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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<あの子はだぁれ? ドラゴンが街に入るには準備が必要です>>
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末っ子の幼女と火山島の村人

暁光帝の巣作りは完了しました。

後は冒険者パーティーが自分を退治しに来るのを待つだけです♪

さて、勇者は来てくれるでしょうか。

 碧中海はペッリャ半島にある瓦礫街リュッダは温暖湿潤な気候に恵まれた港湾都市である。

 だが、よいことばかりでもなく、その沖に浮かぶワイルド島が活発な火山島であるため、火山灰が降る。時には噴火で街全体が火山灰の砂で覆われることさえあり、農業にも少なからず被害が出ている。

 そんなワイルド島は急峻(きゅうしゅん)な火山のせいで平地が少なく、島の東西にある村々はそのわずかな平地を利用して農業と漁業を営む。火山のすぐそばであるから、火山灰や噴火の影響は大きく、生活も楽ではない。

 島民は日の出とともに起き、日の入りとともに眠る。

 大変素朴な生活である。

 西ワイルド村は瓦礫街リュッダに近い東端に拓かれた村で、島で唯一の役場があり、東の村よりも大きい。

 今、村長が起きてきた。

 もともと早起きで、彼は日の出より前に起き出す。昨日の異変が強烈で寝不足である。

 「ふぁぁ…」

 あくびを噛み殺しつつ、白髪が増えた気もする村長はあごひげを撫でながら山の方を眺める。

 まだ日が顔を見せていないから、周囲は薄暗く、山体もわからない。

 村長は村の誰よりも早く起きる。それがリーダーとしての矜持(きょうじ)だから。

 「う〜む、散々だったな…」

 昨日は大変だった。

 何しろ、昼に“夜”が来たのだ。

 まだ午前中で太陽も昇りきっていないというのにいきなり世界が真っ暗になったのだ。しかも、突如、現れたその“夜空”には星も月も浮いていないと来ている。

 おかげで宣教師やら、神官やらが大騒ぎして、村人の不安を煽る煽る。異変に乗じた布教だとわかるが、村長自身ですらも不安に駆られてしまった。

 そんなことを思い出しながら、眠い目をこすりつつ周囲を見渡すと。

 「な、何だ、これは!?」

 違和感を覚えた村長は新たな不安を抱く羽目に陥る。

 妙だ。

 何かがおかしい。

 「あ…うん…えーっと……」

 しばし目を()らす。

 薄暗くてよくわからないが、毎朝、視ている光景と何かが違うのだ。

 待つ。

 棒立ちで見つめていると太陽が火山の(いただ)きから顔を覗かせた。

 わずかな日が世界を照らす。

 「うぉぉぉぉっ!?」

 村長の口が叫んでいた。

 「こ…これはどうしたことだ!?」

 薄暗がりに立つ家々の影が違うのだ。

 一軒、一軒、家の形は変わっていない。個々の家々の間隔が広がっているのだ。

 村長の家から隣の家、向かいの家、斜向(はすむ)かいの家、それぞれの距離はわかっている。

 それが遠く広がっているのだ。

 「ありえないぞ!」

 火山島なのだから仕方ないが、ワイルド島の平地は狭い。そのわずかな平地に家を建てて暮らしているのだ。

 人口も多くはないが、家々はけっこうぎっしり詰まっている。

 ところが、村道が大きく広がっているのである。

 「村長! 大変だ!!」

 朝の薄闇を斜向かいのジョンソンが飛び込んできた。

 「おぅ、何だ!?」

 村の長として威厳を示すべく、驚きを隠して胸を張る。

 「村の中を川が! 川が流れている!!」

 驚きのあまり、髭面が呆けている。

 ジョンソンは村長の早起き仲間でどちらが先に起きるか、競うほどだ。昨日の騒動で眠りが浅かったのだろう。その早起き男が先に起き出して村に異変が無いか調べたのだ。

 そして何かを見つけたに違いない。

 「川だと?」

 頭が真っ白になる。

 ワイルド島は火山島だ。火山灰に覆われて土地は水はけが良すぎるため、降水量は多いものの、川はほとんどが涸れてしまっている。

 「来てくれ!」

 「お、おぅ!」

 ジョンソンに引きずられるように連れて行かれる。

 日が昇り、周囲が明るくなってきて。

 そして目の前に広がる光景に絶句した。

 「こ、これは!?」

 川が流れている。

 大きな川だ。

 朝日に照らされて透明な水がキラキラ光っている。

 川幅も広く、向こう岸まで家の3軒くらいは離れている。

 水深も深そうだ。子供が落ちたら(おぼ)れるかもしれない。

 恐る恐る手を伸ばす。

 水面に着けると、冷たい水の感触が現実であると教えてくれた。

 「真水だ!」

 用心のため、わずかに口に含んで吐き出したが、海水とは違う。塩味がしない。

 舌には自信がある。

 純粋な水だ。

 よけいな鉱物が溶け込んでいない。色も臭いもない。

 純水だ。

 「透き通った、安全な、おいしい水だと!?」

 井戸から()む水は茶色で塩味が着いており、生水のまま飲めば腹を壊す。()して煮沸(しゃふつ)しないと飲めたものではなかった。

 あきらめていた夢、淡水が、飲料水が目の前にある。それも大量に。

 その事実が信じられなくて村長は呆けている。

 「橋まで架かっているぞ!」

 「何だと?」

 ジョンソンの声で我に返る。

 指差す方向を眺めたら、なるほど、川に橋がかかっている。

 「何だ、これは…ありえん! この橋は…」

 ジョンソンも声が上ずっている。

