏んづけられている被害者国家なので同情しか湧きませんがwwww
それでもアリエノールほど実力主義を標榜する地域は珍しいのです(^_^;)
他は門閥主義や家父長制or家母長制がもっと幅を利かせていますね〜〜
ちなみに家母長制国家は代表的なのがフォルミカ大帝国ですね。蟻甲人ミュルミドーン族の国が厳密に家母長制ですわ。
そりゃ、アリ人間だから女王アリの支配下にあるわけでめちゃくちゃ家母長制ですねwwww
実力主義は誰もが平等にチャンスを与えられ、誰もが能力に応じて平等に出世する権利を得られるシステムを推し進めます。
じゃあ、理想国家じゃんwwww
むむむ、果たしてそうかな?
さて、そういうわけで次回は『猛獣兵士はどこから来たの? 暁光帝だってアイツラの出自が気になるのかもしれません(^_^;)』です。
請う、ご期待!




