暁光帝は頑張りました。でも、あれ? 仕事がめっちゃ増えてない?
巨乳化の魔法、もとい、女体化の魔法を開発して試してみたらモテない醜男が大喜びです。
ちょっとした思いつきを魔術式に落とし込むことが楽しい、我らが主人公♀暁光帝も大満足。
でも、それはそれで別の問題を引き起こすのです。
さぁ、一体何が起きたのでしょう?
お楽しみください。
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麗人はうなずく。
大いに騒ぐ民衆を見る限り、真なる女体化は大いに好評のようだ。
「うむ。喜んでくれて何よりだね。くれぐれも後になって文句をつけないよーに」
調整していない新魔法の使い心地なんてあやふやなものだ。一応、アスタは釘を差しておく。
ついでに念のため、おっさんだった乙女の生命の樹も確認する。
「よし☆」
小さくガッツポーズを取る。
大丈夫だ。元・男、現在・乙女の生命の樹もしっかり女性化している。
やはり、自分は偉大である。
始原の魔導師アストライアーなのだから当然か。
この程度の魔法なら試さなくても成功させられるのだ。
「うん。でも……」
自分の前に伸びる列の長さにめまいがしてくる。
「…」
遊びに来たのだ。
『世界を横から観る』という遊びは人間の街をあちこち見物して楽しむというものだ。
こうしておっさん達の希望を聞いていたら観光の時間が減ってしまう。
しかし、一度、口にした言葉は変えられぬ。
「『今からこのボク、始原の魔導師アストライアーがキミらの病気を直してやる!!』って言っちゃったからなぁ…“乳房価値”の定義もしちゃったし。う〜む、どうしたものか……」
顔をしかめる。
自分の名前を明かした上で約束してしまった。
まずい。
いや、その気になれば時間魔法で先ほどの発言だって変えられるのだが。
けれども、『約束は絶対である』、これがルールだ。
約束は何よりも優先される。名前を明かした上であればなおさらだ。
契約したときの言葉を時間魔法で歪めることは絶対に許されない。
自分が布いたルールは破れないのだ。
これは世界中の誰にとっても同じことだろう。
「むみぃ〜」
目の前に並ぶ長蛇の列にめまいがしそうだ。
一度に全員を女体化させることはかんたんだが、それではおっさん達1人1人の希望を聞けない。
いい加減な仕事に対しては後から文句がつくだろう。
理不尽でない文句は信用の失墜に繋がり、誇りを傷つける。
それは避けたい。
だが、このままでは観光の時間が削られてしまう。
せっかく、“世界を横から観る”という、画期的な遊びの最中なのに。
そこへ突然、横から声をかけられる。
「紫の大聖女様に於かれましてはお困りでいらっしゃる様子。ならば、わたくしがお手伝いできるかもしれません」
たおやかで優しい、若い女性の声だった。
「はて、キミは? あぁ、ボクが目を治した娘かい。うむ、丁度いい。手伝ってくれたら僥倖だよ」
アスタにはやってきた乙女に憶えがあった。
髪はごく淡い黄みのピンク色でウェーブがかったセミロングで、瞳の色は薄く青みがかったグリーン。最初に麗人を驚かせた見事な巨乳がバインバイン弾んでいる。
幼い頃に失明したので、先ほど、“紫の大聖女”ことアスタに頼った。そして、聖魔法“大いなる再生”で眼球を取り戻させてもらった娘である。
「わたくしは“ペネロペ”。おかげさまで世界の素晴らしさを取り戻せた娘でございます。ぜひとも紫の大聖女様のお役に立ちたく…どうか、御身の下で働かせてくださいませ」
以前とは口調も変わり、うやうやしく頭を垂れる。
独特の物言いだったが、その言葉は強くアスタの心を揺さぶる。
「うむ、うむ。その通り。世界は素晴らしいんだよ。それを理解してくれたのなら……ん☆」
『キミは力を得るにふさわしい』と言いかけたが、言葉よりも行動だ。喜色満面、麗人は右手を向けると魔力を込める。
しゅぉぉぉん!!
