暁光帝は幼女と一緒に世界の秘密を探っていきます。さぁ、どんな大発見が待っているのでしょう☆
童女から大人の麗人に変身した、我らが主人公♀暁光帝☆
人間達はあ〜だこ〜だと話し合っていましたが、結局、「暁光帝♀についてはどうしようもない」という、諦めのこもった結論に至ったようです。
まぁ、仕方ありませんね(^_^;)
そして、暁光帝♀は龍の巫女クレメンティーナを連れて最も重要な問題について話し合うことを決意しました。
さぁ、どうなることでしょう。
お楽しみください。
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海水浴場は平和を取り戻した。
向こうで人々の歓声がにぎやか。
商魂たくましい自由民の屋台が客を呼び込む声がうるさいくらいだ。
もっとも、こちら、焚き火の跡は海鳥の鳴き声と潮騒だけである。
「アチュタしゃん、ずいぶんおっきくなったでち」
榛色の瞳を輝かせ、幼女クレメンティーナは麗人を見上げる。
正直、普通に話しているだけで首が痛くなりそうだ。
「うむ。ハンスが死んじゃったからね、仕方ないね」
紫色の金属光沢に輝くロングヘアーも伸びていて、身長が大人の女性くらいに大きくなったのにやはり砂地へ着くほどに長い。
もちろん、それで地に着くこともなく、麗人に変身したアスタの周囲を髪が舞っている。
重力に逆らって。
「なるほど、しょれではちかたないでち」
幼女は頷く。
身長も年齢もずいぶん変わってしまったが、紫色の金属線を踊らせる主人を見誤ったりはしない。
ハンスが楽しくて愉快な奴であることはすでに聞いていた。
昨夜、ハンスがアスタをぶん殴ったことも、それでアスタに気に入られたことも聞いた。
最初は主を殴るなんてと憤慨したものだが、『コメツキムシに跳ねられたようなもの』と語られ、『それもそうか』と納得したものだ。
クレメンティーナもコメツキムシを可愛らしく思うからその感覚は理解できる。
「冒険者登録証も手に入れたからしばらくこのままで魔法も使ってみようかと思うんだ」
童女の形態は驚異の魔気容量0gdrを実現するけれども、すでに強敵、冒険者ギルドの受付嬢はごまかせた。これ以上、魔気容量を隠す必要もないだろう。
「……」
少しうつむく。
別に落ち込んでいるわけではない。
麗人に変身したことで上がった視線よりも、豊かに膨れ上がった立派な胸乳が気になって眺めているのだ。
先ず、乳房である。
何はさておき、乳房である。
他の女性に付いている胸乳も気になるが、自分に付いている胸乳も気になるものだ。
そこでせっかくだから童女形態に戻らず、麗人形態を続けてみることにしたのである。
「しょれはたのちちょうでつね」
幼女もにこやかに賛成する。
もはや、能天使アングリエルのことなどどうでもいい。
主にとってあんな奴はユスリカにも劣る。
自分にとってもせいぜいガガンボだろう。ショウリョウバッタですらない。
そこまで考えてビロウドコガネならあるいはと思い悩んだが、すぐにどうでもいいかと考え直す。
あんな天使について悩むくらいならカナブンでも探した方がマシだ。
「しょれで、ここにはなにが?」
昆虫採集から頭を切り離して主に尋ねる。わざわざ、ここまで連れてきた理由は何だろう。
「うむ。見たまえ。世界の真実はここに隠されていたんだ」
アスタは大げさな身振りで焚き火跡の周りを指し示す。
それらは2匹いて、残飯の焼き魚を貪っている。育ちすぎた瓜を思わせる大きさで透明な剛毛が凶悪な棘として光っている。一列に並んだ背の黒い斑紋が不気味だ。蠕動する姿はまさしく毛虫。だが、縦に裂けた口が魚肉を貪る姿は醜悪で、海の生物がここまで上陸してきて餌を探すのかと、生物としてのとてつもない力強さを感じさせる。
ダイオウウミケムシ。
環形動物ウミケムシの中でもとりわけ大きな種類である。普段は海中に棲み、魚の死骸やオキアミ、他の多毛類などを貪欲に食べる。
それが焚き火の周りまで這い上がってきて人間の残飯に集っているのだ。
何という生命力。
たくましい。
「これがちぇかいのちんじつ……」
幼女は目を見開く。
珍しい海洋生物の生態を目の当たりにして大いに感動している。
「海中でしか生きられないと思われていたウミケムシがこうして陸にまで上がって餌を取るなんて…これは博物学上の大発見だよ。学会で扇情的な話題を巻き起こすことは間違いない」
