大発見! 暁光帝はついに本物の財宝を見つけたのです☆
まだまだ、裏社会観光は続きます。
もしかすると今までの常識を覆す、博物学上の大発見があるかもしれません。
そして、ついに暁光帝は見つけました☆
「さて、これは何だろう?」
それはキラキラ輝くキレイな……
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
世界の危機は住民が逃げ出した路地裏を元気に飛び回っている。
奇異なもの、異常なものを見つけると喜ぶ。左右を見渡すたびに珍しいものを発見してめちゃくちゃはしゃいでいる。
人っ子一人いない。
如何にアスタの行動が理不尽で恐ろしかったのか、札付きの犯罪者どもまでが逃げ出すほどの脅威なのか、無人の店舗や小屋が物語っている。
「むむむ! これは!?」
何かに興奮して叫びだす世界の危機である。
酒場と思しき汚れたあばら家の中、奥のテーブルに変な物があった。
おそらく、持ち主があわてて忘れていったのだろう。それだけアスタのことが恐ろしかったことの証左だが、なかなかに物がいい。
引き金が付いた、短い金属製の筒は汚れも錆もない。木製の持ち手もきれいなもので、明らかに購入したばかりの新品だ。
「んー、短い筒…“短筒”ってゆーのか。そういや、立派なオッパイが…じゃなかった、立派なエルフのデルフィーナが持っていたなぁ……」
数日前に出会った美女の姿が思い浮かぶ。
漆黒の肌と山羊のように捻じ曲がった角と蝙蝠のような黒翼と、何より、ボールのように張りのある大きな胸乳が印象的なエルフだった。
あの女性が持っていた道具がこれとよく似ていたのだ。
ところが、当時は童女の姿だったので過去視が使えず、道具の用途がわからなかった。
デルフィーナは空に向けて引き金を引き、凄い音を轟かせていたものだ。
あれはどういう意味があったのだろうか。
「確か、あの時、ゴブリン達が“鉄砲”と呼んで恐れていたなぁ…一体、何に使うものなんだろ?」
今は使えるので、先ほどから過去視で調べているのだが、いくら品物の過去を観ても物が新品なのでさっぱりわからない。
過去の製造過程を観て構造は理解できた。炎の精霊魔法を応用して鉛の玉を発射する道具だ。
それはわかったが使い道がさっぱりわからない。
鉛の玉を飛ばしてどうするのだ?
凄い音を立ててどうしたいのだ?
盛大な音と鉛の玉から考えて祝い事で使う?
一体、何に使うものなのか。
「えーっと、誰か、これの使い道を……」
周りを見渡すも、金髪エルフのナンシーは呆然としたままで何かに驚いているようで。
「う〜〜ん、さっぱりわかりませんね。キレイな棒だとしか…振り回して殴る鈍器なんじゃありませんか?」
ギュディト百卒長には心当たりがなく。
「あたちもみたことがないでち。いったい、なんにちゅかうのか、けんとうもちゅかないでつ。う〜ん、テーブルにかじゃるものとか?」
龍の巫女クレメンティーナも首を傾げる。
「そっかー、百卒長にもわからないか。じゃあ、クレミーの言うようにテーブルの飾りなのかな」
知識についてはそもそも巨女に期待していないアスタは幼女の意見の方を尊重してとりあえず“テーブルの飾り”と考える。
そこで手近なテーブルの上に乗せてみる。
金属の筒を下に向けて立たせてみたのだが。
ゴトン!
持ち手が重くてバランスが崩れ、短筒はあっさり倒れてしまう。
「う〜ん、テーブルの飾りじゃないっぽい」
麗人は謎の道具を手にあーでもないこーでもないといじくり回し。
「人間は奇っ怪なことをするからなぁ…これも意外な使い道があるのかもしれない」
発想のコペルニクス的大転換が必要だと考える。
「こうかな?」
筒の先端を口に咥えて引き金を引いてみる。
途端に持ち手に収められていた魔石から魔気が放出され、魔術式が駆動し、魔力場が生み出した炎が爆発して高速で膨れ上がり。
バァン!!
