ごつい男達が泣き叫んでいます。う〜む…暁光帝が助けてあげなくちゃいけないんでしょうか。
野望が潰えたので腹いせに施療院に集まった人々を片っ端から救済することにした、我らが主人公、暁光帝♀です。
手始めに天然痘に苦しむ少女を助けました。
助けましたが…何やら、周りの人間達が騒いでいます。
「俺の魔法の威力がおかしいって? それって弱す……」
はい! そこまで!!
名作をパクってはいけません(>_<)
さぁ、次はどんな患者がやってくるのでしょう。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
オヨシノイド施療院の庭に傷だらけの冒険者達が逃げ込んできた。
男ばかり、6人の冒険者パーティーだ。誰もが体のあちこちから血を流し、満身創痍でうめいている。
「仲間が人食いグモに咬まれた!」
「衰弱が激しくてもう回復魔法じゃ助からないんだ!」
「今日、ここには聖女様がいるんだろ!?」
必死の表情で口々に叫ぶ。
全員が粗野でたくましく、剣や槍などの物騒な得物を携えている。
しかも、皆、レザーアーマーが食い破られてボロボロだ。
3人が目を回して口から泡を吹いており、無言。
軽傷の1人も片腕を動かせないでいる。
どうやら、4人が蜘蛛の毒に中ってしまったらしい。軽傷の連中が重傷者達を引きずって戻ってきたようだ。
状態はかなり悪い。軽傷の連中も顔色が真っ青で呼吸が荒く、悲痛な表情で哀願してくる。
「むぅ…これは……」
いきなりの非常事態にさしものアスタも顔をしかめる。
「彼らは冒険者パーティー“永遠の暗黒魔剣”ですね」
金髪妖精人には憶えがあった。
「全員が十代の少年で若いながら冒険者ランクは中級のパーティー。誰も盾を持たず、全員が攻撃しかやらない戦士の集団なので早熟…いや、促成栽培ですね」
冒険者ギルドの初代ギルドマスターを務めたナンシーが皮肉を込めて語る。
冒険者は自由だ。
自由だから冒険者パーティーの構成だって好きにしていい。
そこで未熟な若者達がしばしば戦士ばかりのパーティーを編成することがある。それも戦斧や両手剣や鉾槍、果ては戦鎚などの大型武器ばかりを集めて全員が前に出て攻撃する流儀だ。
斥候がいない上に盾役も回復役もいない、ずいぶんと偏った構成だ。しかし、冒険者に成りたての若者でも簡単に組める。また、火力だけは高いので上手くはまれば格上の幻獣にだって通用する。
実際、獲物を選べば強い。
人食いオオカミの群れや人食いグマ、人食いウシなどの強敵を狩ることもでき、運が良ければ、かなり早く冒険者ランクを上げられるのだ。
「けれども、偏っているので魔法や毒で反撃してくる幻獣が苦手です。また、光明神の教え『みんな仲良く』を信奉しているので全員の実力が同じくらいで突出したリーダーがいない。だから、はまれば強いのだけれど、一度、劣勢になると撤退の判断が遅れて崩れやすいのです」
息も絶え絶えでうずくまっている6人の若者達を観察して、エルフが解説する。
さすがは初代ギルドマスター、積み重ねた経験が違う。ひと目見ただけで何が起きたか、想像がついたのだ。
ノリと勢いだけで生きている若者達は冒険者ランクが上がったことですっかりいい気になり、軽い気持ちで慣れない獲物に手を出してしまったのだろう。
人食いグモは彼らが普段、狩っている幻獣とは勝手が違う。その毒は脅威だし、種類が多く、それぞれに対応する準備と知識が必要になる。
蜘蛛の巣を張って獲物を待ち構える造網性のタイプと巣を張らずに歩き回って獲物に襲いかかる徘徊性のタイプがある。それぞれ習性が異なるのでそれらに合わせて冒険者の行動も変えるべきだ。
毒の種類も異なるから、解毒剤の種類も考えねばならない。素人では対応できないから専門家の手を借りるべきだ。
数を頼んで襲ってくることもよくあるからそれも考慮しなければならない。
具体的には敵の種類や規模を探れる斥候と解毒のできる回復役と敵の攻撃を一手に引き受ける盾役が必須なのだ。
この冒険者パーティー“永遠の暗黒魔剣”はそういった準備を怠ったのだろう。
おそらく、人食いグモの集団に襲われて、あわてて反撃したものの、思った以上に被害が大きくなった。しかも、『臆病者!』とそしられるのを恐れて“無謀”に戦った結果、撤退の判断が遅れて次々に仲間が咬まれたのだろう。
