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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<歴史です。産めよ、増やせよ、地に満てよ!? ゾンビ地獄じゃぁぁ!!>>
159/197

暁光帝が歌って踊っている間に町で何か大変なことが起きたようです。えっ、そんなん、責任取れませんにょ。

世界を支配する神々がついに立ち上がり、罪深き人間を罰しようと世界の終わりをもたらします。

けれども、我らが主人公、人間を慈しむ暁光帝は見過ごしません。

決死の覚悟で神々に挑み、ここにドラゴンと神界の戦いの火蓋が切って落とされたのです☆

荒れ狂う天空と沸き立つ海、地上は地獄の業火に包まれた!

罪深き人間は焼き尽くされてしまうのか!?

いいえ。

慈悲深きドラゴンのおかげで人類文明は救われ、神々はリゼルザインドの山奥へ撤退しました。

めでたし、めでたし。

そういうわけで〜♪

お楽しみください。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 朝焼けがまぶしい。

 通りの左右に鍛冶屋や道具屋が並ぶ。陳列(ちんれつ)された武器も(よろい)も朝日に照らされてきらめいている。

 もっとも、無表情で働く労働者達の肌は青白く不健康で無口だ。彼らはまだ夜も明けぬ暗いうちからずっと働き続けている。

 それなのに疲労の色はない。

 熱意があるわけでもないが、一切、不満を漏らさず、黙々と働いている。

 さもありなん。

 彼らはゾンビ。

 人間に所有され、人間の生命と財産を守り、人間の命令を忠実に実行する、死体から造られたアンデッドモンスターだ。

 「ふむ…こうして見るとけっこう違いがあるな」

 冒険者ギヨームは幼馴染(おなななじ)みイレーヌの屋敷で目にするゾンビと彼らを比べていた。

 よく見ると通りで働いているゾンビ達は状態が良くない。服の隙間(すきま)から(のぞ)く部分が傷ついていたり、近寄られると腐臭で鼻が曲がりそうになったり、皮膚がカビていたり、肌の上を虫が()い回っていたり。

 痛みかけた死体とわかってしまい、どうしても不快感を抑えられない。

 ゾンビらしいゾンビと言えばそれまでだが、やはりイレーヌ謹製(きんせい)商品(ゾンビ)と比べて粗悪品である。

 ここは冒険者が足繁(あししげ)く通う市場。

 高級店でもないし、客も金持ちではない。客が見慣れているから、生きた人間の代わりにゾンビを用いることに抵抗がないのだろう。

 朝日も高く昇り始め、冒険者や商人がせわしなく行き交う。

 だが、しかし、道行く人々の顔には不安の色が目立っていた。

 理由はわかっている。

 「そりゃぁ、なぁ…昨日の今日だし…無理もないか」

 冒険者の青年、ギヨームは寝不足の頭を抱えながらトボトボ歩いていた。

 昨夜は夜通し、沖で何かが歌っていたのだ。

 “誰か”ではない。

 “何か”だ。

 正体は知れぬ。

 英雄の町アリエノールは日が昇るとともに起き、日が沈むとともに眠る。その(あた)りはヒト族の町ならどこも変わらない。(あか)りの油だってただではないのだ。夜になれば世界は(すみ)を流したような闇に包まれて人間は一切、行動できなくなってしまう。

 昨夜、大嵐の中で雷が鳴り、物凄い強風で家が揺れた。

 あわてて飛び起きてみたら物凄い稲光(いなびかり)と大風が荒れ狂っていた。

 真っ暗な中でも夜天の星々が大きく切り取られていて巨大な影が動いているのがわかった。

 何か途方もなく恐ろしいモノが夜の(おき)に降り立ったことは間違いない。

 それについては想像もつかない。

 神か、悪魔か、はたまたそれよりもさらに恐ろしい何かだったのだろう。

 昨夜の現象に多くの者が気づいていた。よほど神経の図太(ずぶと)い者でなければ眠れずに起きてしまったに違いない。

 それで道行く人々の表情が不安げなのだ。

 しかも町は平和だ。

 夜中に何かが騒いだところで誰かが傷つくわけでもなく、ましてや人死(ひとじに)が出ることもない。北伐(ほくばつ)を唱える南ゴブリン王国は疫病の流行でおとなしくせざるを得ず、(いくさ)気配(けはい)も遠ざかっている。

