押し寄せるモンスターの群れ! 瓦礫街リュッダの危機! 今こそ、暁光帝が立ち上がる!
大変!
モンスターのスタンピードが起きてしまいました!!
このままでは瓦礫街リュッダが滅びてしまいます!!
いえ、それ以前に世界が滅びてしまいます!!
主に暁光帝♀のせいでwwwww
いろいろヤベえwww
暁光帝:「えっ、そんなに危ないの? じゃ、ちょっと人化を解いとく?」
エルフ&博物学者:「あわあわあわ!! 世界が! 世界が滅びちゃう!」
大変です(^_^;)
さぁ、街はどうなるのでしょうか。
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
上流階級の中年男達が集う海岸に異形妖族の叫び声が響き渡る。
「グギャァッ!! ケツカレヌ! ケツカレヌ!」
「オゲゲッ!! エカレ!」
「ゲッコ! ゲッコ! ゲッコォー!」
意味不明だが、言葉も含まれているようだ。
見よ、その恐ろしい姿を。
大男が6本の腕それぞれに持った銛は1本で人間2人を刺し貫けるだろう。
左右不対称の大男は肥大化した左腕で拳を振り回している。逆に右腕は不自然に萎縮していて、代わりに右足が3本ある。岩のような拳で殴られたら人間の頭などスイカのように弾けてしまうだろう。
4本足で歩く肉塊は4本腕を振り回していて、それぞれが人間の背丈よりも長い。柄の付いた目玉がギョロギョロと辺りを見渡している。
巨大な二枚貝から突き出たクマの顔、その口から垂れる粘液は明らかに海水と異なる。よほど飢えているのだろう。食べ物を求めて執拗にこちらを見つめている。
そして、今、波打ち際には上流階級のおっさん達がいる。よく肥えた、栄養満点の男達が。
「オレは美味しくないぞぉ!」
「うひぃっ! お助けぇっ!!!」
「神様、神様! あなたの信者が追い詰められているのですぞ!」
「死にたくなぁぁい!」
「あぁ、もっと痩せておくんだったぁっ!!」
浜辺に金持ち達の悲鳴がこだまする。
これを聞いて腹を空かせたフォモール族も興奮して叫びだす。
「クエ! クエ! ヒト! オベド!」
「ヒトノチ、イッショウゴンゴウ!」
「ヒトノチソウ! ヒト! ヒト!」
「タントオアガリ!」
暴れる怪物に水面も泡立つ。
これら、喧騒が頂点に達した時。
「ウゲェグォォォォッ!!」
目をつむったまま、魔眼のバロールが吼えた。
それは号令。
「グワァオォォォッ!!」
「ビギー!!」
「キシャー!!」
「プケケケッ!!」
配下の怪物達が鬨の声で応える。
今こそ侵攻の時と知らされたのだ。
一斉に上陸しようと白波を立てて駆け上がる。
その迫力は強烈で、おっさん達は腰を抜かし、多くが失禁して泣き叫んだ。
「あひぃー!」
「もう駄目だー!」
「皆殺しにされちまう!」
絶望の悲鳴が上がる。
「俺達が何をしたっていうんだよぉー!?」
誰かが叫んだ。
「アスタさんを奴隷に落として利用しようと企てただろうが……」
わずかに良心が残っていたらしい、マッチョッキさんが泣いていた。
本気で後悔している。
もっとも、後悔、先に立たず。皆、今からフォモール族の大軍に蹂躙されてしまうだろう。これまたことわざ通りの不幸を味わっている。
怪物どもは多種多様だ。でかくて鈍い奴ばかりではない。魔法を使う者や素速い者もいるから、肥満したおっさんが逃げてもすぐに捕まってしまうだろう。
逃げられない。
「うひぃっ! うひぃっ! お助けぇー!」
腰を抜かしたカッポーニさんが必死で躄っている。死にものぐるいだが尻を砂に着けたままなので鈍い。
「いひぃっ! ひぃっ! ひぃっ!!」
情けない悲鳴を上げている。
助けてもらったのにアスタを騙して利用しようと企んだ卑怯者はみっともない姿を晒している。
「うぐぐぅ…欲をかきすぎたか……」
仲間の醜態を見てマッチョッキさんも絶望している。
平和と繁栄を享受してきた日々が終わるのだ。光明神の教えに従って商ってきたのに。
何が間違っていたのだろう。
いつから間違えてしまっていたのだろう。