「うむぅ…出血毒だな。これは酷い!」
ギュディト百卒長もたじろいだ。
脈が酷く弱っている。中には脈そのものが測れない若者だっている。
出血毒は咬み付いた獲物の臓器に変性を引き起こし、組織を損傷させる。それで出血を促し、失血死させるのだ。
永遠の暗黒魔剣のうち、3人は腕や足が腫れて半ば腐りかけている。意識はなく多量の膿に混じって腐り溶けた肉がずり落ちて白い骨が覗いている。
無事なのは2人だけで、軽傷の1人も咬まれたのだろう、剥き出しの肩が赤黒く腫れ上がっている。
「武器の威力ばかりに目を奪われて防御をおろそかにしたのね。誰も盾を持ってないし、防具も軽くて覆っている部分が少ないわ」
ナンシーの言葉は辛辣だ。
重傷を負って苦しむ若者達を前に冷たいと思われそうだが、冒険者は自分の行動に責任を負わねばならないのだ。冒険者が自由であるということは成功の褒美も失敗の責苦もすべて自分自身で受け取らなければならいということでもある。
回復役も盾役もパーティーに入れず、攻撃ばかりを偏重して、防御や準備をおろそかにし、武器の威力だけで幻獣と戦ってきたツケが回ってきたのである。
「お説教はいいから助けてくれよぉ……」
「スティーブが! ジャックやボブも死んじまう!」
若者達の悲痛な声が上がる。
「カネはいくらでも払うから!」
こんな状態では武器も握れぬ。軽傷の青年が腫れ上がった肩を押さえて叫んだ。
半ば自業自得とは言え、悲惨な冒険者達だ。
けれども。
「助けてあげるけど、おカネは要らないよ」
アスタは不快そうに告げる。
港の一件で“お買い物”も“おカネ”もすっかり嫌いになってしまった暁光帝であった。
しかし、これに貧民達が感激する。
「カネが要らないとは…なんて清らかな方だ」
「あれこそが俗世の穢れを受け付けない本物の聖女様なんだなぁ……」
「素晴らしい。アタシ達、貧乏人の救世主だわ」
一斉に称賛の声が上がる。
貴族や有力者、果ては衆生を救うはずの神職でさえ、カネを欲しがる。カネを払わないと誰も助けてはくれない。そんな現実に押しつぶされてきた人々は本物の清貧を見て感動したのだ。
けれども、実際のところ、清貧からは程遠い。麗人は通貨膨張で瓦礫街リュッダを破滅させるほどの金貨を持っているのだから。
何とも皮肉な話である。
「ありがてぇ! じゃあ、みんなのことを話すぜ!」
「スティーブは足を…左の太ももを咬まれた。ボブは右腕をやられていて、可哀想なジャックは……」
冒険者達は仲間の容態を説明しようとするが。
「要らないよ、そんなの。ボクは診た。ツマグロオオヨコバイの観察よりもかんたんだから、後は直すだけだね」
またしてもアスタは付き添いの話を遮ってしまう。
すでに虹色の瞳で診たから必要な情報は読み取っていた。
だから、ためらうことなく。
「ん」
いつもの魔法を発動させる。
やはり、呪文も唱えないし、魔法陣も描かない。それでも魔幹が魔力場を生じさせ、現実を歪め、時空間にありえない現象を引き起こす。
「あぁっ! ふんぬ! ふん! ふん! やっつくぇるぉぉぉっ!」
先ず、スティーブが叫び、踊り始める。腐り溶けた足から白い骨が覗いていたのに構わず立ち上がり、踊っている。
かなりの激痛に苛まれているはずだが、気にする様子もない。
「ほぁっ! ほぁっ! ほぁぁーーっ!」
腕を無意味に弾ませながら、足もバンバン上下させている。
「ぽっぽぁぁぁっ!」
いつの間にやら、どこからか、バカでかい両手剣を持ち出して振り回しているのだ。
「あぁ、これはいけないね。危ないわ。ん☆」
アスタが一言つぶやくと大剣はスティーブの手を離れて地面に落ちる。
「あっぷっぷ〜 おぃひっ! もひ! さがへ! ほもももももぉー! ほもぉーっ!!」
若者は未だに踊り狂うことを止めない。
「じゃ、次〜♪ ん!」
スティーブに掛けた魔法の効果を確かめることなく、アスタは隣で仲間に抱きかかえられて口から泡を吹いている若者に向かって得意の魔法を放つ。
今度はスティーブの件も踏まえて少しアレンジを加えている。問題なく効果を発揮することだろう。
「ぷゎぁぁっ! ひょっ! ひょっ! だむぇだ! こぅるぞぉぉっ!! うぷ! おうぷ! ヒョーーッ!!」
半ば腐り溶けた腕が落ちそうになっていた若者がやはり立ち上がって奇っ怪な歌を唄いながら踊りだす。