 つまり、本物の平和だ。

 けれども、この英雄の町アリエノールは平和であるほど冒険者も傭兵も仕事が減って不安に(さいな)まれてしまうのだ。

 難儀なことである。

 「そろそろ次の冒険を考えなきゃいけないなぁ……」

 仕事を失った傭兵の一部は冒険者に転職してギヨームの競争相手になるかもしれない。

 そうなれば慣れない冒険でラナス大森林の肥料になる奴らも増えることだろう。

 そんな悲劇を防ぐためにもギヨームのようにまっとうな冒険者がそいつらの失敗を尻拭(しりぬぐ)いしてやらねばなるまい。

 何とも頭の痛い話である。

 「6人パーティーで手堅く…いや、遭難者の救助を考えると実入りは悪くても奥を目指すのは避けて、8人パーティーで手堅く町の周辺で薬草でも集めるかな……」

 計画を立てながら仲間を集められるか色々と算段を(めぐ)らせた。

 けれども、様々な状況を考えるとなかなかうまく行かない。もう手練(てだれ)は呼ばず、若手を集めて諸経費を節約しつつ、連中の教育も兼ねて小金(こがね)を稼ぐかとも思えてきた。

 「それなら孤児達に冒険の手ほどきもできるし、悪くないかな」

 そんなふうに頭を悩ませながら歩いていると向こうから声が聞こえてきた。

 「グィル」

 「?」

 名前を呼ばれて顔を上げると通りの先から控えめに手を振るイレーヌの姿が見えた。

 「あぁ、おはよう、レニー」

 “ギヨーム”を“グィル”、“イレーヌ”を“レニー”とお互いを愛称で呼ぶ間柄だ。

 イレーヌは死霊術師(ネクロマンサー)らしく、陰気な黒い長衣(ローブ)をまとい、フードを目深(まぶか)にかぶっていたが、袖口(そでくち)に縫い込まれた独特の刺繍(ししゅう)がわかりやすい。

 見る者が見ればわかる、町外れの墓場で暮らす死霊術師(ネクロマンサー)の紋章だ。

 「お互い、早いなぁ…ハハ……」

 「キミもね…ハハ……」

 お互い、寝不足の頭で寝不足の顔に挨拶した。

 そして、笑い合い、ギヨームは普段あまり見かけない幼馴染(おさななじ)みがどうして大通りを歩いているのか、気になって歩み寄ろうとして。

 「えっ!?」

 気づいた。

 いつの間にやら、普通の通行人の姿が消え、2人の周辺を多くの兵士達が取り囲んでいることに。

 すると、剣呑(けんのん)な連中の中から一人の若い男が進み出た。

 「お前が悪名(あくみょう)(たか)い“墓場のイレーヌ”だな?」

 一応、形式立ててはいるが、実際は確かめただけだ。

 偉そうに胸を張った男はやたらと豪奢(ごうしゃ)(よそお)いだった。

 この町を治める貴族、ロシュフォール辺境伯の長男“ミシェル”だ。

 「あいつは!」

 見た瞬間にギヨームは嫌な予感に襲われた。

 あの男は辺境伯の軍隊を(ひき)いているが、疫病の流行で戦争が遠ざかり、仕事が失くなった兵士達と一緒に()(めし)を食らっているらしい。

 それで腐って(くだ)を巻くだけなら大した問題にもならないのだが、しぶとく良からぬことを(たくら)んでいるとも言われている。

 機会(チャンス)がなければ機会(チャンス)を作る、そんな発想もあるのだろうか。

 「えっ? あ! はい……」

 驚いたイレーヌが思わず返事をしてしまった。

 それを聞いた長男はニヤリと口の()を歪めて。

 「お前は闇の勢力と通じ、死体を(もてあそ)ぶ、おぞましい死霊術師(ネクロマンサー)だ! お前のような奴が光の神から忌み嫌われ、アリエノールの町に(わざわ)いをもたらすのだ!」

