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第七話 目に見える異常事態

思ったよりも読んでくださる方多くて嬉しすぎる。


暫く日に二回の投稿を目指しますが、遅れたら察してください。

 彼らが調査を行う魔窟は、そのおおよその広さと構造については既に把握されていた。


 先ほどライラが語った『降下式洞窟中型』というのがそれにあたる。


 簡単に説明すると、魔窟というのは総じて階層毎に区切られた構造を持っており、先に進む場合は上るか降るかの二択しか存在していない。

 そしてそれは入り口から入ってすぐの第一層から、次の第二層目に進む際に向かう方向で常に固定されるのだ。


 また、ここから更に周囲の壁や構造によってさらにいくつかの種類に分類でき、今回の魔窟の場合は土壁であることや、通路が巨大であるものの、共通してまるで掘り進められたような見た目であることから『洞窟型』に分類される。


 そして魔窟はその階層の深さによって、魔窟自体のランクが決定される。


 これは魔窟に出現する魔物が、その階層が進むごとに強さを増していくためであり、つまり階層が多いほど強い魔物が生息している可能性が高いという事であるためだった。


 階層が二〇に満たないものを『小型』と呼び、そこから五〇未満の『中型』と続いていく。五〇階層を超える物は『大型』だが、この世界には百層を超える魔窟も存在し、それらは全て『超大型』と呼ばれ特別に分類されている。


 この総階層を求める『公式』が、太古の魔窟研究者達によって既に発見されていた。


 今日こんにち、勇者の時代にもたらされた様々な英知が失われてしまってはいるが、その公式は幸いなことに数秘学者によって受け継がれている。


 そのため総階層数自体は、第一階層の面積を用いることで誤差は生じるものの算出が可能なのであった。


 それらを踏まえて、グレース達が調査を行うこのおよそ30階層程の魔窟は『降下式洞窟中型』と分類されているのである。


「ではメルメル、地図マップを発動してくれ」


「りょ~かいです~たいちょ~」


 入場した一行は、入ってすぐに存在する広間状の部屋の中央に集まると、眠たげな瞳をした少女を守るように周囲を警戒する。


「『地図マップ』」


 メルメルは抱えていた本を右手に持ち替えると、普段の口調とは異なる、しっかりとした口調でその『呪文』を唱えた。

 すると、風が吹いているわけでもないのに、片手で支えているだけのその本がゆっくりと開いていく。


 開かれたページは果たして白紙であったが、不可思議なことにそのページの表面に浮かび上がるかのように淡く光る文字が表れていく。


 その光景をグレース達は特に驚くわけでもなく一瞥すると、その視線は本よりやや上の空間へと移っていった。


 そこには現在彼らがいる魔窟の第一層を立体化した透明な模型の様なものが浮かんでいた。もし知っている人が見れば、まるでポリゴンモデルの様に見えただろう。


「精度が上がっているな。第一層は情報の集積が早いとは言え、流石だ」


「ぶい」


 メルメルはグレースに褒められたことの嬉しさを全く隠すこともなく、左手でピースサインを行っている。そんな彼女の頭を、帽子越しに他のメンバーが撫でていった。

 不意にほんわかとした雰囲気に包まれた一行だが、自分達がいる場所を即座に自覚するとその空気を打ち消すようにナタリアが咳ばらいを行った。


「今日は未知の階層である二十一階層の調査を行うわ」


 その言葉に、先ほど引き締められた空気がさらに、きりりと締め付けられたようだった。


 グレース達はこの調査に加わった者達の中では、最も強い部隊だ。


 最後に合流したため第六調査隊との連番が降られてはいるが、その実力は本来()()()()()魔窟の調査に駆り出されるレベルではないのだ。


 グレース、ナタリア、フレンの三名は、名実ともに熟練の調査員である。


 特にグレースとナタリアの実力は、非常勤ではあるものの、調査隊員の教育を任される程であり、そして正に残りの隊員であるライラ、ロット、メルメルの三名が、調査隊員見習いとしてその手ほどきを受けている教え子でもあった。


