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第七十四話 お仕事モード

 私は、先端にミキサーが付いた棒のような形に変貌していた複合剣を基本の大剣の形に戻しながら、周囲の状況を確認する。


 一先ず、他に潜んでいる者は感知出来ない。


「この有様、一体何から聞けばいいのやら」


 禁足地に入り、山頂に赴いたら龍が遺物によって拘束されており、その後精神にダメージを与えてくる怪物に襲われ、しかもそれが会議参加者の一人が変貌した姿だった。 


 不安要素テンコ盛り過ぎる。


 こうなって来ると、他の人間をここに置いてきぼりにしてでも私は一刻も早く下山してライラ達と合流したかった。


「まあ待てアダム。まずは確実な情報を集めようではないか」


 そういって円形に纏められた鎖の束を右手に持ちながら、シャール=シャラシャリーアがこちらに歩いて来る。


 カルハザールの二人は気を張りつめていたためか、未だ憔悴している。


「グラガナン。なぜこんな物がここにある。誰にやられたのじゃ」


 見上げながらそう質問する守護龍に対し、グラガナン=ガシャはその巨大な頭を下に向けながら答えた。


「それが身共にも良く分からんのだ。最近特に連続していた東側の乱れにかまかけておったのだが、気付けば山裾のあちこちに魔力の乱れが発生していてな。地に伏せ、埋もれながら集中しておった所を、この体たらくよ」


「なるほどのう。たるんどるんではないか?」


 そうかもしれないが、お前にだけは言われたくないといった内容の発言をグラガナン=ガシャが行い、幼女はそれに反論する形で口論が始まった。


 私はそんな彼らに呆れながら、ヤノメに向かって事情聴取を始める事にした。


「今の件も含めて、何か言いたい事は?」


「ございます。私共はあの者が、あんな、あのような有様になっている事には全く気付いておりませんでした。ですが、原因は分かり切っております。邪血、ひいては龍の秘薬です」


 それは間違いないだろう。


 ものすごく大雑把な言い方をすれば、今回の件の裏には全てズヌバが存在している事に疑いの余地は無い。


 問題は、奴の手がどこまで広がっているかと、相手の目的だ。


「グラガナン=ガシャ。貴方はこの一帯の魔力の乱れを正しておられるのですよね。最近の魔力の乱れというのは人為的な物と考えてよろしいですか? それとも、貴方がここにいらっしゃる理由に関係していますか?」


 私の質問に、長く生きた龍とは思えぬ口論をしていた彼はそれを止め、巨大な眼をこちらに向けた。


「ふうむ……。シャール、こやつは信用できるのか?」


「アダムは信用できる」


 その答えを聞いたグラガナン=ガシャは、シャール=シャラシャリーアが行った様に私に向かって念話を投げかけてきた。


「両方だ。この一帯は嘗て『アトラナン』の為に大地が崩壊寸前まで荒れたからな。あれが地下で健在な以上、身共が居なければまた同じことが起きるかもしれん。それを除いても、最近の乱れは明らかに身共の注意を惹くための工作であったように感じる」


 アトラナン? 大聖堂ですか?


 私の心の中での疑問に対して、彼は顔を上げて視線を遥か西へと向けた。


「そう、その地下だ。今見えているのは先端に過ぎない」


 その様に答えが返って来た瞬間、彼の瞳孔が何かを見つけたように僅かに細められた。


**********


 私はライラ・ドーリン。


 現在アダムさんと同じ勇者であるという、スライムのゼラさんや水の巫女姫であるサーレインちゃんと共に女子の秘密の話し合いを行っております。


 こういうの、学校時代を思い出します。


 なぜか昔から、私が何か話そうとするとお菓子を勧められる事が多いのだけど、今の私は成長したのです。


 ゼラさんからの質問にだってきちんと答えられています。


「ねえねえ、なんで私がアダムの事を気に入ってるの、そんなに気になるのお~?」


 きちんと答えられています。


 ウソジャナイデス。


 沈黙もまた答えなだけです。


 あー早くロットとマールちゃんが準備を終えて迎えに来ないかなー!


 さっきから色々質問されて答えに困っているなんてことないけど、早く来ないかなー!


