色々あって暁光帝は新しいドラコシビュラを創造しました。思った以上に出来がいいようですね。
驚くべきことに新しいドラコシビュラは嘘つきでした。
我らが主人公、暁光帝♀は嘘つきが嫌いなはずでは?
どうやってこの矛盾を解決するのでしょう?
お楽しみください。
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ペネロペはこちらが思う以上に人間なのだ。こうして人間を辞めても十分に遺族心理へ理解が及ぶほどに。
「嘘を吐くの?」
短く尋ねる。
嘘つきをアスタは許さない。情けも容赦もしなくなるだろう。たとえ、自分の巫女であっても制裁の対象にするはず。
恐ろしいことになる。
だが。
「アスタさんには嘘を吐きません。だから、いいんです」
いけしゃあしゃあと宣言する爆乳乙女。全く悪びれない。いや、これぞ正義だと信じているのだ。
一体全体、嘘を吐く相手を限定することで“正直者”だと言い張ることなんてできるのだろうか。
「あ〜、それはね〜 いいのよね〜 私が嘘つきだってことは神話でも伝説でも明らかでしょ? でも、友達やってられんのはね、アスタには嘘吐かないからなのよ〜」
女神が語る。やたら気楽な風で。
享楽神オヨシノイドは敵も味方も騙す。最大の武器は神力でなく言葉だ。嘘を吐いて敵も味方も操り、自分の思い通りに事を運ぶ。
それでも暁の女帝様から信頼されていて友達であり続けられるのは彼女に対してだけは正直だからだ。
どうやら、嘘つきが大嫌いな暁光帝だが、それは自分が嘘を吐かれることであって、他人が第三者に騙されることについては頓着しないらしい。
基本的に他人のことはどうでもいいから自由にさせる、この辺は社会性に乏しい幻獣らしいと言える。
「わたくしが嘘を吐けないアスタさんに成り代わって嘘を吐くんですよ」
当然だと言わんばかりのペネロペ。本気でそういうものだと考えている。
「“天龍の代理人”ってそういう……」
『意味なのか』と問いかけてやめる。女神を見ればわかる。ナンシーは納得せざるを得ない。
考えてみると“龍の巫女”、よくできていると思う。
単純に人間を幻獣に変えるのではなく、特性や能力を残しつつ、しっかり合意の上で変化させて人間と竜種の間の仲立ちを担わせる。嘘が吐けて心の機微にも聡い、人間の鷹揚さと幻獣の魔力を併せ持った存在、それが龍の巫女なのだろう。
この大魔法が竜帝カザラダニヴァインズと竜巫女ヴィーオヴィーオを出会わせて大陸最大の超大国を生み出したのだ。彼らがいなければ蜥蜴人は覇権を握れず、ヒトや豚人が大陸を支配していたのかもしれない。
嘘を吐けなければ対立するリザードマン達をまとめ上げることは不可能だったろう。異なる風習で育ち、異なる理念を掲げる集団を率いるには清濁併せ呑む政治力が必要だからだ。
そんな政治力が竜帝にあるものか。
ましてや、暁光帝の場合、原理原則をきっちりかっきり決めたら梃子でも動かさないし、それを杓子定規に運用する。
もしも、人間に対してそのような真似をすれば物凄い不平不満が噴出するだろう。人間の数だけ、異なる幸せがあり、異なる正義があるからだ。
それでも世界中の誰もが暁の女帝様に逆らわないのは恐ろしいからだ。
掛け値なしの、本物の恐怖があるからだ。
暁光帝の“政治力”は超巨大ドラゴンの圧倒的な存在感に他ならない。
比べれば、竜帝は暁の女帝様に遠く及ばない。
カザラダニヴァインズだけでは竜帝国を建国できなかったことだろう。
竜巫女ヴィーオヴィーオが竜帝の威光を背景にリザードマン達をまとめ上げて導いたからフキャーエ竜帝国は興ったのだ。
全ては“乙女の龍巫女化”という大魔法のおかげ。
たった1つの魔法がエレーウォン大陸の勢力図を塗り替えてしまったのである。
さすがは暁光帝だ。
いや、今の今まで暁の女帝様ご本人は利用したことがないらしいのだけれども。
大魔法“乙女の龍巫女化”を開発しながら他の竜に使わせるばかりで自分は使わなかったというのも暁光帝らしいと言えばらしい。
考えてみれば、彼女が創り出した“出産の助け”も“真なる女体化”も彼女自身には全く利用価値のない魔法だ。
完全に人間の価値観の外にいながら、人類にとって重要な技術を授けてくださる、暁光帝は人間の想像以上にありがたい存在なのかもしれない。
「ふ〜む……」
この場で語るべき意見も感想も見当たらない。色々考えるとナンシーは言葉に詰まってしまう。
「こうして盲目の乙女は嘘の吐ける稀少な幻獣になりましたとさ。めでたしめでたし、と。まぁ、それはいいとして……」