麗人は力強く断言する。
もちろん、アスタの言う“学会”の意味するところが人間のそれではなく幻獣のそれであることは当然だ。
その上、人間社会では博物学よりも神学や哲学、軍学が重用されているのでウミケムシの研究は顧みられないことだろう。
しかし、そんなことが幼女にわかるわけもない。
「ちゅばらちい。しゃちゅがはアチュタしゃんでち☆」
クレメンティーナは素直に喜んで主を称賛する。
「うむ。そうだろう、そうだろう。これでボクの偉大さがさらに世界に響き渡るだろうね。善哉、善哉♪」
褒められたアスタは両手を広げ、嬉しそうに破顔する。
その表情は童女の時と変わらない。
中身が同じだから当然なのだが。
そして、“謙遜”などという言葉は知らぬ。
超巨大ドラゴン暁光帝は山河を踏み潰し、大嵐を蹴散らし、津波を断ち割る。
どこにいようと注目を浴び、何をしようと話題になるのだ。
だから、“謙遜”などという言葉からは無縁になって幾星霜。無敵であることも無双であることも龍の常である。
異形妖族の大軍も、能天使も、窓辺に飛んできた羽虫に等しい。
残飯を漁るウミケムシを眺めつつ、人化したドラゴンとその巫女は幸せと世界の平和を噛みしめるのであった。
パクパク…パク……
一心不乱に咀嚼していたウミケムシだったが、焼き魚の身が尽きてしまった。もっとも、大した問題ではない。食べ残しは豊富で他にも転がっている。
「うん……」
幼女が別の魚肉を拾ってウミケムシに与えようとするが。
「いいや、手出し無用」
主が止める。
「博物学の観察は自然な状態が望ましい。なるべく、生き物の自然な活動に手を出すべきではないね」
学問の心得を示してやる。
「なるほど、しょうゆうものでちか」
クレメンティーナは納得して焼き魚を少し離れたところに落とす。
すると、匂いに誘われたのか、ウミケムシ達はそこへ向かって這ってゆく。意外と素速い。蠕動すると言うより滑るように走る。
「おもちろいでち☆」
新しい魚肉を貪るウミケムシ達を見て幼女は手を叩いて喜んだ。
「うむ。幻獣が生き物に手を出してしまっては自然の観察とは言えないからね……」
アスタは少し口ごもる。
「さっきも本当は手を出さないよう心掛けていたつもりだったんだよ。異形妖族がちょっかい掛けてきたとは言え、ボク自身が手を出してしまったら自然の観察とは言えなくなっちゃうからね」
突然、現れた幻獣につい戸惑ってしまった。
「人間が幻獣にどう対応するのか、自然な状態を見てみたかったんだよ」
当惑したが、1頭の博物学者として野心がある。自然な人間を観察した結果を論文に仕上げれば新たな称賛を呼ぶだろうとも期待していた。
『街を襲う幻獣に対する人間の防衛戦略〜ヒト国家とフォモール族〜』なんて論文のタイトルまで考えていた。発表していたら、きっと学会を大いに騒がせていたに違いない。
つい先日までアスタは人間に関心を持たなかったが、専門に研究する幻獣は伝統的に多い。魔女や吸血鬼などのもともと人間社会に縁の深い幻獣、海魔女や人魚や妖人花と言った人間に近い姿を取る幻獣、人食いワシや人食いグソクムシのような美食家らはしばしば学会でシンポジウムやフォーラムを開いている。
そこへ最新の論文を引っ提げて登場すれば話題を独占できただろうに。
『世界を横から観る』という遊びを通じて人間を間近で観察する機会を得たのだから、それを活かすべきだとも思っていた。
うかつな行動で惜しい機会を逃したものだ。
「だけど、ハンスが死んじゃったからね。あのままではキャロルやビ・グーヒも…ひいてはナンシーも危なかった。だから、つい、ね。手を出してしまったんだよ……」
アスタの表情にはわずかに後悔の色がある。
見捨てた方がよかったのか。
そうすれば立派な論文が書けたものを。
もしも、それでナンシーやキャロルを喪ったところで後から生き返らせてやればよい。
どうして人間達を助けてしまったのやら。
「ま、いいか」
軽く頭を振る。
後悔、先に立たず。
けれども自分、天龍アストライアーは力ずくでことわざをひっくり返せる。
やらないのは気まぐれか、自分のこだわりでしかない。
その様子を見て龍の巫女は目を見開く。
「ふぅむ……」
驚いていた。
物凄く。
「コメツキムチのくちぇにハンチュはけっこうちゅごいんでつね」
