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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<モンスター襲来!? 海水浴場の平和はボクが守る☆>>
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えっ、哀れな男達が泣き叫んでいる? それじゃあ、暁光帝の出番かな?

平和な海水浴場を狙った怪物どもの大軍は童女の手で見ン事、蹴散らされました。

そのわけを聞いて巨乳ぅんな筋肉美女はビックリです。

「美しくない!」って何?

あ、数学者がよくゆってる奴ですねwww

素数の無限性についてサイダックの証明とか?

暁光帝♀:「あれって連続する2つの整数が互いに素であることを証明しておかなくちゃいけないから言うほど簡潔じゃなくない?」

だいじょうぶです。

数学なんてわからなくても面白い小説は描けます☆

ヒト殺したことがない奴が面白い推理小説を描けるくらいですから♪

ん? あれれ? ドイル卿って従軍経験あったんじゃ……

まぁ、いいや。

お楽しみください。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 海岸には自由民の商人がだいぶ戻ってきていた。

 彼らは今の騒動で放り出された屋台の面倒を見ている。

 「今日はもう店じまいかなぁ……」

 「騒ぎでだいぶヒトが集まってきてるんだが?」

 「お得意様が浜辺で騒いでいるからまだ行けるかもしれねぇぞ」

 「嬢ちゃん、坊っちゃん、よっといでー 怖い化け物はいなくなったよー」

 海水浴場で上流階級向けの商売をしている彼らは(あきら)めていなかった。

 フォモール族は脅威であるが、今はもういない。追い回されて生きた心地がしなかったが、今はもう安全である。

 商魂たくましい自由民は頑張っている。

 まともな上流階級の人々は目の前で起きたことが現実と思えなくて唖然としていた。けれども、子供達の立ち直りは早く、商人達の呼び声に誘われて屋台へ走っていく。

 そうなると、親達も突っ立っているわけにもいかず、執事(バトラー)女中(メイド)とともに準備を始める。

 海水浴場は何事もなかったように日常の風景を取り戻しつつあった。

 「うん。平和だね」

 アスタは黄色いビキニの薄い胸を()らせるだけ()らしつつ、可愛いらしい腕を組んで仁王立(におうだ)ち。

 「あー…アスタさん、金持ち(ブルジョア)のおっさん達が向こうで泣き叫んでいますけど?」

 もう助からないと博物学者から(さじ)を投げられた人々に視線を向けつつ、金髪の妖精人(エルフ)ナンシーは童女に注意喚起を試みる。

 「うん。うるさいね」

 魂を恐怖に(とら)われて泣き叫ぶおっさん達を見つめるが、童女は驚く様子もない。

 「あが…あがががっ! 彼女が見てる! オレを見てうー!」

 「うひぃっ! もう駄目だ! もうお(しま)いだぁぁっ!!」

 「彼女を…彼女を怒らせてしまったのだ!」

 「いぎぃぃぃっ! 死にたくないぃぃっ!」

 「死ね! 死ぬしかないんだ!」

 「そうだ! 汚れた俺達は死ななければ救われない!」

 「あぁぁ! 彼女にひざまずいて祈ろう!」

 「俺を殺してくれぇ! (あた)うる限り(むご)たらしく殺してくれぇ!」

 「彼女に殺してもらえれば我々は救われるんだ!」

 波打(なみう)(ぎわ)(いざ)りながらおっさん達が泣き叫ぶ。

 「うぅ……」

 ビョルンが口と鼻を押さえる。

 (ひど)い臭いだ。

 全員が失禁しているのだろう。強烈なアンモニア臭である。

 あまりの恐怖に耐えられなかったおっさん達は赤子のように泣き叫んでいる。

 「うけけっ! うけけけけけけっ! かのひょが! かのひょがいたろぉっ!!」

 ろれつの回らないカッポーニさんが大声で叫び、()つん()いのまま、アスタを指差(ゆびさ)していた。

