ちょっと前に暁光帝が回復魔法を改良してあげたんだけど人間達の評判はどうかな?
人化した超巨大ドラゴン暁光帝♀はのんびり施療院を観光しています。
遊びに来たんでw
仕事じゃありませんし、なんか難しい使命とかもありません。
いや、そもそも貨幣経済の外にいるんで仕事も使命も縁がないんですww
でも、時々、友達の頼みは聞きます。
無償でwww
貨幣経済の外にいるから報酬とも縁がありませんww
昔々、誰かから何やら面白げな魔法の開発を頼まれた気がします。
面白そうなので作ってあげました。
暁の女帝はこの上なく優しくて思いやりのある、しとやかなドラゴンだからです。
で。
創ってあげた魔法をありがたがった連中が何やら騒いでいたらしい。
きっと喜んでいたのでしょう。
よかった、よかった。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
オヨシノイド施療院の庭、大勢の貧民達が病気や怪我を治してもらおうと2人の聖女達の周りに殺到している。
もっとも、彼女達2人は厳密に言えば聖女ではない。
もっと厳密に言えば、“2人”とも言えない。
“2頭”と言うべきだ。
何しろ、人間ではなく幻獣が若い女性の姿に変化した存在なのだ。
レスボス島のポーリーヌと悪徳のジュリエットの正体はそれぞれ一角獣と女精霊である。“聖獣”とも言われる2頭はもともと聖魔法が得意で出会った人間を助けてくれるありがたい幻獣でもある。
それ故、聖女の真似も人助けもお手の物なのだ。
若草色のシャワーのように降り注ぎ、広範囲に効果を及ぼす聖魔法を浴びて人々が歓喜の声を上げる。
彼らの病気や怪我がことごとく癒えてゆく。
まさしく魔法。
実に感動的な光景だ。
瓦礫街リュッダの防衛を担う、たくましい巨女、ギュディト百卒長がしきりに感心する。
今や、人間を辞めて龍の巫女となった幼女クレメンティーナが新たな幻獣の活躍を喜んでいる。
そんな時。
庭の片隅で珍奇な2人が語り合っている。
片や、美貌とだらしない爆乳を目立たぬように逆さ化粧で隠した金髪妖精人のナンシーと。
片や、超巨大ドラゴン暁光帝が人化した麗人アスタである。
今、ナンシーは腰が抜けるほどの心的衝撃を受けてのけぞっている。
なぜなら。
奇蹟の回復魔法“出産の助け”を開発したのは他ならぬ自分だと麗人が言い出したからだ。
この“告白”は嘘の吐けない幻獣の発言だから疑う余地がない。
それは紛うことなき真実なのだ。
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ナンシーは腰が抜けそうになるほどの心的衝撃を受けながら、何とか踏みとどまり、褒め言葉を連ねて内心の動揺を押し隠す。
とりあえず、褒めておけばこの場は乗り切れるとの算段だ。
「そう…だったん…ですか…アスタさんがあの大魔法を……」
何とか言葉を絞り出す。
“出産の助け”は月経や妊娠、そして出産の負担を軽くする、奇蹟と見紛うばかりの大魔法だ。
ヒト族、妖精人族、小人族、獣人族など、胎生の人種はおしなべて出産の負担が重いことで知られている。それこそ『出産は命がけ』と言われているほどだ。
ところが、この大魔法“プエルペリイ・オペ”はそういった女性の負担を一手に引き受けて軽減する。悪阻も妊娠による体調不良も鎮めてくれ、胎児の荷重も軽くしてくれる。ついでに逆子や流産の可能性を大きく減らし、強い免疫力を与えて丈夫な子供が産まれるようにしてくれるおまけ付きである。
その効果は凄まじく、双子や三つ子のような難産でも妊婦は『ちょっと便秘になった』くらいの負担しか感じなくなるという、非常に画期的な療法なのだ。
人類文明の維持と発展に欠かせない妊娠と出産、それらにプエルペリイ・オペは重大かつ不可逆的な変化をもたらした。
まさしくいたれりつくせりの素晴らしい効能であり、暁光帝の告白を聞かされると、なるほど『さすがは暁の女帝様だ』と感心させられた。
この魔法を準備できさえすれば安全で確実に、しかも、妊婦にほとんど負担を掛けず、たやすく元気な赤ん坊を産んでもらえる。
