旧友に出会えた暁光帝は上機嫌で舌が滑らかになっちゃいます☆ あっ、失言とかだいじょうぶかな(汗)
施療院を観光する、我らが主人公♀暁光帝は思いがけず、旧友と出会いました。
享楽を司る女神オヨシノイドです。
久闊を叙する2柱はいろいろなことを話しました。
すると、女神が驚いてしまい…さて、何が気になったのでしょう?
お楽しみください。
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身体の周囲に光り輝く金属光沢のロングヘアー、紫雲を舞わせて麗人アスタは友達に出会えて上機嫌だ。
「人間の前に現れるときはそんな恰好なんだ。ふ〜ん…背丈を縮めて偽神香焚いただけじゃん」
カラカラと嗤う。
そのたびに友にも負けぬ豊乳が弾んだ。
「人化の術も妖女サイベルの呼び鈴も知らないもの。つい最近、開発されたものでしょ。貴女、相変わらず、新しもの好きねぇ。しかも試してすぐ人里へ降りてくるなんて……」
女神オヨシノイドは旧友の行動力に舌を巻く。
実際、付き合いのある巨人や合成獣はその手の話を語らない。人化の術も妖女サイベルの呼び鈴もつい最近、開発されたものなのだろうと考える。
今日、ここへは本当にたまたま訪れたのだ。オヨシノイド神殿そのものはあちこちにあってペッリャ半島だけでも3桁に上る。
おかげで旧交を温められたのだからつくづく運のよいことだと思う。
今はせっかくの幸運を生かさねば。
「それでどんな面白いことがあったの?」
シンプルに尋ねる。
超巨大ドラゴン暁光帝から麗人アスタへ、容姿とサイズの変化はあえて無視だ。
口にズラリ並ぶ透き通った牙や周囲を舞い踊る紫色の金属ヘアーも気になるが、これについて尋ねても仕方あるまい。どうせドラゴンの感覚で形作ったものだ。
「うむ。人間が通貨を使ってお買い物をしていたよ。実に奇っ怪な流通システムだね」
アスタは自分が観察した人間の最も奇妙な風習“貨幣経済”について述べる。
「あ…う…うん…それは見物できてよかったわね。え…えぇ……」
女神は口を濁して一応、褒める。
ドラゴンの感覚からすれば貨幣経済は非常に面白い仕組みなんだろうが、人類文明の誕生とともに歩んできた女神からすれば今更である。
「カネを求めて必死になる人間は思いの外、多いわ。よく観察できたわね」
すでにわかっていることばかりでこの情報にあまり価値はないが、さり気なく褒めておく。
少なくともアスタが人間の経済活動に関わるくらいに街に入り込んでいることはわかったのだ。全く無価値の情報とも言えない。
「うん。ボクは優れた博物学者だからね。こういうことには目ざといのさ。観察してみたところ、通貨というものは金貨、銀貨、銅貨、貝貨に分類され、それぞれの価値は“市場”という仮想的な概念上の……」
アスタは嬉しそうに自分の発見について語りだす。
「へぇ、凄いですね。ほほぉ、興味深い。素晴らしい発見だわ」
オヨシノイドは適当に相槌を打ちながら適当に褒めておく。
通貨については知り尽くしているから新味はない。
後、“市場”は仮想的な概念上の存在ではなく、れっきとした現実の存在であり、実際に経済的な役割を果たしている。
もっとも、そのことについて教えてやる気はない。
別に嫌がらせではなく親切だ。こういうことは自分で発見してこそ学者冥利に尽きるというものだ。女神は発見の機会を奪わないように努めているだけである。
「他にはどんなことがあったのかしら? ぜひとも聞きたいわ」
経済の話はもうたくさんだ。別の話題について旧友を促す。
「ヒト族の男にキスされたんだ。物凄く気持ち悪かったので人間を駆除してやろうかと思ったけど……」
不快感を露わにするアスタだったが。
「美女が…妖精人のナンシーが口直しをしてくれたんで考え直したげたよ」
今度は金髪エルフ女性のキスを思い出してうっとりする。
男は毒だが、美女の口づけで帳消しにしてやろう。
ナンシーのだらしない爆乳にはそれくらいの価値がある。
「あ、そ…そぉ……」
思わず、声が震える。
女神は今の話だけで何が起きたか、想像がつく。
危うく人類が滅びかけたのだ。
恐ろしい。
さすがの女神でも背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
世界が金髪エルフの素晴らしい爆乳に救われたことは明らかだ。
人類に滅びられてはまずい。
神々は人間の信仰に支えられている。