フォモール族の大軍が迫ってくる。
自分と商業ギルドの仲間達を惨たらしく殺しに来ている。
目の前の破滅から目がそむけられない。
敵に上陸されてしまった今、リュッダ海軍は役に立たず、リュッダ陸軍も間に合わない。そもそも、闖入してきた4頭に対応するための戦力ではこの大軍を相手にできるわけがなく、無意味だ。
強欲なおっさん達の命運は完全に尽きていた。
「あぁ…これが終わりなのか」
頬を滂沱の涙が流れてゆく。
しかし、その時、胸の奥から湧き上がるものがある。
衝動だ。
生への衝動。
只、生きていたい、とにかく明日の朝日を拝みたいという、みっともなく浅ましい欲望が胸の奥底からあふれ出てくる。
それは強烈にマッチョッキさんを突き上げ、無理やり、口を開かせる。
「助けてくれぇ! アスタさぁん! ブタよりも小さいアスタさぁぁぁん!!」
命がけの絶叫だった。
生への渇望がわずかに残った希望にしがみついて、身体を突き動かし、あらん限りの声を振り絞らせる。
すると、奇蹟か。
遠くから澄んだ声が聞こえてきた。
「うむ、そうだね。呼ばれたんじゃぁしょうがない。このボクが助けてあげよう☆」
初夏の陽光に照らされて紫のロングヘアーが金属光沢で輝き舞う。虹色の瞳は強烈な意志を湛える。黄色いビキニに包まれた、子供らしい足が大地を踏む。
珍妙な形容つきで助けを求められ、この上なく上機嫌だ。
けれども、小さな童女は只、歩いているだけなのに例えようもなく厳かで強大に見える。
「じゃあ…」
アスタが両腕を大地に着ける。
四つん這いだ。
すると、可愛らしい顔が歪み、見る見る内に変形する。
麗しい虹色の瞳は点のように絞られ、口は耳まで裂ける。
白く透き通った牙が長く伸びて、口から突き出し、ガラスの花のように咲く。牙の群れはまるで別の生き物のように蠢き、半透明の青に変わる。
それは天龍の攻撃色。
二目と見られぬ恐ろしい面相が海を睨めつけ。
凶暴な口が大きく開いて叫ぶ。
「ぐゎおぉぉぉぉぉっ!!!」
天龍の咆哮が雷鳴のごとく響み、天地を鳴動させた。
「うぐふぅっ! これはっ!?」
マッチョッキさんが目を見開く。
これは何としたことか。
膨大な魔力を孕んだ吼え声に蒼天の雲が千々に乱れ、海神が沸き立ち、大地が震えている。
ドラゴンの咆哮が与える影響は物理的な現象にとどまらない。
「あ…あぁ…あぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁっ!?」
マッチョッキさんは震え上がった。心の奥底から真なる恐怖が、底知れぬ深淵に引き込まれるような感覚が、宇宙的恐怖が湧き上がってきたのだ。
恐ろしい。
世界の主役は人間でないことが、この世の真の支配者が存在することが、神々は無力で人間を守ってくれないことが、魂で理解できた。
理解できてしまった。
鬼面の、恐ろしい童女の虹色の瞳がまっすぐ自分を見つめる感覚。
自分が何者であるか、それが自分の中から失われてゆく感覚が襲ってきた。誠実な夫としての自分、有能な商人としての自分、子供に頼られる父親としての自分、神の敬虔な信徒としての自分、それらが無情に剥ぎ取られて。
それら全ては只の虚飾だったのか。
夫だ、商人だ、父親だ、信徒だ、自分でそういうものだと思い込んでいただけなのか。
奴隷も王もない。彼女の御前では全てが等しく無意味なのだ。
瓦礫街リュッダを支える商業の重鎮である自分も、名家を支える家長である自分も、全てが単なる思い込み。
何もかも初めから存在していなかったのだ。
何故、気づかなかったのだろう。
自分は存在することさえ恥ずかしく罪深い、彼女から顧みられることない、塵芥だったのだ。
「う…げ…げぇ…“彼女”って…誰だ? うぎぃっ! ぎぎぎ…ぎぃ…ごげぇ……」
疑問も湧いたが、それどころではない。強烈な罪悪感と体の芯まで凍らせるような恐怖が襲ってきているのだ。
バシャン! ガッ! バシャン! ガッ!
頭を海水に浸し、何度も砂地に叩きつけて後悔の涙を流す。
駄目だ。
謝罪しなければならない。
誰に?