このエレーウォン大陸で人口は勢力の強さにほぼ等しい。プエルペリイ・オペは一部の人々に驚くほどの多産と人口増加による繁栄を享受させるようになった。
ある意味、人々にとって想像しうる限り最大の、信じがたい幸福である。
だから、ナンシーは。
「ありがとうございます」
先ず、礼を言ってから。
「何てことをしてくれやがったん…あ! いえ、素晴らしい魔法ですね☆」
湧き上がる憤怒で裏返りそうになる声を何とか戻して、目の前の麗人を褒め称える。
暁光帝の偉業は常に功罪が背中合わせになっているものだ。
この“出産の助け”も例外ではなく、重大かつ厄介な問題を大量に引き起こしていた。
驚異の大魔法であるが故に習得の難易度が非常に高く、かなりの熟練者でないと手に負えないのだ。だから、その需要に応えられる使い手が少なすぎて引く手あまたとなり、高位の癒し手が“魔法のお産婆さん”ばかりになってしまったのである。
こうして回復魔法の使い手は只でさえ高かった社会的な地位がますます向上して収入も増えた。
しかし、とんでもない偏りが生じてしまった。
男性の癒し手はこのような高待遇の恩恵に与ることができなかったのだ。
求められるのは“魔法のお産婆さん”であり、男の助産師は妊婦からもその夫からも求められなかったのである。
それ故、男の回復系魔導師はプエルペリイ・オペに全く興味を持てず、効果の仔細についてさえ知らない者が多い。
そのせいで冒険者パーティーや軍隊で働いてくれる癒し手は数が減ってしまっただけでなく、男、それも年齢の高い壮年や老年の男性ばかりが目立つようになってしまった。だから、戦争や冒険で華々しく活躍する回復術師のほとんどがヒゲを貯えるハゲた筋肉隆々のおっさんばかりなのである。
それでもまだ悲劇は終わらない。
さらなる弊害が人々を襲う。
暁光帝が開発した、この大魔法は深刻な格差を社会に生じさせてしまったのだ。
裕福な貴族や商人は“魔法のお産婆さん”に頼んでプエルペリイ・オペによる安全な出産を実現し、丈夫で元気な赤ん坊を得る。しかし、依頼料を用意できない貧乏な人々は怪しい呪いに頼るしかない。不衛生な環境下で昔ながらの助産婦、本物の“お産婆さん”に赤ん坊を取り上げてもらうことになり、その結果、少なからぬ数の妊婦と胎児が悲しい結果を迎えてしまっている。
これほどまでに悲劇が続いてもまだ負の連鎖は止まらない。
高額の依頼料を用意できる富裕層の一部で多産が競われて“出産の試行錯誤”が始まってしまったのだ。
『より美しい女児を』『より強い男児を』と望む親が子供の優劣を競い、姉妹兄弟を能力で選別する事例が現れてしまったのである。そして、ついには不出来な子供を追放するなどという悪魔の所業まで聞かれるようになる始末。
貧困層が出産で苦しむ母親と死にゆく赤ん坊を嘆く一方で、富裕層は多産で余った子供の選別をしているのだ。
これが悲劇でなくて何なのだろうか。
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不老のエルフなのでナンシーは奇蹟の大魔法“出産の助け”が広まった時の大混乱を実際に体験していた。
かつて、エルフからしても昔、ヒトなら数世代前の大昔の話だ。
ある日、超種族の天翼人から新たな魔法が下賜された。後に人類社会に変化をもたらす大魔法が、だ。
このエレーウォン大陸で最も権威のある大国、いや、事実上の管理者であるハルピュイア女王国から『くれぐれも扱いは慎重に』と注意された。
世界中の王や女王、皇帝、宗教の指導者達は揃って頭を垂れ、うやうやしく受け取ったものだ。
それでも当初、その魔法は大した価値がないと侮られていた。戦争にも農業にも宗教にも影響を及ぼさないと思われたからである。
けれども、あのハルピュイア族が恐れるほどの大魔法だ。
その驚くべき効能はまたたく間に各国の中央政界に知られるようになっていった。
プエルペリイ・オペは単なる補助魔法。
一部の人間にしか効能がないと思われていた。
そう。
妊娠した女性にしか、有効ではないと思われていたのだ。
けれども、その影響力は絶大だった。
