哀れなドワーフが泣いています。この世の終わりみたいな顔をして。あぁ、その手の悩みなら暁光帝が本職ですよ(^_^;)
(・人・)と引き換えに治療したげる、我らが主人公♀暁光帝です。
えっ、主人公らしくない?
仕方ありません。
人間ではなくてwwドラゴンですからwww
次はどんな可憐な乙女が来てくれるのやら、楽しみで仕方ありません。
ドラゴンですからね、乙女は大好物です☆
だいじょうぶ。
食べませんよ。
暁光帝♀はこの上なく優しくて上品でしとやかな貴婦人なのですから。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
オヨシノイド施療院は大変な喧騒に包まれていた。
新たな聖女が驚異の聖魔法で難病や重傷の患者を次々に治療していったからである。
金属光沢に輝く紫のロングヘアーをなびかせる麗人で、その豊乳は豊穣と繁栄を約束するがごとく迫力満点である。
虹色の瞳を輝かせ、饒舌に語る彼女は自信満々だ。
どうやら“謙遜”などの言葉からは程遠いところで暮らしてきたらしい。
人々の期待はいやが上にも高まってゆく。
金髪妖精人のナンシーは目を見開いて動揺していた。
世界の危機そのものである彼女の秘密がわからない。
今までに得られた知見の何をどう組み合わせても、その固有魔法が不明なのだ。
特殊な回復魔法であるとを仮定して考えると矛盾が起きる。そこで別のこと、特殊な聖魔法であると仮定して考えてみたのだが、これまた、新たな矛盾を生み出してしまう。そこで特殊な強化&弱化魔法だと無理やりこじつけて考えてみたのだが、やはり矛盾が生じてしまった。
既知の如何なる魔法を仮定してみても推論がどこかで破綻してしまう。
人間の使えない、幻獣専用の魔法を考慮しても、だ。
こうなると長く生きてきた経験からも貯えた知識からも解答を見いだせなくなってしまう。
「一刻も早く秘密を暴かなければ世界が危うい……」
調子に乗っている麗人を眺めつつ、ナンシーは内心の葛藤と戦っていた。
「はい。次の患者、おいで〜 ん? キミは小人か」
当のアスタは目の前に進み出た小柄な男に驚いている。
ヒト族の子供と童人族や小人族の成人は区別が難しい。
アスタ自身、虹色の瞳で相手の生命の樹を確認しないと区別できない。要するにズルしているわけだ。
一人前の博物学者なら研究対象の生物種の同定など肉眼でやるべきなのだが、人間の同定など同じ人間同士でも難しいのだから仕方ないだろう。
もっとも、生命の樹の検出は虹色の瞳で行うわけだから肉眼と言えなくもないと考えている。
それでも、この場合は区別できて然るべきだった。
「へい。ワシはドワーフの鍛冶屋でして…いや、鍛冶屋だったんですじゃが……」
語りだした男はヘソまで伸びる黒ヒゲとヒト族の子供のような背丈、典型的なドワーフの頑固オヤジだ。いくら背が低くてもヒト族の子供であればヒゲは生やさないだろう。
博物学者としてアスタが見かけだけで判断すべき相手だった。
「去年、いや、一昨年じゃったか…酒場で喧嘩に巻き込まれて酔っ払いに利き腕を斬られてしまったんですじゃ。ほれ、この通り……」
黒ヒゲのドワーフは右の袖をまくる。
剣のような鋭い刃物で斬り落とされたのだろう。上腕の半ばから断ち切られている。そこから先の腕がなく肉の盛り上がった断面が痛ましい。
酒場の喧嘩は珍しいことではなく、冒険者は武装している。つまり、刃物を持った酔客が酒盛りをしているわけだ。そういう場所では頭に血が上った酔っ払いが剣を振り回すなど日常茶飯事である。
「血を見る喧嘩が始まってしまいましてな、とっさにワシは止めようとしたんですじゃが…ほれ、この通り。笑ってくださいましぃ。フフフ……」
苦笑いを浮かべる。
今でも後悔しているのだろう。笑顔なのに涙声だ。
「ふぅん。なるほど、酒場で起きた口論で冒険者が例の尖った棒を取り出したんだね。で、例によってそれで突っつき合って片方が血を流したから、あわてたキミが止めに入ったらバッサリやられた…と。うん、とても面白いね」