 またフレンはライラ達から見て先輩にあたり、その斥候としての高い適正を生かし、調査員だけでなく、冒険者としてもいくつかの実績を残している。


 バランスで言えば、ベテランと新人が半分ずつという組み合わせであるが、その新人三名も、新人という枠組みの中では有望株であり、また普段の教練で共に過ごしていたため、必然として連携も充分であった。


 既に小型魔窟の先行調査部隊として活動し、その踏破、破壊実績を持つ彼らが、フレンの言う『基本中の基本』の構成である中型魔窟に追加派遣されて来たのには理由があった。


 それが、第三層で初めて発見された、ある遺留品の存在である。


「この大部屋は何度来ても不気味っすね」


 グレース達は隊列を維持しながらも、素早い動きで既に第三層まで降りていた。

 フレンが先行し、第三層の大部屋が魔物に占領されていないことを確認すると、グレースとロットが入れ替わるように前に出た。


「各自、腕章確認……良し。では常駐の第二調査隊と情報交換を行う。完了まで待機だ」


 部屋に入ると、入り口の左右には入る側からは見えないように人員が配置されていた。

 彼らはグレース達の腕章を確認すると、一歩引いた位置で再び入り口の警護を行い始める。


「やあナタリア女史。それにライラ、メルメル……他三名も元気そうで何より」


「相変わらずだな。問題は無いか? セルキウス」


 慇懃な口調でグレース達を出迎えた男がそこにはいた。

 一見魔窟にはそぐわない高級感と、手入れの行き届いた洋服を身に着けた男性は、服装同様に場違いな雰囲気を醸し出している。


 だが、注意して観察すれば、彼の腰に下げられた細剣は見掛け倒しではなく、彼自身の身体も、その洋服の下で迫力に満ち溢れている事に気づけるだろう。


 セルキウスと呼ばれた、整えられた口髭を蓄えた男は、自分の発言を受け流したグレースを面映ゆげな表情で迎えると、右手のシルクの手袋を外してそのまま差し出す。


 その手を受け取るように前へ進み出たグレースだったが、セルキウスはその横をそのまますり抜け、呆れ顔のナタリアの元へと向かった。


「相変わらず君は、この陰鬱な洞窟の中であっても私の心を潤してくれる」


「セルキウス、このやり取りもいい加減飽きたわよ。王都の入城許可申請じゃないんだから、手短にお願い」


 ナタリアは表情を固定したまま面倒そうに、彼女に向かって伸ばされた手の甲を、腰に着けていた杖で軽く何度か叩く。


 その行為を受けたセルキウスは、一層満足げな笑みを浮かべて元の位置へと下がっていった。


「セルキウスのオッサンはどこでも変わらないよな」


「今日もよろしくお願いします。セルキウスさん」


「せるきうすのおっさん……。りゃくして、せるきっさん……ぷぷぷ」


「うーん、セルキッさんか……一考の価値、ありっすね!」


 もはや見慣れた光景となった一幕を前に、彼らは思い思いの言葉を口にする。


 第二調査隊、隊長のセルキウス・バルトール。第三層の大部屋を一時拠点として確保している彼らは、同時に調査を継続していた。


 部屋の中には、土で作られた人間の腕の如き物体がいくつも並べられている。


 そしてそれらはよく見れば、部屋の奥に進むにつれて段々と洗練され、高度に発達していくように感じられた。


 また腕だけではなく、岩でできた板の様な物体や、用途不明の金属片なども部屋のあちこちに存在している。

 そしてそれらの周囲には、明らかに戦闘向きではない人員がそれら物体を精査していた。


「では、未確認の魔物。推定『ゴーレム』について追加された情報を共有しよう」


 平凡な魔窟だったはずのこの洞窟に、次々と追加の調査員が派遣された理由、そして調査開始から半年が経った今であっても未だ踏破できないでいる理由。


 その理由が、大部屋を埋め尽くすように広がっていた。


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