やっつけた色男が泣いている? じゃあ、そうだね、暁光帝がとっときの魔法を使ってあげよう。
乙女を陥れようとした悪党、“色男レイヨ”をやっつけた、我らが主人公♀暁光帝です。
ついでにエラいので乙女ヒルッカも導いといたげました。
おかげでずいぶんありがたがられましたね。
さぁ、次は色男の番です。
悪さをしたんだから罰を受けてもらわなければなりません。
さぁ、どうしてくれようか。
暁光帝♀の目が光ります。
お楽しみください。
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そんな乙女とは対照的に残された色男はズゥンと落ち込んだ表情だ。
「二枚目だ、美男子だって褒めそやすけどさ、実際は只の女顔なんだよ……」
身体から力が抜け、嘘つきの青年レイヨが座り込んだまま、ブツブツつぶやいている。
『色男、カネと力はなかりけり』と世評の通り。知恵も力も、度胸も魔法も、そして、根性もない。人々を美貌で惑わし、嘘で騙して生きてきた人生だ。
精神に干渉する、アスタの夢幻魔法”強制”で無理やり正直者にされてしまい、嘘を奪われた。大聖女の実力を考えれば、もはや、二度と嘘が吐けないことは明らかだ。
世の中を渡るための武器を半分失ってしまった格好である。
しかも、本名と顔まで明かされた上で今までの所業を暴かれてしまった。
これでは“商売”の方にもかなり差し障りがあるだろう。
絶望して座り込むのも無理からぬ状況である。
「知ってるかい? 女顔はバカにされるんだよ。子供の頃から“女男”ってね…ハハハハハ…ハァ……」
生まれつき体毛が薄いのか、細面には髭剃り痕もなく、きれいなものだ。眉も細く、見れば見るほど女性的な顔立ちである。
それは幼少期から苦労することもあったのだろう。
子供は残酷で思ったことをハッキリ口にする。それで嫌な思いをしてもおかしくはない。
ところが、麗人の場合、そんなレイヨに対する反応も独特だ。
「瓦礫街リュッダの人間は多様性に富むからね。キミのように性的二形が控えめな個体もいるだろうよ」
観察のしがいがあると楽しそう。
金属光沢に輝く紫のロングヘアーを宙に踊らせながら上機嫌である。
しかし。
「タヨウセイ? セイテキニケイ?」
話が専門的すぎて、聞かされた色男レイヨは目を白黒させてしまう。
「“多様性”は色んな奴がいるってことで、“性的二形”のことはね…そうだ! 角の短い牡鹿やメスみたいなカブトムシだよ。オスの特徴が弱い奴だね」
アスタが的確な説明を聞かせてやるものの。
「アハ…アハハハハ…僕はカブトムシのメスにたとえられちゃうのか」
レイヨの精神は著しく傷ついてしまう。
心をえぐられた痛みに色男は狂ったように自分を嗤い、自己嫌悪に陥る。
「顔がキレイだと母さんも婆ちゃんも僕を叱らないのさ。いたずらした兄貴や弟はめっちゃ叱られるのにな。でも、それで僕は根性が鍛えられなかった…すぐ嘘を吐く情けない男に育っちゃったんだよ」
言外に自分は悪くないとにじませる。
根性がなくて心が弱いのは親のせいだと言ってるのだ。
女のようなレイヨの美貌を考えれば、子供の頃も相当可愛らしく魅力的であったろうことは想像に難くない。そうやって甘やかされ、男として育つべき強さを身に着けられなかったという主張は一定の説得力を持つ。
「こんなことなら女に生まれたかった。女に生まれてりゃ、周りからちやほやされて面白おかしく暮らせたものを」
泣き言を並べて嘆く。
「そ…そういうものなのか。二枚目も意外と大変なんだなぁ……」
「女にモテるだけじゃなく、そんな苦労があるんだ。色男もそれなりに苦労してるのかもしれん」
「一方的に羨ましがるだけの俺達も考えるべきかもしれないな」
二枚目、恐るべし。
周囲の醜男達からも同情の声が上がる。
やはり、キレイな顔は人々を惹きつけるのだ。同情も買いやすいし、普通の言葉なのに説得力もある。