当時、回復術師の間を席巻した廃業や転職の嵐は本当に酷いものだった。
優れた回復術師は真っ先に飛びついたものの、男性は呼ばれることがなくて絶望し、女性は“魔法のお産婆さん”になることを求められた。それで兵士や冒険者を辞めてしまった女性も多かった。
また、そんな女性達を見て待遇の差をひがむ男性も少なくなかった。
彼ら、男の回復術師は収入の面で女の回復術師に大きく差を付けられたのである。それは本当に度し難いショックで、とても耐えきれるものではないと大勢が引退に追い込まれてしまった。
『たかが、収入で』などと侮るなかれ。
プライドと面子は男の土台であり、自信を失った男は生きていけないものなのだ。
ナンシー自身も『女のくせにどうして冒険者を続けているのだ?』とか、『エルフ女ならさっさと“魔法のお産婆さん”になれ』とか、散々な言われようだった。
魔気容量が足りないから個人でプエルペリイ・オペを発現できるヒト女性はいない。ヒト女性では10人前後の集団でなければ“魔法のお産婆さん”は勤まらないのだ。その点、豊富な魔力のエルフ女性は習得さえできれば個人であっても発現できるから引く手あまただったのである。
当時、悲惨な境遇を見過ごせなかったナンシーが哀れな母親を助けてやった。すると、近所の貧乏人達が我も我もと群がってきて無料でプエルペリイ・オペを唱えるように強要してきたものだ。
理不尽な要求であったものの、どうにも見過ごしがたい。母親達を助けるべく努めたところ、過労で倒れてしまった。
エルフだって無限の魔力を持つわけではない。『回復術師は己の魔法が求められたら対価を要求すべき』とつくづく思い知らされた。
繰り返される悲劇から目を背けて逃げ出したときの後ろめたさは今でも憶えている。
現在、当時の狂乱は収まったものの、優れた女性の回復術師に向けられる偏見や無言の圧力は変わっていない。
裕福でない夫婦を襲う試練もまた変わっていないように。
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暁光帝の開発した大魔法は人間社会に絶大な影響を及ぼした。
最高の救済と決して癒えない軋轢の両方を。
けれども。
「うむ。やっぱりボクは偉いよねぇ♪」
褒められて暁光帝はすっかり機嫌がよくなっている。
「ええ、本当に」
エルフは否定しない。
しっかり肯定する。
本心である。
実際、『やっぱりボクは偉いよね』などと自慢する本人が思っているよりも遥かに強烈な影響力があるのだ。
偉大すぎて人間は暁の女帝様を受け止められない。
これまでの経験からそのことをつくづく思い知らされた。
だからこそ思う。
アスタが褒められていい気になる、けっこうなことだ。
「本当に貴女という龍は……」
『最低の大バカ野郎だ』、そう罵りたかった。けれども、罵詈雑言を押し留めたのは口にした方が事態を悪くしそうだったからだ。
アスタは常識で測れない。
罵られて怒るとも限らない。
そして、怒るよりも冷静である方が平和であるとも言い切れない。
だから、会話の言葉選びには慎重を期さなければならない。
それでなくてもこの大魔法にはとんでもない“爆弾”が仕込まれている。
実際、知られているよりも遥かに強力な魔法なのだ。
この魔法、実は男性が原因の不妊症にも効果がある。
家畜の不妊の原因がオスの生殖機能障害にあって、それが珍しくないことは牛飼いや羊飼いの間で周知の事実。哺乳類である人間もまた同じ。そして、完璧な暁光帝が開発した大魔法もまた完璧であり、男性が原因の不妊についてもきっちり完璧に対応するのだ。
つまり、年老いて新たな子供を望めなくなった老人達にも希望の光をもたらすのである。
そして、社会の有力者はしばしば老人である。
もしも、この秘密、出産の助けの隠れた効能が明らかになれば後継者問題に悩む各地の貴族や大商人は血眼になって求めるであろう。
育て方を間違えてバカ息子を抱えてしまったり、戦争や冒険に関わって子供を失った夫婦は少なくないのだ。
その上、信じがたいことにこの魔法は家畜にも効果があるのだ。
不妊の牛や豚、犬猫も元気な仔が望めるようになる。
