表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<ついに登場! チンピラが挑む、最大最強の敵!>>
147/197

暁光帝が裏社会観光ではしゃいでいる間に何か大変なことになっているようです(^_^;)

住民の虫歯について詳細なデータをもらった暁光帝♀は大喜び☆

あまりに嬉しかったので全力で報いました。

やたら気前がいいので基本、恩も恨みも倍返しです\(^o^)/

そこで美少女への性転換もヴェレ・フェミニファイじゃ飽き足らず、とっておきのヴェレ・アンドロギュノスにしたげましたwwww

曰く、「両方あるからお得感も2倍、2ばーい♪」だそうで(^o^)

これは楽しみですね。

そういうわけで。

これにて本章<<ついに登場! チンピラが挑む、最大最強の敵!>>は完結です。

お楽しみください。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 それなら実践あるのみだ。

 普通は初心者に魔法を使わせるために十分な訓練が必要だが、アスタの書き置きによれば状況は特殊だ。ここにいる紫の(プルプラ)愛し子(プエリ)はすでに魔法の技術を導入(インストール)されているらしい。

 龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)として(あるじ)の言葉を疑う気はない。

 「じゃあ、魔法を使ってみましょう。女司祭(マトロネ)、よろしくて?」

 そう言ってペネロペは庭の(すみ)に転がった一抱(ひとかか)えもある岩を指差す。

 「ええ。よくってよ」

 享楽神(きょうらくしん)オヨシノイドの化身(けしん)である女司祭(マトロネ)が許可を出す。

 内心、『よく“オヨシノイド”と呼ばなかったものだ』と感心している。

 「アニョロ、溶かして」

 爆乳乙女の命令はシンプルだ。

 それで通じた。

 やはり、アニョロは頭がいい。

 「了解っす」

 同じくシンプルに(こた)え、少女は(ひたい)の角に魔力を込める。

 これを見て人々が驚く。

 「おいおい、アニョロが魔法を使うってよ」

 「まさか、あのおっさん…もとい、あの()は呪文の1つも知らないんだぜ」

 「一番かんたんな洗浄(クリーン)の魔法さえ使えなかったからいつも薄汚れていたんだよ」

 周囲の民衆は口々に騒ぐ。

 魔法には属性があり、相性が悪ければその魔法は使えない。そもそも才能がなければ無理なので生活魔法の洗浄(クリーン)さえ使えないようでは話にならないのだ。

 けれども、アニョロは惑わない。

 信心深い方ではないが、紫の聖女は信じる。

 いや、彼女の実力を思い知っている。

 彼女は絶対者。

 彼女ができると言ったならできるのだ。

 岩に向けて鋭い視線を投げかけると。

 「ลูမီးกလုံးไฟ」

 呪文を唱えた。それも長く複雑な呪文を圧縮した凝縮呪文(コンデンスクライ)だ。

 当たり前のように唱えてはいるが、こんな文言(もんごん)は知らない。

 いや、つい先ほどまで知らなかった。

 だが、今は知っている。

 どうして知っているのかさっぱりわからないが、心の奥底に刻み込まれている。その知識を引き出して舌に乗せるだけで“力ある言葉”が発せられた。

 白く透き通って(ひたい)からまっすぐ伸びる一本角は彼女とおそろい。その事実が不安を払い、心を支えてくれる。

 魔力を込められた角が媒体となって魔気力線(まきりきせん)を放出し、少女の背後に浮遊魔法陣(サークルフロート)を描く。


 ブォン!


 何もかもわかる。どうすればいいのか、何をしたらどうなるのか。何で知っているのかわからないが、全てが紫の聖女の奇蹟だと理解している。

 だから、不安はない。

 背後に浮く魔法陣が起動して、魔力を魔法に変える魔幹(まかん)が目の前に設定され、魔力場(まりきば)が現実を歪めてゆく。

 「火炎魔球(ファイアボール)!」

 宣言すると。


 グフォォーッ!!


 輝く紅蓮(ぐれん)の炎が現れて球体となり、火球は目にも止まらぬ速さで突進する。


 ボフォッ! 