醜男達はそういう二枚目の利点を羨み、妬んでいたはずなのにすっかり色男の言葉に惑わされている。
しかし、色男レイヨの言い分を聞いたアスタは面白がり、その願いを聞いてやることにする。
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、そうだね。ん☆」
いつものやたら短い『ん』の一言で即興の魔法を発現させる。
人間の風習にもヒト族にもくわしくないが、何しろ、始原の魔導師アストライアーだ。人間が思いもよらないような、強烈な魔法だって一瞬で創り出せる。
耳の後ろから覗く、白く透き通った三本角の1本が輝くと呪文も魔法陣もなしでレイヨの肉体に魔幹が生じて、その身を魔力場が包む。摩訶不思議な魔法は現実を歪め、青年の存在そのものを形而上学的な構造から書き換えてしまう。
それはレイヨの肉体に驚くべき変容をもたらす。
「うわぁっ! 胸がっ…胸が膨らんでる!? これは乳房!?」
たちどころに生じた肉体の変化にレイヨは甲高い悲鳴を上げる。完全に女声だ。
驚くべきことに一瞬でレイヨの髪が伸びていた。腰まであるロングヘアーだ。平らだった男の胸に胸乳が大きく膨らんでいる。
そして。
「ふひぇぇぇっ!? 僕のお大事が! なくなってるぅっ!?」
股間を押さえてうずくまる。
すでに腰つきも豊かになり、股間に鎮座していた男の象徴が消え失せていた。
「望み通り、見事な女体になったろう。竜魔法“真なる女体化”だよ」
魔法が予想通りの効果をもたらしてアスタは喜んだ。ちょっとした思いつきをこうして魔法に落とし込む作業は楽しい。
「こ…こんな! 男を女に変える魔法なんて知らない! いや、存在しない! 古今東西、どこを探してもそんな魔法はないんだ!」
ありえない現象にレイヨはまたしても悲鳴を上げる。
才能はないが、魔法に憧れていた。憧れていたから足繁く冒険者ギルドの資料室に通い、色々な魔法について学んだ。
実技はともかく、知識だけなら大抵の魔導師よりもあるのだ。
けれども、こんな魔法の話は聞いたことがない。
ありえないはずだ。
「あぁ、今、思いついて創ったからね。人間に知られているわけがないさ」
肩をすくめ、これまた、こともなげに語るアスタだ。
本日、只今、この時を以て驚異の新作、大魔法“ヴェレ・フェミニファイ”をお披露目である。
驚いたのは色男だけではない。
「そ…そんな! あいつの言う通り、性転換の魔法なんてモノは存在しないわ!」
金髪妖精人のナンシーは驚きのあまり、声が裏返ってしまっている。
「そっかー 今、創ったんだー すっごーい さすが、始原の魔導師様だわー」
いつの間にか、戻っていた享楽神オヨシノイドが投げやりな称賛の言葉を飛ばす。
驚いてはいるが、女神の心は半ば、諦めの感情とないまぜになっている。どれだけ魔法に長けた魔女でも、魔法を司る神々でも、性転換の魔法なんて使った例はないのだ。
しかし、アスタの正体は世界で最初に“魔法”というものを創り出した、始原の魔導師アストライアーだ。およそ、人知を超えた大魔法を即興で創り上げることさえも朝飯前なのである。
もっとも、男を女に作り変える技術自体は古来より存在するのでさほど目新しいものではない。
東方のヒト族諸侯の国々で風習となっている“宦官”、少年期に処置することで声変わりを抑制した“カストラート”などがその例だ。いずれも去勢、すなわち外科的に少年の男根を切除することで第二次性徴を人為的に妨げる技術で“女っぽい男”に作り変えられた者である。
もちろん、このような半端な技術で男性を完全な形で女性化できるわけがない。それでも出来上がった宦官やカストラートは男でも女でもない不思議な生き物として一部の層から高い需要がある。
けれども、アスタの大魔法“真なる女体化”はそんな人間の所業をあざ笑うかのように完璧だ。
「あー…神眼で確認したわ。今のレイヨは完全に女性よ。もう本質そのものからね」