耳の後ろから覗く三本角がすべて輝き、『ん☆』の一言で特異な魔気力線が放出され、ペネロペの肉体に魔幹が設定される。
それはかつてない、異質な、驚異の大魔法。
発動した魔力場が乙女の肉体と精神を形而上学的な構造から何もかも変えてゆく。
「えぇっ!?」
一瞬、ペネロペは驚いたが、すぐに理解する。
これは大いなる変容。
芋虫が蛹からアゲハチョウになって飛び立つことよりも大きな変化をもたらすものだ。
「あ…あぁ…これが…これが……」
変化の意味を理解する。
言葉ではなく魂そのもので。
そして、目の前にいる“紫の聖女”と呼ばれる人物の正体が何か、思い知る。
同時に。
神々と呼ばれて敬われる存在がどれほど矮小なのか。
平和な世界のすぐそばに怪物の潜む深淵が横たわっており、どれほど強大な存在が真に世界を支配しているのか。
巨大な六翼で太陽を遮り、世界を龍の闇で包み込む超存在がどこで誰を見ているのか。
全てを理解する。
けれども、宇宙的恐怖に襲われることはなかった。
嘔吐することも、理性を失うことも、感情を昂ぶらせることも、顎が外れるほどに大口を開いて絶叫することも、ない。
自分自身が宇宙的恐怖の一部になったのだから。
「承知しました。わたくしはペネロペ、“天龍の代理人”です」
娘の髪がブワッと広がり、全身からとてつもなく強い魔気力線が放出されて渦巻く。
それは人間の持つ魔力とは比較にならない、大きさも波動も全く異なる魔力場を構成するのだった。
魔法に疎い人々だってこれほどの膨大な魔気には圧倒される。
「うわぁっ!?」
「これは一体!?」
「紫の大聖女様がまた何か物凄いことをしているのよ!」
「ありがたや、ありがたや!」
「おそろしや、おそろしや!」
驚異的な魔力場にさらされて無知な民衆も恐れおののく。
魔法のことはさっぱりわからないが、これが今までのそれとは全く違う、異質で強大な魔力であることは思い知らされているのだ。
「私も初めて拝見するわねぇ……」
「あぁ、見事なものだぜ」
珍しいものを見物できた。
人化した女精霊と一角獣もしきりに感心する。
「きれーだなー…これがアスタさんの魔法かぁ……」
ギュディト百卒長は只、只、感心し。
「みごとでち。あたちのときよりすっごいはででち。ほんときれー」
幼女クレメンティーナも感心し、我が事のように慶んでいる。
この現象にナンシーのどれほど驚くまいことか。
「これは!? この魔法は!? 違う! 何もかも違う! これは……」
幻獣ではなく、エルフでしかないから魔気力線そのものは視えない。
それでもエルフだから魔法の匂いのようなものがわかる。
そこで記憶にある、全ての魔法と比較する。
けれども、これに類似する現象は長命の妖精人でさえ経験したことがない。
途方もなく高度の、信じられないほどに特異な、恐るべき大魔法である。
先ほどの会話の内容から考えてもどうしてアスタがそんな代物を発動させる気になったのか、さっぱりわからない。
それでも、只、何か、大変なことが起きつつあることだけはわかる。
だが、それ以外は全く不明。
一体全体、何をどうする魔法なのか。
単純に破壊をもたらすわけではなさそうだが、不安が募るばかりだ。
「へぇ…この魔法が特殊だってことがわかるんだ。凄いじゃないの、エルフさん。これは貴女達、人間が経験したことがない魔法よ。だって、味わった奴が漏れなく人間を辞めちゃうんだもの。フフ……」
女神オヨシノイドは自嘲を込めて嗤う。
「これぞ、神々にさえ使えない、竜種だけに許された竜魔法…いえ、許した当のご本人が暁の女帝様なんだから使えて当然なんだけどね」
大げさな身振りで解説し、天を仰ぐ。
こいつを見せられると無力感に苛まれ、神々の1柱であることの意味がわからなくなる。
いや、大した意味はないのだと思い知らされるのか。
「只の人間を深淵の超越者に変える究極の魔法…“乙女の龍巫女化”よ」
凄絶な笑みを浮かべる。
それは女神であっても心的衝撃を免れ得ない。
恐るべき超人の誕生を意味していた。
「乙女の龍巫女化? じゃあ…あのペネロペという娘は龍の巫女になったと言うんですか!?」
あまりのことにナンシーは絶句する。
暁光帝のとてつもない力を目の当たりにして、街を破壊されるとか、世界に危機が訪れるとか、今の今まで破局ばかりを恐れていた。
だが、そんなありきたりの脅威では終わらない。
終わるわけがなかった。
幼女クレメンティーナとは別の、全く新たな龍の巫女が現れたのだ。
それも他ならぬ暁光帝の巫女、天龍アストライアーの代理人である。
すっくと立つペネロペは両腕を天高く掲げたかと思うと自分の胸乳を覆うように下ろして。
「より豊かに、より大きく☆」
静かにつぶやく。
ずぅぅん!