それはつまり、出産の助けによって家畜の増産が見込まれるということ。
エレーウォン大陸では人口が国力に直結する。そして、人口は食糧に依存し、食糧は農業で賄われる。農業にとって家畜の労働力とその糞尿を原料とする肥料がどれだけ重要であるかは言うまでもないことだ。
それ故、プエルペリイ・オペは国家を下支えする農業に重大な影響を及ぼしうる。
国際関係の趨勢をも左右しかねないほどに。
もしも、それまで貧しく人口も乏しかった小国が一気に国力を上昇させた時、その国の王は野心を抱かないだろうか。
大陸国家の例に漏れず、エレーウォン大陸の歴史は血に塗れ、遺恨にも野望にも事欠かない。
暁光帝が気まぐれに創り出した大魔法は人間社会の生命線を握り、今や、国家の命運をも左右する代物になってしまっていた。
もっとも、これら、裏の仕様とも言うべき、秘められた効能に気づいた者は古エルフ語に通じた一部の研究者だけである。
最初はナンシーも気づかず、出産の助けは月経の生理痛や出産の負担を軽減するだけの魔法だと思いこんでいた。
かつて、“魔法のお産婆さん”をやらさせられすぎて疲労困憊の末、街から逃げ出して荒野に隠遁したことがある。ようやく手に入れた休息を堪能しながら、改めて奇蹟の大魔法“プエルペリイ・オペ”に興味を持ち、その超絶的に難解な魔術式を読み解こうと試みたものだ。
最初は何がなんだか意味がわからず、頭が痛くなった。だが、古エルフ語の意味を理解し、原本である天翼人語の内容を推測した。矛盾しまくった命令語、無駄にしか思えない制御語が随所に見られ、どうやって動作するのか、さっぱりわからなかった。常識的に考えるとこの魔術式で魔法が発現することはありえないことのようにさえ思えた。
その魔術式はあまりに理不尽で不可解。
無駄に時間がかかり、ナンシーが不老のエルフでなければ途中で断念していたことだろう。
けれども、賽の河原で石塔を積むような努力が実を結んだ結果、プエルペリイ・オペの魔術式は複数の内容が有機的かつ複雑に絡み合った、全く無駄のない、真に洗練された構造であることが判明したのである。
読み解いた時、ナンシーは愕然としたものだ。
偏執狂のように拘りに拘り抜いた構文。
およそ、強迫神経症にでも罹ったかと見紛うばかりの、緻密で高精度のアルゴリズム。
『精読するだけでもとてつもない労力を要する』、『この魔術式を0からを組んだ奴は人間じゃない』、しばしば、そんな感想を抱いたものである。
同時に魔術式に秘められた真の効能を知って戦慄を憶えた。
何が何でも秘密にするべきだと思った。
実際、この魔法をもたらしてくれたハルピュイア族は効能について『妊娠と出産の負担を低減する』としか説明してくれなかったのだ。男性に起因する不妊症の治療や家畜の増産といった効能を意図的に隠したことは間違いない。おそらく、人間社会がこうむるであろう強烈な影響に配慮してくれたのだろう。
今になってようやく理解できた。
プエルペリイ・オペはハルピュイア女王国で開発されたのではない。彼女ら自身も下賜されたのだ。
超巨大ドラゴン暁光帝から。
神よりも上の絶対者から賜ったのでハルピュイア達も恐れ入って、扱いに慎重を期したわけだ。
出産の助けは女性の月経や妊娠の負担を大いに軽減する。それだけでなく男性が原因の不妊症や家畜の増産にも効果がある。
これが一部の研究者を除けば誰も知らない、プエルペリイ・オペの隠れた仕様、“秘密”だ。
傷を治す回復魔法は人間ばかりか、犬や小鳥だって治す。
野草を食んで毒に中った牛馬も回復魔法で解毒してやれる。
このように他の回復魔法が男女の性別はおろか、家畜にすらも効果があることを鑑みれば、プエルペリイ・オペの隠れた仕様、“秘密”も当たり前のことなのだ。
しかし、瓦礫街リュッダではヒトを特別視するヒト至上主義が広く信じられている。また、男尊女卑の風習も根強く残っている。だから、妊娠や出産の問題は女性にだけ原因があると思い込まれている。
それ故、この街の人々が“秘密”に気づこうはずもない。
おかげで裏の仕様とも言うべき出産の助けの真の効能は知られることなく、回復術師と人間社会は一応の平穏を保っていられたのだ。