『もうどうにもでもなれ』と享楽神は諦めを込めて語る。
間違いなく、細胞レベルで、Y染色体をX染色体に補完してまで、レイヨの肉体を改造しているのだ。アスタの親友が緑の病魔大帝テアルであり、生き物の操作に長けた緑龍と親しくしていることを考慮すれば十分に可能なことなのだろう。
もっとも、“染色体”だの、“細胞”だの、話したところで人間にはわからないから説明は省く。
こういう特殊な知識は神々にさえ知られていない。疫病の感染爆発と戦ったオヨシノイドならではの経験である。
「神々や幻獣には性別がないからね。女神や人魚だって女の姿をしているだけで女じゃないわ。子供を産むわけでもないし。だから、狼男が狼女になりたければ肉体を変化させるだけでいい」
世代交代と縁のない幻獣は子供を産むことがない。幻獣はある日、突然、虚無の空間から湧出するのであって生物のように繁殖するわけではないのだ。
それ故、妖人花や海魔女のような麗しい女性の姿をした幻獣であっても、そういう姿をしているだけである。本質的には人間の“女性”とは異なる存在なのだ。
だから、人外に限って言えば、男を女に変える魔法は需要がない。
「えぇ。“宦官”に“カストラート”、人間にとってはぜひとも実現したい性転換の技術なんですけどね…ついぞ、そんな魔法は開発できませんでした」
エルフは女神の言葉をつなげる。
こちらは人間側の事情だ。
需要があるから研究した。けれども、無理だった。
「強化&弱化魔法で男根をいじっても子宮に変化するわけでなし。回復魔法じゃ、よくて回春の効果があるくらい。そして、聖魔法には健康を取り戻させる効き目しか確認できなかったのです……」
人間だって見込みのありそうな魔法は全部、試していた。
それくらい性別を転換する魔法には強い関心が抱かれていたのだ。
けれども、何をどうしても無理だったのである。
「まぁね、名だたる魔女や魔法を司る神々の間でも密かに囁かれてはいたのよ。『性転換の魔法なんて天龍アストライアーに頼めばすぐにでも実現する』って。だけどね……」
オヨシノイドは少し口ごもり。
「“出産の助け”の一件を思い出すとね……」
言葉を続けたものの、またしても口ごもる。
「えぇ。それを考えたら誰だって二の足を踏みますよね」
ナンシーは女神の言葉にうなずくしかない。
暁光帝が開発した大魔法“出産の助け”が人間社会に刻み込んだ強烈な爪痕は記憶に新しい。名前の通り、妊娠と出産を助ける回復魔法なのだが、男の為政者の予想を裏切ってとんでもない影響をもたらした。
暁光帝のやることは常に功罪が背中合わせであり、よいことと同じくらい悪いことも引き起こす。プエルペリイ・オペも大勢に福音をもたらすと同時に更に多くの混乱と悲劇をもまたもたらしてしまっている。
脆弱な人間社会は暁の女帝様から賜る大魔法に耐えられないのだ。
「今の…あの“真なる女体化”ですか、これから広まるんでしょうか?」
恐る恐る女神に尋ねる。
もしも、あの大魔法がプエルペリイ・オペと同じくらい普及してしまったらどうなることやら。大勢の人々が性転換を求めて殺到することだろう。およそ、想像もできないほどの大混乱がもたらされるに違いない。
「あー、さすがにそれはないわ。アレは始原の魔導師アストライアーの超絶技巧で発現しただけ。人間の魔法使いが何をどう頑張っても再現できるわけがないもの。ハァ……」
オヨシノイドはため息を吐く。
なるほど、即興とはいえ、アスタの開発した魔法を真似できる人間のいるはずがない。
けれども、魔法による性転換の可能性が示されてしまった。
これから大勢の魔導師達がヴェレ・フェミニファイを追求することになるだろう。
ここも騒がしくなるに違いない。
頭の痛いことだ。
「あ〜あ……」
女神はさらに重い重いため息を吐くのだった。
騒いでいるのは女神と金髪妖精人だけではない。
周囲の男達のどれほど驚くまいことか。
「女になれる…だ…と!?」