 指定の岩に衝突すると渦巻(うずま)いて燃え上がり、またたく間にドロドロの溶岩に変えて()れ流し、(たい)らに(なら)す。

 あっという間に岩のあったところは赤熱する溶岩の平面に変わっていた。

 「あー、お前ら、冷えたように見えても近づくなよ。やけどすっからなー」

 あっけにとられている仲間達に告げる。

 「「「……」」」

 しばらく反応がなかったが。

 「ファイアボール!?」

 「ファイアボールよ!」

 「ファイアボールだ!」

 「海軍の精鋭部隊にしか使えない魔法よ」

 「それも5人がかりで長い呪文を唱えなきゃいけない奴だぜ! どうして1人で使えちゃうんだ?」

 「アタシも見たことある! 観兵式のお披露目で今のと同じファイアボールが岩を溶かしていたけどね、ずっと時間がかかっていたし、魔導師が大勢で呪文を揃えていたわ」

 「生活魔法も使えなかったアニョロがこんな凄い魔法を……」

 「虫歯を数えてただけの冴えないおっさんが大魔導師になっちゃった!」

 あまりのことに貧民窟の人々が口々に騒ぐ。

 貧民達にとって魔法は(あこが)れの(まと)だ。

 強い魔法が使えれば冒険者になれるし、軍に入隊して高給取りにもなれる。もちろん、魔法が使えなくても努力すれば冒険者や兵士になれるが、もらえる報酬が違うのだ。

 規格外の魔法が使えるアニョロは冒険者パーティーからも軍隊からも引く手あまたになるだろう。もしかすると超特級の冒険者パーティー“紫陽花(あじさい)の鏡”からも声がかかるかもしれない。

 人々は羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しで元・醜男(ぶおとこ)の現・少女を見つめるのだった。




 跡形(あとかた)もなくドロドロに溶けて、赤熱の(たい)らな地面になった岩を見て爆乳乙女ペネロペは驚いている。

 「誰にも教わらず、何の訓練もなしでファイアボールを(はな)ちますか……」

 ファイアボールは修得難度の高い上級(ズゲイ)の精霊魔法だ。

 それをアニョロは変化(へんげ)してすぐに(はな)ってみせた。

 素晴らしい能力だ。

 けれども。

 「さすがは紫の大聖女様。アスタさんの叡智(えいち)はわたくしごときが推し(はか)れるものではありません」

 称賛する対象はアニョロではなくアスタである。

 それも仕方ない。

 ヒト族の魔導師であれば幼い頃から研鑽(けんさん)を積み、平均を越え、一流と呼ばれるようになって初めて会得する上級(ズゲイ)魔法だ。多くの魔導師がそこで打ち止めになり、その先に進むことができずに終わるのに。

 呪文の1つも憶えていなかった、魔法のド素人(しろうと)だったアニョロが何の苦労もせずにそれを使えたのは誰のおかげか。

 アスタが呪文や魔術式をアニョロに言葉で教えたのでなく、竜魔法で導入(インストール)したことは明らかだ。




 享楽神(きょうらくしん)オヨシノイドも舌を巻く。

 「ふぅむ…いきなり、最初の魔法で凝縮呪文(コンデンスクライ)浮遊魔法陣(サークルフロート)かぁ…硬い岩が標的だから威力と範囲を強く狭くと調整した…と。えぇ、上々の出来栄(できばえ)えね」

 アニョロの実力は本物だ。

 見物人達が言うようにヒト族の魔導師では魔気容量(まきようりょう)が足りなくて、個人でファイアボールを撃てる者はめったにいない。たいてい、3〜4人がかりで時間もかかる。だいたい、行進曲を最初から最後まで聞くくらいの時間をかけてまだ魔術式の構築が終わらないくらいか。

