第九〇話 集いし英傑達(先輩から呼び出され飲み会)
ロットへ。
悪党が腹を空かせ巣穴から出て来ては、私の日銭に生まれ変わる季節となる今日頃、元気でやっていますか。
お母さんは今日も元気に槍をぶん回しています。お前もちゃんとやっているだろうな。さぼっていたらすぐ分かるから覚悟しておくように。
さて今回慣れない筆を取ったのは、別にお前が心配になったからという訳ではありません。
お母さんが死にそうという訳でも勿論無い。
この間、賊をぶっ殺して日銭を稼いでいた際、実にみょうちきりんな魔物を拾ったためです。
元々バトランドの英傑都市、ヴァルカントにある覇者の塔へと向かう旅の途中でした。
全身が灰色で、たまに燃え上がり、更に時たま炎のゲロを吐く、お前より多分年上ぐらいの女の魔物です。
それ以外の特徴と言えば、可愛いか可愛く無いかで言ったら可愛いけど、言動がおかしいのが特徴です。
あと笑い声が微妙にキモイ。
そう、こいつぺらぺらと喋りまくります。
せっかく連合のとこの学校に通わせて、私の子供にしては学もあるのだから、お前の方でもこいつが何なのか調べてもらえないか。
余白に絵を描きます。
最近の通信設備なら行けるとかいう話なので、ちゃんと送れなかったとしても私のせいじゃねえからな。
後輩共、どうせこの手紙は王都で読まれているんだろうから、お前らも手伝え。
ついでにこっち来い。久しぶりに飲もう。
追伸、私の絵にケチを付けた魔物が勝手に描きなおしました。実物はこれより三割ぐらいはブスです。
目がデカいし、顎も尖りすぎ(矢印が絵に向かって引かれている)。
あいつ、ちょっと槍に括り付けて熱を冷まさせてやらねえとならんので、この手紙はこれでお終いだ。
ヴァルカントから、私の息子ロットへ、××(擦れて読めない)、〇〇(インクで汚れて読めない)あれとか色々込めて。
お前のお母さん、スピネ・ガレーより。
へるぷみー(手紙の下部、溶けた灰か何かでスピネの筆跡とは異なるそれで記載在り)。
――ここまでがロットの母親が送って来た手紙の全文だった。
なんちゅう手紙だ。
ほんと、それ以外どう表現したらいいのやら。
最初に読んだ時は息子であるロットの手前、その内容だけに着目して真面目に話をしたが、こうして読み返してみるとツッコミどころが多すぎて態とやっているのではと思えてしまう。
「素です。アダム。スピネ先輩はそれが素」
車を運転しているというのにテンションが低いナタリアがそう呟く。
スピネ・ガレー。
ロットの母親にして、槍の名手としてその名を大陸に轟かせる稀代の冒険者。そしてナタリア、グレース、そしてセルキウスの学校時代の先輩にあたる人物だ。
スピネ氏は結局学校を中退して、連合には所属することなく冒険者としての道を選んだそうだが、三人は今でも全く頭が上がらないらしい。
「そうだな。先輩に付き合わされ、山猿が夜間に無断で外出。バレて私まで連帯責任で地獄の持久走。それでいて本人達だけがいつまでも元気。そういう人だったな」
荷台で何時になく重苦しい表情をしているのはセルキウスだった。
なんと今回、非常に珍しい事に彼も旅に同行している。
手紙で呼び出されたに等しい自分達が行かなければ、後で何をされるか分からないというのが彼の言葉だった。
「何の話だー!」
後方を走るもう一台の車からグレースの大声が聞こえてくる。
そちらにはライラ達も乗っていて、五月蠅そうに耳を塞いでいた。
「お前は運転に集中してろ山猿!」
セルキウスが声を張り上げる。
二台の速度はそれ程早くも無い。だが、安全のため車間距離は充分に取らせてもらっていた。
「改良したマールメア号の調子は良さそうですね。多機能過ぎた一号機の機能をオミットし、量産性を上げるというのは冒険でしたが、成功のようです」
