ボクの仕事? 観光かな。えっ、それは仕事じゃないって? んー、普段は暁光帝やってるからね。
前回、活躍どころか、登場もしなかった主人公♀暁光帝ですが、今回はちゃんと主役やります。
施療院に集まった貧民達のために魔法を使う……ええ、もちろん、例の時間魔法です。
これ、使うとかなりの無茶苦茶ができちゃうんですよね〜
さぁ、どうなりますことやら。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
神の奇蹟をも凌ぐ偉業が喧伝され、オヨシノイド施療院の庭には貧民達が集まり、固唾を呑んで見守っている。
一人の幼い少年を中心に。
彼は半年前に家族を失っている。両親と妹と兄夫婦とその赤ん坊が盗賊団に殺されてしまったのだ。
「ん、ん、ん、ん、ん、ん☆ はい、お終いだよ」
彼女の奇妙な言葉と同時に驚異の魔法が発現する。
金属光沢に輝く紫色のロングヘアーは自分の背丈よりも長く、当然、地に着くものを思われるが、まるで髪の毛そのものが生きているかのごとく身体の周囲を舞い踊っている。
少年を観る虹色の瞳は海の青に銀河を散らしたよう。
そして、豊穣と繁栄を約束するが如き豊乳が弾む。凄い迫力だ。
“紫の大聖女”と呼ばれるようになった麗人はその威勢で自然と周囲の人々をひざまずかせる。
さもありなん。
彼女は人間ではない。雲上を亜音速で飛ぶ超巨大ドラゴン、暁光帝が人化した麗人だ。只、そこにいるだけで太陽を遮って街を龍の闇で覆う、神殺しの怪物がまとう威勢はその辺の王や教皇の比ではない。
「う…ぁ…ぁ…あぁぁぁぁぁぁっ!!」
振り返った少年の口から意味のある言葉は紡がれない。只、衝撃のあまり、無意味な唸り声と感嘆が吐き出されるのみ。
少年の背後に現れた者は6人。奇蹟の大魔法がもたらした成果である。
「おぎゃぁっ! おぎゃぁっ! おぎゃぁっ!」
「ちぃにぃちゃん、にげて! ここはあたしが!…が…くいとめ…る? だれを? あれ? あたし、なんでまちのなかにいるの? オヨシノイドせりょういん?」
「てめぇ! よくも! 殺してやる! 絶対にぶち殺してやるぞ! 死ねぇっ!!…あ…ぐ…ぅ…ここは? 奴らはどこに?」
「うわぁぁぁっ! やめろぉぉぉっ! 家族に手を出すな…な…なぁ? ん? ここはどこだ? 盗賊どもは?」
「あなた、助けて! あなたぁぁぁー…ぁ? 赤ちゃん! 私の赤ちゃんは!?」
「あんた、騒がないで! 黙ってお金を差し出せば…あぎゃぁっ!…ん? ん? どうして? ここは施療院?」
皆、口々に騒いでから気を取り直して周囲を見渡し、呆然としている。
彼ら6人は何もない虚空から忽然と現れたのだ。
周囲の人々の驚くまいことか。
「おいぃっ!? ヘンリクの一家だぞ! 本人と嫁、長男夫婦に赤ん坊、末娘もいる……」
「半年前、盗賊団に殺された全員がいるわ!」
「凄ぇ! 死人が生き返ったぞ!」
「6人もよ! 死人が6人も蘇ったわ!」
「き…奇蹟だ……」
「こんなこと、神々にだってできやしないわ。これこそが本物の奇蹟なのね…あぁ! あぁぁ!」
「紫の大聖女様に不可能はないんだわ!」
狂乱にも等しい熱狂で人々が騒ぐ騒ぐ。
「これは一体、どういうことなの? あら、ヨーランが大きくなってる?」
地面に転がされたおくるみを拾い上げて兄の妻が少年を見つめる。
「おぎゃぁっ! おぎゃぁっ!」
おくるみに包まれた赤ん坊は泣いているが、元気そうだ。
「む? 確かに背が伸びているな…それにどうしてそんなボロを着てるんだ?」
父親が少年を見て訝しむ。
「ヘンリク、あんたら一家は半年前に盗賊団に殺されたんだよ」
「ヨーランは孤児になって道端で暮らしてたんだ」
「「「「「なんだってー!?」」」」」
「おぎゃぁっ!!」
驚く一家に近所の人々が説明する。
一家と赤ん坊が声を上げるも、少年の変化を見て目を白黒させつつ、何とか状況を理解しようと努めている。
「あ…ぁ…ぁじがどうございまず! あじがどうございまず! 母さんも父さんも…それに妹も…生き返ってくれました……」
ヨーラン少年の顔は涙と鼻水で凄いことになっているが、感謝の気持ちはかろうじて伝えられている。
だが、その顔には未だに影が去らない。
「みんな、殺されちゃってボクは孤児に…でも! 紫の大聖女様のおかげで家族を取り戻せました。ありがとうございます。この御恩は一生忘れません……」
口では感謝を伝えているが、どこか浮かない顔つきだ。
「ふぅん…妹にかばわれて1人だけ逃げ延びたことを悔やむか。それもまた人間だね」
過去視。
虹色の瞳が輝き、アスタはヨーラン少年の過去を見通し、その内心を看破している。