 「いた!」

 「あがっ! あがががっ! いだ! いだぁぁっ!!」

 「これで殺していただける!」

 「()ねる! すぐ()ねる! さぁ、()のう!」

 「あぁ…どうか! どうか、俺の首を()ねてくださいぃぃっ! 今すぐ!」

 「俺は八つ裂き刑を望みまぅ!」

 「生きたまま、手足を()ぎ取ってくださいぃぃっ!!」

 「できるだけ! できるだけ(むご)たらしく殺ちてくだしゃいぃぃっ!!」

 「鼻を()ぎ、耳を()いでくだされば顔が血まみれになりますので…ええ、息子も大変、喜びます。是非(ぜひ)とも」

 狂ったおっさん達は腕の力だけで下半身を引きずり、(いざ)り寄ってくる。

 「ひっ、ひっ…えぐえぐ…わ、我々は重大な(あやま)ちを犯してしまいました。うびゅ…救いがたい(あやま)ちを…万死(ばんし)(あたい)します……」

 マッチョッキさんだった。

 顔が凄いことになっている。

 目から滂沱(ぼうだ)の涙を流しつつ、両方の穴から鼻水をあふれさせ、半開きの口から(よだれ)をポタポタ()らしている。

 「うびゅ…我々、商業ギルドの上級会員は…アスタ様を騙して借金を背負わせ、奴隷に(おとし)めてやろうと…(たくら)んでいました…ひっぐ、ひっぐ…断じて許されざる…愚行であります……」

 (ひど)無様(ぶざま)な様子で罪を告白する。

 先ほどまで恩知らずの自分達が卑怯(ひきょう)な手段で童女を利用しようと(くわだ)てていたことを。

 けれども、アスタは怒らない。

 「ふぅん…けったいなことを思いつくものだね。みんなで相談したのかい? さすがは人間♪」

 命がけで告白した狂人を面白そうに(わら)って眺めている。

 自分を破滅させるための恐ろしい(はか)(ごと)を聞かされたのに、恐れる様子も、(いきどお)る様子も、全く無い。

 「生きていてすみません! 呼吸して申し訳ない! 存在してごめんなさい!」

 「どうか、罰をぉぉ! 厳しく罰してくださいぃぃっ!!」

 「生まれてしまったことを後悔していますっ! 今すぐ! 今すぐ死にますので、どうか、お慈悲をぉぉっ!!」

 追従(ついしょう)してきた、大勢のおっさん達が口々に泣き叫ぶ。

 罪悪感に耐えられず、『罰してくれ』、『罰してくれ』と懇願している。

 誰しもが泣き、鼻汁を()らし、大きく開ききった口から絶叫と(よだれ)を吹き出している。

 腰を抜かして、足に力が入らず、腕の力だけで何とか、(いざ)っている。その足は痙攣(けいれん)し、あまりの疲労で腕も()(かい)な形にひん曲がっている。

 (たと)えようもなく無様(ぶざま)で、目を()らしたくなるほどみっともない。

 全員が全員、例外なく、その目に狂気の色を宿(やど)らせている。

 「あ…あぁ…これが天龍の咆哮(ドラゴンズロア)の影響なのか。あんなに立派だった商業ギルドの上級会員がみんな、狂ってしまっている……」

 慄然とする博物学者。

 暁光帝(ぎょうこうてい)()え掛けられた都市や国はこのようにして滅びていったのであろう。目の前の光景にはその過程が如実に示されていた。

 宇宙的(コズミック)恐怖(ホラー)(とら)われた人々は発狂し、心臓が耐えきれず、皆、死んだのだ。

 (ひず)んだ手足を振り回し、背骨が折れるほどにのけぞって。

 赤子(あかご)から老人まで、老若男女(ろうにゃくなんにょ)の区別なく。

 一人残らず。

 そして、廃都が死体で埋め尽くされた。

 まさしくこの世の地獄だ。

 「うぅぅ…駄目だ…見ている私まで……」

 おぞましい光景を()の当たりにしてビョルン自身まで胸がムカついてくる。

 精神干渉系の魔法は非常に凶悪で、闇属性の精霊魔法くらいしか知られていない。敵を不安に(とら)えたり、気分を落ち込ませたりすることができる。これは肉体をどんなに鍛えても抵抗(レジスト)できないこと、敵の集団に掛ければ士気をくじけることなど強力だ。