「ボブ!?」
「一体、何が起きてるんだ!?」
「えぇぇっ!?」
仲間達が騒ぐものの、ボブは踊りをやめようとはしない。
「よし。はい、次〜♪ ん☆」
これまた気にすることなくアスタは最後の重傷者に向けて得意の魔法を放つ。
咬まれた脇腹が腐り果てて、内臓がはみ出ていた若者は感じ取れないほどに脈が弱まり、息もしていなかったが。
「いひょー! はい! はい! はいぃぃっ!? くもがくぅ! ぬぃべろぉー! うひょひょひょ! おぺろ! うぷ! のぃぃん! んん! ほぁ! ほぁっ! ほぁぁーーっ!!」
突如、立ち上がって踊りだす。手足を無意味に振り回し、奇妙な歌も元気に唄っている。
「はぁ!? どうなってるんだ!?」
「ジャックは死にかけていたんだぞ! いや、死んでいた! 息をしてなかったんだ!」
「そんなっ!? 可哀想なジャックはもう死んだものと諦めていたのにっ!!」
仲間達が絶叫する。
あまりに異常な現象を目の当たりにすると人間は酷く混乱するものだ。
若者達は青ざめて硬直したり、ポカンと阿呆のように口を開けたまま立ち尽くしたり、みっともない姿を晒している。
「ふむ、君達は死を特別視しているだけだよ。たかが死じゃないか。死ごときが始原の魔導師アストライアーの魔法に抗えるはずがないね」
またしても本名を明かしながら、麗人は堂々と言い募る。
人間にとって死は絶対の不可逆現象であり、死んだらお終いなのだが、アスタにとっては大した変化ではないらしい。
「さぁ、おまけだよ。ん!」
左手を水平に伸ばして軽傷の若者に向け、得意の魔法を放つ。
只、一言で若者の体に生じた魔幹が驚異の魔力場を発現させ、時空間ごと強烈な効果を及ぼす。
「はぅっ、俺まで?……みんぁ、ぬぃべろ! ひぃーほぉー! ほひ! ほー! ほぁ! ほぁっ! ほぁぁーーっ!」
軽傷ながら疲れ果てて息をするのもやっとだった若者が飛び上がるように立ち上がり、踊り、唄う。
「ハリィィィーッ!! どうしちまったんだぁっ!?」
「お前の傷は浅かったぞ! ハロルド、なんでお前まで!?」
軽傷のハロルドまでがアスタの奇妙奇天烈な魔法を浴びたので、残された2人が仲間の異変を見て腰を抜かしている。
だが、驚いている場合ではない。
「畜生! チャーリー! 左から蜘蛛が来るぞ! 多すぎる! もう駄目…だ……」
最初に魔法を掛けられた若者、スティーブが完全に回復していた。
「もう…駄目……えっ? な…何だ? ここは…森じゃない……蜘蛛はどこだ? いや、オヨシノイド施療院だと?」
周りを見渡して目を白黒させている。
何が起きたのか、さっぱりわからず当惑しているのだ。
「むぅ…これは俺の得物じゃないか。なぜ、ここに……」
地面に転がっていた両手剣を拾う。
あちこちがずたずたに裂かれていたレザーアーマーも元通りだ。本人は気づいていないが。
「奴らは毒があるぞ! 咬まれたら終わりだ! お前ら! お前…ら…… えぇっ!? 蜘蛛はどこだ? 何が…どうなってんだ? ここは……」
次のボブも完治して、当惑している。意識を失ったまま、唄い踊っていたのだ。けれども、いきなり、意識が回復して何が何やらわからないでいるのである。
「もう駄目だ! みんな、死ぬんだ! 誰も助からない! 助けて、ママ! ママァーッ!! マ…マ…うぉっ!? 何が起きた? ここは一体……」
可哀想なジャックが叫ぶ。
脇腹を食い破られて内蔵をはみ出させていた若者はすっかりよくなっていて腹に開いた穴もふさがっている。とても元気だ。
けれども、叫んだ言葉の内容が内容だけに“可哀想なジャック”のままであることに変わりはない。
後に彼は自身の母親との関わりについて色々尋ねられることだろう。
「デイビー、チャーリー、ヤバイぞ! みんな、やられちまった! お前ら、ケツをまくれ! 追いつかれたら…追いつか……あれ? 蜘蛛がいない!? ここはどこだ!?」
最後に治ったのは軽傷だったハロルドだ。やはり、当惑してキョロキョロと所在なげに辺りを見回している。
「ここはオヨシノイド施療院だよ。俺達は人食いグモに襲われて酷い目に遭ったんだ」
「お前らは人食いグモに咬まれて毒に中っていた…って、いや、ハリィはわかってるはずだろ。一緒にスティーブ達を引きずってきたんだから……」
