愉快なおっさんがいたので暁光帝は願いを叶えてあげました。優しいドラゴンはエラいのです。
禍福は糾える縄の如し。人間、万事、塞翁が馬。
世の中にはそれまでの不幸なんてなんのその、やたら幸運な奴がいるものです。
頭のハゲかけた筋骨隆々のおっさんアニョロはモテなくてモテなくて、嫁のいない家で三姉妹から日々、心配されていました。
「もういい歳のおっさん兄貴は死ぬまで独り身なんじゃないか」と。
ところが、オヨシノイド施療院の噂を聞きつけて美人を拝みにフラフラ歩いていたら、その美人に見つかってご近所の虫歯データを求められました。
そのノートにはご近所の皆様方の虫歯の本数と大まかな位置と年齢と住所と家族構成が記されていたのです。
そんな、まさか!?
個人情報保護法を無視した犯罪じゃありませんか!?
でも、だいじょうぶ☆
「人の口に戸は立てられない」の格言で全て許される、中世ナーロッパに個人情報を保護する法律も習慣もありませんwww
昭和未満ですからwww
そこで虫歯データを見せたところ、美人からものすごく喜ばれまして♪
おかげでアニョロは空も飛べる美少女に変えてもらえました\(^o^)/
だけど、残念!
ヒトではなくなってしまいましたwww
どうする? どうなる? 元・おっさんの現・美少女!?
ちなみにかの“美人”こと、我らが主人公♀暁光帝は裏社会観光に忙しく、路地裏ではしゃいでいます。
なので今回も出番がありませんwww
さぁ、どうなることやら。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
享楽神オヨシノイドは正体を明かしていない。
それでも言葉に重みがある。
化身を神職に見せかけているからだ。
傍目から見れば物凄く偉い女司祭に見える。燃え立つようなオレンジ色のロングヘアーが豪華に波打ち、その辺のヒト男性よりも大柄な肉体は迫力満点で、当然のように巨乳が豪快に弾む。
胸乳もゴージャスな容姿も凄いので、見る者も聞く者も圧倒されてしまう。
エレーウォン大陸に於いても宗教者は神を崇める。だが、この地では神が実在する。神が神界リゼルザインドから信者に向けて神託を下ろすものなのだ。
神の言葉を代弁する神職を疑う者はいない。
だから、女司祭に化けた女神の言葉を聞いて。
「えぇっ!? あっしはもうヒトじゃないんで!?」
アニョロは驚いて腰を抜かす。
瓦礫街リュッダはヒトの街だ。住民の半分をヒト族が占める。それだけにヒト至上主義も広く信じられているのだ。
それで童人や巨人、それに獣人はヒトよりも劣った存在と蔑まれる傾向にある。ヒトを辞めるということはかなり重い結果をもたらすものなのだ。
「じゃ、じゃあ…今のあっしはもしかして…天翼人…なんっすか?」
恐る恐る、元・おっさんの現在・乙女は尋ねる。
翼があって空を飛べる人種は超種族ハルピュイアだけだ。だが、彼女らは角も尻尾もないから違うようにも思えてしまう。
そんな少女に対して。
「紫の愛し子」
女神オヨシノイドはシンプルに答える。
シンプルすぎて意味不明だ。
「プルプラプエリ? そいつぁ、聞いたことがありやせんけど……」
アニョロも困惑するしかない。
「“紫の愛し子”って意味よ。天翼人でも妖精人でもないわ。今までに生まれたことのない、完全に新しい人種ね。はぁ……」
女神は自分で言っていて困惑し、空を仰ぐ。
だが、アスタからもらった書き置き、プルプラプエリの取扱説明書には無茶苦茶なことが書かれていた。
信じがたいことだが、旧友は即興でアニョロをヒトとは全く違う別の人種に創り変えたのだ。
彼女が何をどうやったのか、それはさっぱりわからない。
只、竜魔法“真なる半陰陽化”に適当なアレンジを加えて望む効果を追加したことだけが書き置きに記されていた。
嘘の吐けない旧友のことだから、これは真実なのだろう。
「新人種である紫の愛し子は天翼人の完全上位互換よ。初期の魔気容量が膨大な上、鍛錬すればさらに増える。大力だから翼の羽ばたきだけで十分な揚力を得られ、空が飛べるわ」
「ほへぇ〜……」
オヨシノイドから言われたことが凄すぎてあまり理解できず、アニョロは呆けている。
つまり、凄い魔法が使えてハルピュイアよりも凄い人間になれたということか。
よくわからないので頭の中で“凄い”という形容詞が駆け巡っている。
「貴女は何の訓練もしない、素の状態で最大級の精霊魔法をいくつも放てるということです。そして、練習すればもっとたくさん使えるようになるということです」
ペネロペが解説を加えてくれる。
「生活魔法の“洗浄”も使えなくて薄汚れたままだったあっしが…おぉぅっ! 精霊魔法たぁ、豪勢なことでさぁ!」
感涙にむせびながら少女は素直に喜ぶ。
醜男は不潔だ。不潔だから醜男なのだ。もしも、過去の自分が生活魔法を使えていたら身ぎれいになって世の若い女性達にも振り向いてもらえていたかもしれない。そんな想いに苛まれていたからこそ、今は強烈な解放感に包まれている。