 いきなり大声で罵倒し始めた。

 すると、周囲からワラワラと白い長衣(ローブ)をまとった連中が現れた。

 「こやつが墓場のイレーヌか!?」

 「光明神(こうみょうしん)ブジュッミを冒涜(ぼうとく)する神敵だ!」

 「()しき者を(ほうむ)れ! 我ら、信者は光の神に忠誠を示さねばならない!」

 「神敵を調伏(ちょうぶく)せよ!」

 エレーウォン大陸全土に勢力を広げ、光の神ブジュッミを(あが)める光明教団ブジュミンドの神職達だ。

 個人主義を嫌い、集団主義を(たっと)ぶ、強力な宗教団体である。実力ばかりを重んじる、英雄の町アリエノールとは相性が悪く、対立する暗黒教団ゲロマリスの方が勢いがあるくらいだが、どうやら辺境伯の長男と手を組んだらしい。

 彼らは以前から死霊術師(ネクロマンサー)という理由だけでイレーヌを責め立てていた。

 「そうだ! お前はいずれ町に(わざわ)いをもたらす疫病神(やくびょうがみ)だ!」

 神職達の口車に乗って長男も吠えた。

 これに合わせて周囲からさらなる非難の声が上がる。

 「ゾンビは俺達から仕事を奪うんだ!」

 「死体が動いて生者(せいじゃ)の仕事を奪うなんておかしいだろ!?」

 「死人はおとなしく土の下で寝てろ!」

 「これ以上、不潔なゾンビをはびこらせるな!」

 「お前も死体と一緒に(ほうむ)られてしまえ!」

 むさ苦しいボロを着て汚らしい男達が口々に叫び、一斉にイレーヌを非難していた。

 「むぅっ! 酒臭いっ!!」

 安酒の臭いがプンプンする。思わず、ギヨームは不快感に顔をしかめた。

 皆、貧乏人の割りにたくましい体をしている。

 「クビにされた元・傭兵どもか……」

 よく鍛えられた肉体が職業を示す。おそらく安酒を振る舞われてイレーヌをけなすよう指示されているのだろう。

 あの長男は酒に(おぼ)れる宿無しを動員したわけだ。

 もっとも、それだけとも限らない。

 「そうか…ゾンビに取って代わられたんだな。それで恨んでいるのか」

 死霊術師(ネクロマンサー)が作ったゾンビは決して裏切らず、飯も食わないし、眠らないし、言われたことに逆らわない。もちろん、死人だから死を恐れない。また、『突撃!』や『後退!』、『とどまって戦い続けろ!』のような、よく使われる命令をあらかじめ教え込まれていて実行できる。しかも、給料を欲しがらない。

 つまり、自主性こそ微塵(みじん)もないが、兵士に求められる能力を一通り取り(そろ)えているわけだ。それどころか、むしろ生身の兵士より優れている部分すらある。

 そこでアリエノールの町が平和になったから、領主のロシュフォール辺境伯は安価な屍従者(ゾンビ)を購入して金食い虫の傭兵達をお払い箱にしたのだろう。

 兵士が減るのはあの長男にとってすこぶる面白くない。

 自分の手勢(てぜい)が減ることになるからだ。

 「ヤバい! レニー、逃げろ!」

 思考を(めぐ)らせて危機(ピンチ)に気づいたが、とっさに警告を発することくらいしかできなかった。

 「ペレネー領主が嫡男(ちゃくなん)、ミシェル・ロシュフォールが命じる! (よこしま)死霊術師(ネクロマンサー)成敗(せいばい)せよ!」

 長男が大声で命じた。

 「えぇっ!?」

 イレーヌは驚くばかりで動けない。

 直後、悲劇が起きた。


 ドシュッ!


 兵士が命令を遂行したのだ。

 「!」

 美貌の死霊術師(ネクロマンサー)は声を上げることもできなかった。自分の胸から突き出た血染(ちぞ)めの穂先(ほさき)を凝視するだけだったのである。

 それは背後から突き刺され、心臓ごと胸を(つらぬ)いた槍だった。


 ブシャァッ!!