ようやく名前が判明したデイビッドとチャールズは完璧な健康体に戻った仲間達を見て唖然としつつ、何とか、気を取り直して説明している。
「そうか、そこの紫の聖女様のおかげで俺達は助かったのか」
「これも光の神ブジュッミの思し召しだな」
「あぁ、俺の得物もちゃんとある。ありがたや、ありがたや」
「デイビーにチャーリーもありがとうよ。お前らが俺達をここまで引きずってきてくれたんだな」
負傷していた若者達はようやく事態を飲み込んで感謝の言葉を述べる。
治療は完璧だ。
全員が元気で自分の得物を握り、しっかりと立っている。
「人食いグモに咬まれたら手足を切り落とさなきゃ助からねぇ…そのはずなのに……」
「あれほど酷い傷があっという間に治るなんて!?」
「これが奇蹟か。なんて凄ぇ魔法なんだ……」
「紫の聖女様は本物だ! 本物の大聖女様だ!」
集まった貧民達が口々に称賛する。
重傷を負った冒険者が唄い踊りだしたことには驚いたが、魔法の効果は疑う余地がなく鮮烈だ。
これだけ魔法の腕達者な聖女だからもっと重い病気や怪我も治してもらえるかもしれない。人々の期待はいやが上にも高まるのだった。
民衆は耳をつんざくような大歓声を上げて大興奮だ。
漆黒の肌から玉の汗を流しつつ、ギュディト百卒長は立ち尽くしていた。
何が起きたのか、サッパリわからないのだ。
いや、わかることはわかる。
魔法だ。
見たこともない大魔法だ。
いや、先ほど見せてもらったばかりの魔法だった。
駄目だ。
自分でもわかるが、酷く混乱している。
「死にかけていた…いや、死んでいた?」
脇腹を食い破られたスティーブがすでに呼吸していなかったことは間違いない。触れてみて脈がないこととも確認していたから、この若者だけはもう死んでいると諦めていたのだ。
しかし、突如、若者の死体が飛び起き、唄って踊って飛んだり跳ねたり、奇妙奇天烈な踊りを見せたかと思ったら元気に喋りだした。
この目で見ても信じがたい奇蹟だ。
「死人を生き返らせる魔法ですか…それならまた懲罰の能天使がやってきそうなものだけど……」
先ほどの天使アングリエルを思い出す。
アスタが死んだ冒険者を蘇らせたため、神への冒涜だと怒り狂った能天使だ。
けれども、そんな気配はない。
酷い重傷も綺麗に治癒していた。
死んだ男も死にかけた男も今は皆、一様に元気いっぱいだ。
「あぁ…あの天使の最後と同じでしたね。では、あの魔法と今の魔法は同じものなのかも……」
百卒長は首をひねる。
自他共に認める、脳みそまで筋肉でできた女だ。自分の頭が悪いことはわかっている。
それでも考えねばならない。
浜辺で見た能天使アングリエルの姿と重なる今の光景について。
怒り狂っていた天使はアスタの魔法で鎮静され、暴れることなく天へ帰っていった。
また、浜辺で狂い、泣き叫んでいた上流階級の人々もアスタの一言で正気を取り戻せたのだ。
だから、アスタの固有魔法は精神干渉系だと思っていたのである。
それが天然痘の重症患者や人食いグモに咬まれた冒険者達を綺麗に治してしまうとは。
「ううむ…さっぱりわかりません」
百卒長は首をひねるばかりだった。
立ち尽くす百卒長と歓声を上げる民衆を眺めながら幼女はほくそ笑む。
「ふふふ…やはりにんげんどもにはわからないでち」
暁光帝の龍の巫女クレメンティーナ。感覚の上でももうすっかり人間を辞めてしまっている。
すでに強大な力を得ているから、病や怪我に苦しむ衆生の救済は自分にも可能だ。
別に雷の精霊魔法ばかりではない。アスタから授かった聖魔法ならどんな患者でも治せるだろう。
もっとも、どのように行動するかは一考の余地がある。
強大な力を得たからと言ってそれに振り回されるほど未熟ではない。
すでに聖女は3人もいて足りているだろう。今更、自分がその真似をしても面白くない。
幼子らしからぬ考えだが、それが暁の女帝様に選ばれたということなのだ。
クレメンティーナは人々を見つめる。
「このまりょくでなにをしゅるのか、しょれがどんなけっかにつながるのか…しょれをみきわめなきゃいけないでち」
目の据わった幼女は周囲の光景から面白げなものを探す。
役に立つもの、危ないものではない。
面白げなものだ。
龍の巫女は人間とドラゴンの間に立ち、両者の仲立ちをする。
