暁光帝、火山島に巣を作らんとす。
暁光帝、瓦礫街リュッダのそばに巣作りすることにしました。
さて、うまく行くでしょうか。
碧中海のペッリャ半島に夜が来た。
暗い海、黒い夜空に包まれた火山島は噴火口がほの赤く光るのみ。
二箇所ある平地に住む島民らは朝の訪れとともに起き、夜が来れば眠る。そんな単純な生活を送っている。
経済的にも恵まれているとは言えず、ランプの燃料が高いこと。
魔法技術が遅れているため、光魔法も光の魔石を利用できないこと。
これらが島民達を素朴な生活に閉じ込めていた。
しかし、それは天龍アストライアーにとっては都合が良い。
「うん…平地が少ないね」
島は火山が大半を占め、島民はわずかな平地を耕すか、漁業で生計を立てているようだ。
東西の二箇所、それぞれに港と街があり、やはり瓦礫街リュッダに近い西側に家屋が多い。
「川はあるけど…」
山肌のあちこちに川が流れているものの、土が水を吸ってしまい半ば涸れているものが多い。これでは水源として利用できないだろう。
しかも火山灰が覆っているので雨が降れば土石流が起きる。大雨にもなれば村が飲み込まれかねない。
森林もあることはあるが、多くが枯れ死んでいる。とりわけ東側がひどく、火山ガスの影響で土が流れて植物が育たない。
村々には井戸が掘られている。飲料水は主にそれに頼っているようだ。
真っ暗だが、汎観念動力を利用した遠隔触覚という超感覚があるアストライアーにとっては何の問題にもならない。
今もこうして一軒一軒の家屋で眠っている島民がわかるのだ。
「ふふふふ…よく眠っている」
風魔法を応用すればかすかな音も拾える。こうして寝息を聞き取ることさえできる。
「火山は…噴煙を上げてるなぁ」
魔力を込める。
意志駆動力で触れるのだ。火山の内部構造まで手に取るようにわかる。体積も、圧力も、熱量も、温度も、すべて、が。
「大きなマグマ溜まり…圧力がかなり高い。噴火が間近かな」
ついつい期待が高まってしまう。
アストライアーは噴火が好きだ。大噴火であるほど胸が高鳴る。
うまい具合に出くわせれば噴煙の中を舞い飛び、火砕流の中で踊り、火口のマグマに飛び込んで泳ぐ。
徹底的に火山を堪能するのだ。
しかし、今、噴火されては困る。
「流紋岩か…大噴火になるね」
遠隔触覚が一部嬉しいけれど、一部嬉しくない未来を予測させる。
より正確な情報が必要だ。
「時間魔法“未来視”」
得意の魔法を発動させた。
3対の角の内、後ろの1対が光り、魔気力線が異質な魔法陣を構築して現実の時空間をくすぐる。
虹色の瞳に未来の光景が映った。
時間魔法、天龍アストライアーが使う反則級能力のひとつ、予知や過去視を実現する魔法だ。
人間の使う、中たるも八卦、外れるも八卦の占いとは次元が違う。
アストライアーが視る映像は時を超えた未来そのもの。決して変わることなく、やがて映像通りに、必ずそうなるのだ。
戦闘に於いて無類の強さを発揮するアストライアーだが、単純に攻撃力が高いだけではない。この未来予知で敵の動きの先が視えるから、反撃も回避も防御も許さないのだ。
かつて、神殺しで。
暗黒神が天龍の鉤爪を避けられずに首を刎ねられたのは。
光明神が目くらましの発動を事前に潰されて消滅させられたのは。
単純に、少し未来の、その動きが視えたから対応しただけのことなのだ。
これから敵のやることがわかっていれば対応することは容易い。
只でさえでたらめに強いのに、この反則級の能力だ。無敵なのも当然である。
だが、今は戦闘ではない。
単純に未来を視る。
「3日後…4日後…1週間後…10日後…ああ、ちょうど2週間後か」