「むぅ…さすがは紫の大聖女様だ。できないことなんてないんだろうな」
「どんな願いも叶うって…そんなの、もう、神様と何が違うんだ!?」
「女になってみたかった! 女になってみたかったんだ!」
「ブサイクで汚い男なんてもう辞めだ! これからは美少女になってモテまくるぞ!」
「いや、お前は美少女にモテたいんであって美少女になりたいわけじゃないだろう?」
「むむむ、ここは冷静に考えねば…男を辞めて得るものと失うものを天秤にかけてしっかり見定めねばなるまい」
「失うものは竿と玉とヒゲだろ。で、得るものはオッパイとキレイでなめらかな肌と甘い吐息と子供が産める子宮と誰からも愛される美貌と……」
「何だ? 得するものの方が多いじゃないか!」
「汚いと罵られ、ブサイクと嫌われ…男に生まれていいことなんてひとつもなかった! ヒゲもハゲも筋肉もない女は誰からも疎まれずに愛される! 女は一方的に得なんだ!」
「あぁ…女になれば…女にさえなればオレは幸せになれるんだぁぁぁっ!!」
夢見る醜男達は好き勝手ほざいて大騒ぎだ。
性転換したからと言って美女になれるという保証はないわけだが、醜女になってしまう可能性を微塵も考えていない。
驚くべき楽観主義と言えよう。
はて、さて、そうそう上手く行くのだろうか。
最初の衝撃が去って少し落ち着いた元・色男、現・女性のレイヨは何とか状況を打破しようと努めていた。
「え、えーっと…紫の大聖女様。どうか、哀れな僕めを、その偉大な性転換の魔法で男に戻してはもらえないでしょうか」
夢幻魔法“強制”によって嘘が吐けなくなったので只、正直に心情を吐露するしかない。もどかしいことだ。
ところが、そんな元・色男の願いを聞いてもキョトンと首を傾げるだけのアスタだった。
「性転換の魔法? 何、言ってるの? “真なる女体化”は男を女に変えることしかできないよ」
不思議そうな顔である。
「えっ、ダメなんですか!?」
性別だけでなく、あっさり人生も転換されてしまったレイヨは目を丸くする。
「そもそもオッパイを大きくする魔法として開発したからね。いや、女性であることの価値がオッパイだけじゃないことをボクはもちろん承知しているよ。承知しているから他もちゃんとしたんだよ。だからこそ“真なる女体化”なのさ」
『だから、逆の変化、男体化なんて考えてない』と麗人は言外ににじませる。
「えぇっ、そういうものだったんですか!?」
『何を承知しているのか』、『何をちゃんとしたのか』、さっぱりわからない元・色男は悲鳴に近い叫びを上げる。
「長い髪と豊かな骨盤、その辺を考えると声帯の特徴やホルモンのバランス、子宮も用意しないと締まらないからね。結局、本質的なところから全部やり遂げたんだよ」
『だからこそ“真なる”という語が付くのだ』と言わんばかり。
麗人は自信満々で胸を張る。
実際、男根や髭のような見かけはおろか、子宮や声帯のような体内の隠れた器官、果ては性染色体という細胞の仕組みまで作り直してやった。
魔導師ギルドや国立の魔法研究所などで一流の治癒師が調べてもレイヨが元は男だったとはわかるまい。それどころか、高名な魔女や魔法を司る神々からだって隠しおおせる自信がある。
“真なる女体化”の名称は伊達でないのだ。
「も…もう、絶対に男に戻れないんですか?」
絶望しながら尋ねる元・色男。それまでの人生設計が完全に狂ってしまった。幸せな未来の絵図面が描けない。
「うむ。他には“真なる半陰陽化”ってのがあるよ。こいつも今、創ったんだよねー」
これまた嬉しそうに答える。
アスタ自慢の新基軸だ。
「“二形”、まぁ、ちょっと聞かない言葉かな。人間を子宮と男根の両方がある両性具有者に変える魔法なんだ。両方あるからお得感も2倍、2ばーい♪」
両手の2本指を突き出しながら満面の笑顔、本当に嬉しそうだ。