しかし、その軸足は今やドラゴンの側にある。
それは恐ろしいことなのか、それとも素晴らしいことなのか。
少なくとも幼女自身は気にしていない。
誰もが口々に称賛している。
それでも只1人、金髪エルフのナンシーだけが気づいていた。
「どうしてアスタは広範囲回復魔法を使わないの?」
悪徳のジュリエットとレスボス島のポーリーヌ、仲間2人の正体は聖なる幻獣。それぞれ、女精霊と一角獣であり、聖魔法の達人だ。
だから、先ほど、貧民達を聖魔法で治療していた。それも大勢を一気に、だ。
それは聖魔法の広範囲回復系で、とりわけ戦場で重宝される。手練の使い手であれば負傷者を何百人も一遍に治せるのだ。
聖魔法とは異なる回復魔法にも広範囲回復系はあり、時間はかかるものの、同じく大勢の負傷者を一気に治せる。
広範囲回復系そのものは特に技量を必要とするわけではなく、10人くらいに掛けるのであれば下級の魔導師でもでよい。
ましてや、天下の超巨大ドラゴン暁光帝は始原の魔導師アストライアーである。
魔法の腕に疑いの余地はなく、永遠の暗黒魔剣のメンバー4人を治すのに広範囲回復系を使って当然なのだ。
「でも、アスタは広範囲回復系を使わなかった…つまり、それは……」
真相にたどり着けない。思考が行き詰まってしまう。
「でも、少しずつだけどわかりつつある…暁光帝の秘密が!」
そこまで考えてゾッとする。
知ってよいものか、悩んだのだ。
自然と恐ろしい文言が思い浮かぶ。
『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ』
暁光帝の秘密を暴こうなど怪物が潜む深淵を覗き込むようなものである。
暁の女帝が使う固有魔法を知って正気が保てるか、どうか、わからない。
「それでも……」
これからも関わる以上は知っておくべきだと判断する。
金髪エルフは強い意志を込めてアスタを見つめ、決意を新たにするのだった。
「永遠の暗黒魔剣さん、お帰りはあちら〜 さぁ、次の患者、おいで〜!」
元気よくアスタが呼ばわる。
「紫の聖女様、ありがとうございます?」
「ご迷惑をおかけしたです?」
「紫の聖女様の魔法が素晴らしいことは我々が町中に言いふらします」
「御恩は一生、忘れないです?」
「紫の聖女様、アンタの奇蹟に感動したです」
「みんなの武器と鎧も直してもらってめっちゃありがたいです?」
なぜか、口調の半分以上が疑問形だった。
若者達はたどたどしい言葉遣いで口々に礼を言い、去っていく。両手剣、戦斧、戦鎚、鉾槍、戦鎌、長槍、全員が立派な武器を担いでいる。ズタボロに壊れいたレザーアーマーも直っていて、これについても皆、感謝の言葉を重ねている。
無知蒙昧な大衆は何もおかしいことはないように思うのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
こちらの章は全体に渡ってバトル要素が皆無で会話だけで物語が進みます。
進んじゃうんです(>_<)
会話だけで表現されるエンターテイメントってのはかなり難しいと思います。
我が国には“落語”という話芸だけで観客を笑わせる伝統芸能がありますが、あれだって人間の話者が人間の声で表現する芸なわけでして。
文字だけの文章で面白い表現を実現するのは本当に難しい。
まぁ、やれるヒトは実際いますよね。
『魔法少女プリティサミー』のノベライズ版とか、『スレイヤーズすぺしゃる』とか、話芸だけで笑わせてくれました。
でも、小生には無理です。
なので、回復魔法で人々を救済するだけのシーンなんてのもこんなんなっちゃいましたよ。
アニメーターの試験の1つに『石』ってテーマがあって「動かない石を動画で表現せよ」って無茶振りするそうですが。
いくら、文字表現だけの小説だって「会話文だけで面白くしろ」言われても難しいんですよね〜
最悪、かぎかっこだらけの文章で中身スッカスカとか、目も当てられないことになります。
そういう文章芸で笑わせられるヒトは天才ですね〜
まさしく一種、天賦の才って奴だと思います。
昔々、小生は少女漫画を描いていたことがあったんですけど、あのときも会話シーンだけで物語を構成することができず……
…いや、やめましょう。思い出してもきつい。
そもそも無理があるのです。あ〜ゆ〜のって。
えっ?