虹色の瞳を輝かせながらアスタは上機嫌だ。
「おぉぅ!? まるで見てきたような物言い…さすがは聖女様。何でもお見通しですじゃな。じゃけれど、面白がられても困るんですじゃ……」
ドワーフは顔をしかめて。
「この腕じゃ、もうハンマーも握れんのです。鍛冶屋としてのワシはお終い。今や、息子や昔の仲間の情けにすがってこうして生きるだけの浮浪者に落ちぶれてしまいましたわい。でも!」
紫の金属線を浮かび上がらせる麗人を見つめる。
「聖女様の奇蹟におすがりすれば、もしや、この腕を取り戻せて…息子に集らなくても暮らせるようになるんではないかと…うぅぅぅ……」
ドワーフの泣き声が辺りをざわつかせる。
「息子に集る…あぁ、俺と一緒だ……」
「情けないけどあっしも……」
「あぁ、あぁ! アタシがもっとしっかりしてりゃあ…うぇ〜ん!」
「畜生、畜生…ボクだってちゃんと働けりゃ、兄弟に集らなくてもいいんだ……」
似たような境遇なのだろう、貧民達が嘆いている。
結局、そういうことなのだ。
凋落した理由は様々だろうし、生まれつき貧乏だった人々もいるだろう。けれども、現在の苦境を乗り越えるため、どうしても友人や血縁に頼らざるを得ないことは同じだ。
そういう状況を人々は不幸だと思っている。頼らなければ生きていけない状況なのだから。
そういう状況をアスタは幸福だと思っている。群れの仲間同士で劣った個体を助ける相利共生なのだから。
周囲の人々は博物学について疎く、暁光帝は人間について疎い。
お互い様である。
そして、暁光帝は上機嫌だ。
「善哉、善哉。酒場でも相利共生か。諍いを止めようとして傷ついたのなら名誉の負傷。何を恥じ入ることがある?」
喜色満面、ドワーフを褒める。
親友の世界樹に集る寄生虫というイメージが強いドワーフだが、ここは場所が違う。親友に迷惑を掛けないドワーフなら素直に称賛してやりたい。
「へい。ワシはお天道様に顔向けできねぇことは何もしてねぇです…だけれども、腕はなくしちまったんでさぁ……」
残った左手で黒ヒゲを撫でながら、ドワーフは不安に苛まれている。
酒場で口論が起きて、片方の冒険者が腰のものを抜いたので、騒ぎになり、流血沙汰に発展した。自分は余計なことに口を突っ込んで災難に遭った。
自業自得だ。
それでも目の前の聖女が気前よく助けてくれるのだろうか。
「紫の聖女様、ワシは男でオッパイがない。揉ませて差し上げるものがないから支払えるものがないわけで……」
胸中の不安を言葉にしてみる。
ところが。
「気にしないで。さっきの娘さんがキミの分も前払いしておいてくれたから」
アスタは気軽に答える。
本人としては当然の話なのだが。
「なっ!?」
「なんだと!?」
「オッパイの前払いが効くのか!?」
「何ということだ……」
「対価はカネじゃなくてもいいんだ。凄いな」
「通貨の兌換性が揺らいでしまう……」
「素晴らしいわ☆」
「素晴らしいか? シクシク…俺はオッパイないぞ」
「代わりに玉と竿ならあるんだが?」
「いい加減にしろ!」
「死ね!」
盛んに人々が騒ぎ出す。
カネに溺れ、カネに人生を左右させられてきた人々がおののいているのだ。
女性の胸乳を揉ませることを対価とする、新しい価値観が全く新しい経済システムを構築しようとしていると感じたのである。
乳房経済。
それは巨乳の女性が物品やサービスの流通を支配する。しかも、当のアスタが通貨の価値を明らかに否定しており、“前払い”も認めてしまっている。
貨幣経済を支える通貨の兌換性が揺らぐと思われたのも当然かもしれない。
「じゃ、直すねー! ん☆」
いつもどおり、アスタは右腕を水平に伸ばして患者に向けると魔法を発現させる。
聖魔法でない。
得意の魔法だ。
呪文を詠唱することもなく、魔法陣を描くこともない。只、『ん☆』とつぶやくだけで魔幹が生じてドワーフを摩訶不思議な魔力場が包み込んだ。
いつもどおりだから、たちまち、いつもどおりの反応が始まる。
