暁光帝、怒れる天使に挑まれる! ハッ! 神罰が怖くて神殺しの怪物やってられっか!?
我らが主人公♀暁光帝は海水浴場に襲来した天使と討論しました。
そして、勝ちました。
「はい、論破!」ですね。
やーい、やーい! クソザコナメクジが!
天使のおまいはいつからそれを神様の言葉だと思いこんでいた?
神の法? 実は人間が作り出した方便でした! 残念!!
敗者を煽る、煽る。さすが、暁光帝♀
けれども、天使だってこのまま負けを認めるわけにはいきません。
窮鼠、猫を噛む?
さぁ、天使はどう反撃してくるのでしょうか。
お楽しみください。
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能天使アングリエルは浜辺で何もできず、突っ立っていた。
握りしめられた拳から血がにじむ。激情のあまり、爪が皮膚に食い込んでしまったのだ。
「うぅ…ぬぐぐ……」
怒りに任せて人間達を無差別に殴りたくなったがすんでのところで堪える。
明らかに天使の旗色が悪い。
論拠が示せないのも、語ったことが真実でなかったのも、言われた通りなのだ。
完全に論破されてしまった。
いくら声を張り上げたところで論戦の敗北は明らか。
このままでは神の法は永遠でないことになり、神の権威も失墜してしまう。
どうやって名誉を挽回したらいい?
そもそも、どうしてアスタがそこまで神々の歴史を熟知しているのだろうか。
天使の自分ですら知らない神々の誕生についてまで語るとは知識が深すぎる。
まるで何千年も生きてきたかのような知識だ。
意味不明がすぎて論破できる気がしない。
どう考えても論戦で勝負を挑むのは無謀に思える。
ならば、どうすべきか。
「よし、ぶちのめすっ!!」
シンプルに決意した。
論戦では勝てない。論破されたところを住民たちにも見られた。
それで神の権威が失墜したわけだが。
この逆境、論敵を物理的にぶちのめせば覆せる。
自分が正しいことになる。
ここにいる人間達も強くたくましい天使に憧れ、崇拝するに違いない。
最前線で神敵と戦う、能天使らしい、単純で楽観的な発想だった。
もとより、討論は苦手だ。アグリエルもまた能天使らしく脳みそまで筋肉でできている。
だから、決意したときから背後に浮遊魔法陣を浮かせていた。
「天使の怒りっ!!」
全ての魔力を込めて撃つ、必殺の光魔法だ。
バシュゥッ!!
目を焼く、強烈な光の弾丸が発射される。
先ほどは掻き消されたが、あんなことはまぐれだ。人間に上級の精霊魔法が止められるものか。
天使は勝利を確信している。
だが。
プシュゥッ!
全く同じ現象が起きる。6個の光弾がいずれもアスタに中たる前に消えてしまう。
「ふん」
避けるでも防ぐでもなく、麗人はつまらなそうに立っている。
別に何かしたわけではない。
逆だ。
龍鱗の効果を弱めなかったのである。
元々、ドラゴンは魔法が効きにくい。それはドラゴンの鱗に魔法を弱める性質があるからだ。孤高の八龍はその究極であり、如何なる魔法も触れる前に消え失せて魔気に戻ってしまう。
デルフィーナやリュッダ海軍の刈り上げ娘トリオに魔法を食らった時はこの龍鱗の効果を弱めてなるべく素の威力を味わおうと努めただけ。それは人間の魔法を味わってみたかったからであって、こんな天使の如きつまらぬ輩なんぞにわざわざやってやることではない。