自らを“不老不死不滅の神々”と唱えてはいるものの、その成り立ちは意外に脆弱である。ドラゴンをも凌ぐと言われる神力も人間の祈りあってのものなのだ。人間が滅べば神々も滅んでしまう。
超巨大ドラゴン暁光帝なら人間を根こそぎ駆除し尽くすのに1週間とかかるまい。
旧友の気が変わらなかったら一体、どうなっていたのやら、考えるだけで怖気を震う。
心変わりしてくれたのは本当にありがたい。
「……」
向こうから見つめてくる金髪妖精人に心の中で感謝しておく。
同時にこの暁光帝にキスしたというヒト族の男に戦慄を覚える。
“神をも畏れぬ所業”などという言葉があるけれど、その男は神々よりも遥かに恐ろしい暁の女帝様に不埒な所業を働いたのだ。無謀にもほどがあると言えよう。
全く以て油断のならぬ。
信者であり、祈りの供給源でもある人間の恐ろしさについて考えを新たにする女神オヨシノイドであった。
「それはそれは…大変な経験をしたものね。でも、貴女が無事でよかったわ……」
一応、麗人の無事を喜んでみせる。
いや、案じていること自体は本当だが、アスタの心配ではなく、その決断から生じる世界への影響を心配しているのだ。
「それで他には何かあったのかしら?」
さらに次の話題を促す。
「ダイオウウミケムシの生態について新たな発見があったよ♪ 彼らの生息域は……」
肉食性の環形動物についてアスタは力強く答える。
海中に棲むウミケムシが地上に進出して人間の残飯を漁っていた。
博物学上の大発見だ。
「は…はぁ……」
さすがに関心がなさすぎて、オヨシノイドは適当に流してしまう。
残念ながら博物学にはあまり興味がないのだ。
「次に人間の集団魔法について知見を得る機会があって……」
その後もアスタは饒舌に語り続ける。
リュッダ海軍の精鋭部隊の演習に参加した話や依頼にかこつけて博物学者をやり込めた話、領主の城でフワフワ金髪幼女達に芸を披露した話などだ。
そして、魔法を使わず、マッサージと金属ヘアーによる鍼灸術だけで龍の巫女を創り出したことを話して紹介する。
「どうも。あたちはクレメンティーナでつ。よろちく」
紹介されて目の据わった幼女がよちよちやってくる。そして、挨拶する。女神の前でも全く物怖じしない。
嘘つき女神に警戒心を募らせているのだ。神話の中で女神オヨシノイドは何度も人間に嘘を吐き、仲間の神々でさえも騙す様子が語られている。
だから、お辞儀はしない。頭を下げず、視線も逸らさず、まっすぐに女神を見つめている。
すると、そんな幼女にオヨシノイドは動揺を見せる。
「あぁ…なんてこと! この娘ったら体内に魔石があって、肉体はもう魔力で構成されていて…完全に幻獣化している! 本物の龍の巫女だわ! こんな娘を魔法なしで実現するなんて……」
眼を見開いて驚く女神だ。
人間を龍の巫女に変える魔法“乙女の竜巫女化”は非常に難度が高く、竜種の中でも格の高い者しか使えないはず。
何をどうしてどうやったのか不明だが、魔法抜きでそれを実現してしまったらしい。
いや、暁光帝が最高に格の高い竜種であることはわかりきっているけれども。
魔法を使わずに人間を変えてしまうとは意外。
さすがは乙女の竜巫女化の開発者、さすがは始原の魔導師アストライアーと褒め称えるべきだろうが。
あまりと言えばあまりの非常識ぶりに呆然としてしまう。
だが、女神がバカみたいに口を開けたままでもいられない。
「あ…あー……私はオヨシノイド。享楽神として祭り上げられているわ。よろしく〜」
自分も挨拶する。
相手が暁の女帝様の龍の巫女だからと言ってへりくだることはしない。もちろん、尊大に振る舞うこともしない。
できる限り、普通に振る舞う。
「そんなら…初対面じゃないけどな、俺らも改めて挨拶させてもらうわ」
アスタの連れ、2人が近づいてくる。
「俺は一角獣のポーリーヌ。人間やってるときの名前は“レスボス島のポーリーヌ”…って、これは知ってるな。神殺しのときにアスタさんに助けてもらったんだ。ポーレットと呼んでくれ」
「アタシは女精霊のジュリエットよぉ。同じく、人間やってるときの名前は“悪徳のジュリエット”ですぅ。人外とわかったからにはジュジュって呼んでほしいわぁ。やっぱりぃ、アスタさんに助けてもらったのぉ」
ポーリーヌとジュリエットも自己紹介。
幻獣は絶対に神を信仰しないので、同格を相手にするときの態度だ。
2人そろって前に突き出した手のひらを見せて何も持っていないことを示し、さらに両手を広げてくるりと1回転する。