 ところが、少女は魔法陣の展開も素速いし、呪文による調整も完璧だった。本来は馬車ほどにも拡がって多人数の部隊を攻撃する火球を縮め、より多くの魔力を注ぎ込んでいた。

 これをとっさにできる魔導師は少ない。アニョロの実力は軍のベテラン特級魔導師に匹敵する。

 「その上、あの言語で唱えさせるなんて! それで思った以上に威力が上がっていたのね!」

 女神は露骨に顔をしかめる。

 少女が唱えた呪文『ลูမီးกလုံးไฟ』は天翼人(ハルピュイア)語だったのだ。

 特殊な呪文で魔法を発現させることで火球の熱量を増やした。それで硬い岩が融解して赤熱する溶岩に変わったのである。

 もはやアニョロの肉体と精神を変えてしまったアスタの竜魔法が凄すぎて呆れるしかない。

 もともと、魔法を制御する“呪文”というものはハルピュイア語で記述されていたのだ。しかし、あまりに難解すぎて他の人種に使えず、古エルフ語を用いて簡略化された経緯がある。それで獣人やヒト、もちろん、エルフも含めて普通の魔導師が使う呪文は古エルフ語で記述されているのである。

 ハルピュイア語は原初の呪文を記述した竜語“ドラゴンシンボル”と一対一対応しているので他の人種には馴染(なじ)みづらく、超種族ハルピュイアにしか扱えない。

 その分、同じ魔気の消費量でも威力が高くなるという優れた利点がある。

 「あー…うん、あの呪文で起動すると上級(ズゲイ)の精霊魔法で1.5倍以上か……」

 今回、アニョロの脳に導入(インストール)された呪文がハルピュイア語なのはアスタが竜種(ドラゴン)だからだろう。

 その竜種(ドラゴン)を含め、幻獣(モンスター)は魔法を使うのに呪文を唱えない。必要ないからだ。

 “呪文”というものは人間にも魔法が使えるよう始原の(アーク)魔導師(メイジ)アストライアーが編み出してくれた仕組みである。遠い昔のことであり、当時から竜種(ドラゴン)と交流のあるハルピュイア族に向けて用意された、最初の呪文は当然のように彼女達の母国語であった。

 だから、今回、魔法が使えるようにアニョロを変えてあげた際、アスタは手っ取り早く馴染(なじ)み深い言語を採用したのだろう。

 単なる性転換の魔法のはずが何をしてくれているのやら。

 しかも、これでまだアニョロはずぶのド素人(しろうと)なのだ。これからどこまで成長するのか、全く(もっ)て末恐ろしい少女である。

 「ふぅ……」

 ついついため息を漏らしてしまう。

 これほどまでに高い魔法技術を一瞬で人間の脳に刻み込んだアスタの竜魔法“真なる半陰陽化ヴェレ・アンドロギュノス”が信じがたい。

 もちろん、翼を羽ばたかせて飛べるようにしたり、尻尾を自由自在に動かせるようにしたり、そういった能力を与える方が魔法技術を覚え込ませるより難しいだろう。

 それにしても、だ。

 「凄いわー」

 天を(あお)ぐ。

 アニョロの魔法が驚異的で素晴らしいことは間違いない。

 そして、同時にそれは脅威でもある。




 「はい。今のアニョロは人間の殺し方を1万通り教わって殺すための武器も与えられた子供…まぁ、元が元ですから“素人(しろうと)”ってところでしょうか」

 恐るべき爆乳が揺れるさまは内心の動揺を表しているのか。龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)ペネロペは困惑している。

 中身が中年のおっさんなのだけれども、現在のアニョロは少女だ。少なくとも人殺しとも幻獣(モンスター)退治とも縁のない、素人(しろうと)の住民であることに変わりはない。

 非常に貴重な人材であり、紫の聖女アスタの(いと)()である。

 少女がどれだけ強かろうと人間を殺してショックを受けたり、幻獣(モンスター)に対応できずに死なれては困る。

 自分が面倒を見てやらねばなるまい。

 「はぁ……」

 仕方ないかとため息を()きつつ。

 「紫の聖女様に見込まれたのですから、貴女(あなた)の身は天龍の代理人たるわたくしが預かります。家族ともどもここへ引っ越してらっしゃい」

 命じる。

 施療院(せりょういん)(あるじ)である享楽神(きょうらくしん)オヨシノイドの許可も得ずに。

 しかし、それでも。

 「あぁ、それはいいわね。そうしなさいな」

 施療院(せりょういん)(あるじ)はあっさり認めるばかりか、提案に賛意を示し、勧めてくる。

 「そいつぁ、ありがたいっす。ぜひともお願いするっす」

 そして、アニョロは二つ返事で受け入れる。




 自由民なので日々の仕事は職場に行って働いて日給をもらうだけなのだ。契約書も作らないし、普通の自由民はそもそも文字が読めない。全て口約束、その場の契約で働く。

 だから、気楽なものである。

 そんな感じで自由だから自由民だとも言える。

 現金収入が限られていて不安定だから税金を課されることもないし、徴兵の義務もない。意欲があれば努力して出世できるし、なければヒト奴隷になってもいい。どちらにせよ、暮らしてはいける。