少女漫画家達はふだんからやってる?
あ、うん。そうですね。
少女漫画って会話のシーンだけで物語が展開することが多くて、しかも、ちゃんと山と谷があって、面白くもなっていて。
うん、色々すげぇ。
そう、あれは「適性」なんですよ!
ほら、「炎魔法の適性ある奴しかファイアボールは撃てない」とか、あるじゃないです。
あれですよ。
「会話文の適性がある奴しか少女漫画は描けない」
これですww
これなのですwwww
そういや、これも聞いた話ですが。
ある少年漫画家が少女漫画を読んで髪や顔、頭のデッサンが狂っていることについて苦言を呈しました。
すると、作品を批判されたのにくだんの少女漫画家は平然と一言。『だって、こっちの方が可愛いでしょ?」と。
少年漫画家は絶句して何も言えなかったそうです。
もしも、漫画に正解があるとしたらそれは『面白い』ことに違いありません(^_^;)
突き詰めてしまえば作品が魅力的であるということですね。
じゃあ、「かわいい」は最強の魅力の1つですからww
デッサンが狂っていようと頭の位置がズレていようと可愛い方が正解です\(^o^)/
小生も目から鱗が落ちまくりですよ。
少女漫画は奥が深い。
ところで、今回のゲスト、冒険者パーティー“エターナルダークブレイド”のメンバーですが、以下のようになっています。
<<永遠の暗黒魔剣のメンバー>>
両手剣のスティーブ…太ももを咬まれて肉が腐り溶け、骨が覗いている。両手剣を使う。魔法は強化&弱化のみ。
長槍のボブ…右腕を咬まれて肉が腐り溶け、骨が覗いている。長い槍を使う。魔法は強化&弱化のみ。
戦鎚のジャック…脇腹を咬まれて肉が腐り溶け、腸がはみ出している。呼吸も脈も止まっていて男塾的には死亡確認済み。ウォーハンマーを使う。魔法は強化&弱化のみ。
鉾槍のチャールズ…リーダー、ハルバードを使う。魔法は強化&弱化のみ。
戦斧のデイヴィッド…サブリーダー、両手持ちバトルアックスを使う。魔法は強化&弱化のみ。
戦鎌のハロルド…肩を咬まれたが、注ぎ込まれた毒が少なかったので軽傷で済んだ。グレイブを使う。魔法は強化&弱化のみ。
吟遊詩人がその活躍を吟じるので各地の村々には冒険者に憧れる若者が大勢います。
このペッリャ王国の場合、冒険者という職業はめちゃくちゃ幅の広い職業でして。
概論の中でも述べておりますが、要は「厄介ごとの代行業者」なので弁護士、会計士などの書類仕事から、荒事専門の傭兵、未開拓地に乗り込んでモンスターと戦う文字通りの冒険者、あまり表には出ませんが殺人代行請負業者すなわち殺し屋なんてのもあります。
えっ、殺し屋は中世ナーロッパでも違法?
それがですね〜
司法制度が未熟で、法律も地方ごとに違いまして。
その上、ほとんどの国で“自力救済”が認められております。
どういうことかと言うと自力救済ですからね、「盗まれたものを力づくで盗人から取り返す」とか、「殺された親族の仇を討って遺族の無念を晴らす」とか、「汚された名誉を守るために決闘して汚名を雪ぐ」とか、当たり前なんですwww
現代日本ではこういう自力救済って奴は違法行為ですが、中世ナーロッパでは認められています。
いえ、ナーロッパじゃない本物の中世ヨーロッパや日本の封建社会でも、仇討ちや決闘は認められていましたからね。
仕方ありません。
国産JRPGじゃ珍しいんですが、欧米産のRPGだとサブクエストとして決闘の代行や仇討ちの加勢イベントは普通にあります。
おそらく、現代日本のプレイヤーにこの手のイベントが不人気なので国産JRPGじゃ採用されないんでしょう。
ほら、「仇討ちとか虚しい」とか、「復讐からは何も生まれない」ってのがこちらの風潮ですし。
アニメや漫画もそういう感じの作品が多いんですよね〜
『機甲猟兵メロウリンク』ファンとしては寂しい限り(^_^;)
それで瓦礫街リュッダでも仇討ちに加勢する正義の味方、名誉回復のための決闘の代行者、こういった職業は犯罪でもなんでもないのです。
あ、もちろん、決闘も合法です。
いや、むしろ、奨励すらされていまいた(^_^;)
だって、犯罪事実の証明とか、あやふやですからね〜
依頼者が正義とは限らないわけで(^_^;)
悪そうな強面の仇が実は上司の不正を糾弾した正義であったり。
汚名をかけられた被害者ってのが実は悪徳商人で「汚名」じゃなくて正当な「クレーム」だったり。
そんなのことに介入してほんとうはよいヒトの仇や決闘の相手を殺しちゃったら?
