一度、口に出してしまったことは取り消せません。でもね、暁光帝なら……
自分のルールに縛られて窮地に陥った暁光帝♀です。
大量のおっさん達が泣きながら列を作っているのです。
大変です。
このままでは物見遊山が続けられません。
でも、ようやく何とかする目処が立ちました。
ドラゴンとして自分の巫女を創り出しましたからwww
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
エルフは呆然として立ち尽くす。
「何、これ?」
つぶやくナンシーは展開の速さについていけない。
「あー…自分の布いたルールに縛られるアスタだけどね、もっと観光したいんで、新しい龍の巫女を創り出して後のことを任せたのよ」
旧友の行動を解説する享楽神オヨシノイドだ。
無茶苦茶だとは思うが、アスタにだって理由がある。
一応は。
そして、旧友はそのとてつもない能力で大概のことを力技で解決できてしまうのだ。
そして、そして、その“大概のこと”の尻拭いをするのがこの自分、女神オヨシノイドでもある。
「うぅぅ…それならアスタは物見遊山がしたくて、お手軽に即席の巫女をでっち上げて仕事を押し付けた、と?」
大方の状況は理解できたものの、ナンシーは呆然と立ち尽くしたままだ。
何とか、理解しようと努めるものの、そんな理由で恐るべき超越者を創る心理が理解できない。
まるで、手紙の封を切ろうと思ったらペーパーナイフが見当たらなかったから両手大剣を鍛造したくらいの話ではないか。
それでも龍の巫女クレメンティーナほどの凄まじい魔力でなければ案じる必要も減るだろうが。
「あの…女神様、その…えーっと……」
聞くのが怖い。
すると、女神は察してくれたけれども。
「あー…期待しているところ悪いんだけど、クレミーはアスタが魔法なしで巫女化させたのよ。あれでも能力は控えめなの」
とんでもない言葉を吐く。
「えぇっ!? あれで控えめなんですか!?」
エルフは目を白黒させるしかない。
最大級の電撃魔法で海を沸騰させた幼女が控えめだと言われたのだ。
戦場の帰趨を決める、生きた決戦兵器のようなクレメンティーナが控えめならあの爆乳乙女はどうなるのだろうか。
「ん〜…暁光帝はね、人間と関わらなかったから巫女が要らなかったのよ。それで自分が創り出した巫女創造の竜魔法なのに他の龍に使わせるばかりでね。今の今まで使ったことがなかったわけ」
オヨシノイドは旧友の事情を語る。
数学や博物学、歌や踊り、彼女は人間の文化に強い関心を示すが、人間そのものには興味がなかった。人間はあまりに数が多すぎてありきたりだからだ。
『“普通”は悪』なのだ。
ありきたりであるもの、珍しくないものに価値はない。
彼女にとっては。
そういうわけで人間に関わる必要がなかったから、ドラゴンと人間の仲立ちを担う龍の巫女も必要なかったわけだ。
「でね、“乙女の龍巫女化”って魔法は使い手の能力と言うか、“格”に影響されるの。使うドラゴンが凄ければ凄いほど強力な龍の巫女が生まれる…」
享楽神は交友関係が広く、かつて、この魔法が発現するところを何度も見たことがある。
大陸中央を支配する竜帝カザラダニヴァインズが自分の龍の巫女ヴィーオヴィーオを生み出した情景がとりわけ印象的だった。
かの竜巫女が努力したからこそ、フキャーエ竜帝国は強大な国家に成長したのである。対立する蜥蜴人集団をまとめ上げた政治力、その功績は主人である竜帝よりも大きい。
そんなヴィーオヴィーオだが、人柄で知られる偉人であって魔力そのものは大したことがない。竜帝自身がドラゴンとしては下位の地竜だからだ。
竜帝に比べて上位のドラゴンである焔龍ツァラトゥストラが同じ乙女の龍巫女化で生み出した龍巫女は2桁ほど魔力が違う。
竜巫女と龍巫女、それぞれの差はそのまま竜帝と焔龍の格の差なのだ。
「はぁ……」
思わず、ため息が漏れてしまう。