 とりわけ、戦争では軍隊の士気が勝敗を左右する重要な因子(ファクター)だから、精神干渉系の魔法は国際的関係にも重大な影響を及ぼしかねない。

 そして、回復魔法でも聖魔法でも治療できない。これらの魔法は肉体の傷や病気を治すためのものであって心の問題はどうしようもないのだ。

 精神干渉系の魔法が恐れられる由縁である。

 しかも、悪巧(わるだく)みをしていた金持ち(ブルジョア)達を襲ったのは闇魔法どころではない。

 比較にならないほど凶悪な暁光帝の天龍の咆哮(ドラゴンズロア)だ。

 「あぅあぅぅぅ…アスタ様ぁ……」

 「お願ひしぁすぅ…殺ちて…早く殺ちてぇぇ!」

 「いぎぎぎ…ワシの…ワシの目玉を(えぐ)り取ってくだされぇぇぇ」

 金持ち(ブルジョア)達は完全に正気を失って、生ける死骸(リビングデッド)のように迫ってくる。

 暁光帝の天龍の咆哮(ドラゴンズロア)は魂を(むしば)み、凄絶な恐怖で精神を侵してゆく。そして、最後は心臓を握り(つぶ)して絶命させるのだ。

 「あぁ…駄目です。もう何をしても私達に…彼らは救えない!」

 瓦礫街(がれきがい)リュッダはこれら有為な人々を失うことになる。

 ビョルンは絶望して海水に膝を着く。

 けれども、狂気に侵されて死にゆく人々を見てもアスタは(まゆ)1つ動かさない。

 「ふぅん…“アスタ様”ね」

 むしろ、呼び名を気にかけている。

 「まぁ、いいや」

 童女はしっかりした足取りで狂った人々の間に進むと右手を水平に上げてまっすぐ伸ばし。

 「許す」

 只、一言、告げる。

 たった一言であったが、それは大気を震わせた。

 その効果は激烈。

 焦点の合わない目を左右に動かし、(よだれ)と奇声だけを漏らしていた人々が目を見開く。

 (にご)った瞳に童女の勇姿が映る。

 すると、その場にいた全員が口を大きく開いて。

 「「「「「オェロ! オェロロロロロロロロッ!!!」」」」」

 嘔吐(おうと)を始め、盛大に吐瀉物(としゃぶつ)を吹き出しながら悶絶しだした。

 「えぐっ! えぐっ!!」

 「おげぇぇぇっ!!」

 「ぶひぃっ!! ぶひひぃぃぃぃっ!!」

 波間で(なか)ば海水に(ひた)りながら悶える人々。(ゆが)んだ手足を伸び切らせ、痙攣(けいれん)させながら、開ききった口から絶叫する。

 「ぶげ! ぶげげぇぇっ!!」

 「うぎぃぃ!」

 「じぬ! じぬっ!! じんでじまうぅぅっ!!」

 肥満した肉体が釣り上げられた若鮎(わかあゆ)のように跳ねている。

 立派な大人が口から盛大にゲロを噴き出してのたうち回る地獄はどれだけ続いただろうか。

 おぞましい叫びと噴出音はしばらく続いた。

 やがて、海辺は波の音と荒い息遣(いきづか)いだけになって。

 「う…うぶゎ…ゆ…許された! 我々は許されたのだ!」

 狂乱の中からマッチョッキさんがゆっくり立ち上がった。

 その目はしっかりアスタを見つめており、瞳に狂気の影は微塵(みじん)も見られない。

 「あぁっ! あぁっ! ありがとうございますっ!!」

 「許された! 許されたぞ!」

 「何とありがたいことだ!」

 「ありがとうございます! ありがとうございます!!」

 「ごでがら毎晩、生ぎで動げるごどぅに感謝を捧げるごどぅを誓いばずぅ!」

 宇宙的(コズミック)恐怖(ホラー)から解放され、正気を取り戻した金持ち(ブルジョア)達は口々に感謝の意を述べて狂喜乱舞している。

 「アスタ様、あぢがどぅございまずぅ〜 今後は光明神(ブジュッミ)ではなく、アスタ様に五穀豊穣(ごこくほうじょう)を願い(たてまつ)るように致しますぅ〜」

 まだ足に力が入らないのだろう。カッポーニさんはたるんだ腹を震わしながら膝立ちしている。

 「う〜ん…バカにされた気がするからね、“様”はやめて。ボクのことは“アスタさん”と呼ぶように」

 あふれかえる尿と吐瀉物の臭いをものともせず、童女は手を打ち振って呼び名を訂正させる。

 「はい! アスタさん!」

 「帰って一族郎党にアスタさんの名前を(たた)えるように言いつけます」

 「これからは毎晩、家族共々(ともども)、アスタさんのお言葉を唱えながら夕食をいただくことにします」

 ゲロまみれになったおっさん達は浜辺に()いつくばって童女に感謝している。