享楽神オヨシノイドは目を輝かせる。
「貴女の能力なら異形妖族だってたやすく処理できるでしょう? 連中が攻めてきたら手伝ってく…いいえ、戦ってくれるわよね?」
これで街の防衛を任せられると女神は喜んでいる。
瓦礫街リュッダを縄張りとする炎の若竜は気まぐれで当てにできないし、女神自身は神々の法律で縛られている。ここはぜひとも街の防衛を天龍の代理人に任せたい。
ところが。
「やりませんよ」
一言の下に切って捨てられてしまう。
「わたくしはまっとうな聖女なんで。どこの世界に幻獣を相手に八面六臂の大活躍? 丁々発止と渡り合う聖女がいるんですか。バカバカしい」
考えたくもないとペネロペは嫌悪感を露わにする。
「ア、ハイ……」
さしもの女神もまともに返答できない。
言われてみればその通りなのだ。
他の神々が擁する多くの聖女達は優雅で華麗に衆生を救済する。病に、怪我に、飢えに苦しむ人々の前に現れて希望の光をもたらす、それが聖女様なのだ。
確かに幻獣と戦ってくれたりはしない。
そういうのは冒険者や兵士の仕事だ。
「にこにこ顔面パンチをゴツい神父にぶちかましたり、でっかいフォモール族に咬みついたり……」
ナンシーが小声でつぶやく。
そんな紫の大聖女様を見た気がするけれども、果たしてどうなのだろうか。
だが、しかし、恐るべき龍の巫女の台頭を懸念していた身としてはこれはこれでとの想いもある。
「えーっと…ほら、光明教会の聖女とかは……」
同じく小声で享楽神オヨシノイドが抗議する。
暗黒教団と光明教会は激しく対立していて、魔族と戦う光の聖女は武闘派である。結界魔法で防御を固めながら聖魔法で攻撃する、その勇姿は法衣を着た戦乙女に等しい。
「はぁ? あんなのと一緒にしないでください!」
語気を荒げる爆乳乙女。只でさえ、天龍アストライアーは悪印象を持たれているのだ。この上なく優しい、上品でしとやかな貴婦人が誤解されていることは腹に据えかねる。
自分が率先して範となり、紫の大聖女様を麗しいイメージで飾り立てねばならない。
「「ア、ハイ……」」
エルフと女神は諦めて『聖女の仕事だけやってもらえばいいや』と観念するのであった。
また、1人の醜男が聖女の前に立つ。
汚くて臭い古着をまとう、垢だらけの禿げ上がった中年男だ。
「紫の聖名に於いて代行す。真なる女体化!」
重々しく宣言すると背後に瞬間魔法陣が浮かび、霊光が輝く。
シュン!
おっさんに生じた魔幹が驚異の魔力場を構築して肉体を創り変える。
「おぉぉぉっ!?」
ゴツくてでかい男だった生き物は小さく可愛らしくなった自分の手を見て目を見開く。
ツルツルに禿げ上がっていた頭からは輝く金髪が流れて視線を妨げたものの、邪魔とは思わない。むしろ、歓喜に咽び泣く。
そして、布地を押し上げる胸乳の肉に感動して地に膝を着いてしまう。
「鏡を」
渡された鏡は紫色。先ほど、アスタが物質創造の大魔法で創り出した鏡だ。
「ハハァッ!」
先ほどまで醜男だった乙女はそれをうやうやしく受け取って。
「あぁ! あぁぁぁっ!!」
鏡面に映る美貌に感動して滂沱の涙を流す。
美少女だ。
長年、自分が追い求めてきて、もう会えないと諦めていた“ど真ん中”だ。
やはり、細腰でありながら豊かな腰つきに巨乳と肉付きがいい、男の理想を実体化させたような乙女だった。
胸乳の大きさはアスタの好みだろうが、もちろん、実現されなければならない要素であるから自然と実現されたのだ。
「後から文句をつけないよーに」
決まり文句を告げる、その口調もまたアスタそっくりだ。
「はい、代理人ペネロペ様!」
元・醜男、現在・乙女は元気よく返事する。
幸せだ。
最高に幸せだ。
まるで本来の自分をようやく取り戻せたような感覚に支配されている。
やはり、今までの自分は歪められたゴミだったのだ。
この姿こそが真実だ。
歓喜とともにそう思う。
「ありがとうございます!」
高く、可愛らしい声だ。男だった頃のだみ声とは似ても似つかない。
鏡に映る美少女を見つめていると普段の行い、人前で横柄に振る舞うことのみっともなさが実感できた。これは口調も変えねばならないし、礼儀作法も身に着けて、行いを正さねば。
この美声と美貌にふさわしくなれるように。
何が何でも実現しようと元・男だった乙女は心に誓うのだった。
「よろしい。次!」
ペネロペは巨大化したドングリのような爆乳を震わして告げる。
まだまだ多くの患者達が並んでいるが、時間も魔力もたっぷりあるから何も問題ない。
自分は聖女。