もしも、これらの秘密が露見すればどうなるのか。
間違いなく大混乱が起きる。
まるで爆弾が爆発するような規模で。
考えるまでもない。
軍隊や冒険者パーティーからはハゲ&ヒゲ&筋骨隆々の回復役さえいなくなり、熟練の癒し手は1人残らず“魔法のお産婆さん”か“男の助産師さん”にされてしまう。
未熟な回復術師しか残らない。
そんなことになれば軍隊も冒険者パーティーも弱体化して社会を脅威から守れなくなる。
それはナンシーの望むところではない。
だからごまかす。
全力でごまかす。
「立派ですね。貴女と同じことができる人間なんていやしません」
金髪エルフは全力で褒めそやし、当たり障りのない言葉を紡ぐ。
もっとも、嘘は吐かない。誠実に対応する。
能天使アングリエルの末路をこの目で見たのだ。あいつ自身が騙されていたとは言え、事実と異なる発言をしてしまった。それだけで酷い目に遭わされた。
アスタは超巨大ドラゴン暁光帝が人化した麗人。
見目麗しくユーモアに富んだ人物であることは今までの付き合いからよくわかった。この上なく優しくて思いやりのあるしとやかな貴婦人でもある。
しかし、彼女は決して迷わない。
有害と判断すれば冷徹な判断を下せる帝王なのだ。
それは天使アングリエルを処断した様子からも伺える。
あれを観ていてナンシーは大いに理解した。
“嘘を吐く”という行為はアスタに自由な選択肢を与えるに等しい。
麗人は嘘つきに情けを掛けなければ容赦もしない。要するに何をしてもよくなってしまうのだ。
それは控えめに言ってもとんでもなく恐ろしい結果に結びつくだろう。嘘を吐いてアスタを騙して得られるものよりも失うものの方が遥かに大きいに違いない。
「うむ、うむ。当然だね。まぁ、ボクは凄く偉いしね☆」
胸を反らしたアスタの豊乳がぶるんぶるん揺れる。
さすが、ドラゴン。
すごい迫力だ。
「ええ。ええ。それで…アスタさんはどういう伝手からそのような……」
思わず訊きそうになったが、途中で考え直して口ごもる。
どういう経緯で暁の女帝様が出産の助けなどという大魔法の開発に携わることになったのか。ひどく好奇心をくすぐられたのだ。
だが、すぐに気持ちを抑えた。
『好奇心は猫をも殺す』なんて格言を持ち出すまでもなく危険だ。危険すぎる。暁光帝の内情なぞに関わるべきではない。
妊娠も出産もしない、無性生殖さえ縁のない、それどころか、“世代交代”という概念すら無縁の幻獣だ。そんな幻獣であるアスタが出産の助けなんて大魔法を開発したのは間違いなく只の戯れだろう。
どうせ、誰かから依頼されたに違いない。
その“誰か”が問題なのだが。
今は問わない。
ヤバすぎて問えない。
はっきりしていることは暁光帝が何者かに依頼され、戯れで出産の助けという大魔法を開発したのだということだ。
単なる遊びでドラゴンが人間社会に手を突っ込んでグチャグチャに引っ掻き回したわけで、ナンシーとしてはすこぶる不愉快だ。
それでも納得はしていた。
暁光帝が絡んであの程度の騒乱と影響で収まっているのだから、それこそ僥倖というべきだ。
「さぁ、みんなの活躍をもっと見ましょう」
うまい具合に麗人の注意を逸らす。
ナンシーは厄介な展開になることを全力で回避したのだ。
罵詈雑言を浴びせられたアスタが怒るくらいならまだマシ。
逆に冷静になられて。
『そうか。ボクの創った魔法に不満があるのかい』とか。
『じゃあ、もっと改良してあげよう』とか。
そんなふうに返される方が遥かに恐ろしい。
もしも、大魔法“出産の助け”が改良されてしまったら。
もしも、下級の回復術師でも使えるくらいに簡単になって、貧しい人々もその恩恵に与れるようになったら。
想像するだに恐ろしくて背筋が凍りつく。
先ず、赤ん坊が死ななくなるから出生率が爆発的に増大する。
産後の肥立ちが悪くなる母親もいなくなるから若くても老いていても女性は子供を産み放題だ。
丈夫に生まれた赤ん坊は欠けることなく全員が元気に成長し。
人口が急激に増えて。
食料が足りなくなって。
飢饉が起きる。
新たに増えた人々のための働き口を国家は用意できず。
