次はどんなおっさんなのやら…おやおやまぁまぁ、暁光帝はこういう患者を待っていたんですよ♪
いい気になって暴れた結果、大変なしっぺ返しを食らった若者達ですが、我らが主人公♀暁光帝の働きで一命をとりとめました。
よかった、よかった。
暁光帝♀は次の患者を待っています。
でも、ちょっと気が重い。
どうせ、次の患者もおっさんでしょ?
もしくは兄ちゃんか、爺さんか、坊っちゃんですよね?
できれば「チェンジ!」と言いたいところだけれども、医者は患者をチェンジできませんwww
まぁ、諦めて治療したげましょう(´・ω・`)
お楽しみください。
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そして、無能な若者達に代わって2人の母娘が現れた。
「紫の聖女様、お願いします。哀れな娘を助けてください。娘は生まれつき目が見えないのです」
母親は涙を流しながら懇願する。
「はい。幼い頃の事故で私の目は失われてしまいました。もうすっかり慣れましたが、盲いて家族に迷惑を掛けることに心苦しさを感じます。そこで是非とも紫の聖女様のお情けにすがりたく……」
目を閉じたまま、娘もまた懇願する。
もっとも当の本人、聖女は聞いていない。
「うむむむ…なんと見事な☆」
両の眼が凝視する先は娘の胸乳。なかなかに栄養状態がいい。それは貧民の子とは思えないほど豊かに成長していた。
「私は…もう眼球がありません。それでも私は目が見えるようになり…ましょうか……?」
声が震える。
希望と諦めが相半ばしているのだ。
「うん、生命の樹を見たからキミの眼球が両方ともないことも失ったのが赤ん坊の頃だってこともわかってるよ。大丈夫、全く問題ない。おカネも要らない。只、その代わり……」
珍しくアスタが口ごもる。
「えぇっ!? 治るんですか!? 私の目が!? それでしたら!」
「何でも差し上げます! 何でもやります! 遠慮なく何でも言ってください!」
母娘は興奮して喋る。
「じゃ、オッパイ揉ませて♪」
「喜んで☆」
麗人の要求に一瞬のためらいもなく答える娘であった。
「!?」
母親は何を言われたのかわからず、当惑していたが。
このやり取りを聞いて騒ぎ出す貧民達だ。
「えぇぇぇっ!?」
「紫の聖女様はカネがなくてもオッパイを揉ませればどんな治療もしてくれるらしいぞ!」
「何だと!? カネが要らない!?」
「それだけでいいのか!」
「なんて心の広い方だ!」
「いや、待て! 男だから俺はオッパイないぞ…どうしたらいいんだ?」
「服の下に枕を詰めればオッパイに見えないか?」
「アタシもオッパイが大きいからこれで2人分、亭主の怪我と娘の病気を治してもらうよ!」
「玉と竿ならあるんだが、それじゃ駄目かな?」
「死ね!」
「うわぁーん! おねぇちゃんのオッパイがちいさいからママをなおしてもらえないぃー!」
「えっ? こら! なんてこと言うのー!」
大騒ぎだ。
貨幣経済に挑戦するかのごとく、女性の胸乳を揉ませることを対価とする、全く新しい価値観の登場である。
「これほどの傷ですが…大丈夫ですか?」
騒ぎを尻目に娘が両目を開く。
そこには何もなかった。
ただの真っ暗な穴だ。
整った、綺麗な顔に2つの穴が空いている。
幼い頃に眼球そのものを摘出する事故に遭ったのだろう。両目のあるべきところはポッカリ空いた眼窩が醜くも恐ろしい傷痕になっていた。
「ひっ!」
「これは…酷ぇ……」
「なんて惨い……」
娘の不幸を見て周囲から幾つも悲鳴が上がる。
けれども、真正面から見せられたアスタは驚く様子もない。
只、少しだけ不快そうな表情を見せる。
「赤ん坊の頃の傷じゃ、ボクの魔法は使えないな」
わずかに口を尖らせる。
「えっ、聖女様の魔法でも治せないんですか」
娘は不安そうだ。
「いや、ボクにとってちょっと都合が悪いだけさ…どうということもない。ボクのが使えなくてもノヴァニクスのが使えるから大丈夫」
“ノヴァニクス”、それは孤高の八龍が1頭である白龍の名前だ。
周囲の人々には謎めいた固有名詞にしか聞こえない言葉を使いつつ、麗人はこともなげに応えて。
「じゃ、治すねー…ん☆」
左手を娘に向けて、手のひらを開く。白く透き通った角が輝き、類稀なる魔力が現実世界に干渉し、ありえない現象を引き起こす。