2週間後に噴火が起きる。
「噴煙柱がでかいなぁ…火砕流になって…西の村は壊滅だね。東の村も焼失して…ああ、瓦礫街までやられてる。広く火山灰が降って…耕作地が全滅だね」
派手な大噴火だ。
成層圏まで達する噴煙柱によって火山灰が拡散、日光を遮り、植物の光合成を妨げる。あらやる農業生産に大きな影響が出るだろう。気温も下がり、碧中海の沿岸一帯が深刻な冷害に陥るはずだ。
「まぁ、いいか」
だいたいわかったので未来視を止める。
これ以上、視ても仕方ない。
時間魔法“未来視”が映すものは必ず起きる事であり、絶対に変えることはできない。
ただし、術者本人が干渉しない場合に限り、だ。
「じゃ、変えるわー」
この未来は好ましくない。
ふだんならウキウキ気分で大噴火で遊ぶところだが、今は未来を変えることにした。
「火道は鉛直だね」
火山島の真上に飛ぶ。
複数の火口から白煙が立ち昇る。ほぼ中央にある、大きな主火口の周りを小さな火口がポツポツと口を開けている。それら側火山も噴煙の量は多い。
主火口からまっすぐ下に火道が伸び、その先にマグマ溜まりがある。
超感覚で感知できる火山の圧力と体積、熱量は凄まじいものだ。
だが、ここにいるのは神殺しの怪物である。
「えいっ!」
超巨大ドラゴンが口を開いた。
龍の顎門に光の粒子が集まる。
3対の角、すべてが輝きだす。
ズババババァーン!!!
ドラゴンブレスを吐いた。
孤高の八龍は皆、固有のドラゴンブレスを吐く。
赤龍ルブルムの灼熱ブレスは焼き。
黒龍テネブリスの腐食ブレスは蝕み。
白龍ノヴァニクスの冷気ブレスは凍らせる。
どれも独特の効果を持ち、途方もなく強力だ。
天龍アストライアーのドラゴンブレス“破滅の極光”は何も破壊しない。焼きも、蝕みも、凍らせもしない。
物質を分子レベル、原子レベルで分解するわけでもない。
只、消滅させる。
現実の、時空間から消し飛ばすのだ。
物質だろうが、霊体だろうが、無差別に。
だから神も殺せる。
神の肉体も魂も、この世から跡形もなく消し飛ばし、消滅させるのだ。
今回は火道を貫いてマグマ溜まりを狙った。
あり得ないパワーに現実が歪み、悲鳴を上げる。
魔法とは違う、龍の力そのもので時空間とそこに存在する力場が生み出した“存在”が消滅させられたのだ。
強固な岩盤も、灼熱のマグマも、膨大な量の水蒸気も、いずれもが抗うことなく消え去る。
まるで初めからそこに何もなかったかのように。
大噴火が起きる未来もまた消え去った。
「うん、ちょうどいいね」
アストライアーは嬉しそうにうなずく。
その気になれば火山島そのものだって消しされる。だが、今回は噴火を止めただけだ。
地中に溜まっていたエネルギーが失せて、二週間後の噴火はなくなった。
しかし、マグマ溜まりは残してある。水蒸気は増えるだろうし、マグマが再び溜まるだろう。
次の噴火はいずれ来る。
だが、しばらくは抑えた。アストライアーが『世界を横から観る』遊びを楽しむ間くらいは。
火山も噴火も好きなのでもったいなかったのだ。
後、これから巣を作る場所、火山の火口を残したかったこともある。
「さて、それじゃ、巣作りを始めますかね」
夜の間に火山島を改造せねばならない。
島民らに、人間達に気づかれない内に。
火口の真上に止まる超巨大ドラゴンが口を開く。
「破滅の極光」
再び、3対の角が輝き始めた。
暁光帝、いろいろな能力を持っています。ほぼ全部チート級です。
…なのでバトル展開になっても苦戦してくれません。
やべぇ! 「俺、つぇぇ!」できねぇぇぇぇっ!!
まぁ、なんとかします。
なんとか、なるかな……