いずれにせよ、自分の味方である人間を超人に変える魔法は本気で羨ましい。
もし、自分にも使えたら享楽教団の信者を超人に変え、各地に赴かせて疫病禍や戦禍の拡大を食い止めたものを。
だが、無い物ねだりしても仕方がない。
気持ちを切り替える。
「そして、今回はね……」
視線で上機嫌のアスタを示す。
麗しき“世界の危機”は貧民達の風俗を観て興奮している。何やら新しい論文がどうのと騒いでいるから、喜んではいるのだろう。
「あっ、また1人、おっさんを美少女に変えたわ」
世界の危機が遊ぶ様子を見てエルフは言葉に詰まる。
どうやら貧民の暮らしが聞けたことへの褒美のつもりらしい。暁の女帝様らしく気前のいいことで、サービスに角と尻尾と翼を付けてやったようだ。
「う〜ん…おまけになるのかしら?」
角と尻尾と翼の生えた乙女は泣いているが、悲哀の涙か、感涙か、本気でわからない。
只のヒトを空が飛べるように変え、尻尾と角という武器も与えて使えるようにしたわけだ。
即興の魔法でそれらを実現してしまえるのが暁光帝なのである。
凄まじい。
「顔が3つに増えて腕が6本とかにならなかっただけでも御の字かもしれないわ」
そんな感想しか浮かばない。
とりあえず、かろうじて世界は平和だ。
今回はそんな暁の女帝様ご本人が乙女の龍巫女化を発現させたのである。
魔法が使えるよう、童女から麗人に変身したアスタだから、あちこちで奇蹟を見せつけて住民を救済して遊ぶんだろう、それくらいは覚悟していた。
それで街を無茶苦茶にされても後から手を回して何とかできると油断があったのかもしれない。
思いがけぬ事態の変化に目が回る。
あまりにも想定外の出来事だ。
今の情景を念頭に女神の言葉を考えると。
「神殺しの怪物が竜魔法を発現させた以上、過去の例とは比較にならない、とてつもなく強大な龍の巫女が生み出された…と?」
思い描いたイメージにナンシーの声が震える。
「そういうことになるわね〜 どう考えても」
オヨシノイドは苦笑いを浮かべる。
もうどうにもならない。
すでに竜魔法“乙女の龍巫女化”は発現してしまった。
「あのペネロペって娘の能力は桁違いよ、間違いなく」
女神は容赦ない。
大事になってほしくないと願う、為政者ナンシーに現実を突きつける。
「………」
驚きのあまり、エルフは目を見開いて硬直してしまう。
ところが、そこへ件の龍の巫女、爆乳乙女ペネロペがやってきたのだ。
「享楽神オヨシノイド、そして妖精人のナンシーさん。わたくしは“紫の大聖女”様こと、アスタさんの新たなる龍の巫女、“天龍の代理人”ペネロペです。よろしく」
やはり、頭は下げない。
アストライアー式の宮廷風お辞儀だ。
「あ…あぁ、どうも」
挨拶されたのだから挨拶を返さなければならない。釣られてナンシーはうなずく。
ペネロペは敬語も使わず、神に対する人間の態度ではなかった。
しかし、女神はそれを咎めない。
「はい、こちらこそよろしく。さっそくだけど、“天龍の代理人”ってことはここで聖女の仕事をしてくれるのかしら?」
オヨシノイドはさっさと確認したいことを尋ねるのみ。
もはや、ペネロペが人間でないことは神眼で確認したので同格の人外として扱うことにしたのだ。
「はい、そのように承知しております。“乳房価値”の定義や魔力への換算式も使えますから安心してください」
すでに重要なことはわきまえていると爆乳乙女は胸を張る。
「えっ!?」
思わず、ナンシーは声を出してしまう。
強力な攻撃魔法よりも先ず、乳房なのかと驚いたわけだが、ペネロペはアスタの龍の巫女だ。
最重要事項は女性の胸乳なのだろうとようやく理解する。
「他に夢幻魔法“以心伝心”、竜魔法“真なる女体化”と“真なる半陰陽化”も習得済み」
さすが、“天龍の代理人”を名乗るだけのことはある。国家レベルで物凄く迷惑な魔法も使えるようだ。