 真紅の鮮血が噴き出し、ギヨームの見開いた目にかかった。

 「ぐわぁっ!」

 若い冒険者はとっさに血がかかっていない方の目で周囲を見渡しながら転がるように駆け出した。

 「畜生(ちくしょう)っ!!」

 思いっきり悪態をつきながら。

 イレーヌはもうダメだ。

 完全に事切(ことき)れていた。

 声も上げずに倒れた肉体の手足が力なく放り出されていたから一目(いちもく)瞭然(りょうぜん)。脈を見るまでもない。

 間違いなく死んでいた。心臓を(つらぬ)かれて生きている人間はいないのだから。

 もはやこの場から逃げるしかない。

 幼馴染(おさななじ)みであり、心惹(こころひ)かれていた乙女が目の前で(あや)められたのだ。

 胸が張り裂けそうになるほど悲しい。

 途方もなく悔しい。

 悲しくて悔しくて気が狂いそうになる。

 けれども、突如、敵対することになった相手は領主の長男、(すなわ)ち、貴族だ。一介の平民が楯突(たてつ)いたところで歯が立たない。

 「畜生(ちくしょぉ)ぉぉぉっ!!」

 怨嗟(えんさ)の叫びを上げながら走った。

 復讐だ!

 あいつは、ミシェル・ロシュフォールは俺が必ずぶち殺す!

 イレーヌが味わった苦しみを、イレーヌの無念を、全部、上乗せして恨みを返してやる!

 だが、今は決意を胸に走るしかない。

 「おいっ! 逃がすな! あいつも死霊術師(ネクロマンサー)の仲間だ!」

 背後から自分を追う兵士どもの声が聞こえてきた。

 奴らは自分も処刑するつもりだ。

 狙いはわかる。

 わかりすぎるほどに。

 平和になってしまったアリエノールの町では指揮官がまっとうに手柄を立てる手段がない。だから、適当に罪をでっち上げて()(ぎぬ)を着せた誰かを弾劾(だんがい)し、ニセの手柄を立てるつもりなのだ。

 たまたま、不運なイレーヌがその“誰か”に選ばれてしまったに違いない。

 都合よく光明教団(ブジュミンド)から忌み嫌われていたし、死体を操る死霊術師(ネクロマンサー)は町の住民からも白い目で見られていた。

 ずいぶんといい加減な所業だ。

 そんなことで領主の跡取り競争に勝てると思っているのか。

 けれども、その思惑が当たるか、外れるか、それは問題ではない。

 奴がそう思っているからそんなマネをしでかしたんだろう。

 この場でまずいのは自分も奴の選んだ“誰か”の1人に数えられていることだ。

 それは1人を処刑するよりも2人を処刑した方が手柄も派手になるに違いない。

 幼馴染(おさななじ)みの(かたき)も討てず、野望の(かて)にされるのはごめんこうむる。

 この場は(のが)れて機会(チャンス)(うかが)うのだ。

 「クズ野郎めぇぇぇっ!!」

 血の叫びを上げながらギヨームは必死で走るのだった。




****************************




 十六夜(いざよい)、わずかに欠けた月が町外(まちはず)れの墓場を照らしていた。

 野良犬も野良猫も禁忌(きんき)の土地を避ける。死出虫(しでむし)のはびこる墓地には人影がなく、冷たい夜風が吹くばかりであった。

 その棺桶(かんおけ)は冷たい土の下に(ほうむ)られていた。

 墓石だけは立派だが、墓碑銘(ぼひめい)は『死体をもてあそび、神に(さか)らった(よこしま)なる者は正義の志士ミシェル・ロシュフォールによって討たれた』と罵倒だけだ。