ええ。
そんなの、只の人殺しですぉwwww
そして、神ならぬ身の、我らが冒険者ギルド事務局は依頼内容を細かく吟味してくれたりはしませんwww
ギルド事務員は冒険者が不当に扱われないか、依頼者がきちんと報酬を支払うのか、依頼内容が公序良俗にあんまり(←ここ、大事)反していないか、冒険者の仕事がちゃんと依頼主を満足させるレベルで達成されているか、これくらいにしか関心がありませんからね。
だから、この手の“正義の味方”も“決闘の代行者”も、実は結局、只の“殺人代行請負業者”すなわち“殺し屋”なわけですwww
仇を討ちたい人物や決闘者から依頼を受けて仇や決闘の相手を殺すのがお仕事www
暗殺ギルドの出番がないというか、暗殺者が冒険者(殺し屋)に仕事を奪われて涙目みたいな状況?wwww
ええ、もちろん、表に出せない依頼を請け負う暗殺ギルドも存在しますよ〜
でも、まだ、いろいろ設定をまとめなくちゃいけないのでしばらく登場しません。
暗殺者はライバルである冒険者(殺し屋)に負けないアドバンテージを持っていないといけませんからね。
あ、昭和ってのは自力救済がまだ大幅に認められていた時代ですね。
だから、とにかく声の大きい奴が強い。
最初に「こうだ!」って叫んで周囲を印象づけた奴がその後の状況を支配する。
だから、事件が起きたとき、最初に「あいつがやった!」って叫ばれたらおしまいです。
後は大人数で糾弾され、抗弁しようものなら「言い訳するなんて男らしくない」「言い訳は要らん」と袋叩きに遭う。
鉄拳制裁による私刑ですね。
「言葉で抗弁する」よりも「腕っぷしで解決する」方が“男らしい”と称賛された時代なのです。
男らしさってwwww
何しろ、中学校や高校に番長がいた時代ですからね(^_^;)
それは大人になってからもあんまり変わらなかったりします。
より陰湿になるだけでwww
昭和、凄ぇ☆
逆に言えば、中世ヨーロッパとか日本の封建時代なんて昭和を十倍くらいひどくしたものと思えばいいかと。
「ほうりつ? なにそれ? おいしいの?」な時代です。
そりゃ、モンテスキューの『法の精神』なんて著書がありがたがられるわけですよね。
今は携帯電話による撮影や録音、防犯カメラ、ドライブレコーダーの映像などの証拠がありますからね。
昭和の最強交渉術「言った言わないでうやむやにする」も使えなくなりました。
昭和の警官は「民事不介入の原則」という文言を盾にしてとにかく厄介事を避けたがりました。
女性が配偶者や付き合っている男から暴行されても警察は「夫婦喧嘩は犬も食わない」って取り合ってくれませんでした。
何しろ、「女房を躾けるのは夫の仕事」って話が普通にまかり通っていましたからwww
大の大人を“躾ける”って何wwww
令和は本当によい時代ですね(^o^)
だけど、横暴な男性が減って、被害者が泣き寝入りをすることもなくなったので。
小説のネタも大幅に減ってしまいました(>_<)
ファンタジー系のネット小説で“冒険者に絡むチンピラ”や“平民を虐げる悪質な下級貴族”なんてキャラクターが氾濫するのもいたしかたないのかもしれません。
さて、吟遊詩人が吟じるのは冒険者の中でも“英雄”と呼ばれる人々の、とりわけ華やかな話ですね。
多くの場合、モンスターに襲われたお姫様を救出して王様から褒められるような偉人のことです。
もちろん、吟遊詩人による脚色済みの物語ですから、元ネタになった事件とは違います。
お姫様が実はちょっと裕福な商人の娘でしかなかったり、襲ってきたモンスターってのが只の人食いオオカミだったりすることも少なからず。
針小棒大、それがエンターテイメントの常道なので吟遊詩人は恥じませんし。
小生も「マリーセレスト号事件」の記事を書いたのがサー・アーサー・コナン・ドイル、ドイル卿だったことにはびっくり仰天しました。そりゃ、後に『名探偵シャーロック・ホームズ』だって描けるわけです。