いと貴とき、あの御方に。
彼女をないがしろにしたことで自分は超越概念の1つである“存在”について形而上学的な範疇を乱してしまった。
何たる大罪か。
この世の真の支配者であらせられる彼女に謝って、殺してもらわなければならない。
できるだけ冷酷に、できるだけ残酷に。
一刻も早く、忌まわしい罪人である自分を殺していただかなければ。
汚れた命をお返しして地上から消え去るしか、贖罪の道はないのだ。
狂った衝動に駆られた思考。
自分で自分を傷つけ、破壊する思考に囚われてしまっている。
狂気がじわじわと精神を蝕み、人間としての尊厳をマッチョッキさんから奪ってゆく。
「うぐっ! ぶくぶく…うぴぁっ! かっ…はぁっ…ぐく…く…ぬがぁっ!」
海水の中で口から唾液の交じる泡を吹き出しながら必死で考える。
このままでは破滅へ一直線である。
自分について考えては駄目だ。
彼女について考えては駄目だ。
精神の安定を図るために他の、何か他の、自分にも宇宙にも物質の存在にも関わらないことに意識を注がなければならない。
「あゎびゅっ!」
海水を吹き出しながら、宇宙的恐怖に囚われた思考を何とか逸らし、解き放とうと試みる。
「ぎ…ぎずぅ…奇数だず奇数わ偶数になう…偶数足す偶数は偶数になる…」
マッチョッキさんは商人らしく数字を思い浮かべて狂気から逃れようと足掻いた。
天龍の咆哮を聞いてしまった他のおっさん達も発狂している。
「うびゃあっ!」
「あじゃぱぁー!」
「うぎゃぴぃー!」
皆、悲鳴を上げて逃げ惑う。もっとも、腰を抜かしたままだからまともに走れるわけもない。
1人の例外もなく、誰もが焦点の合わない目で絶叫しながら浜辺の海水の中を転げ回っている。
「こ、これは…こんなことがぁぁっ!?」
脳を侵食する恐怖に震えながら、なけなしの理性で何とか周囲を観察するマッチョッキさんは気がついた。
人間ばかりでなく、フォモール族も恐慌に陥っていることに。
「あすとらいあー!!!」
「グガゲェェェェッ!」
「ウガァー! あすとらいあー、ドゥビィッ!!」
「フブヮ! オブッ! テンリュー、ギダァァァッ!」
「オジマイ! ミンナ、オジマイ!」
「あすとらいあーノドゥグヴェ! あすとらいあーノドゥグヴェェ!」
「エカル! テンリューノドゥグヴェ! エカル!」
怪物どもはこちらを見て口々に絶叫している。
いや、マッチョッキさんやおっさんどもを見つめているわけではない。その背後で天龍の咆哮を轟かせた童女を見つめておののいているのだ。
「イキィー!」
「ヒィ! ヒィッ!!」
「あすとらいあー、ネデバ! ウグ! ウグ!」
「テンリュー、アビイィィィッ!!」
どの化け物も例外なく泣いていた。
ある者は醜い獣の顔を歪ませ、ある者は皺だらけの爺の目を見開いて、それぞれが滂沱の涙を流している。
「そ…そうか。奴らも…怖いんだ…恐ろしいんだ……」
マッチョッキさんは何とか、破滅から思考を逸らせていた。
どの化け物も泣きながら逃げていく。
恐慌に陥って前後不覚になっている。
1000頭を越える、凶暴な幻獣が、だ。
改めて彼女の恐ろしさを思い知らされた。
彼女は全てを統べる。
彼女は全てを定義する。
その御前では幻獣も人間も等しく無価値なのだ。
「が…か…“彼女”って…誰だ? うぎぃぃっ!!」
恐怖が激痛に変わっていた。狂った頭で考えると強烈な頭痛に苛まれて息が止まりそうになった。
駄目だ。
彼女について考えては駄目だ。
「グギャアァァァァァァァァッ!!!」
凄まじい絶叫が海を揺るがした。
魔眼のバロールだった。
4つの邪眼を開く様子はない。
フォモール軍団の首魁もやはり恐慌に陥っている。
目を開かないのはあまりにも恐ろしくて彼女の姿を見ることができないからだ。
その証拠に閉じたままの魔眼から滂沱の涙をあふれさせている。
クッションよりも大きな目蓋が痙攣している。
大きな牙の生えた口が叫んでいる。
その絶叫は哀れを誘う泣き声。
恐怖と後悔に駆られてフォモール族の大王が情けなく泣いているのだ。
「イギッ! ギッ! あすとらいあー! イギィィィッ!!」
魔眼のバロールは両腕を無意味に振り回しながら故郷へ、昏く冷たい海の底へ向かう。
脇目も振らず。
一心不乱に。
振り返れば破滅するであろうことを魂で理解していた。
だから、尻に帆を掛けて全力で逃げている。
「フギェェェッ!」
「あすとらいあー、オゴッデル!」
「シニタクネ! シニタクケツカレ!」
「イヒィッ! テンリューノケツカレ!!」
「エカル! あすとらいあーノドグヴェ!」
「オベド! ワルグナガンネ! ミンナ、ワルグナガンネ!!」
「クロノコドモ! コドモ、ワルイ! ウリラ、ダマザレダ!」
怪物達は口々に泣き叫びながら、大王の後に続いた。
彼方の海へ。
昏く冷たい海の底へ。
そこは天龍アストライアーがいない場所だ。
超巨大ドラゴンが怒り狂っていない場所だ。
化け物どもにとってそこは天国に思えた。
だから、全力で海へ潜り込む。
醜い怪物の群れが次々に水へ沈む。
ポチャン!