職にあぶれた若者達が社会に不満を持つ。
後は暴動から内戦へと発展するお定まりの展開だ。戦争と飢餓で大勢の人々を死に、国家が滅びる。
大量の流民が生じて他国に流れ。
そこで奴隷にされて迫害されたり。
逆に侵略者となって他国民を襲ったり。
嫌悪が憎悪を呼び、諍いが戦を呼び、人々が殺し合う。
やがて血で血を洗う凄惨な悲劇の連鎖が始まる。
プエルペリイ・オペは不妊に悩む個々の夫婦にとって夢のような魔法だが、人間社会は暁光帝の大魔法がもたらす変化に耐えられないのだ。
あれはいつのことだったか。
「ふぅ……」
ため息とともに昔のことが思い出される。
冒険者パーティー“紫陽花の鏡”が今のメンバーになる前、仲間のドワーフがエライことをしでかした。
留守の間、ナンシーが大事にしていたサボテンの鉢に毎日、水をやってくれたのである。
水のやり過ぎでサボテンは根腐れを起こして枯れてしまった。
戻ってきたエルフは『あちゃー』と天を仰ぎ、よかれと思って水をやっていたドワーフは落ち込んだものだ。
悪意や害意がなくても行動が悪い結果をもたらすことはままある。
これと同じで、暁光帝の場合は何気ない行動がとんでもなく強烈な影響を及ぼしてしまうのだ。
もっとも、暁の女帝様には人間への善意も悪意もないだろうが。
その感覚は極めて特異なものに違いない。
おそらくは『ワカメの胞子を増やしてくれ』と頼まれたのでそういう魔法を開発してみたという感じだろうか。
そして、『上手く行ったからついでにヒジキと昆布の胞子も増やしといたよ』とでもやってくれた感じなのだろう。
そんな戯れが国家の栄枯盛衰を左右するほどの大魔法を生み出したことは驚異だが。
今の今まで自分が創り出した出産の助けを忘れていて、会話の中でたまたま思い出したのだから、暁の女帝様ご本人にとって大した魔法ではないのだろう。
しかし、おかげでありとあらゆる不妊に効果があるどころか、家畜の増産にも対応できる完璧な大魔法を人類は得ることができたのだ。
けれども、凄すぎて人間社会が壊れかけた。
文句の1つも付けてやりたい。
それでもナンシーは口をつぐむ。
「……」
アスタに向けて語る言葉は持っていない。
信じがたいことだが、“出産の助け”は一度かければ1年以上も効果が持続する。
さすがは奇蹟の大魔法だ。
そして、エルフはヒトよりも魔法が得意である。
デキるエルフ女性は月経の鈍痛を我慢したりしないのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
プエルペリィ・オペ騒動、これにて一巻の終わり。
まぁ、ナンシー1人の内心の葛藤だけですがw
それにしてもさすがは暁光帝♀、本当にろくなことをしませんね(^_^;)
この魔法を依頼したのは人間の増産を企んだ奴です。
戦乱と疫病禍が思いの外、人間社会に深いダメージを与えたのでちょっと反省?
手っ取り早く減ってしまった人口を戻すべく、クソゲーに修正パッチを当てる感覚で暁光帝♀に依頼したのです。
そしたら……
エロはロマンです。
未婚の人々にとっては。
でも、既婚者にとってエロは負担であり、重荷…なのかもしれません。
舅や姑から「孫はまだか?」と急かされ、両親からは心配される。
頑張っても頑張っても子宝には恵まれず。
ようやく授かっても「二人目は?」とか急かされる。
そして、やっぱりできない。
畑が悪いのか、種が悪いのか、両方か。
一体、いつまでこの地獄が続くのかと悩んでいると隣に越してきたデキ婚の若夫婦は「はい、三人目ができちゃってゴメンナサイ」とかホザく。
エロはロマン?
ちげーよ。
任務だよ、負担だよ、責務だよ、仕事だよ!
そして、帰省した実家の押し入れから隠しておいたエロ本orやおい本を見つけた時、「あぁ、あの頃はよかった…」と涙する。
ええ。
自宅に帰ったらまた頑張らなきゃいけません(ToT)
あぁ、「あたし、妹が欲しいの」「ボク、弟が欲しいよ」なんて、いたいけな声にも応えなくちゃいけませんからね。
この状態で浮気に走る奴っているんでしょうか。
勇者なのかな?
あぁ、“勇者”と書いて“バカ”と読む、みたいな?