 「この橋は…石を組んで造ったわけじゃない。ぜんぶだ、ぜんぶが一個のでっかい岩を削って仕上げてあるんだ!!」

 その声は悲鳴に近かった。

 およそ、あり得ない技術である。

 「馬鹿な…」

 よく見ると川そのものもおかしい。

 曲がらずに一直線で、川岸も川底も土ではなく岩だ。漆喰(しっくい)でも瀝青(れきせい)でもない。川全体が巨大な流紋岩でできている。

 しかも橋と川岸が融合している。流紋岩でできた川岸から直に岩でできた橋が生えている形だ。

 もちろん川から橋が生えるわけがない。

 「これは…川じゃない。用水路だ……」

 つまり、昨日はなかったこの川は何者かの手による人工的なものだということになるのだ。

 あまりのことに村長は言葉が途絶えてしまう。

 「いやいやいや! 橋だって川…用水路だって一晩で造れるものじゃないぞ!」

 ジョンソンは当惑している。

 そのとおりだ。

 おとぎ話の魔法使いならいざ知らず、軍の魔導師だって無から有は創れない。一晩でやり遂げるには土魔法の使い手がどれだけ要るだろうか。いや、いたところで無理だ。魔法で出現させた岩は時間の経過で消えてしまう。

 「誰が…どうやって…」

 考えてもわからず、村長も当惑している。

 そこへ。

 「パパー、おやまがきれいだよー」

 幼い声が聞こえてきた。

 村長の末娘マーガレットである。どうやら、騒いでいたので起こしてしまったようだ。

 「ああ、そうだね」

 村長は抱き上げて、幼い末娘の指差す方向を見て。

 「!」

 絶句した。

 その様子につられてジョンソンも同じ方向を見る。

 「!」

 そして同じように絶句した。

 「あああ!」

 「お山が、お山が……」

 「何ということだ!」

 「山神(やまがみ)様のお怒りじゃ!」

 同じく起き出してきた村人らが口々に騒ぐ。

 山の形が変わっていた。

 昨日までは主火口を中心に3つの御岳(おんたけ)が並び、更に周りを5つの側火山が囲む形で、全体としてはいびつな円錐(えんすい)状の山体を形作っていたのだが。

 今は山頂、先端が失せて円錐台である。

 歪みも、欠けも、余分もない。

 こうしてふもとから見ても完全に幾何学的な等脚台形だ。

 「ママのぷりんー むらちゃきいろー」

 幼女が騒ぐ。たいそう嬉しそうだ。

 「そ…そうだな…ママのプディングだな……」

 村長は唖然としながらも末娘の意見に肯定した。

 まさにプディングだ。

 上から少し圧力を加えて低めに整形したプディングのような、綺麗な円錐台なのだ。

 しかも山腹が鏡のように輝いている。

 「用水路は…」

 目を凝らして見れば山頂の水平部分の一部から水路が真っ直ぐ、定規で引いたように真っ直ぐな直線がこちらまで伸びている。

 よく見れば村を囲んでいた山裾(やますそ)が削り取られて、ごっそり無くなっている。

 おかげで平地が増えているのだ。

 そして増えた平地の分だけ広がった村に合わせて家々の間隔が広げられている。

 「そんな馬鹿な……」

 どうやってやったのだ。

 たった一晩で。

 眠っていたとは言え、住人がいる家を、まったく気づかれずに移動させたというのか。

 いや、そうしたのだ。

 何ということだろう。

 これを成し遂げた何者かは一晩の内に火山の形を変えて、用水路を整え、広がった平地に家々を配置し直したのだ。

 それ以外に考えられない。

 「おい! お山の…煙が止まっとるぞ……」

 馬鹿面を晒すジョンソンが指差していた。

 無理もない。

 日々、村人を苦しめていた噴煙が止まっている。

 白煙も、有毒ガスも、火山灰もすっかり影を潜めていた。

 「ぴかぴかー☆ むらちゃきいろー☆」

 末娘マーガレットは止まらない。鏡のように朝日を反射してきらめく、山と言うか、巨大プディングと言うか、円錐台を指差して喜んでいる。

 よく見れば山全体が紫色だ。

 「どうなっている…何が起きているんだ…」

 村長は目を見開いていた。

 当たり前だが山は鏡のように光らない。

 そこへ小走りに駆けてくる者がいる。

 「村長!」

 村役場に併設される、小さな神殿の神官だ。

 西ワイルド村は偏狭な光明神も口うるさい暗黒神も祀らない。宗教施設はこの小さな神殿だけで、村を上げて祀っているのも土地神(とちがみ)である、火山島の山神様だけなのだ。

 「大変だ! いいか、よく聞けよ…」

 「何だと!?」

 神官に耳打ちされた村長は目を皿のように見開いて硬直してしまった。

 山神様から神託が降りてこない。それどころか、神官がいくら呼びかけても返事がないのだと言う。

 常日頃、口やかましい山神様だ。これだけの異変に何も言って来ないということはあり得ない。呼びかけを無視するようなこともしないはずだ。

 神は不滅だ。歳を取ることも死ぬこともない。

 その神の一柱である山神と連絡が取れないということは。

 山神は逃げたのだろうか。

 一体、何から?

 どういう理由で?

 「何が起きているんだ……」

 精神的支柱を失い、もうどうしたらよいのかわからず、村長は棒立ちで信仰の対象であった山を見つめていた。

 火山の頂きが朝日に照らされ、輝いている。

 それは暁光(ぎょうこう)

 「わぁ、とりさんだー おっきな、むらちゃきのとりさんだー」

 小さな幼女だけが山頂に見えた何かに気づいて喜んでいた。

…というわけで、暁光帝本人の出番はあんまりありませんでした(ToT)

末っ子の幼女マーガレットは勘が鋭い。

今後も出番があるかもしれません♪

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