逃げ場のない筒の内部で膨れ上がった圧力が物凄い音を轟かせて、鉛の玉が口の中に発射される。
「ふが!?」
少し驚く。
鉛の玉は口腔内を暴れまわり。
ガキン! ガキン!
何度か、白く透き通った牙に跳ね返ってから喉の奥に吸い込まれていった。
「ふむぅ…鉛の味しかしないなぁ……」
舌にも触れたから味はわかる。
冷たく奇妙な金属イオンの味、それだけだ。
だが、そこで閃いた。
「そっか! こいつは食べ物を出す機械だよ! おっきい音で周りを驚かせながら口の中に鉛玉を発射させて遊ぶんだ!」
思わず叫んでしまう。
何と変わった使い方なんだろう。
こんなことに気づくなんて我ながら冴えていると思う。
鉄イオンを食べる鉄酸化バクテリアや鉄還元バクテリアのように人間も鉛を食べるのだろうか。真核生物のくせにずいぶんと器用な真似をするものだ。もしかすると少量なら鉛を摂取して養分にできるのかもしれない。
この短筒は人間が祭りの祝い事などで使うアイテムで、おそらく何十人もが一斉に口に含んで引き金を引くのだ。轟音とともに鉛玉が口の中を駆け巡り、人間達はおのおのが独自に変な顔をする。すると、祭りの参加者はそれを指差して笑うのだ。
とても面白い見世物に違いない。
「う〜みゅ…なるほど、人間は奇っ怪な真似をするものだなぁ……」
しみじみ語る。
ところが。
「ちがうとおもうでち」
隣からツッコミが来てしまう。
「しょんなふうにつかったらたぶんにんげんはあたまがばくはつちてちんじゃうとおもうでつ」
クレメンティーナは大いに首を傾げている。
「何と!?」
肉体の強度に問題があるのか。
龍の巫女の言葉に大いなる気づきを得て麗人も驚く。
「祭りの時に人間達は集団で自分達の頭を吹き飛ばすのかい!? 何という習性! これはぜひとも見物しなければ!!」
思わず叫んでしまう。
ダヴァノハウ暗黒大陸の荒れ地などで見られるミツツボアリは仲間の働きアリの体内に蜜を蓄える習性がある。その結果、働きアリの身体は肥大化して丸くなり、蜜を貯蔵するための壺と化して動くことさえもできなくなるのだ。これは集団全体の利益のために一部の個体が犠牲になることを意味する。
同様の習性が人間にもあるのだ。
祭りを盛り上げるために自分が死ぬ。
それも大勢の人間が一斉に自分の頭を吹き飛ばす集団自殺か。
さぞや見ものだろう。
きっと楽しいに違いない。
否が応でも期待が高まる。
だが、しかし。
「しょれもちがうとおもうでつ。にんげんはちぬのをきらうのでつ」
これまた幼女に否定されてしまう。
「むぅ…違うのか。まぁ、クレミーが言うならそうなんだろうなぁ……」
祭りのクライマックスで一斉に頭がパーンと破裂する人間達を思い浮かべて楽しい気分に浸っていたアスタは思考に冷水を掛けられた感じで落胆する。
「だが、しかし、そうなると一体、どういう状況で人間は集団自殺に及ぶのかなぁ……」
考え込んだその時、麗人の思考に閃きが走る。
「そうか! 宗教だね! 生贄の儀式だよ! 選ばれた人間達が神に命を捧げるべく、この短筒を咥えて一斉に引き金を引くんだ! そして、全員の頭がパーンと破裂しちゃうんだよ!!」
人間には神を崇めて祈る習性がある。ヒト族はとりわけその傾向が強い。中には神に命を捧げる“殉教者”という者もしばしば出ると聞く。
これはアカテガニが満月や新月の夜に産卵する習性と関係があるのかもしれない。
ならば、五穀豊穣や無病息災を祈って神に生贄を捧げる儀式が発展し、短筒による集団自殺を図るようになったとも考えられる。
おそらく飢饉や戦乱のような災難があった時、国を上げて祈る儀式なのだろう。
「そうか…この短筒は『人間は宗教的な生物である』というボクの学説を支持する論拠になりうるな」
しみじみつぶやく。
そう考え、改めて短筒を眺めるとなるほどキレイな道具である。宗教的な飾りがまったくないものの、磨き上げられた金属の円筒は何かを象徴しているようだ。