 死者の名すら刻まれていない。

 そんなモノは乙女を(ほうむ)ったミシェルにとって必要ないからだ。

 要は自分の手柄を誰にでもわかるようにはっきり見せたい、それだけだったのである。

 だが、この死者は他の(ひつぎ)で静かに眠る同胞(はらから)とはずいぶん違っていた。

 ()ず、墓石の下からズルズルと気味の悪い触手が生えてきた。その先端には同じく不気味な目が開いた。

 触手は1本だけではない。

 ズルズルと音を建てながら冷たい土をかき分け、2本、3本と数が増え、たちまち墓石を(おお)うほどに増えてしまった。それはさながら手蔓藻蔓(てづるもづる)のよう。死者の詰まった沈没船から生えて(うごめ)棘皮(きょくひ)動物(どうぶつ)を思わせる動きだ。

 触手の目玉は(あた)りを見渡しながら、墓場の隣で焼け落ちた屋敷を見つめるとしばらく動かなかった。

 まだ、煙がくすぶって焼けた死肉と木材の臭いが漂っている。

 だが、触手はいつまでも観察していなかった。

 ズルズルと一斉に墓石の下に引っ込んだのだ。

 するとすぐさま。


 バッコーン!


 墓石が吹き飛んだ。

 ばらばらと木片が散らばる。それは破壊された棺桶(かんおけ)の破片だった。

 ポッカリと()いた墓穴を十六夜(いざよい)の月光が照らす。

 やがて、そこから経帷子(きょうかたびら)をまとった乙女が現れた。

 腰まで流れる黒髪が月光に照らされて(カラス)()羽色(ばいろ)に輝き、眼鏡が(はず)れて青玉(サファイア)の瞳が(あら)わになる。

 育ちすぎたドングリを思わせる形の巨大な胸乳(むなぢ)は盛大に揺れながら布地を押し上げてはちきれんばかり。

 目が(くら)むほどの美貌だ。

 死体らしく顔色は生前よりもさらに白い。

 「メガネがなくてもよく()えるわ。夜の闇の中でも」

 死女は目を(しばたた)かせて墓場を眺めた。

 すると向こうから透き通った影がゆっくりと訪れる。


 ひゅ〜どろどろどろ〜


 焼け残った屋敷跡(やしきあと)からやってきた幽霊(ゴースト)女中(メイド)がスカートの(すそ)をつまんで上品に宮廷風お辞儀(カーテシー)をした。

 「お帰りなさいませ、そして、おめでとうございます、ご主人様(マスター)☆」

 その声は嬉しさを隠せない。

 「期待通り、計画通りですね」

 にっこり笑った。

 実に楽しげに。

 「全く(もっ)て計画通りじゃないわよ。何十年も()って…もっとお婆ちゃんになってから死ぬはずだったわ。お(うち)も焼かれちゃったし」

 墓場のイレーヌあらため、死女イレーヌは焼け落ちた屋敷を眺めながらため息を()いた。

 「まぁ、死出虫(しでむし)の卵が(かえ)る前に生き返れたのは僥倖(ぎょうこう)ね」

 経帷子(きょうかたびら)を突き上げて膨らんだ爆乳が揺れる、揺れる。

 もはや息はしていないが、わずかな動きでもよく弾む、さすがの大質量だ。

 「いいえ。ご主人様(マスター)の麗しいお姿が(みにく)く老いさらばえる前に大望(たいもう)(かな)って嬉しゅうございますわ」

 サロメは(あるじ)の死を悲しむ素振りすら見せない。

 「死は不死の(アンデッド)怪物(モンスター)の誕生。お誕生日、おめでとうございます」

 愛する主人の死が嬉しくて仕方がない様子だ。

 いや、本来なら生者(せいじゃ)の死を(いた)むところだろうが。

 必ずしも死人が不死の(アンデッド)怪物(モンスター)として(よみがえ)るわけではない。

 では、幸運にも死女は化けて出ることに成功したのか。

 (いな)