 瓦礫街(がれきがい)リュッダはこういう街だ。

 為政者としてもそれでいいのである。

 できれば、住民には市民になって税金を納めてもらいたい。

 だが、それが望めないのであればとにかく生きて暮らしていてくれればそれでいい。自殺されたり、暮らしていけなくて野垂(のた)()なれるよりはよほどマシなのだ。

 人口が国力に等しい、

 これぞ、エレーウォン大陸の常識である。




 享楽神(きょうらくしん)オヨシノイド、天龍の代理人ペネロペ、紫の(プルプラ)愛し子(プエリ)アニョロ、三人の乙女達はここに合意を得た。

 1柱と1頭は便宜上(べんぎじょう)でしかない“乙女”であるけれども。

 残る1人もつい先ほどまでブサイクなおっさんだったけれども。

 「妹達も喜ぶっす」

 元・醜男(ぶおとこ)の現在・美少女は大いに喜んでいる。貧民窟(ひんみんくつ)のあばら家で狭い畑を(たがや)すよりもずっと腹いっぱい食べられるだろう。

 天龍の代理人が雇い主なら金払(かねばら)いもいいだろうし、雨が漏れないしっかりした屋根の下で妹達も安心して眠れることだろう。

 もしかすると麦わらを敷いたのではなく、柔らかい布のベッドを用意してくれるかもしれない。

 いや、それはいくらなんでも贅沢(ぜいたく)すぎる。

 いずれにせよ、ペネロペの提案のどこに不満があるというのか。

 アニョロが来なくなって職場は困るかもしれないが、『毎日、そこで働きます』なんて契約書もないし、約束もしていない。自由民だからと安い賃金でさんざんこき使ってくれたのだから恩もない。

 『会計の補助なんて要らない』とも言っていたし、正規の会計士がいるのだからせいぜい頑張ってもらえばいいだろう。

 「で、具体的に何をやらせるのかしら?」

 「彼…もとい、彼女には荒事(あらごと)を任せようと思います。素手の格闘戦が強そうですし、憶えがいいのですぐに剣も魔法も使いこなすことでしょう」

 女神の質問に爆乳乙女が答える。

 自分は聖女であり、切った張ったの荒事(あらごと)には関わる気がない。

 そこでアニョロの出番である。

 暁光帝(アスタ)の寵愛を受けてとんでもない強さを身に着けているから、何の訓練もしていない今の状態でも並の冒険者より強そうだ。

 都合がいいから荒事(あらごと)は全部任せようという腹積(はらづ)もりである。

 「フフ……」

 自然と笑みが(こぼ)れる。

 自分の(そば)なら人間を殺してしまうことも幻獣(モンスター)に襲われることもないからだ。

 なぜなら、万が一、アニョロが人間を殺してしまったとしても、自分なら魔法で生き返らせられるから結果として死なない。

 また、同じく万が一、町中で幻獣(モンスター)が襲ってきたとしても自分なら彼らと対話できるので争いにはならない。

 よしんば、万が一の万が一、億が一に話の通じない乙種2類の幻獣(モンスター)が襲ってきたのなら話はさらにかんたんになる。龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)の自分がぶちのめしてしまえばいいのだ。

 「むぅ……」

 そこまで考えて少しだけ顔をしかめる。

 人々から野蛮で獰猛(どうもう)なドラゴンと誤解されている暁光帝(ぎょうこうてい)、大切な(あるじ)の汚名を(そそ)ぎたい。それを考えれば暴力を振るって幻獣(モンスター)退(しりぞ)けるなど言語(ごんご)道断(どうだん)だが、背に腹は変えられぬ。アニョロを失うわけにはいかないのだ。