女性の麗しさと男性のたくましさを高い次元で実現させた、全く新しい性…と、言いたいが、ターナー症候群やクラインフェルター症候群などの例があり、自然界でもそれなりに発生する性だ。
けれども、麗人の魔法はより理想化されている。
性染色体の組み合わせも“XYX”と両性具有者にふさわしい仕上がりだ。
髭の生えた女性だったり、外性器の発育が劣った男性だったり、自然に発生する場合は色々と不都合が生じることがあるが、この魔法ではその辺もしっかり矯正してある。
言うまでもないことだが、もちろん、巨乳だ。
この辺はアスタのやることだから当然なのである。
「えっ、それって男か女かわからない不思議な生き物なんじゃ……」
麗人が打ち出した新基軸が理解できない、凡人のレイヨは目を白黒させるばかりであった。
アスタの提示する新魔法は人外の仲間にさえ当惑を与える。
「う〜む…半陰陽、男か女かわからない不思議な生き物って、それは本当に“女”と言えるのか……」
一角獣が人化したポーリーヌは悩む。女性の定義から考え直さなければならない。
「“真なる半陰陽化”ね…愛のプレイの幅が広がるわぁ☆ 素晴らしいことじゃないのぉ♪」
反面、女精霊が人化したジュリエットはすっかり受け入れている。
「アスタさんが開発した新魔法よぉ。絶対、美人ができるに決ってるじゃないのぉ」
暁光帝への信頼感は抜群だ。
否、暁光帝の胸乳に対する執着心への信頼感だろう。
「なるほどな。そう言われると無条件に認めるべきだとわかるぜ」
ポーリーヌも大きくうなずく。
女好きの幻獣さえも納得させる、天龍アストライアーの揺るぎない権威であった。
元・色男はくずおれた。
「あぁ…僕はもうダメだ…僕は…僕は……あぁっ! あぁっ!!」
レイヨにはもう前が見えぬ。
明日も、明後日も、その先の未来も。
嘘を奪われ、自分自身の“男”も失くした。
「僕は男だったんだ……」
『男であること』にこれほどまでも誇りを持っていたなんて自分でも驚く。
けれども、思い出せない。
どうしてそれほどまでに『男であること』が誇らしかったのか。
何の論拠もない思想を、無意味な価値観を、いつ、誰に吹き込まれたのか。
なぜ、自分はその言葉を只ひたすらに信じたのか。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
嘆く。
号泣して嘆く。
女性を、他人を、騙してきた人生だった。
しかし、どうやら自分も騙されていたようだ。
いつ、誰に、何を言われたのやら、気がつくとこうして男であることに限りない誇りを感じていた。
男であることは何よりも正義だった。
女が何を言おうと男の自分が考えたことこそが真理だった。
その、根拠のない自信が今、粉々に打ち砕かれた。
レイヨはその痛みに耐えきれず、泣いているのだ。
「しょうがないわねぇ……」
オヨシノイドは女神であることを隠し、女司祭として元・色男、今は只の女であるレイヨを救うことにする。
こいつは乙女ヒルッカに迷惑を掛け、借金を押し付けて破滅させようと企んだ悪党である。放り出してお終いにするべきだろうが、自分の信者になった乙女に対する責任もある。
こいつには償わせねばならぬ。
「まぁ…相応の目にも遭ってるけれど……」
男だったのに女に変えられてしまった、それ自体は今まで重ねてきた罪に見合う罰と言えるだろうか。
悩む。
けれども、性転換は本人の希望でもある。
レイヨは確かに『女に生まれたかった』と言ったのだ。
それなら、女体化されたことは罰ではなく褒美だろう。
罰は罰として、別にしっかり課してやらねばなるまい。
「ほら、いらっしゃい」
うずくまったレイヨの首根っこを掴んで引きずってゆく。
「うぴぃー!」
先ほどまで色男だった、現在・只の女は情けない声を上げているが、仕方ない。
「キリキリ働きなさい! 性別が変わったくらいじゃ借金は消えないんだから!」
さすが、女神様。
人間に化けても片手で人間1人を引きずっていける大力だ。
