魔力の最大値? 鍛えてもヒト族はせいぜい100ゲーデルっしょー えっ、暁光帝の? 測れるわけないじゃんww ゲラゲラゲラwww
我らが主人公、暁光帝♀の過去の悪行、もとい、偉業がまたしても暴かれてしまいました。
何でもかんでも記録したがる人間には呆れ果てるドラゴンです。
さぁ、気を取り直して観光を続けましょう。
人間達が自分達の巣をどのように営んでいるのか、興味が尽きません。
お楽しみください。
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オヨシノイド施療院の庭は人々が歓声を上げてうるさいほどだ。
「おぉ! 2人とも人気あるなぁ♪」
アスタは手を叩いて喜んでいる。
「俺らは貴重な聖魔法の癒し手なので貧乏人達から慕われているんですよ」
「何しろレア中のレアのぉ、聖魔法の特級魔道士ですからねぇ」
ヒトに化けた一角獣と女精霊が自慢する。2人は幻獣なので非常に強力な魔法の使い手なのだ。当然、人間とは比較にならない魔法の才能がある。
しかし。
「“特級”? 妙だね。キミらなら“超特級”のはずだろう? さて、どうなっているのやら……」
アスタは2人の力量が予想よりも低いことを訝しみ、目を凝らす。
「む? 何だ? ポーレットが609gdrでジュジュが727gdr? 魔力が本来の10分の1未満に落ち込んでいるじゃないか!?」
虹色の瞳で2人の魔気容量を測るとずいぶん少ないことがわかり、麗人の声が強い驚きの色に染まる。
「裸眼で魔力を3桁の精度で測りますかぁ…さすが、アスタさんの虹色の瞳ですねぇ」
ジュリエットは感心しつつも、実際は小数点以下の数値も測ったのだろうと舌を巻く。
「慧眼、恐れ入ったです。でも、俺らの異常は病気や呪いのせいじゃないんですよ」
ポーリーヌは眉をひそめる。魔気容量が減ったことで不便も感じるが、人間の振りをして暮らしてゆく上ではメリットも多い。悪目立ちする機会が減るし、人間達からの要求もある程度は控えられる。
そういう自分はどうなのかとアスタを視てみる。
「…」
虹色の瞳など持っていない並の幻獣は魔気力線こそ視えるものの、魔気容量まではわからない。せいぜい、今、身体から放たれている魔気力線から総量を推し量るくらいだ。
かつて、『みんなで歌うのに邪魔だから』と天龍アストライアーが大嵐を消し飛ばすところを見た。
天地を鳴動させる強大な魔力場に圧倒されて頭がクラクラしたものだ。
その光景から感じられた超巨大ドラゴンの魔気容量はとにかく、『測り知れない』、その一言に尽きる。
今、アスタを注意深く観察して魔気力線の描く波形が明らかに人間とは違うとすぐにわかる。
だが、たとえ、妖精人であってもせいぜい魔力の気配を探れるくらいだ。魔気力線が視えない人間がそれに気づくことはあるまい。
そして、推測される総量そのものはそこいらのヒトより多いものの、エルフほどではないくらいに抑えられている。
「……」
当惑した一角獣が押し黙っていると。
「もしや、魔力の異常は妖女サイベルの呼び鈴…あのマジックアイテムの欠陥かな!?」
興奮した麗人が分析する。
「なるほど! 幻影魔法で実存させたエーテル体ダブルに実体を重畳させる過程で魔気容量が減じるのだね。形而上学的な変化の処理が強い負荷を生じているからしょうがないよ」
興奮しすぎて人間にはわからない、幻獣の間でしか通じない魔法理論の専門用語が飛び出してしまう。
「はぁ…“ジツゾン”させた“えーてるタイだぶる”に実体を“チョウジョウ”させるプロセスで…なるほど、なるほど。はぁ……」
そのせいで、ナンシーが戸惑って目を白黒させている。
それでも“妖女サイベルの呼び鈴”という言葉は聞き取れた。
