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第九十七話 君の名は

本日、事情により普段より投稿遅れております。

今後も投稿時間などについては活動報告でご案内する場合が御座います。ご了承下さい。

 準備を終えた私達は連れ立って目的地へと向かう。


 朝方を過ぎ、昼前の時間帯だというのに大通りは活気に満ち溢れていた。


 道行く人々は、その殆どが私達と目的を同じくする様で、複数人で固まり武具が並ぶ露店を眺める者や、これから向かう魔窟での対策を、道々で世間話でもするかのように話し合う者達が大勢いた。


「寡聞の身だが、ミネリア王国ではあまり見ない光景だな」


 私の呟きに、地元の人間であるベルナが反応を返す。


「バトランド皇国では、その、歴史的に戦闘能力が特に重視されていますので、覇者の塔の攻略は国からも奨励されている行為なのです」


 流石はこの時世に覇権主義を唱える気概の有る国家だと言うべきだろうか。


 これでは他の国から見れば、大戦の時の思想から抜けられていない、と批判的に見られるのも分かる。


 私が学んだ限りでは、人が魔を克服する為の努力は正統極まりないが、それが娯楽に寄り過ぎたり、過度な競争を煽るのは問題視される風潮がこの世界には根強い。


 だが同時に私個人としては、この光景は前世で嗜んだいかにも『異世界』であるように思えて、確かな高揚を胸に感じるのも事実だった。


 またこの都市に集う冒険者その他からは、魔物蔓延る世界で悲観的に縮こまる事こそ愚の骨頂とでも言いたげな雰囲気が感じられる。


 あるいはそれは、英傑都市の名を冠するこの都市そのものの矜持なのかもしれなかった。


「見えてきたぜ。それで、母ちゃんとはどこで待ち合わせだ?」


 それについては、スピネは来れば分かる様にするの一点張りだった。


 どうしたものかと入り口付近まで近づけば、成る程軽い人集りが出来ている。


 流石は有名人という訳か。


 いや違う、人集りの中心から狼煙の様にモクモクと煙が上がっている。


 憐れな不死鳥だ。遂にそんな目的で使われる様になったのか。


 二日酔いで歩みの遅い大人組を尻目に私達はその集団に近づき、そして私はそれを後悔する羽目になった。


「ようアダム! 昨日ぶりだな!」


 意気揚々と高い位置で一纏めにした赤い髪を揺らしながら此方に手を振るスピネ。


 その横で顔を赤くしながら頭から煙を噴く不死鳥は、昨日メイドキャバクラで会ったときの姿そのまま、つまりはセクシャルなメイド姿をしていた。


 そして彼女の手には、店の位置を示す地図が描かれた大きな看板が携えられている。


「か、かわいーメイドとい、一緒に、お酒を楽しめまーす! 御来店下さーい!」


 ヤケクソか?