 私がチラチラと扉を気にしていると、ゼラさんは全てお見通しとばかりに意地悪な笑みを浮かべて私を見つめて来ます。


 彼女が腕を組み、その胸を強調しながら、敢て私の胸を見る事はせずに挑発を行ってきました。


 ぐぬぬ。


 アダムさんはゴーレムですが、人間の魂を持った、れっきとした人間です。少なくとも私はそう思っています。


 そして重要な事ですが、男性です。


 嘗て学校で、男性は女性の胸に逆らうことの出来ない生き物であると話に聞いていましたが、アダムさんもそうなのでしょうか。


 あの人は視線を誤魔化すことが出来ますので、ロットの様に分かりやすくはありません。


 私は視線には敏感な方だと自負していますが、ロットからそういった視線は感じたことが有りません。


 ロットは、私とあまり目を合わせる事も無いのです。私が彼の方を向くと、大体は下手な口笛を吹きながら空を見ていたり、槍を磨いていたりします。


 彼はきっと、槍の修練に力を入れていて、まだ恋愛に興味が無いのでしょう。


 私にはわかります。


 でも、ゼラさんのそれは同性でも目が行ってしまうので多少は仕方ないかな、とも思えるのですが、もしアダムさんをそのおっぱいで誘惑するというのなら、私にも考えが有ります。

 