私の隣で手帳に書きものをしながらマールメアがぶつぶつと独り言を言っていた。
「この乗り物、マジですごいっすね! マールメアさん、天才っす!」
余程集中しているのか、フレンのよいしょも右から左だ。
そう、今ので分かる通り、今回の旅は大所帯なのだ。
元第六調査隊が全員集合している上、セルキウスまでもが遠征のメンバーに入っている。
それでいて私達は先遣隊に過ぎず、スピネの言う『変な魔物』の確認が取れ次第、後続の部隊がヴァルカントに集合する手筈となっていた。
先遣隊に含まれていないリヨコからも、行けたら是非行きたいとの言葉を貰っていた。
飲み会か、と思ったが、良く考えたら先遣隊のメンバーの内三人は飲み会に誘われて強制参加なのだった。
さて、いくら連合所属とは言え、余所の国に土足で入り込むのは問題が有る様に思える。
しかし、前回のパーマネトラにおける一件は、それはもう多大な貸しをバトランド皇国に与えたようで、差したる問題も無く入国許可が下りた。
「それだけじゃないわよアダム。英傑都市ヴァルカントはちょっと特別なの」
ちょっと元気が戻ったナタリアが私の疑問に答えようとするが、運転中を理由にそれをセルキウスに引き継いだ。
彼が女性の頼みを断る訳も無く、私はセルキウスから事の理由とやらを聞くことになった。
英傑都市ヴァルカント。
スピネ氏がそれを目的に立ち寄るという超大型魔窟、『覇者の塔』が存在する都市だ。
覇者の塔は百階層からなる『上昇式螺旋塔超大型』に分類される魔窟で、超巨大な渦巻く塔の形をしているという。
勇者の時代、ズヌバを倒した後に生き残っていたある勇者と、その仲間達が攻略し、最上階の魔窟核を確保することに成功したというかなりの歴史の長さを誇る魔窟だ。
バトランドではその名前は知らない人を探す方が難しいくらい有名との事だが、他の国ではそれ程でもない。
ひとえに距離の問題だ。
大戦を超えて知識の伝達が損なわれたというのも大きいだろう。
兎に角、地元の人間にとっては超有名だが、他の国では有名でない為に知られていない様々な事情があるらしい。
「あれは、現在は龍によって管理されている。資源目的ではない。そうだな、訓練場に近いのかも知れない」
百階層からなるその全ては、四年ごとにその内容が更新され、ヴァルカントではその攻略の速度と上った階層を競い合う人間で溢れているのだという。
故に、英傑都市。
私が前世のフィクション等で知る、魔窟攻略の想像に最も近いのがそれなのかもしれなかった。
「人の出入りが激しい都市だ。尤もパーマネトラとは層が違う。腕に自信のある冒険者やらが集まって徒党を組み、最上階を目指す仕組みだ」
「因みに、勇者以外で百階層まで行けた人間はいるのか?」
その答えは返って来ず、セルキウスらしい嘲笑のみが返って来た。
なるほど。
ミネリアの皆さん、ようこそヴァルカントへ。是非覇者の塔へ挑戦して下さい。まあ、最上階は無理でしょうけど。
という事か。
「そういう事だ」
「俺が冒険者やってた時も、噂でなら様子が流れて来たっすけど、来るもの拒まず、去る者追わずってやつらしいっす」
フレンに挑戦しようと考えなかったのか聞いてみたが、そもそもその日暮らしが多い冒険者が、わざわざそんな遠くまで足を運んだりしないという答えが返って来た。
そうなると、スピネ氏の行動が如何に冒険者の常識から外れているかも分かるという物だ。
「あの人は、本当に槍みたいな人だから。直線で生きてるのよ」
今回は、私もその直線にあやかりたいものだ。
私は遠景に、地面から生える槍の様な塔の姿を確認し、それを観察し始めた。
最上階の先端に、黒っぽい何者かが留まっているのが見えた。
それは、折りたたんでいた両翼を広げると、まるで私達を待ち構えるかのようにその存在を誇示し始めていた。