かのマジックアイテムは幻獣を人間に人化させる。その欠陥で魔気容量が減るらしい。それなら人化することで幻獣は弱くなるということではなかろうか。
「そうか! それなら!!」
とっさに頭を働かせ、アスタ自身も酷く弱体化しているのではないかと考える。
いや、抑えきれない願望が期待させたのか。
ナンシーは自分を省みる。
そんなエルフの内心を推し量ったのか。
「ないでつ。“がい”や“けい”がへったところで“ちょう”にはなりましぇん。“ひゃく”からみたらたとえ“おく”でもおおきしゃがわからないでつ」
隣でクレメンティーナが囁く。
「えっ…あ…あぁ……そうね」
一瞬、意味がわからなくて頭の中で解釈した。
『ないです』
『“垓”や“京”が減ったところで“兆”にはなりません』
『“百”から見たら例え“億”でも大きさがわからないです』
龍の巫女はそう言ったのだ。
こんな幼女がどうして“垓”や“京”という大数を知っているのかはさておき。
言わんとすることはわかる。
“百”はヒト族の魔気容量の最大値だ。それに比べて超巨大ドラゴン暁光帝の魔力は“垓”とか“兆”だから減ったところで違いはわからないという意味だろう。
正直、ナンシーにとっても馴染みの薄い大数だ。“万”の次が“億”、“億”の次が“兆”というのはわかる。しかし、“兆”の次である“京”やその次の“垓”などは記憶の彼方だ。
“垓”は100000000000000000000と1の後に0が20個ほど続いたと思うが定かではない。
もっとも、暁光帝の魔力が9999垓gdrとかあったとしても驚かないし、もっとあっても納得する。
“垓”の次の桁がどんな呼び名か知らないが。
何しろ、暁の女帝様である。
彼女の鱗1枚が古龍よりも重いのだ。もしも、弱ったところで人間がどうこうできる存在ではない。
ましてや、人間の都合に合わせて行動してくれるはずがない。
「……」
諦めておとなしく観察することにした。
「ビビデ♪ バビデ♪ ブー♪」
「プリプリのキリリンコ、カッカッカ!」
呪文はインチキだが、2人の聖魔法は確実な効果を発揮し、順調に人々を癒やしていく。
先ほどよりも重い症状の患者達も治っていき、麻痺していた手足を動かしたり、閉じたままになっていた目を見開いて歓喜にむせび泣いている。
「もう動かないと諦めていた腕が動く! 動くぞ!」
「あぁ…光…光だ…もう二度と拝めないと思っていた太陽が見える……」
「ありがとうごぜぇやす! ありがとうごぜぇやす! 歩けるようになったのでまた稼げる! もう息子に集らなくてもいいんだ!」
「喋れる! 喋れるぞ! これでまた魔法が使える! 俺は魔導師に戻れるんだ!」
「聖女様、聖女様☆」
「ジュリエット様とポーリーヌ様は神聖帝国の大聖女様にも劣らないわ!!」
喜ぶ人々の叫び声がやかましい。思わず耳をふさぐほどに。
「あうぅぅ……」
「これはきっついでつ……」
響き渡る歓声の凄まじいことはこの上なく、さすがのギュディト百卒長も龍の巫女クレメンティーナも耳を押さえてうずくまっている。
「……」
ナンシーに至っては小声の凝縮呪文と浮遊魔法陣で防御結界魔法を発動させ、遮音の障壁を張っている。
「凄いな…聖魔法を披露するだけでこれほどまでに慕われるものなのか……」
1人、耳を押さえることもなくアスタは感心している。
そして、これほどの大音量にも微動だにしないし、瞬きもしない。
人化していても、さすがは暁の女帝様である。
そんな麗人の称賛に手を振りつつ、2人は次の仕事に取り掛かる。
「さぁ、お前ら、次は待望の薬だぞー」
「皆さぁん、持って帰って大切に飲むんですよぉ」
荷車に載せた薬瓶を配り始めたのである。
緑色のガラスに入った瓶は厳重に封をされていて、大切そうに扱われている。