空っぽの眼窩に魔幹が設定され、すぐさま構築された魔力場が損傷した視神経を再生させ、超スピードで細胞を増殖させ、眼球を発生させる。同時に大脳の未発達な視覚野も正常な状態にまで成長させる。
ポッカリと空いた真っ暗な穴でしかなかった娘の眼窩が急速に埋まる。完全に正常な眼球によって。
だが、娘の目は真っ黒な煙のような塊で塞がれている。闇の精霊魔法“闇の目隠し”だ。
本来は敵の視界を阻害して行動を妨げるための魔法である。しかし、この場合はいきなり強い光を見て目を傷めないよう、アスタが闇魔法で娘の眼を保護したのである。
しばらくして、娘の眼を覆っていた闇魔法が薄れてゆく。
「もう大丈夫。ゆっくり目を開いてね」
麗人は優しく声を掛ける。
すると。
「まぁ! 貴女が…紫の聖女様なんですね!」
感極まった娘が声を上げる。
その視界に紫に輝く金属線が踊っている。雪のように白い肌と強い意志を湛える虹色の瞳が印象的だ。
「見えます…生まれて初めて…光を得ました。なんと美しい……」
両の眼からとめどなく涙があふれる。
「聖女様、この素晴らしい世界を照らす光を授けてくださったことに感謝します」
滂沱の涙とともに感謝の意を伝える。
「うむ、うむ、うむ。そうだね、キミも世界の美しさに気づいたのだね。そうだよ、世界は素晴らしいんだよ☆」
アスタは同好の士を得て大いに喜んだ。
「じゃあ、揉ませてねー♪」
「さぁ、どうぞ☆」
光を戻してくれた聖女に請われて娘はためらうことなく胸乳を差し出す。
もみもみもみもみもみ!
アスタの方も全くためらう素振りは見せず、娘の巨乳に掴みかかり、揉み始める。
決して強くなく、それでいて刺激的に、そして、優しく。
「あ! あぁん☆」
娘がわずかな嬌声を漏らす。
正直、『聖女様は豊乳なのだから自分の胸乳を揉めばいいのではないか』と思わないでもない。それでも余計なことを言わないのは恩義を感じているためだ。
どこの世界にカネを受け取ることなく失われた眼球を再生してくれる治癒師がいるのか。
回復魔法が使える者は少ないし、聖魔法が使える者はもっと少ない。だから、どんな神殿でもどんな教会でも魔法による治療は基本的に有料なのだ。
ましてや、失われた手足や眼球の治療には途方もないカネがかかる。信心への褒美であっても、だ。神殿も教会も多額の寄進という形で対価を求める。それが支払えないから今の今まで盲でいたし、これからもそうだろうと思っていた。
だから、光を諦めていた。
それを紫の聖女様は特別に『胸乳を揉ませるだけでよい』と言ってくれたのだ。
とんでもないレベルで超・破格である。
この恩を返さねばならぬ。
そのためなら胸乳を触らせるくらいなんでもない。
「あぁ…ふん……」
優しく上品な愛撫に思わず声が漏れてしまう。
成人女性が他の女性の胸乳に手をかけて揉みしだく光景は非常に扇情的で、人々の心を激しくざわつかせる。
「ふむぅ…存分に堪能させてもらった♪ もういいよ☆ ありがとう」
満足したアスタが感謝の言葉を述べる。
心から。
誠実に。
「はい。こちらこそありがとうございました」
娘は礼を言って立つ。
もう目が見えるのだ。母親に手を引いてもらう必要もない。
「紫の聖女様、ありがとうございます! ありがとうございます!」
母親も礼を重ねて涙を流している。
長年、盲の娘を抱えて聖魔法のレベルにもくわしく知るようになっていた。
手足や眼球の欠損は最高位の聖魔法でなければ治せない。いわゆる、最大級の魔法だ。個人でそれを発現できる者はヒト族にはおらず、妖精人族や茸人族といった魔法の得意な人種でなければならない。
そのレベルの奇蹟をたった1人で発現させたアスタは間違いなく大聖女であるに違いない。
そんな偉人が娘のために、カネも取らず、只、胸乳を揉むだけで失われた眼球を取り戻してくれたのだ。
どれだけ感謝しても感謝し足りないだろう。
母と娘はもはや信仰に近い崇拝の念を抱いていた。
「す…凄ぇ……」
「えぐり取られた目玉を2つとも元に戻したわぁ!」
「なんてぇ奇蹟だ!」
「ありがてぇ、ありがてぇ……」
「あぁぁ…大聖女様よ! 本物の大聖女様の到来よ!」
「みんな、見ろ! 今、この時、享楽神様が奇蹟を賜われたのだぞ」
「あれが大聖女様か……」
「おぉ…生きて、生きて…この目で大聖女様の降臨を目の当たりにできるとは……」
「祈りましょう、奇蹟に」
「オヨシノイド様! オヨシノイド様!」
口々にアスタを讃え、人々は神に祈る。
光の神ブジュッミに向かってではない。ここは享楽神オヨシノイドの神殿なのだ。
