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第六十二話 最後の参加国

 私達がパーマネトラに到着してから、早くも二週間近くが過ぎようとしていた。


 予定では間もなく会議が始まる頃合である。


 だが、最後の参加国であるカルハザール共和国の人間は未だその姿を見せないでいた。


「何時頃来るんでしょうね。私はここを調べる期間が長くとれて嬉しいですが」


 そんな事を言うのは、ピンクの癖毛を暴れさせたマールメアだった。


 大聖堂に入る際に持ち物チェックで色々と没収された彼女だったが、その後、その研究者としては素晴らしい知識と能力でもってこの都市全体を観察していたのだった。


「何か面白い物でも見つけたか?」


「面白い……と言えば全て面白いのですが、一つ気になっている事が有ります」


 そう言うとマールメアは、縦横の線で作られた簡単な表を取り出す。


 縦の欄にはパーマネトラの三つの区画の名前が、横の欄には初めに龍、それ以降は様々な名前が並ぶという次第であった。


 私はその表の意味を聞く。


「彫刻です。古い建物に存在する彫刻の種類を纏めてみました」


 パーマネトラに入った際の説明を思い出す。


 この都市は最も古い大聖堂を中心に、新たに建造された建物が取り囲んでいく形で形成されている。そこには当然、時代の流れという物が存在していた。


 そう言われて確認すれば、表には様々な種類が記載されているが、そこにはある特徴があった。


「ここに入ってから気づいたんですが、何故か聖堂には龍の彫刻が少ないんですよね。寧ろ外の古い街に多いです。噴水もそうでしたし」


 私はその発言で、この場所で見かけた彫刻の類を思い出す。


 霊峰を象ったレリーフなどは見たことがある、湯につかりはしなかったが、大浴場にもそれはあったはずだ。しかし龍の彫刻という物は、見た覚えが少ない。


 確かに、龍と霊峰を崇めているのに、片方に関する彫刻が少ないというのは不思議だった。


「大昔は偶像崇拝を禁じていたとか?」


「そうかもしれません。残念ながら、大戦の影響で古い記録は失われている物が多いですから。トッシーさんも流石に余所の国の歴史までは詳しく無くて……」


 トレト老人は、正確な年齢は自分でも分からないそうだが、少なくとも三百年以上は生きているとの事だ。


 その彼が知らないという事は、今を生きている人間で過去の歴史を正確に把握している人物は殆どいないという事だろう。


「シャール=シャラシャリーアは何も教えてくれないのか?」


「絶対に無理ですね。龍の方々はその辺りは本当に厳しいです。大戦期も勇者の時代も、断片的に残る記録を基に研究している現状ですから」


 この世界の問題点として、社会的に縦も横も繋がりに乏しいという点が挙げられる。


 純粋に生活圏同士の距離が離れすぎている。


 そして、通信設備が有っても直接のやり取りではないが故、互いへの関心がそれほど高くない。


 魔法で都市内のインフラを整える関係上、有名な個人への関心はあっても、都市同士は互いをそれ程重要視していない。


 都市と言うのは、基本的に可能な限りそれ一つの塊で完結する様に作られているのだ。


 縦の関係で最上位に当たるのは龍だが、今のところ直接人々に関わって暮らしている様なのは、あの幼女龍以外に聞いたことが無い。


 龍がその強大さ故に、人間にとって最上位の存在であるという事は共通認識として認められているが、余りにも雲の上の存在であるため、人から龍に働きかけるという行為は避けられる傾向にある。


 そもそも龍自身が、神の言いつけの所為で人にも魔物にも直接手出しが出来ない存在だ。


 独り言と称して口出しをしまくるシャール=シャラシャリーアのような龍もいるため、その禁についてはある程度各自の裁量に委ねられいるようだが、それでも、人と龍の間にはれっきとした断絶が横たわっている。


 これらをどうにかしないと、私のような勇者と呼ばれる存在が何人いても、復活し、狡猾さを身に着けたズヌバには勝てない気がする。


 向こうは禁を破った龍。


 ミネリアのような明文化されない曖昧な方法でなく、絶対的な存在を上に置いた組織を作ることが出来る。


 かといって溝を埋め過ぎれば、ズヌバに勝った後、嘗てそうだったように大戦に発展する可能性がある。歴史は繰り返す物だからだ。


 正直なところ、この辺りを考えるのは他人にお任せしたい気持ちで一杯だった。


 残念ながら、前世では経営者では無く、一労働者として生きていたはずだ。その根性は身に沁みついている。


 だがこの会議を通じて、なんとか現状についての突破口、あるいはその糸口を見つけなければ。


 暫くマールメアと都市について意見を交わしていると、ミネリア王国支部を含めた他の国々の面々に、大聖堂側から後日、全員での顔合わせがある旨が伝えられた。


 どうやら、カルハザール共和国支部の人間がようやく到着したらしい。


 最後の参加国。


 個別に話をする機会は恐らく無いだろう。


 出来れば最低限の意見の共有を行ってから会議に挑みたいのだが、それは難しいようだった。


 一先ずは、ナタリア達含めた全員で、他の国の支部と話した内容を基に、再度こちら側の意思を纏めておく必要がある。


「と言う訳で、こちらから直接会議に参加するのは私、ナタリア、リヨコ、そしてライラの四人だが、基本的にはナタリアに質疑応答を行なって貰おうと思う」


 但し、当然個別に意見を求められる場面も予想されるので、この際に意見が異なる事の無いように予め予想される質問などは書類に纏めてある。


 他の人員については同じ会議室に詰めてもらうだけだが、一応全員分用意してある。


 アンチョコを見ながらの会議だが、問題はないだろう。一応レシナール導師には確認済みだ。


「はい! リヨコちゃんは兎も角、私はうまく出来る自信がありません!」


 ライラ、元気が良いのは良い事だが、元気よく言う事では無いな。


「ライラちゃん。大丈夫ですよ。こんな事もうあろうかと、秘密兵器を用意してあります」


 そう言ってマールメアが取り出したのは、もはや懐かしささえ覚える只の板だった。


「成る程! じゃあ私はアダムさんの隣に座らなきゃですね!」


 あれは私がまだ喋ることができない頃に使用していた文字表示盤だ。確かにあれなら喋らずともこっそり指示を出せる。


 多分、ライラの事だから何かを見ているのはバレバレになるだろうが。


 こちら側は最後の確認作業も終わり、後は顔合わせと本番を待つのみとなった。


 そしていよいよ、会議に使われる大広間で顔合わせが行われる運びとなり、私達は大聖堂職員の案内の元、連れ立ってその場所へと足を運んだ。


 既に部屋にいる者、そして次々に到着する面々は何も見た覚えのある顔ばかりだったが、私たちに次に職員を伴って入ってきた一団はそうではなかった。


 あれがカルハザール支部の面々か。


 先頭にいるのが代表者だろうか。


 逞しい肉体を日に焼けさせて、頭脳労働とは縁遠い見た目をしている。


 恐らくはその後ろにいる人間が頭脳担当なのかも知れない。


 彼は先頭を歩く人間とは対照的に青白い肌をしていて、忙しなくその神経質そうな目だけを動かしていた。


 その二人以外には特に深い印象を受ける事も無い人間が二人、総計で四名がカルハザール側の人員のようだった。


 さて、どうなることやら。


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