だから、能天使の天使の怒りは龍鱗の効果で触れる前に打ち消されたのである。ワンピースを焦がすことさえできずに。
「ハッ! おまいの光魔法なんてぜーんぜん効かないよ〜だ」
挑発する。
ついでに腰に手を当てふんぞり返り、指でクイクイっと手招いてダメ押し。
「カモンボーイ!」
ニヤリと笑う。
これには我慢ならず、激高する筋肉天使だ。
「うぉのれ! どこまでこの私をバカにする!? 一発くらい抑えたところでいい気になるなっ!!」
アングリエルは禿頭に青黒いの血管を浮かび上がらせて怒鳴る。
「どんな手品を使ったか、知らんが、人間の魔力には限りがある! この素早い連発ならどうだっ!? イーラアンジェリ!……イーラアンジェリ!……イーラアンジェリ!!」
上級の光魔法を連発する。
眩しい光の球体が6個ずつ現れ、次々にアスタを襲うものの、すべて近づくだけで消え失せてしまう。
孤高の八龍の龍鱗の前ではあらゆる魔法が雲散霧消するのだ。
「ふぅん…“連発”と言いつつ、ずいぶん間が空いてるね。筋肉ばっかり。やっぱり、おまい、ダメじゃん。ツマグロオオヨコバイよりもダメじゃん」
構えることなく、けだるげに突っ立っているだけの麗人。魔法攻撃の余波でわずかにワンピースがたなびいている。
「うふぅ…おのれぇっ! 神を侮辱しおって! 食らえっ! イーラアンジェリ!……イーラアンジェリ!……イーラアンジェリ!」
アスタの言葉に怒り狂い、能天使は憎悪と殺意を込めて魔法を撃ち続ける。
狂気にまみれたその姿はもはや天使ではない。只の狂信者だ。
周りの人々の目もどんどん冷たくなっている。
それでもアングリエルは天使であり、意志がくじけない限り、魔力が尽きることはない。
しかし、撃ち続けていれば手元が狂うこともある。
「くっ…あぁっ!!」
怒りに任せて撃ち込んだ一発が目標を大きく逸れてしまった。
凶悪な光弾が屋台の姉妹を襲う。
「!?」
妹は気づかない。姉の方が目を見開いたが、光弾が速すぎて避けるどころか、動くことさえもできない。
致命的な威力を持った魔法が姉妹に迫る。もはや、2人の命は風前の灯だ。
ところが。
「ん!」
それを見た麗人がとっさに防御の魔法を発動させる。
パシュッ!
目標を逸れた光弾6発が更にまた逸らされて虚空に向かう。
魔法障壁、麗人が防御結界魔法でわざわざ外した光弾を防いだのだ。
背後の人々を、人間を庇ったことは明らかだった。
「なるほど…それが貴様の弱点かっ!!」
この様子を見て能天使はニヤリと笑う。
「弱点? 守るのは当然だろうに」
アスタは不思議そうに首を傾げる。
巨乳姉妹に流れ弾が飛びそうになったのだから防いだのだ。立派な胸乳を守る。至極当たり前のことではないか。
ちなみにこの魔法障壁は戦闘が始まって以来、初めて麗人が使った魔法であった。
「仲間を守る! 見上げた心意気だが、弱点を見せたのはうかつだったなっ!!」
激情のままに叫ぶ。
もはや、アングリエルは綺麗事を言える立場にない。何がなんでも神敵を倒さねばならないのだ。手段を選んでいる余裕はなかった。
だから、思い切った手段も取らざるを得ない。
周囲を見渡し、探す。
できるだけ弱そうな、庇護欲を掻き立てるような、それでいて魅力的な人物を。
いた!
「これで貴様の負けが決まったっ!!」
ダンッ!
砂を蹴って駆ける。
バシッ!!