「貴女は力も強いのです。翼の羽ばたきだけで空を飛べるということは巨人の怪力をも上回るということ。尻尾の力も含めて戦力として期待できる。今なら素手で黒妖犬にも勝てることでしょう」
人間離れした能力を爆乳乙女が解説してくれる。
「そいつぁ、凄ぇっす☆」
アニョロは手を叩いて喜んだ。
素直に嬉しい。
より優れた存在になれたのだからヒトを辞めたことなどどうでもいい。
それは自由。
強くなることの何が悪いのか。気に入らない奴が理不尽な文句をつけてきたらぶん殴ればいいのだ。
今までもそうしてきたし、これからもそうするつもりである。
瓦礫街リュッダはまだ司法が未発達で平民は問題の解決に衛兵の力をあてにできない。つまり、その辺は個人の努力と責任に委ねられているのだ。
自力救済。
それはつまり、『悪口を言われたら自分で言い返せ』、『盗まれたら自分で取り返せ』、『殴られたら自分が殴り返せ』というやり方であり、以て悪人を成敗して治安を維持し、住民の規範意識を育てるべし。そういう、大変にダイナミックな考え方である。
これぞ、瓦礫街リュッダの正義なのだ。
だから、少女は角も翼も尻尾も全力で受け入れている。
いや、藤色のロングヘアーと素晴らしい爆乳は合わせて紫の大聖女様から賜ったお情けなのだ。
どうして軽んじられようか。
「あー…後、貴女はもう歳を取らないから。エルフやハルピュイアみたいな不老の人種になっちゃったんで」
女神はこれまたくたびれた声で語る。
いや、別に旧友の所業を否定するわけではない。限られた時間を精一杯生きて次の世代に想いを託す、ヒトという人種の生態を尊重しているつもりなのだ。
もっとも、世代交代が生み出すドラマや進歩に夢を見ているだけなのかもしれない。
けれども、旧友がそんな世代交代を尊重するわけがない。
彼女はドラゴン。
絶対的な力の象徴であり、今、そこにある脅威として君臨する。
誕生と死がもたらす、旧い世代から新しい世代への交代に夢など見ない。
新たに生まれた子供に1から教育を施すなど、熟練の働き手を老化というシステムで追い出すなど、単純に非効率と断ずるだけなのだ。
「へぇ〜」
そして、アニョロはわかっていない。単純にもう老けないんだと喜んでいる。
「よしっ!」
翼を広げる。真っ白い翼だ。言われた通り、力も強くなっている。只、巨大な翼を羽ばたくだけで十分な揚力が得られる。
バッサバッサ!
初夏の空に向けて飛ぶとまたたく間に視界は青くなり、かなりの速さだとわかる。
チラリ下を向くと人々がとても小さく見える。
「おぉっ! 凄ぇ!」
空中で姿勢を崩すことなく、大空を自由自在に飛行できる。空間の把握もしっかりできていて、上下を見失うこともない。
その上、人間の数倍の力を発揮し続けているのに全く疲れを感じないのだ。
「やっぱり…アスタが『できる』と言ったらほんとにできるんだわ」
オヨシノイドはアニョロが飛ぶ空を仰ぎながらつぶやく。
ようやく実感する。
人間の身体は感覚も筋肉も神経も空を飛べるようにできていない。アスタはそんな只のヒト男性であったアニョロの肉体を改造した。翼と空を飛ぶための筋力を与え、その脳に翼の扱い方を導入し、空中での姿勢制御を可能とする感覚も刻み込んだ。そして、魔法の補助も一切なしで実際に空を飛ばしたのだ。
その上で立派な胸乳の美少女に変えた。
全く以て無茶苦茶である。
でも、それが天龍アストライアーなのだ。
太古の昔、たった1頭で“魔法”というものを創り上げた始原の魔導師である。
改めて旧友のとんでもなさを実感した女神だったが、同時に旧友にそんな贈り物をさせたアニョロの功績にも想いが及ぶ。
「暁の女帝様の御心を動かしたのだから思った以上に傑物なのかも」
うん。
動かしたのは近所の住人の虫歯の数だけどな。
博物学者の女帝様が関心をそそられただけなのかもしれないけどな。
それでも凄いか。
施療院に集まった貧民達を眺める。
天龍の代理人ペネロペからの注意も忘れ、民衆もまた天を仰いで騒ぐ騒ぐ。
「凄ぇ! 飛んでるぞ! 天使様のようだ!」
「男を辞めると空を飛べるようになるのか!」
「いいえ、紫の大聖女様のご威光でしょう。オッパイも大きくなってるし」
「あぁ、なんて美しいのかしら……」
「薄紫色の髪とでっかい胸は紫の大聖女様と連なることの印しなのだろう」
「尊い! 尊いぞ! 女にしてもらえた奴らの中でも翼をもらえたのはアイツだけだ! きっと、紫の大聖女様から気に入られたに違ぇねぇ」
「なんてこと! もう紫の大聖女様は行ってしまわれたわ! 本物の祝福を受けられたのはアニョロだけなのよ!」
「羨ましい……」
「あな恨めしや、恨めしやぁ〜」
羨望と怨嗟の声が沸き起こっている。
しばらくしてアニョロが降りてきた。
「生まれて初めて空を飛んだけど何の苦労もなかったっす」
息を切らすことなく言い切って。
「じゃあ、次は練習するっす」
存分に飛行を楽しんだ元・醜男の現在・美少女は拳を打つ仕草を繰り返している。
イメージトレーニングの一種なのだろうか。
シュッ、シュッ! バシィッ!!