「しょ、しょうだったんでつか…しゃちゅがはアチュタしゃんでつ。あたちにはおもいもよらないことでちた……」
「さすがは世界最強! 世界一強いとそんな真実にもたどり着けるんですね!」
幼女と巨女からも称賛される。
「うむ。ボクはとてつもなくエラいからね。博物学上の難解な謎もボクにかかればね。アーッハッハッハッ☆」
腰に手をあてて高笑い。
実に楽しい。
やはり、“世界を横から観る”という遊びは最高だ。
耳をつんざく轟音に頭を揺すられ、論理の迷路をさまよっていたナンシーの思考はかき乱された。
「ほへ?」
考えるのをやめて周りを見るとアスタが自殺していた。
いや、正確に表現すると自殺を試みていた。見たところ、銃口を咥えて引き金を引いたらしい。さすがに刺激的だったのか、驚いて目を白黒させている。
もっとも、口腔内に銃弾をぶち込んだくらいで暁光帝が死ぬわけもなく、弾丸も飲み込んでしまったようだ。
それで銃を手に『これは食べ物だ!』とか、『集団自殺して祭りを盛り上げるための道具だ!』とか、『生贄の儀式に使うのだ!』とか、好き放題に騒いでいる。
「あー、えーっと…違います。それは人殺しの道具、つまり武器ですね」
エルフは説明してやる。
「“短筒”は刻み込まれた魔術式を魔石に蓄えられた魔力で起動させて鉛の玉、“銃弾”を撃ち出す武器です。脆弱な人間は銃弾で肉体に穴を空けられると死んでしまうので殺せちゃうのです」
ドラゴンと比べてしまえば人間は酷く弱い。銃で撃たれると死ぬ。けれども、そんな当たり前のことがドラゴンにはわからない。だから、説明の必要がある。
「世の中には魔法が使えない人間もいます。そういった人間が誰かを殺したい時、例えば、自分が襲われたときとか、とても憎い奴がいるときとか、魔法や弓の代わりにこの銃、短筒を使うのです」
先ずは武器としての理念を説明する。
魔法も剣も苦手、訓練も嫌う、そんな人間のための護身具だ。
また、一応、暗殺に使えなくもないが、高価すぎるし、銃声が大きすぎて使いにくい。
やはり、犯罪者や忙しい商人に需要のある武器である。
もっとも、特殊すぎて出回っていないから、ギュディト百卒長が知らなくても無理はない。
「魔法は杖や魔法陣の準備、それに呪文の詠唱が必要ですぐには放てない。弓だって矢を番えるのに時間がかかる。そこで引き金を引くだけで銃弾を撃てる、小さくて携行もしやすい短筒が便利なのです」
次は利点の説明だ。
たしかに便利な道具ではある。用途を限定すれば大いに活躍してくれることだろう。
「欠点は高価なこと。複雑な機械なのでどうしてもお金がかかるんで。また、腕に覚えのある人間には効きません。一人前の冒険者なら魔法や剣の技で銃弾に対処できてしまう。もちろん、戦場でも主武器にはなりえません」
最後に欠点を説明する。
しょせんは素人向けのマジックアイテムなのだ。威力も弾速も使い手が調節できることはなく、只、引き金を引いて弾丸を撃つだけの道具である。
敵が鎧を着込んでいるから威力を上げたいと思っても、的が素早く動くから弾速を上げたいと思っても、無理。あらかじめ、決められた威力、決められた速度でしか、弾丸を発射できないのだ。
魔法と違って弾丸に炎や氷などの属性をまとわせることもできやしない。
半人前の冒険者を脅したり、油断している相手の不意を打つ、せいぜいそのくらいしか用途がないだろう。
「つまり、大した道具ではありませんね…って、どうしたんですか?」
説明は終わった。
きちんとわかるように説いたつもりだが、エルフの視界に映る状況は驚くべきものだった。
ここ、路地裏の酒場は粗末なあばら家で床も土が剥き出しの“土間”なのであるが。
「うぅぅぅ……」
何がどうしてどうなったのやら、アスタは土間に手を着いてうなだれてしまっている。膝までも地に着き、自由に動かせるはずのロングヘアーも心なしか、輝きを失い、重力に引かれて地面に垂れてしまっている。