 幸いなことに墓場のイレーヌは強力な死霊術師(ネクロマンサー)だったのだ。そこであらかじめ、自分自身に特別な死霊術(ネクロマンシー)をかけておいたのである。

 死後、(よみがえ)って不死の(アンデッド)怪物(モンスター)変化(へんげ)するように。

 稀代の天才、さすがの神業(かみわざ)である。

 「それにしても…凄い怪力ね。棺桶(かんおけ)のフタも墓石ごと吹き飛ばせたわ。どぉ?」

 自身の魔力を解放すると凄まじい量の魔気(まき)力線(りきせん)が放たれた。

 自分の姿を自分で見られないように自分の魔力は自分で()られない。

 手っ取り早く幽霊(ゴースト)女中(メイド)()てもらうのだ。

 「魔気容量(まきようりょう)はおよそ8(メガ)gdr(ゲーデル)…素晴らしい☆ さすがはご主人様(マスター)、立派な屍導師(リッチー)になられましたわ」

 どれほどサロメの喜ぶまいことか。

 両手を叩いて祝っている。

 「7(けた)オーバー、いや、8(けた)近い魔気容量(まきようりょう)か…予想よりもずいぶん大きいわね。幽鬼(ファントム)より少し大きいくらいがちょうどよかったんだけど……」

 イレーヌはわずかに眉をひそめた。

 「貴女(あなた)よりもずっと強くなってしまったわ」

 「それでわたくし達の関係が変わるわけでもありませんわ」

 不満げな(あるじ)幽霊(ゴースト)女中(メイド)は上機嫌で現状を肯定した。

 「容姿の衰えだけは案じておりましたが、全くお変わりないようで本当に……」

 安堵(あんど)のため息を()いた。

 普通、屍導師(リッチー)という幻獣(モンスター)はミイラか骸骨(スケルトン)のような死骸が長衣(ローブ)を着た恐ろしい姿で知られている。

 (あるじ)が麗しい乙女の姿のままで生き返ってくれたことには感謝しかない。

 「伊達(だて)に稀代の死霊術師(ネクロマンサー)と呼ばれていないわ。私の技術はそのためにあるんだからね」

 胸を張る死女。

 墓場のイレーヌ謹製(きんせい)不死の(アンデッド)怪物(モンスター)は生前の姿そのままに(よみがえ)ることが売りなのだ。臭くないし、腐らないし、傷んでいないきれいな肌と清潔な肉体で同業他社の製品(ゾンビ)に差を付けている。

 自分が屍導師(リッチー)に変化することについても十分に配慮して不気味な外見になることを避けたのだ。

 さすがは当代(とうだい)随一(ずいいち)の天才である。

 「それにしても光の神の手下どもが…光明教団(ブジュミンド)が来たんじゃないの?」

 光明神(こうみょうしん)ブジュッミはその名の通り、闇魔法や暗黒魔法を忌み嫌う。その信者達も同様にそういうことを言うし、やるものだ。

 「やってきましたよ。土足でズカズカ入り込んできてあちこちに聖水をぶちまけたり、聖魔法をかけまくったり…あの連中は好き放題していきました」

 思い出してサロメは顔をしかめた。

 「それでお屋敷の屍従者(ゾンビ)幽鬼(ファントム)も滅ぼされてしまいました。火も放たれてしまいましたが、わたくしはご主人様(マスター)のご遺体がまともに埋葬されたので、もう嬉しくて嬉しくて…」

 (あるじ)の死に歓喜する従者の(かがみ)である。

 どうやら姿を隠して埋葬の様子を眺めていたらしい。

 「連中は聖水を()いたり、聖餅(せいべい)を土に刺したり、聖別の儀式を()(おこな)ったり、あれやこれややっていましたが、まぁ、通り一辺倒(いっぺんとう)の抗アンデッド化の措置(そち)でしたね」

 軽蔑したような眼差(まなざ)しで墓土に刺さった聖餅(せいへい)を眺めて。

 「もちろん、そんなものでご主人様(マスター)死霊術(ネクロマンシー)を打ち破れるわけがなく、思わず失笑が漏れてしまいましたよ」

 クスクスと笑った。

 神聖ブジュミンド王国の大聖女ご本人ならいざ知らず、こんな地方(いなか)の教会に何ができるのやら。

 「何しろ、ご主人様(マスター)は入念に準備されていましたからね」

 町外れの墓地は何世代にも渡る死霊術師(ネクロマンサー)の家系が管理してきた。しかも、怨霊サロメと天才イレーヌが手を尽くして不死の(アンデッド)怪物(モンスター)を生み出すための魔気“負の生命力”を蓄えてきた特別な墓土である。