 やはり、今や自分も竜種(ドラゴン)の一員、心が暴力的になってしまったのだろうか。いつの間にやら、暴力を忌避(きひ)しなくなってしまっている。

 単純に聖女の美しいイメージを(そこ)ねたくないから荒事(あらごと)に関わりたくないだけ。

 もしも、突然、何者かに殴りかかられたら脊髄反射でぶちのめしてしまいそうで怖い。

 用心せねば。

 考え込んでいると、女神は新たな提案を話してくる。

 「それなら冒険者学校に通わせるといいわね」

 「なるほど、それはよろしゅうございますわ」

 オヨシノイドの提案に一も二もなく賛成するペネロペ。せっかく読み書き計算ができるのだから、それも含めて対応力を身に着けてもらおうと考える。

 「費用と食事代を受け持つから妹達と一緒に冒険者学校に通いなさい。もちろん、勉強した分の賃金も払います」

 これまたシンプルに命じる。

 「了解っす」

 そして、これまた一も二もなく引き受けたアニョロである。

 勉強して賃金がもらえるなんてありがたい。しかも、食費までもらえるとか、更にありがたい。

 妹達も読み書き計算ができるようになれば将来は安泰(あんたい)だろう。

 「わたくしが思うに貴女(あなた)は格闘も魔法も技術を学ぶ必要はないでしょう。でも、強いだけでは困ります。攻め時と引き(ぎわ)、そもそも戦うべきか、言葉で話し合うべきか、その辺の見極(みきわ)めに慣れてもらわなくては」

 龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)は現実の荒事(あらごと)に対応できるよう求める。

 「なるほど、承知したっす」

 少女の方も納得する。

 今の自分は物凄く強い。強いが、力の使い方を知らない。いくら自力救済が世の習いと言っても、何でもかんでもぶん殴ってお(しま)いにするわけにはいかないことを中身がおっさんの少女は理解しているのだ。

 「それで……」

 ついっと女神が話題を変える。

 「性転換したおっさん達…もとい、真なる女体化ヴェレ・フェミニファイを受けた美少女達はみんな強い魔力を持つの?」

 どうも単なる性転換ではないようだと当たりをつけて尋ねる。

 旧友が創り出した謎の竜魔法ヴェレ・フェミニファイはこれまで美少女ばかりを生み出している。これもおかしい。元がおっさんだし、醜女(しこめ)が生まれて当然なのに。

 「ええ。アスタさんは後から文句(クレーム)をつけられるのが嫌いですからね。あらかじめ、夢幻魔法の以心伝心(テレパシー)で相手の希望、自分が本当に(あこが)れる女性のイメージ、“内なる女性(アニマ)”を観測した結果を反映させているんです」

 女体化(にょたいか)の実態について細かい部分を爆乳乙女が解説する。

 「だから、必ず本人が思い描いた通りの美少女になるし、魔法を操る能力も高くなります。だって、それが彼らの願望ですからね」

 シンプルな説明だ。

 いい歳して結婚できなかった醜男(ぶおとこ)達が長年、心の中で思い描き、育ててきた理想の美女のイメージ、“ど真ん中”こと“内なる女性(アニマ)”だ。それを夢幻魔法テレパシーで読み取り、ヴェレ・フェミニファイの女体化(にょたいか)モデルとして参照する。

 「なるほど、その方法なら美少女しか生まれないわけだわ」

 オヨシノイドは大いに納得する。

 女体化(にょたいか)を望む男達は生活魔法が使えなくて不潔だから若い女性から嫌われていた。魔法に強いコンプレックスを持ち、優れた魔導師に(あこが)れている。それが“内なる女性(アニマ)”にも反映され、これまた竜魔法ヴェレ・フェミニファイに参照される。

 「アニョロほどではありませんが、初期の魔気容量(まきようりょう)妖精人(エルフ)並みで必ず2つ以上の魔法適性を得るようになります。研鑽(けんさん)を積めばヒトとしては破格の魔導師になることでしょう」

 とんでもなく強力だが、魔法の能力そのものはあくまでも“ヒト”という人種の範疇(はんちゅう)に収まる。魔気容量(まきようりょう)がエルフ並みであっても魔法の適正自体は限定されるわけだ。