周囲に集まった人々の中から1人、見つけていたのだ。有無を言わせずに捕まえる。
「きゃっ!!」
可愛らしい声を上げる、幼い女の子。暗い栗色の髪を二つ結びにして肩に掛け、榛色の瞳が印象的な、粗末な衣装の幼子だ。
可愛らしいが、自由民の中でも一際、惨めな感じが気に入った。
これならいい人質になるだろう。
「おいっ、貴様! 動くんじゃぁない! 動くとこの子供の首をへし折るぞっ!!」
幼女のか細い首を掴んで怒鳴る。
今から使おうと考えている魔法、天使の懲罰は強力な特級の魔法だ。自分の魔気容量だけでは扱えないので、どうしても魔法補助具“魔晶石”に魔気を溜める手間がかかる。
つまり、動かれると中たらないのだ。
どうしても標的に止まってもらう必要がある。
手間のかかる魔法だが、強力なので命中させさえすれば天使の怒りを無効化した強敵をも討ち倒せるに違いない。
しかし、言われた当のアスタはポカンと呆けている。
「どうして?」
短く尋ねる。
この天使の言うことの意味が意味がわからない。
「貴様はバカか!? 貴様にとって仲間の人間の命は大事なんだろう? 動かないでいれば今から私が貴様をやっつけてやる! それならこの娘の命は助けてやると言ってるんだっ!!」
アグリエルは幼女の首を掴んだまま怒鳴る。
それでも麗人はポカンと呆けている。
「つまり…ボクが動かないでおまいの魔法を食らって死ねばその娘を助けるってこと? なんて卑怯な…もう、テッポウムシにも劣るね」
軽蔑の眼差しを向けて思いっきり蔑んだ。
テッポウムシはカミキリムシの幼虫で樹木に穴を開けて弱らせる。親友の世界樹から『動けない樹木に寄生する卑怯者』と罵られていて、アスタとしてもその意見には大いに賛成している。
もっとも、蔑むばかりではない。テッポウムシは木材の繊維素や木質素と言った難分解性の物質を消化できる。また、その成虫であるルリボシカミキリは美しいし、ゴマダラカミキリは触角を掴んで持ち上げるとキィキィと鳴いて面白い。
彼らが非常に魅力的な生物であることは何人も否めないであろう。
こういう率直な感想は親友には内緒である。
「そうだ! この娘の命が惜しかったら動くんじゃぁないっ!!」
アスタが魅力あふれる昆虫について考えているとテッポウムシにも劣るアングリエルが更に脅しを掛けてくる。
「……」
幼女は恐怖にすくんでいるのだろうか。悲鳴さえ上げず、おとなしくしている。
能天使は怒鳴りながら腰紐に付けられた育ちすぎたキュウリほどの水晶を弄る。
魔晶石に魔力を溜めて特級の天使の懲罰を撃つのだ。間違いなく、憎き神敵を討ち果たせるだろう。
しかし。
たったったっ! ビュンビュンビュン!
「ていっ! ていっ! ていっ!」
いきなりアスタが反復横飛びよろしく左右に飛び跳ね始める。
「何ぃっ!?」
アングリエルはあわてる。
これでは狙いが定まらず、魔法が撃てない。
「き、貴様、聞いていなかったのかっ!? 動くな! 動くとこの娘の命はないぞっ!!」
アングリエルはあわてて怒鳴る。
だが、麗人が言う通りにする気配は全くない。
「ていっ! ていっ! バカはおまいだ! ていっ! ていっ! おまいの約束なんて信用できるか? ていっ! ていっ!」
反復横飛びしながら答える。
「ていっ! ていっ! どうせボクを殺してからその娘も殺すつもりなんだろう? ていっ! ていっ! 嘘つきの悪者が考えることなんてみんな同じだ! ていっ! ていっ!」
反復横飛びをやめる様子はない。
息を切らす様子もない。
「な…何だとっ!?」
能天使は絶句する。
“嘘つきの悪者”と決めつけられたことに衝撃を受けている。
いや、全く以てその通りなのだが。
先ほど、神の法について真実でないことを喋ってしまった。また、幼女を人質にして卑怯者であることを示してしまった。
これでは光明神の御使いとして“正義の執行者”は名乗りづらい。
そして、人質交渉というものは交渉相手が信用できるから可能なのだ。
信用ならぬ嘘つきが相手では要求を呑んでも人質が殺されてしまう可能性がある。
つまり、悪党との人質交渉など無意味なのだ。
「ていっ! ていっ! 後、その娘は人質にならない! ていっ! ていっ!」
反復横飛びしながら叫ぶ。
「ていっ! ていっ! クレミー、そいつは悪者だから! ていっ! ていっ! ぶちのめしちゃえぇっ!!」
アスタの叫びは幼女に強烈な反応を示させた。
「りょうかいでち! びりびりさんだぁーっ!!」
幼女は榛色の瞳を輝かせ、魔法を発動させる。
ピッシャーン! バリバリバリィッ!!