手打ちだけでなく、尻尾による突きや打ち込みも行っている。
尾の攻撃は多彩で威力があり、パンチと同時に出せることもあって人間相手の勝負ではかなり有利に立ち回れそうだ。
素手の格闘技だとヒトでない人種が尻尾を使う場合もあるが、獣人の尻尾は駆け引きや牽制程度にしかならない。全く新しい人種である紫の愛し子と尾の力で比較できるのは蜥蜴人くらいだろう。
遠い昔に尾を退化させたヒトが再び得た尻尾を武器として自由自在に操っている。
これもまた脳に使い方を導入したのだから、暁光帝の非常識なレベルの魔法技術が伺える。
「物凄く贔屓されてますね」
「物凄く贔屓されてるわね」
天龍の代理人ペネロペと享楽神オヨシノイドは口々に感想を述べる。
麗人が少女を特別扱いしたのは明らかだ。それだけ少女が麗人を感動させたのだからさもありなんという気もするが、それでも他から見れば驚きである。
「アニョロ、聞きなさい」
「へぃ」
女神に言われて少女は素直に従う。
口調が下品ではあるものの、そんなことは些末小事だ。
「貴女の角は魔力の媒体になってるから魔術杖なしで魔法が使えるわ。まぁ、人間だから呪文の詠唱は必要だけどね」
またしても旧友が残した取扱説明書を読みながら女神は告げる。
後、呪文の詠唱なしで魔法が使えるのは神々と幻獣だけなのだが、周りが人外だらけなのでいつの間にやら感覚の上でそちらが普通になってしまっている。
「はぁ……」
そして、またしてもよくわかっていないアニョロである。
「魔導師は強力な兵科ですが、杖を奪われたり、香辛料などで咳き込まされたりすると魔法が使えなくなって窮地に陥るんです」
爆乳乙女ペネロペが説明を補足してくれる。
「ほへ〜、魔導師の皆さんは大変っすねぇ……」
少女は感心してこそいるが、完璧に他人事だ。
「えぇ、まぁ……」
爆乳乙女は相槌を打って肩をすくめる。
先ほどの言葉通り、魔導師は強力な兵科だ。しかし、脆いこともまた事実。戦闘が開始されれば、魔法陣を書いたり、呪文を唱えている間は無防備になってしまう。だから、戦いのときはどうしても護衛が必要になる。
そして、魔導師の護衛が気をつけるべきは杖を取り落したり、咳き込ませられることだ。
魔力の媒体が角で、杖を装備しなくても魔法が使えることはアニョロにとって強力なアドバンテージになる。しかし、魔法のド素人である少女にはまだわからないのだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
大喜びの暁光帝♀はテレパシーで読み込んだアニョロの“ど真ん中”になれるよう、豊富なおまけをつけたげましたwwww
強大な魔法力と比類ない肉体、空も飛べるようにして戦闘でも活躍できるよう角と尻尾も与えました。
もっとも、そこまで強化しちゃうとヒトという種の限界を越えてしまいます。
そこで「じゃあ、ヒトをやめさせちゃえばいい」とこれまた発想の転換、新種の人種“紫の愛し子”こと新人類“プルプラプエリ”に変えてしまいました。
実はスキル【発想のコペルニクス的大転換】持ちだったのです\(^o^)/
現行の超種族ハルピュイアをも遥かに上回る超・超種族ですwww
でも、暁光帝♀は住民の虫歯の方に気を取られてしまい、自分が超人♀な魔法少女を創り出したことはすっかり忘れてしまいました。
まぁ、誰かに言われたら思い出すでしょう。
で、書き置きを残して飛び出してしまったのですwww
あ、スキル【並列思考】あるんで髪の毛で紙にペンを走らせて書き置きを残すくらい朝飯前ですのでwww
えっ、そんなスキル、作中に書かれてなかったって?
前の前の章で能天使アングリエルが「スキル【並列思考】があるんじゃないか」って推測してましたよww
後、リュッダ海軍の精鋭部隊と戦っていたときも歌いながら、四つ足で走りながら、的確に敵の動きを把握しながら、紫のロングヘアーで敵の行動に対応しながら、確実に当たるよう打撃を放っていましたからね。
いや、暁光帝♀のスキル表を作ってみたんですが、膨大すぎて頭痛が痛くなりまして(>_<)
なので割愛しました(^_^;)
さて、そういうわけで次は『暁光帝が裏社会観光ではしゃいでいる間に何か大変なことになっているようです(^_^;)』です。
請う、ご期待!