 「う〜ん…かなり強力ね。それなら数を(そろ)えれば……」

 フォモール族の侵攻にも十分対応できるとオヨシノイドは目論(もくろ)んだ。

 瓦礫街(がれきがい)リュッダはおっさん達にとって故郷であり、友人や親戚も多い。

 郷土愛に燃える魔法少女の軍団が編成できれば女神の助力がなくても街の防衛が(かな)うことだろう。

 それなら神々の法律に抵触することもない。

 女神としても願ったり(かな)ったりである。

 「けっこう。大変けっこう」

 享楽神(きょうらくしん)諸手(もろて)を上げて歓迎する。




 しばらくして1柱と1頭はくだんの1人がいないことに気づいた。

 民衆は女司祭(マトロネ)と天龍の代理人を囲んでおとなしく待っている。

 症状や悩みが軽い者らは向こうで人化(じんか)して聖女に化けた一角獣(ユニコーン)女精霊(ニュムペー)()てもらっている。

 総じて人々は落ち着いている。

 「あぁ、トイレに行ったんだわ〜」

 女司祭(マトロネ)に化けたオヨシノイドが視線を巡らせ、トイレでかがむアニョロの姿を見つける。

 さすが女神の神眼、トイレの壁くらいは透かして見ることができる。この透視能力だけ見ればアスタの虹色の瞳(アースアイ)よりも凄い。

 「話に夢中で気づきませんでしたわ」

 どうやら1柱と1頭で難しい話をしていたから自分の生理現象を処理しに行ったらしい。龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)ペネロペはわずかに眉をひそめる。

 大したことではないが、アニョロを預かった身として自分の不注意を恥じたのだ。

 「でも、まぁ、ああ見えていい歳の大人ですからね。トイレに行くくらいなら……」

 『何のこともない』と続けそうになったが、それは突然の悲鳴に中断される。

 「ん? んん? あんぎゃぁぁーっ!? 何じゃあ、こりゃぁっ!?」

 怪物の咆哮(ほうこう)のような絶叫が上がった。

 アニョロの入ったトイレから。

 「え!? 何? 何ですか!?」

 少女の身に何か起きたのか。さすがの龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)もあわてる。

 とっさに思考を巡らせる。

 「竜魔法が上手く機能しなかった? 今になって不都合が生じた? いや、まさか!? アスタさんの魔法に限って失敗などありえないわ!」

 色々考えたが魔法そのものに支障が起きたとは考えにくい。何しろ魔法を掛けたのが“紫の聖女”ことアスタ本人、始原の(アーク)魔導師(メイジ)アストライアーなのだ。

 失敗などあろうはずがない。

 あるはずがないのに何か不安が残る。

 「ふん!」


 ブォン!!


 少女の身体(からだ)を案じて右手に魔力を込める。

 人間を辞めて龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)になったペネロペは魔法を使うのに魔術杖(メイジスタッフ)を必要としない。自分の肉体の一部を魔力の媒体として用いることができ、呪文の詠唱も魔法陣も()らないのだ。