「おぉっ! 薬だ!」
「ありがてぇ!」
「ママのぶんもほしいよ!」
人々は我先にと集まり、貴重な薬を受け取っていく。
「ひとり1本ですよぉ」
「たくさんあるんだからあわてるんじゃねぇぞ」
ジュリエットとポーリーヌは手ずから一本一本渡していく。
受け取った人々もガラス瓶を大切そうに抱えている。
「ふぅむ…微弱ながら魔荷を帯びているね。魔法薬かな?」
アスタも興味深げにガラス瓶を見つめている。
「はい。こいつぁ、“下級回復薬”って奴でして」
ポーリーヌはガラス瓶を掲げて。
「飲むことで体力を回復させたりぃ、傷を治せるんですよぉ。これはですねぇ……」
ジュリエットが楽しげに効能を説明する。
回復薬。
冒険者にもおなじみの魔法薬だ。
通常の薬と違い、化学的な作用ではなく、魔法的な作用で効能を発揮する。製法も特殊で、魔法の使えない一般人では手に負えず、特殊な魔法の使い手が製薬を引き受けている。
「なるほど! これが人間の秘術か!!」
アスタはめちゃくちゃ感心している。
乏しい魔力を嘆きながら日々の糧を求めて地上を這いずり回る定命の者、それが人間だ。脆弱な彼らが工夫に工夫を重ねて独自の魔法技術を編み出し、回復魔法の代用品を生み出したのだという。
これに感心せず、何に感心せよというのだ。
「エクセレント! エックセレン!!」
称賛を重ねて手を伸ばす。
もちろん、回復薬をもらうためだ。
しかし。
「あー、アスタさんは駄目です」
「アスタさんには上げられませんよぉ」
2人が渋るのだ。
「ほへ?」
目を丸くする麗人。仲良しの2人が自分の希望を拒んだことに当惑している。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
暁光帝♀は楽しく観光を続けています。
比較的治安の言い、瓦礫街リュッダですが、どうしても“比較的”の文字が取れません。
そりゃ、中世ナーロッパですしねww
でも、貧しい人々の間から突然、チンピラが現れて主人公♀に絡むとかの無茶はさすがにありません。
どっかでチンピラにも活躍してほしいものですが(^_^;)
後、“ガラス瓶”です。
ご容赦ください(>_<)
いやね、西暦1000年くらいのイタリア、港湾都市バーリが舞台のモデルなんですよ。
で。
その頃の欧州に大量の透明なガラス瓶があるわけ無いじゃんwwww
薬がそんなのに入ってるわけがない。
いや、わかりますよ。
でも、ファンタジーで定番のポーションが素焼きのツボに入っていたら嫌じゃありませんか。
魔法薬ですよ。
ほんのり光っていて他の飲み物とは明らかに異なる、夢とロマン。
それが素焼きのツボに入っていてもねぇ。
瓦礫街リュッダの海水浴場もそうですが、『水着の歴史この百年』みたいなダサいの嫌です。
たとえ、西暦千年のイタリアだって水着はハイレグだったりTバックだったりするんですよ。
ビジュアル的にwwww
ナンシーのビキニ水着なんてブラジャーもボトムも紐ですよ、紐。
とりわけ、ボトムは紐3本で大事なところを隠してるだけ〜
いえね、海水浴場編では暁光帝が童女なので子ども用ビキニしか着られなかったんで、その分、ナンシーがお色気担当してたんですよね。
まぁ、そういうわけで。
娯楽作品の『人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ』はエンターテイメント的に歴史考証がちょっとズレてたりします。
見かけて「えっ!?」とか思ってもそこはかる〜くスルーお願いします。
さて、そういうわけで次回は『友達が美味しそうなものを飲んでいたんだけど…妖怪“一口ちょうだい”って暁光帝よりも嫌われているんですね(ToT)』です。
請う、ご期待!