ドイル卿の筆力、凄ぇ☆
まぁ、そういうわけで可哀想なジャックを始めとする若者達は都会で一旗揚げようと、青雲の志を抱いて瓦礫街リュッダに来たわけです。
年齢は全員が十代。
13〜18最の、現代日本で言えば中高生で、思いっきり未成年ですねwww
もちろん、瓦礫街リュッダでは大人です。
武器持ってモンスターを狩れる時点で子供のわけないじゃありませんかwww
大人なのです。
6人は発育がよく、身体だけは大きかったんで冒険者ギルドで登録したら早速、でかい武器を買いました。
全員が両手持ちの強力な武器を持ってますね。
酒場で最初の酒を飲んでパーティーに入れてもらおうとしましたが、大型の武器を振り回すしか能のない奴なんて、まともな冒険者パーティーが引き受けるわけもなく、気がついたら似たもの同士で集まっていました。
でも、似たような武器を持って似たような考えだったので意気投合した6人は技術も知恵もないのならばと全員でモンスターを袋叩きにするという力技だけでのし上がってゆきました。
運良くそこそこ強くて特殊能力を持たない人食いオオカミとか人食い牛とか人食いカタツムリとかと戦えたので結構な冒険者ランクにまで上がることができました。
全員が敬虔な光明神の信者なのですが、全員がいい具合に中二病なので他の冒険者パーティーは関わりたがらず。
おかげで?
そのせいで?
自由に過ごせましたwww
今回も冒険者ランクが上がったので調子づいて人食いグモ退治という、少し特殊なクエストに挑んでしまったのです。
ちなみに特殊なだけで高難度クエストというわけではありません。
種類に注意できる斥候と数をまとめて引き受けられる盾役と毒に対応できる回復役がいれば、後は攻撃役3人くらいで何とかなる、普通のクエストですね。
でも、若者達は突っ込んでしまいました。
無謀です。
若気の至りです。
その結果、蜘蛛に齧られて悲惨な目に逢いました。
でも、今回の件で思い知りました。
今までの貯えもありますし、真面目に冒険者学校に通って基礎からやり直すことでしょう。
うまくすればメンバーの中から回復魔法を使える奴が現れるかもしれませんしね。
あ、瓦礫街リュッダの冒険者学校はナンシーが設立しました。
いずれ、出番があるかもしれません(^_^;)
<<そして、ママー男の怪>>
あれはまだ小生が子供の時分。
修学旅行の帰り、バスの中で疲れ切った皆がウトウトしていた頃です。
突然、T岡くんが立ち上がりました。
T岡くんはスポーツ万能、成績優秀、眉目秀麗のイケメン学級委員です。
そのT岡くんが突如、立ち上がり。
「ん!ママー!!」
…と絶叫したのです。
ええ。
その場でクラス全員が叩き起こされましたよ。
立ち上がったT岡くんは珍しく動揺してキョロキョロ辺りを見渡していますwww
はい。
終わりました。
T岡くんの学校生活\(^o^)/
あ、青春もセットでログアウトしましたwwww
その後、T岡くんは「恐怖のママー男」と呼ばれ、何もかも失ったのです。
クラスで問題が起きるたびにT岡くんは正論を述べて解決しようとしますが、すべて!
すべて、「マザコンのママー男が何言ってやがる?」と相手にしてもらえなくなってしまったのですwwww
何たる悲劇(>_<)
「ん!ママー!!」…の、この「ん!」ってタメがまた印象的でして。
みんな、忘れられなかったのです。
それで T岡くんは猛勉強して誰も行かない難関校に行ってしまいました。
きっと青春時代を過ごした中学の仲間に逢いたくなかったのでしょう。
彼が修学旅行の帰りのバスの中でどんな夢を見ていたのか、とても気になります。
けれども、何より恐ろしいのはたった1つの失言で何もかも失ってしまうという子供時代でしょうかね。
さて、そういうわけで次回は『次はどんなおっさんなのやら…おやおやまぁまぁ、暁光帝はこういう患者を待っていたんですよ♪』です。
請う、ご期待!