瞬間魔法陣が浮かんで魔気が流れ、現実の時空間に干渉、幼女の手から生み出された自由電子の奔流がアングリエルの腕を貫き、筋肉を茹で、神経を焼く。
「はっぱふみふみぃーっ!!!」
能天使は耳をつんざくような絶叫を上げ、幼女を手放して吹っ飛んだ。あまりの激痛と筋肉の収縮によって背骨が折れそうなくらいにのけぞってのたうち回る。
「あばばばばばばば……」
たくましい腕と足を奇妙な格好で突き出しながら、砂地で倒れている。
魔法の補助具として使おうとしていた魔晶石も手放してしまっている。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
幼女クレメンティーナ、無事、帰還☆
どうやらUSS所属の航宙艦には乗らなくて済んだようですwww
よかった、よかった。
そして、味方を人質に取られて脅迫されると反復横飛びして卑劣漢の要求をはねのける主人公の鑑、暁光帝♀です。
まぁ、この手の人質を取られて〜の、味方の命と自分達の目的の間で苦悩する〜の、仕方ないから武器を捨てて降伏しようとする〜の……
その後の展開は2通りですね。
(ⅰ)武器を捨てて降伏したことで無抵抗の自分は殺され、味方も無残に殺されて悪党が高笑い。
(ⅱ)思いがけない助けが現れて人質にされた味方は救出され、自分で悪党をぶちのめして大団円。
いや、最高ですね。
こういう展開こそが望まれるのです。
…
……
………
それ、ホントか?
あ〜…飽きました、こ〜ゆ〜展開(>_<)
別にゲーム理論を持ち出すまでもなく不合理ですよね、主人公の行動。
これ、典型的な描き手の嘘ですよ。
悪役の卑劣さ、主人公の正義と現実の葛藤、ヒロインのけなげさ、仲間との絆…人質イベントでこれだけの要素がてんこ盛りで描ける。
実に都合の良いイベントです。
描き手にとってね。
…
……
………
面白いか、これ?
『サイボーグ009』でも、『スカイヤーズ5』でも、『仮面の忍者赤影』でも、もうさんざん見せられましたよ。
最大の違和感は主人公の悪者に対する強烈な信頼です。
このイベントが起きた途端、悪党の信用度が☆☆☆☆☆くらいに膨れ上がりますよ。
「悪者の言ってることは信用できる!」「俺は悪者を信じる!」「俺が武器を手放して降伏すれば人質は助かるんだ!」って、バカか、おまいは?
この人質イベントは異常です。
どう考えてもおかしい。
主に主人公の頭が!
ドロンジョとトンズラとボヤッキーじゃないんですよ、悪党は。
いや、あの3人、実質的に主人公でしょwww
まぁ、何をどう考えてもおかしいんですよ。
突然の主人公の知能低下、ついでに要求を受け入れよと進言する仲間の知能低下、おまけに「わたしはどうなってもいいの!」と叫びながら敵から逃げ出そうとはしないヒロイン……
ああ、人質さえ取れば苦境を逆転できると思い込む悪漢も知能低下を引き起こしてますね。
おい、シナリオライター! こんなんでオタクをノセられと思うか!?
主人公も黙って自分の命を差し出してんじゃねぇ!
「ヒロインに傷の一つでも着けてみろ、てめぇの喉笛を描き切ってやる!」くらい言え!
とにかくイライラする展開です。
まぁ、一番頭にくるのが描き手の嘘だってわかることですよね。
描き手が描きたいものを描くためにキャラクターと世界を歪めてる。
不愉快極まりない。
こんなシーンを自分で描いてたら真夜中の校正作業中に吐血する自信がありますよ。
さて、そういうわけで次回は『帰ってきた幼女☆ 暁光帝が大あわてで最重要事項を語ります(汗)』です。
請う、ご期待!