感心している。
あの馬鹿の敢闘は思いの外、驚くべき成果をもたらしたようだ。
神殺しの怪物、天龍アストライアーの心を動かしたのだから。
「たかがにんげんのぶんじゃいで……」
小さくつぶやく。
暁光帝の龍の巫女が人間であるはずがない。すでに今の幼女は人間ではなくなっていたのだ。
巫女は人間とドラゴンの橋渡しをする役割を担っているが、その軸足はドラゴンの側に置いている。
そうでなければアスタの気持ちなどわからない。
だから、クレメンティーナの感覚は正常だ。
「ちゅぎもたちゅけるんでつか?」
気まぐれに訊いてみる。
主はどう答えるか。
「う〜ん、どうしようかな……」
麗人は珍しく悩んだ。
「ほほぉ……」
それを見て幼女は感心を新たにする。
悩ませたことそのものが凄い。この世の真の支配者、暁の女帝を悩ませる者などめったにいないのだから。
そのきっかけとなったハンスという男、只者ではないのかもしれぬ。
「そうだね。面白ければね、そうしてもいいかもね」
アスタが笑む。
今は『世界を横から観る』という遊びの真っ最中である。遊びなのだから楽しむべきだし、楽しくて興が乗ればそのように行動してもよいだろう。
「うん、次は何が起きるかな」
人化した恐るべきドラゴンは焼き魚を頬張るウミケムシを眺めながら期待に胸を膨らませるのであった。
そんな主を見てクレメンティーナは一言だけつぶやく。
「なら、コメツキムチにかかわればもっとたのちくなりしょうでち」、と。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
これにて<<モンスター襲来!? 海水浴場の平和はボクが守る☆>>の章は完結です。
前の章<<夏だ! 水着だ! 太陽だ! 浜辺は(・人・)の楽園☆>>が11エピソードでこの章が28エピソードですから合わせて38エピソード分、海水浴場の話でしたね(^_^;)
その間、ずっと水着ですからオール水着回ですwww
その割にあんまり色っぽい展開はなかったような…いや、きっと気のせいですね。
ちなみに2つの章を合わせても作中の時間経過は1時間弱です(^_^;)
いや、だってやったことって……
1,素潜りで海産物を拾ってきて子供達に食べさせて、
2,偉そうに絡んできたいじめっ子3人組をぶちのめして、
3,御託を並べてきた光明教団の神父さんをぶちのめして、
4,襲来したフォモール族4頭をぶちのめして、
5,侵攻してきたフォモール族の大軍に怒鳴りつけて潰走させて、
6,死んじゃったので仕方なくハンスを生き返らせて、
7,巨乳姉妹の壊れた屋台を修理してやって、
8,何か死者蘇生を咎めに来た天使をぶちのめして、
9,自分の巫女クレメンティーナにウミケムシを紹介しました。
……これくらいですからね。
正味1時間弱?
海水浴場に来たのが13時頃ですから、作中での現在時間は14時頃ですね。
ようやく陽も傾き始めたくらいwww
114話を掲載して作中の時間が4日と14時間しか経ってない(^_^;)
仕方ありませんね〜
暁光帝♀は遊びに来ただけなのでww
世界は楽しくて素敵なことが満載なのです☆
4日前まで超巨大ドラゴンは雲上を亜音速で自由気ままに飛んでいました。
ところが、今まで見過ごしてきた人間の、か弱い魔力を嘆きながら地べたを這いずり、日々の糧を求めてけなげに生きる人間の世界に降り立ったのです。
それはもう何もかもが面白くて仕方ありません。
それこそ、初めて倍率600倍の顕微鏡を買ってもらった子供のような気分です♪
接眼レンズに映る映像に夢中であれやこれや見まくるものですよね。
いや、顕微鏡どころの話じゃありません。
自分自身が縮んで極微の世界に入り込めるのと同じわけですから、興奮も期待もムッハーですよ☆
そりゃ、今の今まで造らなかった龍の巫女だって造っちゃいます。
そういうわけで童女から麗人に変身してしまった暁光帝♀です。
この後は瓦礫街リュッダを見物したり、孤児のクレメンティーナの過去が明らかになったり、またいろいろなことが起こります。
暁光帝♀の固有魔法や冒険者らしく武器を購入するお話なども……
さて、そういうわけで次の章は<<施療院って何? そっかぁ…魔法が使えるのってえらいんだー>>を予定しています。
請う、ご期待!