「また、聖魔法ではアスタさんの時間魔法は再現できませんので死霊魔法で代用します」
更にとんでもないことを付け加える。
「ほへっ!?」
あまりと言えばあまりのことにナンシーは間抜けな声を上げてしまう。
「聖魔法を死霊魔法で代用する?」
どう考えてもおかしいではないか。
聖なる御業を呪われた禁忌で置き換えるなど狂気の沙汰だ。
「聖魔法の死者蘇生ではアスタさんのように死んだ人間を生き返られません」
爆乳乙女は事情を説明する。
どうあがいても無理なのだ。聖魔法リザレクションは死者を蘇らせる。しかし、条件が厳しい。死んであまり時間が経っていないことや遺体の損傷が酷くないことが求められる。
アスタがやったような、半年前に殺されて死体も残っていない家族6人を蘇生させるような真似は絶対に不可能なのだ。
「そこで死霊魔法です。こちらにも“死者蘇生”はありますからね」
物凄いことを言い出す。
同じ“死者蘇生”でも死霊魔法の方は死人を不死の怪物として蘇らせるのだ。
被害者は生き返っても人間には戻れないし、中身が元の人間と同じとも言い切れない。しかも、太陽の光の下では活動できなくなってしまう。
また、当たり前だが、不死の怪物は死体なので歳を取らない。
その代わり、復活には死後の時間経過も遺体の損傷も関係ない。
お手軽だが、色々問題がありそうだ。
「正気なの? 死者を不死の怪物に変えられた遺族が騒ぐわ。怪物にされた本人からも……」
猛然と抗議する。
しかし。
「人間は辛い現実を知ることよりも心地よい夢の方を信じることを優先するもの」
爆乳乙女からピシャリはねのけられてしまう。
「うぅ……」
エルフは言い返せない。
真実だ。
不老のエルフとして長い時間を過ごしてきて、それこそが人間というものだということを思い知らされてきた。
嘘つきの色男レイヨの言葉を信じた乙女ヒルッカは愚かなのではない。
“騙されるバカ女”という現実よりも“愛されている乙女”という夢の方を信じただけだ。
別に特別なことではない。
それが人間だ。
物書きが描き終えたばかりの自作を傑作だと喜び、満足して一晩、寝てから朝、もう一度読み直してみるとよくある駄作だと気づいて幻滅したとか。
部下から報告を聞いて何もかも作戦通りだと喜んでいた将軍が翌日になって自軍が敵軍に包囲されていることに気づいて絶望したとか。
描いている最中も、作戦行動中も、実はわかっている。
作中の凡庸な部分とか、敵軍の不穏な気配とか、わかっていても『大した問題じゃない』と自分を騙して理想を、美しい夢を思い描く。
その結果、思いがけないことになって幻滅したり、絶望したり。
これらは認識に於ける不快な現実と心地よい夢のせめぎあいの問題だ。
往々にして前者を認められず、後者を信じようと己を騙す。
それが人間だ。
「大切な家族や恋人が生前の姿そのままで戻ってきたら遺族は大喜びします。たとえ、中身が不死の怪物がだとしても『少し違うように思えるけれど気のせいだ』『戻ってきたばかりで本人も混乱しているのだ』と自分自身を騙すことでしょう」
暁光帝の代理人、新たな龍の巫女は平然と言い募る。
「あ…ぁぁ……」
エルフは理解する。
新しい龍の巫女は手に負えないと。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
新たなドラコシビュラの登場です。
盲目の娘は立派な巫女になりました。
このペネロペはかなり強力でして、とんでもない魔力を操ります。
本気の竜魔法ドラコシビュリファイで龍巫女化しただけのことはありますね。
ちなみにもう1頭のドラコシビュラであるクレメンティーナとは違い、物事を話し合いで解決するタイプです。
これからどうなりますことやら(^_^;)
さて、そういうわけで次回は『色々あって暁光帝は新しいドラコシビュラを創造しました。思った以上に出来がいいようですね。』です。
請う、ご期待!