 そこまで考えて、私は自分の思考の意味不明さに困惑する羽目になりました。


 一体何の考えがあるというのでしょうか。


 私にはわかりません。


 そんな事を思っていると、私達が談笑している部屋の扉がノックされました。


 イーヴァさんが覗き戸を確認して、警戒心の籠った表情をこちらに向けました。


 瞬間、私を含めたほぼ全員が自分の得物を何時でも使える様に持ち直します。


 扉の先に居たのは、大聖堂に入る前に見かけたような衛兵の男性でした。


「ご歓談中失礼いたします。サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです」


 男性はそれだけ言うと、部屋の中に入って来ようとしました。


 イーヴァさんがそれを押し留めようとしましたが、彼はそれをまるで見えていないかのように無視して入って来ようとします。


 立ち上がったゼラさんが自分の後ろにサーレインちゃんを隠し、私達もまた椅子から立ち上がります。


「ご歓談中失礼いたします。サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです」


「何をなさるのです! ええい、やめんか!」


「ご歓談中失礼いたします。サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです」


 ついに男性はイーヴァさんを押しのけます。


「ご歓談中失礼いたします。サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです」


 正気ではない。


 次の瞬間、彼の身体は強烈な突風に吹き飛ばされ、扉を越えた先の廊下の壁に叩きつけられました。


 そのまま、壁にもたれかかる様に崩れおちます。


「出ましょう。急いで」


 風の魔法『風撃(エア・ストライク)』で男性に大きな風の塊を叩きつけたナタリア先生が、冷静な表情のまま提案します。


 私とメルメル、そしてリヨコちゃんはその提案に即座に反応します。


 メルメルは本を開くと地図を発動させました。


「『探知(ディテクション)』をへいようする~。でも~あんまりきたい~しないで~」


 魔物探査と違って特定の存在を確認するための魔法ではありませんので、魔法の結果から得られるその情報量の多さがノイズとなり、求める情報を得づらくさせるのです。


 それでもメルメルは自分の魔法を上手く制御して、近隣で動く人間大の存在を地図に表示させます。


「――ロット達と合流しましょう。――私が前に出ます」


 リヨコちゃんが手甲を付けた両手を撃ち合わせながら扉の外を確認します。


 メルメルの表示した情報と照らし合わせた結果は、今の所問題ないようです。


「なになになに!? こわ! え! なに!?」


 サーレインちゃんを抱きしめる様に庇いながら、ゼラさんは混乱した様子を見せています。


「分かりません。が、良く無い事が起こっているようです」


 ナタリア先生は簡素にそれだけ伝えると、地面に尻持ちをついたイーヴァさんを助け起こします。


「皆さん、婆は置いて行かれなさい。足手まといに――」


「駄目です!!」


 サーレインちゃんの強い否定の言葉に、恐らくは口論している暇が無い事を理解している私達とイーヴァさんは一塊で動くことを決めました。


「ゼラさん。サーレインちゃんを。私達は状況によっては街の外に出るかもしれません」


 私はゼラさんに声を掛けます。


 混乱していたゼラさんですが、私の言葉を聞くと、まるで別人の様に冷たい印象の表情に切り替わりました。


「最悪、本当に最悪の場合、サーレインをお願いね。そして可能な限り私から離れなさい」


 私はこくりと頷くと、全員で即席の隊列を組んで部屋の外に出ました。


 ゼラさんはサーレインちゃんとイーヴァさんに付いてもらいます。


「ご歓談中失礼いたします。サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです」


 廊下でぐったりと座る男性は、涎を垂らしながら虚ろな瞳で、けれど不気味な程しっかりとした口調でその言葉を繰り返し続けていました。


 私達は廊下を自分達に割り当てられた部屋に向かって進みます。


「マールメア~たぶん~くるまのとこ~。ロット~どれかわからない~」


 メルメルは地図に視線を向けながらそう言いました。


「先に車ね」


 私達はナタリア先生の判断に従います。


「まった~! へんなうごき~! はやいのふたつ~! みぎがわ!」


 それを聞いた私は、何時でも石壁を発動させられるように準備をして杖を前に向けます。


「待った! 儂らだ! ガルナとベルナだ!」


 十字に交差する通路の右側から私達の前に躍り出たのは、模擬戦などで交流したバトランド皇国支部の二人でした。


 様子が明らかに変です。


 ガルナさんとベルナさんの武器には彼らのものでは無い血がべったりと付着しています。


「あ、あ、あ、ああアルシダが……! あいつに! あ、あいつは……くそっ! あいつは誰だ!」


 蒼白な顔を混乱に歪ませながらベルナさんが震えています。


 何時でも攻撃に移れるように構えたまま、私達は彼らの様子を伺いました。


「すまないが、こちらから上手く説明できる気がしない。要点だけ言わせていただく。儂らはしくじった。こちらに敵が潜んでおったが、気付けなかった。仲間は一人やられた。敵を斬ったが、殺せなかった。今は大聖堂から離れようとしておる」


「こちらはプレキマスの使いに押し入られそうになりました。明らかに様子がおかしいから外に出ようとしています。邪魔しないなら、こちらからも邪魔はしません」


 互いに緊張を保ったまま情報を素早くやり取りします。


 ガルナさんはこちらに含まれるサーレインちゃん達に思うところが何かあるようでしたが、ナタリアさんの提案に同意を返すとベルナさんと共に去って行きました。


「べつる~と、とる~。いちおう~みはっとく~」


 馬車を使うつもりならば同じ場所で合流する可能性が有りますが、ここは彼らと別行動を取る選択をします。


 後ろから襲われる心配は少ない方が良いですから。


「――教官。――味方と思って良いのはここに居るメンバーのみという事でよろしいでしょうか」


「それで行きましょう。基本は私が吹き飛ばすか、ライラの魔法で対応しましょう。リヨコは狙うなら足元だけにして頂戴」


「――了解しました」


 先ほどの彼らの話から推測する状況的に、ロットやマールちゃんすら無条件で信用出来ない状況です。


 魔法で操られている可能性があります。


 私達は、割り当てられた部屋の前を通りながら車に向かう道筋を突き進みます。


 メルメルが前方から四人がこちらに向かってくることを伝えてきました。


 見えました。


 衛兵や、女性職員です。


「サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです。こちらへどうぞ」


「サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです。こちらへどうぞ」


「サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです。こちらへどうぞ」


「サーレイン様、プレキマス導師がお呼びです。こちらへどうぞ」


 敵です。


 魔法を構える私達でしたが、敵の向こう側から見覚えのある赤毛の少年がこちらに向かって猛烈な勢いで突撃してくるのが見えました。


 ロットは、槍の石突側を前に構えながら、間に立ちふさがる四人を次々に殴打して行きます。


「ライラ! それにリヨコ、メルメル、皆無事か! おわっ!」


「――私の攻撃を避ける動き。――操られていません」


 判断方法が物騒だけれど、今は時間が惜しいので誰も文句は言いません。


 これで残すところはマールちゃんだけです。


「まずい~。これ~さけられない~」


 しかし、後もう少しという所です。


「さ、さささサーレイン。わ、わ私に歯向かうんじゃ……ないっ!!!」


 車を停めている広場に抜ける通路に立ち塞がれてしまいました。


 あの特徴的な頭は、確かプレキマス導師です。四分の一の確率で当てた訳ではありません。


 彼は、複数の人間を伴っており、それらが石柱が左右に並ぶ廊下を横並びに封鎖しています。


 プレキマス導師は明らかに正気を失っていました。


 その両目が独立した動きで忙しなく動き、口の端から泡を吹き出しています。


 その直ぐ後ろには、会議で見覚えのある顔が二つ並んでいました。


 それぞれ、バトランド皇国支部とカルハザール共和国支部の人間です。


 カルハザールの人間が何処も乱れていない服装なのに対して、バトランドの人間は、血まみれで明らかに斬りつけられた後を何か所も付けた服を着ています。


 でも二人共が、張り付けたように同じ笑顔を浮かべていました。


「ここ、ここっちにき、きい、来なさい。みず、みず、水を、水水水」


 プレキマス導師がへらへらと笑いながら、病的に震える腕をこちらに向かって伸ばします。


 自分でも驚くほどに冷静でした。


 楽観ではありません。


 そうでなくては勝てるものも勝てないからです。


 やりようはいくらでも思いつきます。


 私でもそうなのですから、ナタリア先生はもっとでしょう。


「お義父様! 何をなさっているのですか! どうされたというのです!?」


 サーレインちゃんが私達の後ろで大声を上げました。


 ですが、プレキマス導師は反応を返しません。


「サーレイン様、こちらに来ていただけませんか?」


「お義父様は病気になられたのです」


「貴女のお力が必要なのです」


「貴女でなくでは治せません」


「水の」


「巫女姫」


 背後の二人が何故か交互に喋ります。


 この感じ、黒幕はあの二人ですね。


 さあ、とっちめてやりましょう。


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