彼女によって地上に遣わされた、他ならぬ彼女の代理人なのだ。
貧民達は目を皿のように見開いている。
「凄ぇ……」
「奇蹟よ、ヒキガエルが水仙になっちゃったわ」
「天龍の代理人か、本物の聖女様だな」
「さすが、あの方の代理人だ。捥げた手足も生えてきたし、死体も生き返って喋ってるぞ」
「紫の大聖女様に代わるなんて…これまた凄い女性が現れたものだね」
「ありがたや、ありがたや」
「紫の大聖女様がお慈悲を垂れてくださったのよ」
「全てが享楽神オヨシノイド様のおかげですわ」
口々に感謝の祈りを唱える。
もはや、“紫の大聖女”は女神オヨシノイドに並ぶ存在として崇められていた。
当の大聖女様は代理人に何もかも放り投げて物見遊山する気満々なのだが、それを咎める声は聞かれない。
ペネロペの活躍は大いにアスタを喜ばせている。
「うむ! うむ、うむ、うむ! いいね! 完璧だね! やっぱりボクは凄いね☆」
自画自賛も忘れない。
いや、凄いのはその通りだから誰も文句をつけないのだが。
即興で創った魔法“真なる女体化”を最適化し、自分の龍の巫女に導入しておいた。呪文を用意しなかったから人間には使えないが問題ない。要はペネロペが使えて自分の代理が務められればいいだけなのだから。
ついでに他の便利な魔法も導入しておいたから、自分が見せた様々な奇蹟のたぐいも模倣できることだろう。
完璧である。
「ペネロペに捧げられた祈りは私に向かうからイイ感じよぉ〜」
享楽神オヨシノイドも喜んでいる。
何が嬉しいって自分が働かなくても多くの祈りが捧げられるのだ。
願ってもない、この環境には感謝しかない。
やはり、旧友は凄い。
面倒を運んでくるが同時に素晴らしい利益ももたらしてくれる。
「これでしばらくはアスタの動きも知られることもないでしょう。街のあちこちで耳をそばだてている天使どももここにはいないからね」
女神は辺りを見渡す。
やはり、光の天使はいない。
同じく闇の悪魔もいない。
光明神ブジュッミと暗黒神ゲローマーは神殺しの怪物に膺懲されて果てた。彼女と親しい自分、享楽神オヨシノイドの縄張りには近づかないのだ。
いくら騒いでも2柱の神々が気づくことはないだろう。
むしろ、騒ぎが大きくなるほどにここから離れるはず。
しばらくは静かになるだろう。
「じゃあ、俺達もアスタさんの仕事を手伝うぜ」
「アタシ達も聖女だからねぇ〜」
一角獣のポーリーヌと女精霊のジュリエットも声を上げる。人化しているとは言え、幻獣だ。聖魔法に長け、魔力も潤沢にあるから、ペネロペも大いに助かることだろう。
「むぅ…では、私は詰め所の方に少し顔を出してきますよ。天使や悪魔が近づかなくても騒ぎになれば衛兵が大変ですから」
ギュディト百卒長は一礼して去ってゆく。
人外の方はペネロペに任せるが、いずれ殺到してくるであろう民衆の誘導は衛兵の仕事だ。騒ぎを抑える必要もあるだろう。
「じゃあ、アスタさん。行きますか」
金髪妖精人のナンシーは麗人に声を掛け、幼女クレメンティーナと3人、次の観光地に向かう。
問題はない。
百卒長はすぐに戻ってくるだろうし。
「…」
女神の方に視線を送る。
「ごめん。私はこっから離れられないから」
一瞬だけ手を合わせられる。
女神様が人間ごときにずいぶんと殊勝な態度だ。
「はい」
軽く会釈してエルフはアスタの手を取る。
享楽神オヨシノイドは女神様だが付き合いやすい。コミュニケーション能力が非常に高く、なるほど、暁光帝の友人も務まるのだとよくわかる。
「次はどこ行くの?」
麗人は無邪気に尋ねてくる。
「楽しいところですよ」
「わぁい☆」
エルフと手をつないだまま、楽しげに着いてくる。
歩く世界の危機だ。
あちこちを適当にフラフラ歩き回らせるわけにはいかない。
「ふぅむ…たのちみでつ」
目の据わった幼女は口元をニヤリと歪ませるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
暁光帝♀は嘘つきが嫌い。
でも、暁光帝のドラコシビュラは嘘を吐く。
一見するとパラドックスですが、こんな抜け道がありました。
いや、暁光帝♀も嘘つき女神と友達でいられるくらいですからね。
こんな感じでつきあっているのです。
最終調整者もやってますからね。
嘘つきとの付き合いも長いのです(^_^;)
まぁ、自分に対して嘘を吐かれたら許しませんけどww
さて、そういうわけで次回は『さぁ、チンピラの出番だよ! 暁光帝の肝を冷やすことができるかな。』です。
請う、ご期待!