「ふぁむっ!? うんべろぉげっつぉれぇーっ! ぁぶな! れる! ほゎっと!? でる、です、でむ、でんー! ふー、ふーず、ふーむ! ほぁ! ほぁっ! ほぁぁーっ!!」
ドワーフは珍妙な叫び声を上げると唄い出し、手足を奇っ怪に振り回して踊る。
ピョンピョン飛び跳ねる姿はなんとも愉快だ。
「うっぴろぴぃー!」
片手で逆立ちしながら回転してから飛び退り。
「いっひ、まいねる、みる、みっひ! ヒィーホォォーッ!!」
空中で背面宙返りを決めつつ、器用に着地する。
「危ない! ジョン、避けろぉー! ワシが…ワシがががが…が…むむむ…ここはどこだ? 施療院? なんでワシはこんなところに……」
一声、叫んでから周囲をキョロキョロ見渡し、当惑している。
「うぉっ! 何だ、アンタは!? キラキラ光る紫色の髪が…生きて…動いてるだと?」
目の前の聖女を見て目を見開いている。まるで生まれて初めて出会ったかのように。
本人の右腕はある。
先ほどまでなかった右の袖からたくましい腕が伸びていて、不死鳥の刺青が鮮やかだ。
全く以てこれまでどおり。人食いグモに咬まれた冒険者達、天然痘に侵された少女と同じく、見事に元通りだ。
「凄い! 腕が生えたぞ!」
「刺青までしっかり戻ってる!」
「“大いなる再生”…究極の聖魔法だ」
「たった1人で最大級のリジェネレイトを使える魔導師が現れるなんて…まさに奇蹟!」
「大聖女様よ! 大聖女様が現れたんだわ!」
これまた今までどおり、貧民達の間から歓喜の声が湧き上がる。
只、違うことが1つだけあった。
「ここは酒場じゃない…ワシはなんでこんなところにいるんだ? アンタがワシに何かしたのか?」
治療してもらった、当のドワーフ親父が当惑している。
斬り落とされた右腕を元に戻してもらったのに感謝もしない。何が起きたかもわからず、只、只、怯えた眼でアスタを見つめている。
「うぅん、ボクは何もしてないよ」
笑みを浮かべながら麗人ははっきり答える。
「そ…そうか。そうだな…でも、ワシは夜の酒場でずいぶんきこしめしていたはずなのにいつの間にか昼間の施療院ってのは……」
驚きつつも何とか言葉を飲み込んだドワーフだったが、納得し切れず、何事かブツブツつぶやいている。
「キミは酔った冒険者にもっと気をつけるべきだ。それに深酒はよくない。仕事も溜まってるんでしょ」
「うぅ…アンタの言うとおりだ。飲みすぎたかな…そんなに飲んだつもりはなかったんだがな…ゲェップ……」
最後まで礼を口にしない。吐息から強烈なアルコール臭を漂わせながら、ドワーフは歩き出す。
「うん、体を大切にね。もう戻ってくるんじゃないよー」
アスタは気にすることなく手を振る。
「じゃあ、次のキミー」
どうでもいいやとばかりに興味を失い、次の患者へ意識を移す。
「紫の大聖女様、助けてくだされぇ〜」
新たにやってきたのは情けない声を上げる老人とその妻らしい老婆だった。
それを迎える麗人はまたしてもニコニコ笑っている。
周囲の雰囲気は期待に溢れ、明るい。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
やってきたのは乙女じゃなくてドワーフのおっさんでした(´・ω・`)
でも、だいじょうぶ。
前払いが効きます☆
(・人・)の威力、凄ぇ♪
徐々に“暁光帝の固有魔法”の正体が見えてきました。
今回、少々、推理小説仕立てと言うか、伏線を張りまくって謎を追求する形にさせていただきました。
この施療院編はバトル要素もアクション要素も皆無のなので(^_^;)
前章からこの手の仕掛けを入れといたんです。
入れといたんですけど……
少々、露骨すぎましたかね。
固有魔法の謎、読者の諸姉諸兄にはもう見破られてしまったかも…と戦々恐々の小生です(汗)
さて、そういうわけで次回は『暁光帝の固有魔法とは何か? 今、ナンシーが真相に迫る! えっ、ボクの魔法がバレちゃうの?』です。
請う、ご期待!