 ここは知る人ぞ知る、ゾンビ製作者の間で有名な“呪怨(メガデス)培地(ポイント)”だったのだ。

 「神職どもと例の長男はあんな聖別の儀式だけで墓を清められると高をくくっていましたからね。ほんとバカな連中ですわ。ホーッホッホッホッ!」

 胸を()らして高笑い。ザマァ見ろと言わんばかりの楽しげな態度だ。

 「う〜ん…そんなことより兵士長から頼まれていた屍従者(ゾンビ)の納入日は()明後日(あさって)だったかしらね?」

 自分を害した人物のことなどどうでもいい。重要なのは4日後の取り引きだ。死霊術師(プロフェッショナル)としてイレーヌは納期と在庫の方が気になっていた。

 「あぁ…それでしたら地下室が無事なので死体(ざいりょう)さえあれば必要な数は(そろ)えられるかと。多少、品質に(さわ)るかもしれませんが……」

 怨霊の女中(メイド)は屋敷の跡地に目をやった。

 地上の建物は焼け落ちてしまったが、地下の施設に被害はない。領主の長男も神職どもも隠れ家の存在には思いが及ばなかったようなのだ。

 ()(ぎぬ)を着せて罪をでっち上げることに執心していただけだからそんなものだろうが、つくづくバカな連中である。

 機材と設備は無事なので顧客(カスタマー)に少し出来の方を我慢してもらえば問題ないはずだ。

 だが、イレーヌはこの報告に眉をひそめた。

 「納期を守るだけではダメよ。品質も数も顧客(カスタマー)の要望に沿わなければ意味がないもの」

 約束は絶対である。

 破ることはできない。

 自分が死亡したこと、製造設備が襲撃されて破壊されたこと、様々な要因により製品の納入が難しくなっていることは否めない。

 しかし、それらはこちらの都合。

 約束を破っていい理由にはならないのだ。

 「契約を履行(りこう)するわ。必要な物のリストをちょうだい」

 死女の言葉には重みがあった。

 決して曲げられない意志の重みが。

 「承知いたしました、ご主人様(マスター)☆」

 サロメはこれまた嬉しそうに返して微笑(ほほえ)んだ。

 (あるじ)の反応は非常に好ましいものだ。

 幻獣は嘘を()かない。

 嘘が()けない。

 死んで人間を辞めた(あるじ)正真(しょうしん)正銘(しょうめい)、本物の幻獣(モンスター)になったのである。

 自分と同じ超自然の存在に。

 幽霊(ゴースト)女中(メイド)はそれが嬉しくて仕方がなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます♪


ようやく物語が始まりました。

何ということでしょう!?

ダブル主人公(仮)の一方、墓場のイレーヌが死んじゃったのです☆

でも、生き返りました\(^o^)/

まぁ、賢明な読者諸姉諸兄は「この作者、絶対死んだままにしとかねぇぞ』と見抜いていたかもしれませんね(^_^;)


オタクやってると商業作品を消費するだけは飽き足らず、そのうち、自分でも描いたり作ってみたりするようになるものです。

漫画でも、アニメでも、小説でも、ゲームでも、フュギュアでも、人形でも。

で。

そうしたオタクが必ず通ると言われている道が「暗い作品」ですねwww

プロでも一度は通るようで人気のアニメ監督や人気漫画家でも一本くらいそういうシリアスで陰鬱な作品を描きたくなる時期があるらしい。

鬱展開\(^o^)/

そして、読者の側にもそういう作品を好む層が一定数いるようで。

鬱アニメ、鬱ゲーム、鬱小説、鬱漫画、けっこうな人気であります。

とりわけ小説というジャンルではこの手の鬱展開が好まれるようで(^_^;)

『怒りの葡萄』やら『蟹工船』やらいろいろな作品がもてはやされてきました。

いわゆる、プロレタリア文学ってゆーヤツですね。

ええ。

小生はこの手の作品が大っ嫌いで一冊も読んだことがありません\(^o^)/

まぁ、読んだことがないので批判はできませんが、主人公が酷い目に遭って不幸のどん底に落ちる話のどこが面白いのやら。

それをありがたがって「文学ジャー!」と声高に唱える向きも理解できない。

そもそもそれ面白くないだろ? 常識的に考えて!