 奴隷に(おとし)めて利用してやろうと(たくら)んでいたこともすっかり忘れ、完全にアスタを崇拝しているのだ。

 その心情はもはや宗教に近い。

 いや、すでに宗教か。

 「アスタさんが如何(いか)に偉大であるか、それを街中を啓蒙(けいもう)せんとの使命に私は打ち震えております!」

 胸毛と膨れた腹を吐瀉物(としゃぶつ)で汚したまま、マッチョッキさんは宣言した。

 「おおっ! その通りだ!」

 「アスタさんの偉大さを世界中に知らしめねば、我々に未来はにい!」

 「商業ギルドの総力を結集して偉大なアスタさんを称賛するぞ!」

 「我々は偉大なアスタさんのありがたい言葉に救われました! この御恩(ごおん)は一生忘れません!」

 「私達はこの信仰に(じゅん)ずる覚悟です!!」

 おっさん達はアスタを拝んでいる。

 宇宙的(コズミック)恐怖(ホラー)からは解放されたものの、この世の真の支配者が誰であるかは魂に刻み込まれたまま忘れられない。自分と一族の未来を“偉大な者”に(ゆだ)ねる気満々である。

 しかし、これだけ(あが)められても童女は平然としている。

 「うん。ボクが偉いのは当然だからね。事さらに強調しなくてもいいよ。せいぜい、身内の間にとどめといて」

 うなずいて。

 「後、ここはみんなが遊ぶ海水浴場だからね。ボクのことであんまり騒がないように」

 軽く手を払う動作を見せる。

 「「「ははぁー!!!」」」

 おっさん達はアスタの意を()んで土下座すると一斉に立ち上がって走り去ってゆく。

 元気なことだ。

 つい先ほどまで狂い死にしかけていたようには見えない。

 「あ…あぁ……」

 絶望の(ふち)に立っていたビョルンはあまりと言えばあまりの展開に目を見開いて呆然(ぼうぜん)としている。

 「偉いのは否定しないんだ……」

 口をポカンと開けたまま、ナンシーも意識が飛びそうになっている。

 「いや、それもそうか。暁光帝なんだから……」

 小声でつぶやく。

 超巨大ドラゴン、(あかつき)の女帝は神殺しの怪物であり、この世の真の支配者たる孤高の八龍(オクトソラス)が1頭である。

 間違いなく世界一偉いのだ。

 それはもう“謙遜(けんそん)”など豚の餌にしてしまうのだろう。

 そして、あれだけの狂人どもに囲まれても眉1つ動かさなかった。

 どれだけ注目を()びようが、どれだけ騒がれようが気にしない。

 さすが、暁光帝である。

 (いな)

 真に偉大だから騒がれても(あが)められても当然のこととして受け止め、(おく)さないのである。

 人化(じんか)する前のアスタ、すなわち暁光帝は四足(よつあし)で歩いていても頭が雲の上に伸びるほどの超巨体だ。只、そこにいるだけで大地が(きし)んで悲鳴を上げ、雲が千切(ちぎ)れ、大気が(うな)る。

 注目されるのも騒がれるのも当たり前。むしろ、そちらの方が普通であり、こうして目立たないことの方が珍しい。

 だから、強大な幻獣(モンスター)巨人(ギガース)鷲獅子(グリフォン)も他の古龍(ドラゴン)(こうべ)()れる。

 それ故、人化(じんか)しても暁の女帝様は(たと)えようもないほどに偉大であらせられるのだ。

 そこらの国々の王様やら皇帝やらとはわけが違う。ハリボテの威厳など(まと)う必要がない。

 「けれど…“様”呼びは(こば)んだ? どうして?」

 今のやり取りに少しだけ違和感を感じる。

 どうしてアスタはあからさまな敬意を嫌ったのか。

 本人は『バカにされた気がするから』と理由も述べていたが、これが意味するところが鍵なのだろうか。

 「そういえば以前、アスタが言っていたわね……」

 ある1つの言葉が思い出される。

 あの時、アスタは怒って『支配するということは支配されるということ!』と叫んでいた。

 『結局は一番強い奴に全部決めてもらおう、面倒を見てもらおうって話じゃないか!』とも。

 「そうか…そういうこと…なのね」

 天地がひっくり返るような感覚に驚愕する。

 あまりにも偉すぎるため、暁光帝の感覚では“支配”と“被支配”が同義なのだ。

 なるほど、神殺しの怪物は考えることが違う。

 太古の神魔大戦でも暁の女帝は神々が世界に上下の身分を構築しようとしたことに激怒したと伝えられている。それで人間を他よりも上位に置こうとした光明神と暗黒神を膺懲(ようちょう)したのだ。