以前からつきあいがあるものの、女神オヨシノイドとしての女司祭とは初対面だ。それ故、人間相手ではなく幻獣を相手にするときの挨拶である。
これを見てあわてる女神。
相手がきちんと挨拶しているのに自分が省略して挨拶するというのは行儀が悪い。
「聖女が実は2人とも幻獣だったなんてね…ちょっとビックリしたわ。私は享楽神のオヨシノイドよ。気軽にオヨシャと呼んでね」
同じく、前に突き出した手のひらを見せてからくるり1回転する動作を見せる。
「それが最近、流行ってるマジックアイテム“妖女サイベルの呼び鈴”なのね…凄いわ」
自分とは段違いの人化に舌を巻く。
身体から発せられる魔気力線の量も波形もヒト族と変わらない。明らかに自分の化け術とは次元が違う。
こうして神の眼で見ても幻獣とわからない。実際、今の今まで2人を人間だと思いこんでいたから、外部からの無料奉仕者として扱っていたのだ。
もっとも正体がわかったからと言って扱いが変わるわけでもないが。
「人外としてこれからもよろしく頼むわ」
女神の態度は信者に向けるそれと明らかに違う。尊大さは影を潜め、気さくに語っている。
多くの神々は人間の信者に対するのと同じように幻獣に対しても尊大に振る舞うものだが、オヨシノイドは違う。
幻獣に対してはこのように接するのだ。彼らは決して信者にならないから。
そういう点でも他の神々とはずいぶん違う。
そもそもオヨシノイドの教えは『酒に踊り、歌に音楽、うつむかずに人生を思い切り楽しもう』という、極めて享楽神らしいもの。規律や厳しい身分制とは無縁である。
ユニコーンとニュムペーも加わって、暁光帝と享楽神、そして龍の巫女が集う。見事に人間が1人もいない、さながら幻獣と神の同窓会になってしまった。
「えーっと、アチュタしゃん。めがみしゃまがききたいことはほかにもありしょうでち。オヨチャしゃん、さっき、かいがんでフォモールじょくが1000とうくらいおちょってきまちた」
早速、幼女がとびっきりの爆弾発言で女神を驚かせる。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
目の据わった幼女がここでも存在感を示しました(^_^;)
5才児、強ぇ☆
ちなみに普通の子供は自分の年齢を知りません。
数が数えられませんからwww
中世ナーロッパをなめちゃいけません。
学校なんてない。
それどころか、ほとんどの親が引き算もできませんからねww
えっ、お買い物したとき、お釣りの計算とかどうするんだって?
貝貨10枚=銅貨1枚、銅貨10枚=銀貨1枚、銀貨10枚=金貨1枚と規定されていますので、たとえば……
【問題】
まさおさんは銀貨1枚を持って、価格が銅貨7枚と貝貨4枚の手斧を買いました。お釣りはいくらでしょう?
【答え】
店員が手斧を差し出します。この時点で銅貨7枚と貝貨4枚の価値です。
これに加えて貝貨を一枚ずつ数えながら「5枚、6枚、7枚、8枚、9枚、10枚」並べていきます。
すでに貝貨4枚分の価値があるから追加するたびにこんなふうに価値が増えていくわけです。
並べられた貝貨は6枚。
これで、貝貨の分が10枚分の価値になった時点で“繰り上がり”が発生して銅貨1枚分の価値になります。
これで元からある手斧の分と合わせて銅貨8枚の価値になりました。
後は同じように銅貨を「9枚、10枚』と追加していけば銀貨1枚分の価値になります。
これらの貨幣と手斧をまさおさんの銀貨1枚を交換すればお互いイーヴンな取引となり。
まさおさんは手斧と貝貨6枚と銅貨2枚のお釣りを受け取れたわけです。
ね、引き算の出番なんてないでしょう?
…ってゆーか、“まさおさん”って誰だよ?
小学校の算数の教科書って謎が多すぎwww
そんなわけで瓦礫街リュッダの住民はろくに計算もおぼつかない&文字も書けない&読めない文盲ばっかりです。
冒険者はさらに学力が低いのでもっとだめです\(^o^)/
いいんですよ、冒険者仲間に会計士もいますからwww
あぁ、クレメンティーナ自身は結構な秀才です。
読み書き計算どころか、数学も得意な賢い幼児なのです。
とりわけ記号論理学が得意で対偶の原理『A⇒B⇔¬B⇒¬A』の証明図が描けちゃいますww
数学が得意……苦労してたんですね(ToT)
さて、そういうわけで次回は『幼女の爆弾発言に女神が驚いています。えっ? 怪物の群れならもう暁光帝が追っ払いましたよ。』です。
請う、ご期待!