 「とりあえず、完全なる回復プレナ・レクペラティオを……」

 とっさに強力な回復魔法の準備をする。最大級(ゲルグンド)すら超える、幻獣(モンスター)専用の魔法を。

 だが、腕を(つか)まれ、制止される。

 「ダメ! 今はダメ!」

 腕を(つか)んだ女神が非常に困った顔をしている。

 「えっ!?」

 何が起きたかわからず、ペネロペは当惑するばかりだ。

 とりあえず、プレナ・レクペラティオの魔法は要らないようなので魔力を体内に戻す。

 「あの()はね、見ちゃったのよ。ほら、ズボンを下げたでしょ。だから自分の……」

 神眼で壁を透視して観察していたオヨシノイドは何が起きたかわかるのだ。

 「あ! そういうことでしたか。それは確かに……」

 目を丸くした爆乳乙女はトイレの方を見つめて何も言えなくなっている。




 アニョロが受けた竜魔法は“真なる女体化ヴェレ・フェミニファイ”ではなく“真なる半陰陽化ヴェレ・アンドロギュノス”。

 その意味が少女に伝えられることはなかった。

 32年間、純粋であり続けたというか、純潔を守り続けてきた醜男(ぶおとこ)にも尊重されるべきものがある。

 口には出さなかったものの、1柱と1頭は目で語り合い、互いに了承していたのだ。

 真なる半陰陽化ヴェレ・アンドロギュノスがもたらした“モノ”を少女がどう使うのか、はたまた、使わないのか。

 それは享楽神(きょうらくしん)龍の(ドラコ)巫女(シビュラ)(あずか)()るところではないのだから。

ここまで読んでいただきありがとうございます♪


アニョロは見事に肉弾バトル系の魔法少女に変化させられてしまいました。

もうヒトをやめちゃったんでめちゃくちゃ強い。

何の訓練もしていないけれど魔法も格闘技もバリバリいけちゃいます。

まぁ、人間の範疇で、ですけどね。

ヒトはやめましたが人間はやめてません(^_^;)

魔気容量はエルフを遥かに越えて膨大だし、魔法適正はハルピュイア並みにめちゃくちゃ広いんですが。

幻獣専用の魔法は使えませんし、一度、魔力切れを起こすと安全な場所でしばらく休まないと魔力が回復しません。

なので、能力は完全に人間を辞めているドラコシビュラのクレメンティーナやペネロペには劣ります。

この2頭は幻獣専用の魔法も使えますし、魔力も一瞬で回復するので魔法も使い放題なので凶悪です。

それに対してアニョロは本人の性格もあって活躍は控えめ? 中身が中身なのでどうしても慎重なんですね〜

けれども、瓦礫街リュッダの治安維持は自力救済なので\(^o^)/

どうしてもバトル展開になってしまうことでしょう。


とりあえず、アニョロは今までの職を辞めて、オヨシノイド施療院で天龍の代理人ペネロペの下に就きました。

妹達もいっしょです(^o^)

ここなら食べ物にも困りませんし、雨漏りもしない、安全で快適に暮らせますからね。

仕事は冒険者学校で勉強することwww

アニョロにとって勉強は経験値稼ぎみたいなものですからあんまり苦痛に感じません。

幼い妹達もいっしょです。

まぁ、この三姉妹は読み書き計算ですけどね。

アニョロ自身も戦闘技術そのものについて学ぶことはあんまりありません。

魔法も格闘技も暁光帝♀が脳に直接インストールしてくれてますからwww

でも、剣術がすっぽり抜けていますし。

また、引き際と攻め時もわからないのでその辺は学ばないといけません。

現実の荒事に対応しようとするとそのへんが厄介なんですよね〜

できれば、荒事に発展させず、穏便にすませて欲しいところ。

そのためには脅しや嘘も要るでしょう。

只、暴力に訴えられたから殴り返しただけじゃ、困るのです(^_^;)

その辺を含めてペネロペの言う「荒事への対応を任せたい」発言ですね。


ちなみに暁光帝♀はこれができませんwww

ドラゴンなのでwww

暴力は常に0か、1か。

平和的に対話で処理するか、ぶちのめして地べたに這いつくばらせるか、2つに1つなのです。

中間がありません。

にこにこ笑って話し合いながら、相手が脅しを掛けてきたり、直接の暴力に訴えてきた瞬間、いきなりぶちのめします☆

それこそ反撃の方を先にやるくらい朝飯前ですwww

「相手が殴りかかってくる気配を感じたからぶちのめしたんだよ」「うん、やられそうだったんで先にやり返したんだよ」くらいは言います。

それも瞬時に笑いながらやりますね。

まさしくにこにこ顔面パンチです☆

もちろん、嘘も吐きません。

相手が嘘を吐いて騙そうとしたら?