途端に娘の胸乳がさらに豊かに、さらに大きく、そして、形が変わる。
ずんと突き出して布地を押し上げ、まるでテントのように張り。
ぶちぶちぶちぃっ!
膨らみに耐えきれなくなった乳当てが引き裂かれる音が轟く。
まるで巨大化したドングリが2つ、貫頭衣の胸を突き上げているかのよう。
只でさえ大きかった巨乳が物凄い存在感である。
「いいね、いいね♪ オッパイだね♪」
嬉しくて仕方がない。アスタは無邪気に笑い、盛んに拍手する。
「爆乳ロケット型とは実に喜ばしい☆」
謎の言葉で絶賛する。
この様子に民衆も大騒ぎだ。
「紫の大聖女様が喜んでおられる!」
「これはまた新しい聖女様の誕生か!?」
「めでたい! めでたい!」
「素晴らしい!」
「“爆乳”はわかるけど…“ろけっと型”の“ろけっと”って何だ?」
「きっと、“祝福されたオッパイ”という意味なのよ」
「ええ、そうね。だって凄い形だもの」
「むむぅ、なるほど!」
「女が言うと説得力があるぜ」
口々に騒ぐ。
大衆は夢を見るものだ。
それが楽しい夢ならなおさらである。
これまで貧しく苦しい生活をしてきた貧民達は強力な“紫の大聖女”の到来を喜んできた。
それに加えて途方もない魔力場をまとう新たな乙女が現れたのだ。
これもまた当然のように喜ばしい慶事と解釈することは当然であった。
ペネロペは腕を屈伸させたり、拳を開いたり握ったりして身体の具合を確かめる。同時に体内に魔気を巡らせ、魔法的な動作も確認する。
そして、もう一度、爆乳を下から支えあげて震わせて。
「我が胸をアスタさんの象徴される形に直しましてございます」
深々とお辞儀…しない。
膝を屈して風魔法で裾を持ち上げるが、頭は下げず、腕を組んでふんぞり返る、アストライアー式の宮廷風お辞儀だ。
組んだ両腕に持ち上げられた爆乳がツンと上を向いて物凄い存在感である。
「エクセレント! エックセレン!!」
アスタは手を叩いて喜んでいる。
「では、委細を承知しておりますので後のことはお任せを」
母親に連れて来られたときは何もできない盲目の娘だったのだが、今は堂々と立っている。
身長は変わっていないが、眼光と胸乳の迫力が違う。
「ありがたい。じゃあ、後は任せるよ。よろしくね〜♪」
アスタは嬉しそうに手を振ると意気揚々と歩き出す。
すると、新たな龍の巫女は。
「天空飛翔」
シュン!
只、一言で輝く瞬間魔法陣を駆動し、重力魔法と風の精霊魔法を発現させて宙に浮く。
そして、人々を睥睨し。
「わたくしは“天龍の代理人”ペネロペ。紫の大聖女様はお忙しいので後はわたくしが引き継ぎます。おとなしく並ぶように」
堂々と宣言する。
同時に全身から強烈な魔気力線を放出して。
バシュゥゥッ!!
人間にも視えるよう霊光化して表現させるとウェーブがかったセミロングヘアーが天に向かって逆巻く。
物凄い迫力だ。
空中での姿勢制御が難しいので風魔法の達人でもヒト族は空を飛べない。それはよく知られている事実であり、目の前で宙に浮いた爆乳乙女が常人でないことは明らか。
「「「「ハハァー!!」」」
人々は一斉にひざまずき、また新たな聖女の誕生を思い知るのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
前の章で暁光帝♀に助けられた盲目の娘(・人・)ペネロペが再登場です☆
登場したときは名前も決っていませんでしたが、前回のオチがあのままでは投げっぱなしになってしまうと思い、いずれ、何とかしなければと思ったいましたからね。
今回の再登場につながったわけです。
名前は『サンダーバード』のロンドンエージェント、レディ・ペネロープから。
「えぇ、パーカー。やっておしまい」で有名な美人さんです♪
大人になって本物のロールスロイスを見たらピンク色でもないし、六輪駆動でもないことにショックを受けましたぉ。
さて、そういうわけで次回は『一度、口に出していってしまったことは取り消せません。でもね、暁光帝なら……』です。
請う、ご期待!