いや、ホラー作品は大好きですよ。

ホラー作品って主人公が酷い目に遭って不幸のどん底に叩き込まれるわけで「同じじゃん」って意見もやってきましょうが。

違います。

だいたい、この手の作品ってやたら大上段に構えてふんぞり返る作者の姿が透けて見える。

「愚かな読者に偉大な作者の俺様が社会の道理を教えてやろう」的な?

あ、そ〜ゆ〜の、間に合ってますんでwwww

だから、小生は手塚治虫が嫌いで横山光輝が好き。

『0マン』、『ブラックジャック』、『三つ目がとおる』、『ミクロイドS』とけっこう読んでいますが、とにかく説教調が鼻について好きになれませんでした。

作品自体は面白いと思いますがね。

ホラー作品ってプロレタリア文学同様、主人公が酷い目に遭って不幸のどん底に叩き込まれるわけですが、説教臭くない。

ズバリエンターテイメントですわ。

だから好き☆

そもそも小生は“正しいこと”なんておカネもらえなきゃ書きたくありません。

だいたい、ふんぞり返って大上段に構えて「俺様が教えてやるんだ」なんて姿勢で作品を書くこと自体、油断しまくりじゃありませんか。

読者は敵だ。

冷酷な審判だ。

奴らは黙って作品を手に取り、面白ければカネを払い、つまらなければ黙って作品を置いて去っていく。

そういう奴らだ。

こう考えた方がずっと生産的だと思います。

描き手にも読み手にも適度な緊張感が保たれるし、「お友達に見せるんだ」的な甘えが失せる。

それで描き手も読み手も鍛えられて良い作品が描けるようになり、良い作品が受け入れられる土壌が育まれる、こんな形の方が健全ではないかと……

……って、こういう発言ももしかしたらお説教と捉えられてしまうかもしれませんね(^_^;)

危ない、危ない。


昨今のポリコレですか、ポリティカルコレクトネス? 政治的正しさ?

「ポリコレに配慮する」と言えば聞こえはいいけれど、何のことはない、ポリコレという誰かから教わった“正しさ”を大上段に振り上げて構え、ふんぞり返って「バカな読者に教えてやるんだ」って姿勢でしょう。

それって「この作品を楽しめない奴はポリコレを理解しない偏狭な奴だ」と断じながら、お説教好きの読者に甘えてるだけじゃありませんか。

作品は「面白いか」「つまらないか」で評価されるべきであって、「正しいか」「間違っているか」で評価されるべきではありません。

政治運動としてやるならともかく、オタクが作品を描く姿勢としては如何なものでしょうか?

全く感心しません。

ましてや、学校推薦図書ってことで無理やり高校生に読ませて感想文を書かせるなど横暴でしょう。

あ、ちょっと私怨、入ってますね(^_^;)


『かたあしだちょうのエルフ』とか、『エルマーとりゅう』とか、『不思議な虫たちの国』とか他にも面白い作品はわんさかあるのにそういうのを差し置いてお説教小説を読ませる教師の気が知れません。

あ、教師だからお説教を本にやらせたいのかなwwww


さて、そ〜ゆ〜わけで小生はあいも変わらず、「死の絶対否定」がテーマですのでwwww

死んだキャラクターもバンバン生き返ります。

「キャラクターの死を軽んじるな」なんて批判はどこ吹く風。

最初から「死』を徹底的にくだらない存在としてこき下ろしたいから描いてるわけで。

だから、小生はアンデッドモンスターが好きなのです♪

…と、ゆーわけですので、生者と死者、人間とモンスターが交錯する世界にあいなります。


さて、そういうわけで次回は『暁光帝の与り知らぬところでも色々起きているようですね。さて、どうなることやら。あ、責任は持ちませんにょ。関係ないんでww』です。

請う、ご期待!

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