その場で交渉決裂!…というか、情け容赦なしでぶちのめします☆

ドラゴンですからwww


こんなドラゴンだから人間との仲立ちを担うドラコシビュラが要るんですね〜

今回、ペネロペにはアニョロという有能な人材も配下に就いてくれたのでかなりやりやすいことでしょう。


あと、魔法の呪文について作中で十分に表現する余地がなかったんですが。

始原の魔導師アストライアーが人間にも魔法が使えるように起動を含めて魔法の制御を担う“呪文”を開発しました。

人間というか、ずばり、ハルピュイア族のためにwww

なので、“原初の呪文”は竜語”ドラゴンシンボル”で記述されていました。

その後、これと一対一対応する言語体系であるハルピュイア語に翻訳されたものが“最初の呪文”ということになります。

この魔法の下賜という偉業をハルピュイア族は大変ありがたがり、同時にドラゴンの文化を学び、そして、尊重しました。

それで今でも竜語“ドラゴンシンボル”に近いハルピュイア語の呪文を使っているのです。

ちなみに、竜語をそのまんま一対一対応で翻訳したので本来、人間の言葉には翻訳できない単語や言い回しが大量に含まれています。

魔法の制御コードや宣言コード、命令コードだけでなく、「翼を羽ばたく」とか、「鉤爪で叩き切る」とか、「全部の牙で噛み砕く」とか、「ドラゴンブレスで焼き尽くす」とか、「尻尾で粉微塵に打ち砕く」とか、用言もだいぶヤバイのがそのままハルピュイア語になっていますwww

でも、そのおかげで魔力を魔法に変換する力率が非常に高く、お得です♪

古エルフ語に翻訳された現代の呪文はその辺が曖昧なので魔力を魔法に変える過程で“漏れ”が生じ、損失になっちゃうんですね〜

だから、上級の精霊魔法で威力が1.5倍以上も違うなんて現象が起きてしまうのです(^_^;)

ちなみに特級や超特級の精霊魔法ではさらに差が広がってしまいます(>_<)


で、本作、最後のオチですが(^_^;)

小生、もともとが半陰陽エロティシズムが主戦場なのでwwww

百合♀×♀作品も大好きで半陰陽作品も同じくらい好き。

けれども、百合♀×♀作品と違って半陰陽作品ってエロティシズムの中でしか輝けないんですよね〜

他のジャンルだとかろうじてギャグ作品くらいでしか活かせない。

そういうわけで、今回、ギャグになりました\(^o^)/


小生が初めて百合♀×♀作品に出会ったのは少女コミック掲載『しあわせ半分こ』(高橋千鶴1979年)でしたか。コミックス版は1980年あたりでしたが、雑誌掲載はたしかそれくらいの時期。

それでほぼ同時期に半陰陽作品に出会ってるんですよね〜

プリンセスに掲載されたギリシア神話をテーマにした作品で神々の伝令ヘルメースと美の女神アフロディーテーの息子ヘルマフロディートスが泉の女精霊サルマキスに恋慕されてしまい、強引に合体させられて“ヘルマキス”ってゆー両性具有者になってしまう物語でした。

やっぱり、性的な表現については少女漫画の方が少年漫画よりもアグレッシブですね〜

直截的な表現ではないものの、“そういうの”は描かれていましたから、えらく刺激的で面白いと感じましたっけ。

母方の従姉妹の蔵書だったんですけどね。

ちなみに従姉妹は『ベルサイユのばら』にハマってました。

強い女性が好みなので小生も読みましたが……あんまり重いのは苦手。

でも、他に読むものがなくて『ベルサイユのばら』は何度か読み返した作品ではあります。

もちろん、“ヘルマフロディートス”の漫画はその十倍くらい読み返していましたけどねwww


アニョロと三姉妹はこのままオヨシノイド施療院に住み込みで働くことになります。

冒険者学校に通って学ぶのが仕事ですが、アニョロ自身は荒事に対応したり、聖魔法による奇蹟も担います。

ヒト族からしたら目が飛び出るくらいの強烈な魔気容量がありますし、聖魔法の適性もしっかり備えていますからね。

ペネロペのように連発こそできませんが、十分、補助は務まります。

今後も活躍してくれることでしょう。

もっとも、ご期待に答えられず申し分けありませんが、半陰陽の要素を活かせる物語展開は難しゅうございます。

何しろ、エロティシズムか、ギャグにしか、使えない要素なので……


さて、そういうわけでこの章<<ついに登場! チンピラが挑む、最大最強の敵!>>はこれにて完結です。

またしばらくは著者が執筆に励みますので次をお楽しみに〜〜


次の章は<<えっ、下級貴族が平民をいじめる? 貴族が治める地方都市に他の貴族なんて住んでるわけないっしょwww>>(予定)です。

請う、ご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