ずいぶんと落ち込んでいるようだ。
巨大な六翼で太陽を遮り、世界を龍の闇に押し包む、超巨大ドラゴン暁光帝、その怪物が人化した麗人が地に伏して落胆しているのである。
「どうしました、アスタさん?」
エルフは麗人を案じる。
けれども。
「うぅぅぅぅ……」
麗人を襲った心的衝撃は想像以上のようで顔を上げる気配すら見られない。
どうやらあまりの衝撃に立ち直れないようだ。
「ア、アスタさん、何をそんなに落胆しているんで? 貴女は世界最強なんですよ。悩むことなんて何もないでしょう?」
ギュディト百卒長がオロオロしている。尊敬する無敵の超人が地に伏しているので心配しきりだ。
「アチュタしゃん、しょんなおちこまなくても…またがんばればいいんでつよ」
龍の巫女クレメンティーナも心配している。さすがに主の心情がわかっているようだ。
けれども、人間のナンシーや百卒長には麗人が一体、何をそれほど気にしているのやら、さっぱりわからない。
「ボクの……」
顔を上げることさえもできず、地に伏したまま、アスタはうめく。
「ボクの学説が否定されてしまったー!」
号泣して嘆く。
とにかく悔しい。
滂沱の涙だ。
「うぅぅぅ…『人間は宗教的な生物である』というボクの学説は誤りだったんだろうか……」
涙が止まらない。
発想のコペルニクス的大転換を遂行して、様々な証拠を元に考えに考え抜いた渾身の仮説だったのに。
いともかんたんに、めちゃくちゃあっさり否定されてしまった。
その上、銃口を咥えて頭がパーンするような、愉快な集団自殺が見られないことがわかった。
夢見た情景は夢で終わってしまったのだ。
絶望である。
何ということか。
だが、それが博物学というものだ。
考えに考えた仮説も観察を積み重ねた研究の結果もあっさりひっくり返される……
……こともある。
それもまた博物学の魅力なのだ。
「うん…がんばる!」
涙を拭いて膝に力を込めてゆっくりと立ち上がる。
“世界を横から観る”という遊びを始めたばかりだ。
落ち込んでばかりもいられない。
面白いことはまだまだこれから見つかるのだろう。
麗人の虹色の瞳には再び強い輝きが宿っていた。
思わずつぶやく。
「学説だったんだ……」
荒唐無稽の戯言にしか聞こえなかったのだが、ナンシーは思い知らされた。
とりあえず、暁の女帝様にも人間がつけ入る隙があるらしい。
相変わらず、肉体は絶対無敵だが、精神的な動揺なら誘えそうだ。
その結果がどうなるかは未知数だが。
あの命題を否定することにも一縷の望みが見えた気がする。
それにしても危うく妙ちきりんな学説が広まるところだった。
『祭りのクライマックスに銃口を咥えて頭をパーンと破裂させる集団自殺が人間の習性である』なんて話が幻獣の間に広まったらどうなっていたことやら。
どうせ論文を読むのは吸血鬼や樹木人、翁面獅子とかだろうが。
それは暁の女帝様が唱えた学説が注目を浴びないはずがない。
そうなれば多くの博物学者というか、物好きの幻獣が観察に来たり、対照実験を始めていたことだろう。
エラい迷惑を掛けられるところだった。
厄介な問題自体は何とか回避できたようだが、さて。
世界の危機はこれから一体どこへ向かうのだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
財宝、それは“学説”でした☆
ある理由により、暁光帝♀はアイテムを所持しません。
なので、執着するのは物ではないんですね〜
暁光帝♀は自説を支えてくれそうな証拠にワクワクしましたが、どうやら違ったようです。
いやはや何とも。
学問は一日にして成らず。
これからも地道なフィールドワークが続くのですね。
さて、そういうわけで次回は『そういや、何かしたんだっけ。何だったかなぁ…色々ありすぎて暁光帝は憶えてませんにょ(汗)』です。
請う、ご期待!