赤ん坊は可愛いけれどちょっと眼を離すと行方不明。
片時も目を離せず、心配ばかりかけて。
大切に大切に育てても思い通りには育ってくれない。
生まれる前は『五体満足で健やかなら何の文句もありません』だったのが。
長ずるにつれて『あの学校へ入れそうもない』『変な遊びを憶えやがって』と不満たらたら。
でも、赤ちゃんってエロの結果でしょ?
夢とロマンの塊でしょ?
何でこうなった?
誰かが悪さをしてスキャンダルを引き起こしたら、皆で「やいの」「やいの」と騒ぎ立て、親兄弟を責める責める。
だけど、その誰かだって昔は赤ちゃんだったのです。
エロの結実。
夢とロマンの成果だったはずなのです(^_^;)
いい年こいたおっさんがカメラの放列にさらされて、その姉と言われるお婆さんが『弟がご迷惑をかけて申し訳ない』と泣く。
う〜〜〜ん、こ〜ゆ〜リアルギャグされると小説なんかじゃ現実に敵わないってことがまざまざと思い知らされちゃいますね。
あの“お姉さん”はカメラの放列の前でうつむきながら、『0<x≦y≦zである自然数x,y,zについて1/x+1/y+1/z=1を満たすx,y,zが有限個である』ことについて考えていたのかもしれませんにょ。
現実逃避なら数学!
おカネもかかりませんし、際限なく楽しめるし、特別なハードも要らないし、死んでもスタート地点からやり直すだけなのはゲームと同じだしw
えっ、「数学なんて将来、何の役にも立たない」って?
そりゃ、失敗しない素敵な人生を送ることが確定のヒトだけが言っていいセリフですよwww
失敗すると逃げたくなるから、そりゃあ、『1/1+1/2+1/3+1/4+1/5+…という無限級数は収束しない』ことを証明したくなったりしちゃうのです。
もしも、「私は数学が得意です」ってヒトに遭ったら?
あこがれますか?
あわれみますか?
ええ。
酒や博打よりも数学は逃げられますね。
あえて、「何から」とは言いませんが(^_^;)
だけど、小生は『サムライメイデン』と『エルデンリング』をプレイしたいのでPlayStation5が欲しいのです♪
レビュー動画とか、実況プレイ動画とか、繰り返し見ていたんで下手なプレイヤーよりもくわしくなっちゃいましたよ。
でも、ゲーム内転生するんだったらと考えると悩みますね。
神室町?
狭間の地?
ラクーンシティ?
ゲームギョウカイ?
『ネプテューヌ』の世界なら女神を応援してるだけで幸せに過ごせそうですね。
最初の3つは嫌な奴を転生させたいwwww
あ、“プエルペリィ・オペ”って魔法を導入したのは今、はやりの“追放モノ”にリアリティと論拠を用意したかったからってもあるんですよ〜
えっ、もうはやってない?
令和の時間の流れ、早ぇなwww
まぁ、いいんですよ。
要は大した理由もなしに子供を放逐するような“鬼畜の家族”って奴がいてもおかしくないって世界観を作りたかったのもあるんです。
えぇ、まぁ、我らが主人公、暁光帝♀にはそもそも親がいませんし、一方的な被害者になることもほぼ不可能なわけですがww
他のキャラでやるかもしれませんし、可能性くらいは用意したくなったんですよね〜
まぁ、ここまでさんざん好き放題言わせていただきましたが。
小生、エロスに死を混ぜる奴、大っ嫌いです。
ジョルジュ・バタイユの『眼球譚』辺りから始まって現代絵画の中でもグスタフ・クリムトとか、描いていましたよね。
クリムトがわかりやすいんでしょうが、なぜか、色っぽい女性を顔色悪く描いて「私の芸術はエロスに死を混ぜて表現しているのだ」とか、「エロスとタナトス、相反する概念を1つのモチーフとして表現してみました」的な難しいこと言って煙に巻く奴。
『眼球譚』は傑作だと思いますけどね。
エロと死を混ぜんなwwww
ハンバーグにパイナップル乗せた奴と同じくらい嫌いです。
もともと“死”なんてモチーフとしても大っ嫌いだし、小生が最も憎むものですからね。
“死”にロマンなんてありません。
作品の題材にしようなんて絶対に思わない代物です。
さて、そういうわけで次回は『魔力の最大値? 鍛えてもヒト族はせいぜい100ゲーデルっしょー えっ、暁光帝の? 測れるわけないじゃんww ゲラゲラゲラwww』です。
請う、ご期待!