海面から小さな飛沫が跳んだ。
それを最後に海原は静まり返る。
何事もなかったかのように只、寄せて帰る波が砂浜を洗うのみ。
瞬く間に海辺からフォモール族の影が消え去ったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
これにてモンスターのスタンピード、終了でございます。
正味5分くらいでしたかね。
えっ、最低でも1時間以上かかる一大イベント?
う〜ん、泣き叫んでのたうち回るおっさんどもを1時間分、描写するのはちょっと……
“天龍の咆哮”こと“ドラゴンズロア”にはいろいろヤベえ効能がありますね。
なにしろ、吼えてんのが破滅の邪龍ですからwwww
温泉の効能よりけっこうヤベえのですwww
そして、我らが主人公♀暁光帝、マジ化け物♪
イメージしながら描いてますが、けっこうなインパクトなのです(^_^;)
美少女なのにモンスターもやれる!
さすが、主人公☆
真正面から見たら1D100のSAN値チェックです。運が良ければ発狂しなくても済みますね。
小生は子供の時分に図書館で借りた『ダンウィッチの怪』に出てくるウィルバー・ウェイトリィの弟の叫び声が強烈に印象的でしたね。
「たす…たす…救けてくれぇ! ち…父上ぇっ! ヨグ=ソトホート! ヨグ=ソトホートォォーッ!!」
家よりもデカい不可視の化け物が銛の木々をなぎ倒しながら、悲鳴を上げて、手を天に差し伸べて父親に救済を乞い願うシーンが印象的でした。
怪物の破滅を見届けた人々の1人が真っ青になりながら「あの怪物の顔にはウェイトリィ家の特徴がある! あいつはウィルバーの弟だったんだ!」って叫ぶラスト…実に衝撃的で素晴らしい☆
…
……
………
何で図書館の子供向けコーナーに置いてあったんだろwww
まぁ、これですっかり参ってしまい、中学&高校&大学&…と読み漁りましたね。
今でも読んでいるのでずっとかなwww
TRPGゲーム化されて人気が出たのも楽しいし。
そういや、読んでいて「東方に海産物を生で食べてキリスト教ではない宗教を信じて奇怪な儀式を行う邪悪な民族がいるのだ」って表現がありまして…めっちゃゾクゾクしましたっけ。
そりゃ、インスマスの住人よりも邪悪ですって♪
その後、「刺し身って生の魚なんだ」と気づき……o| ̄|_
“邪悪な民族”の正体がめっちゃありふれていたので落胆(>_<)
いえね、「その魔導書は邪悪なルーン文字で描かれていた」って文章にうんうんうなずいていたらその後に「もう一つの魔導書はさらに邪悪な漢字で描かれていたのだった」という衝撃的な表現がありまして……
漢字って邪悪なんだ…と(´・ω・`)
でも、日本人が邪悪ってのはちょっとだけ嬉しかった…かなぁ。
少なくともクトゥルフ神話に出番ありますしね(^o^)
ちなみにラヴクラフトが“最も邪悪な禁忌”として描いていたのが“ご近所の墓荒らし”でした(^_^;)
遺跡とかじゃなくてね、ご近所の墓荒らし。
それで埋葬品の邪悪なペンダントだかタリスマンだかを掘り当ててしまった放蕩息子とその友人が破滅する話が面白かったんですよ。
その埋葬品が彼方の異世界から邪悪な怪物を呼び寄せてしまって、仲間や友人たちが殺されてゆき…さぁ、大変☆
有名な「あぁ、窓に…窓に!」ってのもこれだったかなぁ……
あぁ、「『宇宙からの色』、どうすんだよ?」ってのは今でも思いますけどね(^_^;)
さて、そういうわけで次回は『暁光帝のおかげで海辺に平和が戻ってきました。皆さん、きちんと感謝しましょう☆』です。
請う、ご期待!