 ライラ達は目の前で繰り広げられる光景に目を丸くしている。


 エロメイド服姿の女性を従えた自分の母親の姿を見たロットは――他人のフリをしようとするな。あれは君の母親だ。


「やりたい事はわかるが、やって良い事だと思わないで欲しかった」


 私は観念して声をかける事にする。


「私だってこいつの借金返済については思うところがある。宣伝も出来る、こいつの準備も出来る。最高の考えだと思うんだがな」


 効率だけ見ればそうだが。


 そう考えた所で、私は大変な事実に気づいた。


「スピネ。君はこの服装のまま、こいつを魔窟に入れる気か?」


「だって背中が空いてねえと、こいつ羽の火の粉で服を燃やしちまう。そして新しく服を買う様な暇も、金も無い」


 すげえ事になってしまった。


 つまり私は、年若い女性の姿をした魔物に扇情的な服装をさせて辱めつつ、時たま、やおい話のネタを振りながら魔窟を登る訳か。


 しかもライラ達と競争で。


 女性陣の、意味深な視線が、痛い。


 説明させてくれ。


「あー……。ロット、デカくなったな。飯食ってるようで何よりだ」


 スピネ。不器用な母と子の再会やっている所悪いが、どう見てもそんな雰囲気じゃない。


 ロットも助け舟を求めている所悪いが、こちはこっちで手一杯だ。ちょっと待っててくれ。


「うぉえ」


 大人共、えずくな。


 私はぐだぐだになった場の空気をなんとか持ち直すと、周囲の好奇の視線に晒されながらも覇者の塔へと入場するのだった。


 内部は、先日とは時間帯が異なる事もあってか、それほど混雑が見られない。


 ギルド入り口から向かって正面方向に存在する受付を確認する。この間は掲示板の確認を行っただけだったので、私にとっては初めての利用となる。


 受付は単独ではなく、横に並ぶ複数のカウンターが準備されており、利用者は木札を手に持ちながら、紐で区切られた列で自分の番を今か今かと待ち望んでいた。


 どうやら列整理には所謂フォーク式を採用しているらしい。


「一党の奴らが全員押しかけたんじゃ大混乱だ。ああやって代表者が列に並んで、てめえらの番が来たら仲間を呼ぶのさ」


 スピネが列の先頭を指差しながら説明を行う。彼女が少しでもロットに良い所を見せようとしているのが伝わって来た。


 成る程、よく見ればカウンター近くの黒板に現在対応中の番号とやらが書かれている。


 列の入り口には籠に入った木札が備え付けてあった。どうやら別に数字順というわけでも無いらしい。


「ここの受付は入場関係だけど、他にも買取用の受付なんかもある。左の方だ。取り敢えず、私含めて三人並べば良いだろ」


 つまり、スピネは単独で魔窟に入るつもりらしい。


 ロットが明らかに不満げな顔をする。


「私は今、六十八階だ。お前にはまだ早い。まあ、追いついて来られるなら、一緒に行く機会もある……あるな」


 うーむ、これは競争相手として非常に手強い事になりそうだ。


「アダムさん、では列はよろしくお願いします」


 私は離脱しようとする不死鳥の肩に手をおくとそれを阻止した。


 列に並ぶのは得意だろう?


「得意ですけど、好きって訳じゃ無いですよ! は、離せーい!」


 ジタバタもがくメイドを見て、スピネが何かを思い出した様に柏手を打った。


「忘れてた。入場の時、名前聞かれるわ」


 その発言に、メイドの足掻きが止まる。


 確かにそりゃそうだ。


 よし、考えながら列に並ぼう。そうしよう。


「え!? 今ですか!? 今決めなきゃダメですか!?」


 往生際が悪い。どうせ締め切りギリギリにならないとエンジンかからないタイプだろ? それで後書きに入稿何分前とか書きやがるんだ。


 何故わかった、という顔をされるが、実は私も似た様な経験があることは黙っておく。


 うんうん唸りながら列に並ぶ彼女だったが、受付の皆さんは優秀な様で、列はどんどん解消されていった。


 因みにライラ達からの列に並ぶ人選は、ロットが手を挙げる事で解決した。


 今は私の後ろで、スピネ(母親)と手探りの様な会話を続けている。


 私達に一緒についてくるかと思われたベルナだったが、一旦いつも一緒に攻略している仲間を待つとのことだった。


 やはり普通は複数人で挑戦するらしく、一人で登っているスピネがおかしいという訳だ。


 まあ、私も実質一人みたいな物だが。


 やがて、私達の番が間近に迫る。


「もう時間がないぞ。あと五秒、四」


「うへあ! タンマ! ここまで来てる! アイディアがここまで!」


 胸の所に手をやっているが、それ大分下の方じゃないか。


「三、二」


「ひ、ひらめけー! 私の灰色の脳細胞!」


 確かに灰色だけどさ。


「無理そうなら『ふぇに子』で。いーち」


「雑ー! あー、えー、いー、うー!」


 唸りまくる暫定ふぇに子を尻目に、私は受付で気になる人物を見つけた。


 ちょっと、話をしてみたいな。


 このまま進めば、後ろのスピネがそこに着く事になる。私は彼女に頼んで可能なら順番を代わってもらえる様にお願いした。


「よしゃー! 決まりました! 決めましたよ! 時間内ですよね!」


 今の所ふぇに子が声を上げる。


 あ、決まった? そういえばカウントしてたな。


 私はふぇに子に、ようやく脳味噌から絞り出したらしい名前を聞いた。


「ふふふー、自信あります。『鳳凰院(ほうおういん) 朱羽(あけは)』! どうですか!?」


 右手で顔の半分を覆い隠しながら、エロメイド服の女性が高らかに宣言した。


 良いんじゃないか鳳凰院。それで通すんだな鳳凰院。期待しているぞ鳳凰院。


 結局、ふぇに子は、ふぇに子となった。


 受付が開いた。


 行くぞふぇに子。


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[一言] アダム・ゼラ・ふぇに子(笑)
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