 「ま…まぁ、いいんじゃありませんか。よしんば宗教になってもせいぜい身内の間だけでしょうし。あの方々がアスタさんの言葉に(さか)らうとも思えませんからね」

 何とか自分を立て直した博物学者が語り始める。

 「やはり、私の仮説は正しかったようです。今も『許す』のたった一言で…ゲロと一緒に魔力の影響を吐き出させた。お金持ち達の精神を(むしば)んでいた恐怖を散らしてしまったのです」

 クイッと眼鏡の位置を直して。

 「アスタさんが魔法を使えないのは身体(からだ)魔気(まき)の絶縁体で(おお)っているから。けれども、体内で練り上げた魔力を声に乗せて吐き出せるんですよ。だから、『許す』の一声で天龍の咆哮(ドラゴンズロア)の影響を払拭(ふっしょく)できたのです」

 眉をひそめて難しい顔をする。

 自分で言っていて納得できないのだ。

 魔法は使えないけれど声だけで精神干渉系の魔法よりも凄いことができるって何なんだろうか。

 あまりに非常識な能力に頭が痛くなる。

 「理屈だけなら考えて理解できるんですが、感情が追いつきません。まぁ、暁光帝ですからね……」

 童女に聞こえないよう、控えめにつぶやく。

 「まぁ、アスタさんが呼吸を忘れているのはよいことです。下手をすれば息をするだけで大変なことになっていたかもしれない」

 最悪、アスタの息を吹きかけられた人間が怪物に変異したり、逆に超人に変身していた可能性もある。暁の女帝様の吐息など何が起きるか想像もつかない。

 「そして、息をしていないからこの(ひど)い臭いにも平気なんです。アスタさんは臭いが()げていないのですよ……」

 おっさん達が吐き出したアンモニアと塩化水素、悪臭の中でも平然と立つ童女を横目に解説する。またしても息をするのを忘れているのだ。当然、他のこと、(まばた)きや発汗も忘れているに違いない。

 息をしていないから鼻から空気を吸い込むこともなく臭いがわからない。臭いがわからないから悪臭も平気だ。

 人間でない、人間から遠くかけ離れた、天変地異(てんぺんちい)そのものと言えるほどの化け物が美しい女性の姿に変化(へんげ)して街を闊歩(かっぽ)しているという事実。

 それこそが魂を狂気へと(いざな)うのかもしれない。

 「そうね。アスタの()(よう)は人間の理解を超越してるわ。こればかりはどう考えても納得できないけど…無理矢理にでも納得するしかないわね」

 エルフも同意するしかない。

 向こうでアスタはギュディト百卒長(ケントゥリオ)から()(たた)えられて良い気分に(ひた)っている。

 「さすがはアスタさん! 世界一強いと気違(きちが)いも治せるんですね☆」

 只、()めるだけでもたくましい上腕二頭筋に力が入り、盛り上がる。黒い肌に白い歯が()えて印象的だ。

 巨女は普通の男が肩までしかなく、童女はヘソくらいまでしかない。

 目の前の英雄は小さくて、女性で、ヒトでない亜人に見える。

 それでも素直にアスタを称賛している。

 百卒長(ケントゥリオ)に偏見や差別の感情はないのだ。

 力だけを信奉(しんぽう)する、良い意味でも悪い意味でも脳みそまで筋肉でできているギュディト百卒長(ケントゥリオ)は世界最強のアスタを手放しで素晴らしいと思っているのである。

 「うむ。うむ。やっぱりボクは凄いよね。当然だけどね」

 上機嫌の童女だって何も考えず、しきりにうなずいている。

 ()められることは好きなようだ。

 単純である。

 しかも、持ち上げる方はカネもモノも要らない。

 安上がりである。

 そして、どんな強敵が攻めてきても一声、()えるだけで撃退できる。

 比類なく強力である。

 こちらとしては只、言葉で称賛するだけで国家の防衛が成るのだから実にありがたいことだ。

 もっとも、この状況を奥方様や領主が喜んでくれるかは不明。

 暁光帝が国防を助けてくれると知ったら何と言うのやら。

 「少なくとも『ありがとうございます』はないわよねぇ……」

 ナンシーは為政者まで狂わないでほしいとつくづく思うのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます♪


薄っ! 【ガールズラブ】要素、薄っ!!

代わりにクトゥルフ神話要素がてんこ盛り☆

えっ!? どこがって?

主人公♀が神話生物wwww

SAN値チェックに失敗したおっさん達が発狂してゲロ吐いてるぉww


さて、そういうわけで次回は『泣かないで! ハンスの犠牲は誰も忘れない。暁光帝も泣いているんだ。ホントだよ。』です。

請う、ご期待!

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