だから、皆、女神に向かって祈っている。
「むぅ…別にボクはオヨシノイドの下でとぐろを巻いているわけじゃないんだけど?」
不満げなアスタだが、つぶやいただけだったので誰も聞いていなかった。
ただ1人、金髪のエルフだけが眼を皿のように丸くしている。
「そんな…今のは暁光帝の固有魔法じゃない。只の…いや、最大級の聖魔法“大いなる再生”!」
非常にショッキングだった。
今までの流れからして、当然、アスタはあの不可思議な固有魔法を使うものだと思っていた。
でも、盲目の娘は気勢を上げて唄うことも奇っ怪な仕草で踊ることもしなかった。
一言で言って治療は普通。
いや、最大級の聖魔法という時点で個人がおいそれと発現できるものではないのだが。
ヒト族の回復術師なら何十人も要る大規模な集団魔法なのだ。けれども、そこは暁の女帝様だ。超巨大ドラゴンの魔気容量はほぼ無限だろうし、1人であっても余裕で発現できてしまうのだろう。
例の固有魔法ではない、アスタにとっては児戯に等しい、低級な手法であるのだ。
だから、問題はなぜ聖魔法リジェネレイトなのかということになる。
恐ろしい疫病も半ば腐り溶けた手足もアスタは自分の固有魔法で治療していた。それこそ自信満々、余裕綽々で、だ。
ところが、今回に限り、聖魔法を使った。
それも『赤ん坊の頃の傷じゃ、ボクの魔法は使えないな』という怪しげな発言の下で。
その後に『ボクにとってちょっと都合が悪いだけ』とも言っていたから、何かしら不都合があったのだと思われる。
だが、しかし、暁の女帝様が御自ら操作なされる万能の固有魔法に何か差し障りがあったのだろうか。
「いいえ。あったから…何か問題があったから聖魔法リジェネレイトで代用したんだわ……」
考える。
今までの患者と盲の娘の何が違ったのかを。
天然痘に罹った少女、人食いグモに咬まれて死にかけた冒険者4名、そして、眼球を失った娘。
彼らを隔てる違いは……
「“報酬”ね」
1つ、思いつく。
カネではないが、アスタは盲目の少女にだけ『オッパイ揉ませて』と対価を要求していた。
おそらく、この対価が鍵だ。
つまり、固有魔法を使うと、何らかの理由で対価を支払ってもらえなくなるのではないか。
だから、アスタは聖魔法リジェネレイトで娘の眼を治療したのだ。
けれども、この推測が正しかったとしても疑問が残る。
「アスタの固有魔法もリジェネレイトも完璧に患者を治療するわ。この2つに違いはない…どうして固有魔法では都合が悪かったの? 報酬をもらえない理由は何?」
悩む。
言うだけのことはあり、アスタは間違いなく“始原の魔導師アストライアー”だ。恐ろしい疫病も瀕死の重傷も治してしまう。それこそ跡形もなく、だ。痘痕も傷痕も残さない。
完璧な治療である。
患者は治してもらえさえすれば不満を言わない。とりわけ、苦しんでいる間は全財産だって差し出そうと思うものだ。ましてや、支払うべき対価が乳房である。実質的には無料、ただ同然だ。
「それなのにどうして…どうして固有魔法では報酬がもらえなくなるの?」
思いっきり考え込んでみてもさっぱりわからない。
そのせいでビョルンの言葉が思い出されてしまう。
『はぁ…暁光帝の意図を推し量ること自体がそもそも人間には不可能なのですよ』、そう言いながら博物学者はため息を吐いていた。
『それでも』と思う。
それでも眼の前に人化した超巨大ドラゴンがいて、人間の街を闊歩しているのだから、暁光帝の考えを理解しようと努力するべきだ。
たとえ、不可能であっても。
ナンシーは半ば悲壮な考えに浸りつつも事態を観照する。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
暁光帝♀が目玉をなくした薄幸の乙女を治したげました。
訂正:暁光帝♀が目玉をなくした薄幸の巨乳の乙女を治したげました。
ここ、大事☆
図らずも百合ん百合んになりましたかね。
描いてる最中は気づきませんでしたが、校正作業中に「あれ?これ、百合かな?」と気づき……
まぁ、「百合である」とのたまえるほど大層な代物でもありませんが(^_^;)
ちょっとだけ【ガールズラブ】タグが息を吹き返しました♪
さて、そういうわけで次回は『哀れなドワーフが泣いています。この世の終わりみたいな顔をして。あぁ、その手の悩みなら暁光帝が本職ですよ(^_^;)』です。
請う、ご期待!