享楽神の神殿には愚か者を働かせる場所もあるからきちんと償わせられるだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
「色男」という表現は「イケメン」にするべきかと悩みましたが。
う〜〜〜ん……やっぱり「イケメン」だと現代的な五感があるので中世ナーロッパには似合わないかな、と。
「イケメン」は「イケてる面」ということで平成に入ってから生まれた言葉なんですよね。
けっこう長く使われているのかもしれませんが、中世ナーロッパ世界にはまだ合わないかなぁ……
そして、暁光帝♀がまた妙ちきりんな魔法を創り出しました。
ヴェレ・フェミニファイ…厳密には性転換の魔法ではなくあくまでも巨乳化の魔法の延長として創り出されました。
なので、男に戻る魔法はありません\(^o^)/
性転換をテーマにした漫画や小説はけっこう前からあります。
当時は“性転換モノ”なんて呼ばれていましたが、最近は横文字で“トランスセクシャルもの”または“トランスジェンダーもの”と変わり、果ては“TSモノ”とアルファベット化しましたね。
謎い…どうしてこうなった\(^o^)/
小生が最初にハマった性転換モノは弓月光の『ボクの初体験』(1975年)です。
さすがは天才、弓月光、今のTSモノのシチュエーションはほぼ全て網羅されていましたっけ。
主人公はマッドサイエンティストに外科手術されて脳みそを美少女の肉体に入れられた高校生♂でして、着替えでドッキリ、お風呂でドッキリ、男に告白されてドッキリと非常に面白い作品でしたね。
あの頃からギャグ漫画にストーリー性を与えて“ストーリーギャグ”という新境地を拓いたのも凄い功績だと思います。
その後は立原あゆみの『 麦ちゃんのヰタ・セクスアリス』(1985年)でしょうか。こちらはシリアス漫画でかなり印象的でした。
で。
どれも少女漫画なんですね〜〜〜
やはりというか、性的な表現を伴うだと少女漫画の方が少年漫画よりも一日の長があります。
その後はやはりあかほりさとるの『かしまし』(2004年)でしょう。
間違いなく名作でして、小生は原作漫画とアニメDVDとゲーム版と片っ端から買い漁りました。
書棚にフィギュアも飾ってあります(^o^)
以前、あかほりさとるが「日本の百合文化はオレが育てた」と主張していましたが、ゲーム『銀河お嬢様伝説ユナ』もあの人ですからあながち的外れでもないんですよね〜
その後も漫画や小説でTSモノは人気でしたが、アニメ化などのメジャーストリームにはなかなかなりえず(涙)
『賢者の弟子を名乗る賢者』とかアニメ化までこぎつけた作品もあるにはあったんですけどね〜
もちろん、『お兄ちゃんはおしまい』など読み漁ってました♪
あ、個人的な解釈で『転生したらスライムだった件』はリムル様かわいいんでTSものだと思って読んでます☆
で、今期のアニメが何故か、TSモノがたくさん\(^o^)/
なぜ?
『お兄ちゃんはおしまい』を始め、『あやかしトライアングル』、『英雄王、武を極めるため転生す』とたくさん☆
当たり年? 当たり年なの?
まぁ、歓喜ですね。
只、この手のTSモノを“TS百合”と表現するとまたぞろ正しい百合論者が湧いてきそうで頭が痛い。
まぁ、小生も他人のことは言えません。
女装少年モノは断じて百合と認めませんからね。
いや、まぁ、面白ければ読みますよ。
最初から女装少年モノをバカにしてやろうとYouTubeで観た『乙女はお姉様に恋してる』は第1話で爆笑してしまいww
負けを認めてすぐさまアニメDVD全巻購入しました\(^o^)/
笑ったら負けです。
これもまた小生のルールですね。
自分で決めて自分に貸したルールは絶対に破れない。
世界共通の法則ですね(^_^;)
さて、そういうわけで次回は『男を辞めたい? しょうがないなぁ…暁光帝が何とかするけど、後で文句をつけるなよ。』です。
請う、ご期待!