「は…はい…さすがは紫の大聖女様。とても隠し事はできませんね。盗賊団に襲われて震え上がったボクは卑怯にも妹を犠牲にして1人だけ逃げ出したんです。それで……」
ヨーランは下をうつむいて絞り出すように語る。
“卑怯者”、それは絶対にそしられたくない、最低の言葉だ。
男子として価値を残らず奪う、最も残酷な言葉でもある。領主だろうと、将軍だろうと、首領だろうと、“卑怯者”のレッテルが貼られてしまえば地位も名誉も失ってしまう。それほどまでに恐ろしい意味を持つのである。
貴族や有力者が衆人の前で『卑怯者!』と罵られたら、これはもう決闘でしか解決できない。
だから、男の子はこの言葉を異常に恐れる。
女の子が“醜女”と罵られることよりもきついかもしれない。
けれども。
「卑怯にも1人だけ逃げたからキミはボクに出会えてみんなを救えたんだろう? よかったじゃないか」
気楽に事実を指摘して、麗人は笑う。
「は、はい☆ そうですね。そうなんですね」
ようやく気を取り直した少年の顔に笑みが戻る。
「ボク、大きくなったら盗賊団をやっつけてみんなの仇を討ちます!」
元気よく応える。
しかし、またしてもアスタは。
「ん? みんな、生きてるよ。死んでないのに誰の仇を討つの?」
これまた気楽な調子で現実を示し、おかしくて嗤う。
「えっ? あれ? でも、お母さんも妹も盗賊団に殺されて無念の想いを…でも、みんな、今は生きてるから…あれ?」
事実を指摘されてヨーラン少年は大いに動揺する。
家族を皆殺しにされて自分は孤児になった。
妹にかばわれ、自分だけが卑怯にも生き残った。
親戚から『卑怯者に家は要らない』と罵られて追い出された。
みじめに道端で草木をかじり、物乞いに身をやつして、今の今まで何とか生き延びてきた。いつ、野垂れ死んでもおかしくない、惨めで辛い生活だった。
それが事実だ。
そう思って生きてきた。
しかし、今、家族は向こうで笑っている。元気に。
では、悔恨は、慚愧は、盗賊団への復讐心は、自分の胸を焼き焦がす激情の炎は何なのか。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
現実の理解と自分の中の感情の乖離に苛まれて泣き叫ぶ。
けれども、周囲の人々からは。
「家族が帰ってきて嬉しいのね」
「これで親戚に奪い取られた家も取り戻せるんだし」
「そりゃ、家なき子から普通の子供に戻れたんだから嬉し涙も流すだろうよ」
全く理解してもらえなかった。
もっとも、ヨーラン少年を案じる声がないわけでもない。
「いいんでつか、あれ?」
「時間魔法の奇抜な効果にうろたえる奴は少なくないからね。単純に現実を直視できないのかもしんないけどさ…まぁ、いずれにせよ、心の葛藤は自分で解決するしかないから仕方ないよ」
舌足らずな口調で龍の巫女クレメンティーナから尋ねられた麗人アスタは慣れた口調で応える。
「はぁ…しょういうものでつか」
『相手は幼い子供だし』とか『言ってることは間違ってないが情に少し欠けるかなぁ』くらいに思ってはみたものの、自分はもっと幼いので過ぎた配慮かとも思う。
実際、ヨーラン少年は幼女よりもずっと大きい。
自立心の差だろうか。
クレメンティーナは生まれつきの孤児で親の庇護下に入ったことすらないし、アスタに至っては正体が暁光帝なので孤高の八龍が一頭だ。奇しくも2人そろって親なしである。
だいたい、ドラゴンは他者に助けを求めるという感覚そのものがない。大概のことが自分だけで何とかできてしまうからだ。
ましてや、暁光帝である。
年がら年中、日がな一日、朝から晩まで雲の上を亜音速で飛び続けて滅多なことでは地上に降りてこない、非常に希少なドラゴンだ。人間と価値観を共有せず、孤独であることを全く苦痛に感じないのである。
ヨーラン少年の心情を理解できなくても当然か。
「まぁ、ちかたないでつ」
幼女は顔をしかめて次の患者に目を向ける。
人間とドラゴンの仲立ちをする龍の巫女にだって関わりづらいことはあるのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
麗人に変化して自由自在に魔法も使えるようになった我らが主人公、暁光帝♀ですが、まぁ、無茶苦茶ですね。
「他人が死のうが生きようが関係ない」を地で行く♀主人公です。
ちなみに問答無用で生き返らせる模様www
さて、そういうわけで次回は『乙女が泣いて色男がやってきた! えっ、色恋沙汰は暁光帝にとって専門外ですよ(^_^;)』です。
請う、ご期待!




